もし室! ~もしワンピースのナミが室伏もどき著『ゾーンの入り方』を読んだら~   作:世界の鉄人

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ナミちゃん自主トレ編
ナミちゃんが室伏の階段を登る時


 きっかけは思い出したくもない憎い化け物との約束だけど、こうして大事そうに保管された宝箱を目の前にすると、大好きなおもちゃで遊ぶ子どものように、胸が弾んで時を忘れる。

 手先に伝わる小さな振動。金属と金属がぶつかり合う反発力。微妙な角度の違い。時間差。興奮した頭が些細な情報を元に、複雑な鍵穴をいとも簡単に再現していく。

 よし、形は分かった。

 針金を引き出し、鍵穴に合う形へと変える。そしてもう一度突っ込み、ひねる。

 

 カチャッ。何度聞いてもうれしい聞き慣れた音。

 

「開いた」

 

 頭は歓喜でいっぱいだが、できるだけ声は隠さなければならない。眠っている大男達を起こさないように。

 慎重に箱の上部を開き、蝋燭の火を近づける。

 

 さて、お宝ちゃんとの邂逅です。

 

「ん? 鉄球?」

 

 ガーン、という音が聞こえそうな程、急速に歓喜が落ちていく。

 宝箱が重いから相当な数の金銀財宝が入ってると思っていたのに、安っぽい鉄球だけなんて。なんか鎖みたいなのがついてるけど、それも鉄だし。

 はあ。心の中でため息をつく。はあ。まだ気が治まらない。

 

「はあーーーーーー」

 

 とうとう声に出しちゃった。でもそれくらい私は苛立ってるのよ。

 

 投擲海賊団。船長のシツジョーは懸賞金8486万ベリー。イーストブルーの鉄人と言われる大物。ひょっとしたらアーロンより恐ろしいかもしれない人間。その船に乗り込んで、見習いとして雑事をこなし、シツジョーと同じベッドで寝て、やりたくもないトレーニングを重ねて。

 時間をかけて信頼を得て、ようやく船番を任せられるまでになったのに。今までの苦労を返してよ。

 

 せめて名刀だったら価値がつくかもしれないけど、ただの鉄球だし。そもそもこんな重い鉄運べないし。

 はあ、もういいわ。シツジョーが大事そうに書いてる日記でも売って金にしましょうか。一応大物の日記だし、マニアに売ればそれなりのお金になるかもね。

 

 

 シツジョーの部屋に入るのは簡単だ。やつは私と一緒に寝たがる。私に気があるのだ。匂いをかいだり、体を触ろうとする。だけどそれだけ。何故かそれ以上をしようとはしない。本人は「男性ホルモンを刺激して筋肉を増やすため。また筋肉にエネルギーを送るため。美女を目の前に我慢するという科学的トレーニング」なんて言ってたけど、本当かしら? そんなトレーニング聞いたことないんだけど。まあ知りたくもないけどね。

 

 翌日の夜、私はシツジョーに二人きりで一緒に寝てもいいと言った。シツジョーは子どものように喜んだ。

 私は胸元の開いた服を着て、シツジョー手作りのゴツゴツしたベッドに寝転んだ。いつもなら見えるか見えないかのギリギリで男を喜ばせ、その隙に盗んだりするんだけど。シツジョーは真剣な表情で、私の胸にギリギリ当たらないよう手のひらを寄せて、じっと待ち続ける。隙なんてないし、遊びもない。どういう人間なのかしら?

 

「どうだいナミ。空気の層を感じるかい?」

「すみません。分かりません」

 

 シツジョー曰く、空気の層を感じ、操ることができるようになれば、競技能力の質が一段階上がるらしい。私は空を見て空気の動きを感じるのは得意なんだけど、手で感じるのは無理なのよね。というか気体を手で操るって無理でしょ。

 

「あれ? 言ってなかったかな。こう、空気を感じ、空気の圧力を動作に生かす。ハンマロビクスのトレーニングの1つだよ」

「あ、あはは。そうでした」

「紙風船を握ろうとして握らないトレーニングやったでしょ。あれと同じ」

「ああ、はい。やりました」

 

 紙風船を両手で押そうとするのだが、実際は微妙に隙間をあけ、紙風船の外側にある空気を両手のひらで感じ、空気を押すにとどめ、紙風船自体は押さないというトレーニング。よく分からなかった。真剣に聞いてなかったしね。

 というか私の胸は紙風船か! 失礼な!

 

「ナミは相変わらずいい匂いだ。男性ホルモンが漲ってくるのを感じる」

「あはははは」

 

 その後もそんなやり取りが続いた。私はしばらく愛想笑いを続けていたが、それも億劫になって、途中から寝たフリをした。シツジョーは「この不規則な形がいいんだよな」と言って、私の体をまさぐるように手や足を伸ばし、しかし当たらない距離を維持していた。そうして夜中の9時にもなるとさっさと眠った。

 私は隙を見てシツジョーの日記を盗み出し、夜も覚めない内に隠しておいた小船で海へ出た。

 

 

 翌朝、やさしい日差しと共に目覚める。潮風が気持ちいい。

 小さな帆船の周りは一面の海。おだやかな波が朝日に照らされて、白くチラチラと光り、新たな船出を祝福しているようだった。

 さて、日記を売りに行きましょうかね。どこだと高く売れるかしら? ああいう人のマニアってどういう人なんだろう? トレーニングが好きな男? マッチョ好きなマダム? うーん、分からない。

 とりあえず日記を読んでみましょうか。あまり気が進まないけどね。

 

 ええーっと、あれ? タイトルにゾーンの入り方って書いてる。何これ。日記じゃないわね。

 ふむふむ。競技能力を高める究極の集中力。その引き出し方か。ちょっと興味あるかも。私の泥棒稼業に役立ちそうだし。真剣に読んでみようかな。

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