もし室! ~もしワンピースのナミが室伏もどき著『ゾーンの入り方』を読んだら~   作:世界の鉄人

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たしぎ、波に揉まれナミちゃんにも揉まれ

 怪我をして寝ている時に考えていた。たしぎと私の違い。

 身長も体重もほとんど同じ。筋肉量も大差ない。ジャンプ力や重い物を運ぶ時の力はちょっとだけ負けてるけど、たぶん指ジャンプなら私が勝ってる。でも戦闘となり、武器と武器のぶつかり合いとなると、遥かにたしぎが上になる。パワーも、スピードも、反射速度も。

 この違いを生んでいる物は何か。ひとつは呼吸。単純な空気を吸って吐く呼吸じゃなくて、筋肉とか意識の静と動の呼吸のことね。たしぎは剣を持ったら全身がピタリと止まる。静の極みと言えばいいのかな。この静の極みがあるから、次に動く時の動のパワーやスピードがすさまじいことになる。私はそう思う。反射速度は、また別の問題かもしれない。剣を持ったたしぎって、野生っぽいマジな表情になるのよね。それがいいんだと思う。

 

 それで、私もこの静の極意を身につけて、もう一ランク上に行きたい。そのためにはたぶん、演習場の隅っこにある乱流の川でトレーニングすれば効率がいい。

 乱流の川で動くためには、不規則な水の流れを全身で感じ取って、それと同時に力を入れるべき場所、抜くべき場所を判断しなければならない。究極の集中力が必要。これは究極の静につながると思うのよね。水が重いから静の次には動も必要になってくるし。筋力アップも望める。しかも、たしぎの『お腹フェイント手先攻撃』に対応する時みたいな、複数の場所を同時に判断する練習にもなる。

 

 実際、あの川で練習している人を見たことあるんだけど、瞑想みたいにすごく集中して、ピタッと心を落ち着けて、水を操っていた。上級者は筋肉もりもりだった。だから私の考えは合っているはず。すごくいい練習だと思う。早くやりたい。

 なのだけど、1つ問題が。

 

 あそこの川って、魚人がいっぱいいるのよね。それも厳しそうな魚人のおじさんが師範みたいなポジション。

 1人だけ若い人間の女の子もいるけど、その子は師範の魚人のおじさんにずっとついて回っているから、話しかけづらい。気まずさは変わらない。どうしよう?

 

 いや、まあこんな理由で練習を止める気はないんだけどね。別にアーロンに教えを請うわけじゃないんだから。魚人に偏見を持っている私が悪いのよ。気にする私が悪い。でも頭で無視しようとしても気になっちゃうの。仕方ないでしょ。アーロンが私にトラウマを植え付けたせいよ。

 

 翌日、体は大分動くようになった。早速たしぎを乱流の川へ誘う。

 

「大丈夫でしょうか。あそこけっこう速いですよ」

「平気平気。いざとなったら周りの人に助けてもらえばいいし」

「まあそうですね。魚人もいますしね」

 

 でも私、魚人に助けられた時に、きちんとお礼を言えるかしら。

 

 

 さて、乱流の川に到着。服を脱ぐ。事前に水着を着ておいたわよ。激しい運動が予想されるから、ビキニとかフリフリはない。地味なやつ。

 それで、目の前に乱流の川があるわけだけど……。

 

「すごいですね。この波」

「隅の方なら、大丈夫かしら?」

 

 ここは三方向から流れてくる川がぶつかる場所で、しかも岩を上手く配置して色んな乱流を起こしてる。それだけでも一般の人間にはきついんだけど、魚人や人魚には満足できないみたい。海王類? にしては小さいんだけど、猫の顔をした大きな海獣に頼んで、川の中で尾ひれをバタつかせてもらい、大きな波を起こしてもらっている。魚人の子どもはその波の上を滑ったり乱流に生まれる渦の中心を潜ったりして遊んでいる。

 

 私とたしぎは不安になりつつも、入水する。波に流されにくくするために互いの体を密着させながら、川の隅の方を歩いてみる。水面の高さは胸のちょっと上くらい。岸までは3mくらい。

 しかし、数瞬後。あまり意味がないことを悟った。海獣の起こした大きな波が眼前に迫る。高さ5m以上ある。一気に飲み込まれるだろう。

 たしぎの体がびくんと跳ねる。私も怖い。でも落ち着かないともっと危ない。

 

「ひいっ!」

「ひゅうっ」

 

 波によるぶちかまし。全身が巨大な水に飲み込まれ、押し流される。

 でも予想通り、力を受け流すことはできた。水が当たった痛みはそれほどない。

 問題はここからよ。水の流れを感じ取り、同時に力を入れる場所、抜くべき場所を判断し、その通りに力を入れる。

 集中。集中。全身に伝わる波の流れ。これは空気と同じ流体。だから航海と同じ感覚になれば、理解できる。

 よし、狙い通り! 目に見えなくても通り道が見える! 水流の通り道が!

 あとは、水流の力の流れに全身の力の流れを加えれば、上手く泳げる! できるはず! できるはず!

 

 う、重い。さすがに5m以上の波は勢いがすさまじい。軽く動こうとしてもビクともしない。運動を制御するためにはもっと力を出さないと。

 だから、静を。より大きな力を出すための、より静かな静寂を。ピタリと止まるような筋肉の弛緩。

 落ち着け私。そろそろ息が危ないわ。命の危機よ。いや、この危機さえも利用しよう! 野生の力も加味! 我武者羅パワー! その上で水流の通り道を感じ取って! いっけえええええええええ!

 

 よし! 進む進む! ぐいぐい進むわ! 苦しいけど、水がとても重いけど。でも動く。近づく。水面が。空気が。

 

「ぷはあっ、はあっ」

 

 やっと息できた。めちゃくちゃうれしい。生き返る気分。ああよかった。

 と思ったのもつかの間、また巨大な波の気配が。

 うわー、あのアホ面の猫の海獣、さっきより大きい波を何個も何個も作っちゃってる。

 

「アホ猫ぉおおおおおお!」

 

 急いで岸へ逃げる。と、足に何か当たった。急ブレーキだ。これじゃあもう間に合わない。あの波に飲まれちゃう。

 くそっ、何が当たったのよ。

 

「すううっ」

 

 大きく息を吸い、水中に顔を入れる。私の足に当たったのは……、ええっ!? たしぎの頭!?

 ごめん、蹴っちゃった。

 というかヤバそう。たしぎ手足がデタラメに動いてる。もしかして溺れてる? 息も苦しそう。一度目の波から一度も息継ぎしてないの?

 急いでたしぎに手を伸ばす。肩に巻きつく水着をつかみ、引っ張る。そのタイミングでドーンと波の衝撃。

 重い。強い。でもこらえる。この手を放してはダメ。

 

「ぐ、ううっ」

 

 やばっ、ちょっと水飲んじゃった。一気に苦しくなった。

 でも、弱気になっちゃダメ。怖がっちゃダメ。集中しないと。今の私の全力を出さないと。この状況を切り抜けることはできない。たしぎを救えない!

 

 そう思った瞬間、目の前に広がる世界が変わった。

 

 分かる。手に取るように分かる。水の動き、私の動き、重さ、どのくらいの力を入れればいいか、そのためにはどのような予備動作が必要か。

 たしぎを抱きかかえて密着。自分の体を波打たせれば、たしぎの体も波打つ。足の一かきでグイグイ進む。流体を固体のように押す感覚。無意識が生んだ理想的な動き。乱流が空気のように軽い。いとも簡単に進んでいく。

 

 分かる。力の出し方がすごくいいから、水を軽く感じるんだ。呼吸をせずとも、逆腹式呼吸する時のように、お腹の筋肉を動かすことができる。それによって全身の筋肉が深く鋭く動く。胴体から足先手足へ静と動の伝達。それは筋肉や血管の呼吸だ。

 これなら行ける。脱出できる。

 

「つぁあああああ!」

 

 岸の手前、抱きかかえるたしぎを放り投げる。水の抵抗もあって重かったけど、岸に上げることに成功。

 後は私、だ、け……。

 

 

―――

 

 

 密着したのは間違いでした。

 ナミさんに波がぶつかった時、彼女は後ろに回転しそうになりました。私は咄嗟にナミさんを受け止めようとして、ナミさんの肘を鳩尾に受けてしまった。思わず「うっ」と口が開いたところへ、波のぶちかまし。私は意図せず多くの水を飲んでしまった。しかも波の直撃を受けて体は何度も回転してしまう。上も下も分からない状態。

 私は水を飲んだことで一時的に力が入らない状態になっていました。いえ、肺に力が入りすぎて動けないと言った方が正しいかもしれません。よって一旦心を沈め、落ち着きを取り戻そうとしていました。しかし一向に波が止まりません。海獣が動き続けているのです。しかもその波の方向は刻一刻と変化する。いつも通りに泳ごうとしても空ぶってしまい、全く進まない。さらにはナミさんの足が私の後頭部に直撃。驚いた私はまた水を飲んでしまう。

 

 ひょっとしたら危ないかもしれない。私はそう思いましたが、すぐに私に気付いたナミさんが助けてくれました。

 ナミさんの力では私を運べないかもしれない、とも思いましたが、杞憂でした。彼女は乱流をものともせず、むしろふつうの水中より大きな力で進みます。驚きました。これは努力だけで行えることではありません。瞬時に切り替わる流れの方向に対応する能力が必要なのです。そうでなければ進もうとしても手足が空ぶってしまいます。ナミさんはどうやってこの技術を身につけたのでしょうか。一般人にはない才能を感じました。彼女は泥の上でいきなりジャンプできたように、時たま才能の片鱗を見せていましたが、武術となると素人とあまり差がないので一般人のように考えてしまっていました。

 

 ナミさんに助けられ、私は岸に上がります。私は頑張って水を吐き出し、酸素を吸います。

 呼吸を整え、ナミさんに感謝の言葉を伝えることにします。

 

「あれ? ナミさん」

 

 しかしナミさんはどこにもいませんでした。

 ひょっとして波に攫われた? 私が焦燥に駆られた時、後方から誰かが海に飛び込みます。

 危ないと注意する必要はありませんでした。その人は魚人だったからです。

 彼はしばらくすると水面に出てきました。肩に力なく揺れるナミさんを乗せて。ナミさんは気絶していたようでした。

 

 魚人、ハックという方です、がナミさんを地面に降ろします。私は急いでナミさんに駆け寄り、呼吸を確認します。息をしていません。ドキリと緊張してしまいますが、慌てるのは禁物。心を落ち着け、海軍で習った人工呼吸を行います。

 

「ぶはあっ、はあ、はあ」

 

 ナミさんは一度目で水を吐き出してくれました。この国で鍛えたことも幸いしたのでしょう。複式呼吸で豪快に吐き出していました。

 ナミさんの呼吸が落ち着いていきます。一先ず安心です。私はハックさんにお礼を言います。

 

「あの、ありがとうございます。助けていただいて」

「礼には及ばんよ。当然のことをしたまで」

「いえ、しかし、情けないです。海兵の私が水に溺れる人を助けることもできないなんて」

「うむ。過信があったのかもしれんな」

 

 過信。確かにそうですね。足をつくような場所で溺れるはずがないと思っていました。海獣の起こす波の大きさは予想外でしたが、それにしたって乗りこなせると。水の重さ、複雑な水流を泳ぐ難しさ、をナメていました。

 

「魚人の子どもはああやって遊んでいるが、海獣の作ったこの流れはそう簡単に乗りこなせる物ではない。何せ魚人の子ども達でさえ練習したから遊べるようになったのだ。初めは溺れておったよ。溺れても呼吸はできるがな」

「そうだったんですか」

「私もこういう練習をしている時は何度も溺れたよ。その度にハックさんに助けてもらったけどね」

 

 と、いつの間にかハックさんの横に若い女性がいました。若い女性の人間と中年の男性の魚人のコンビ。目立っていたので名前を覚えています。

 

「あなたは確かコアラさん」

「そうよ。あなたはたしぎさんよね。若い女海兵は珍しいから覚えてたの。それにお話してみたかったわ」

「そうなのですか?」

「うん。そっちのナミちゃんともね。九蛇の子とはよく話すけど、他だと若い女の子がここに来るのって珍しいじゃない。しかも真剣に修行してるしさ。どういう人なんだろうって思ってね」

「そうですか。しかし私は特に面白みのない海兵ですよ。刀が好きなんですけどこの話は皆さんあまり聞いてくれませんし」

 

 ナミさんも刀の話を真面目に聞いてくれなかった。とてもおもしろいのに。私は悲しい。

 

 刀を除けば私の趣味は修行くらい。ふつうこの話題では女の子と盛り上がることはできませんが、コアラさんもわざわざここへ来て修行している人です。修行は彼女にとっても趣味でしょう。

 図らずとも、私たちの話は修行が中心になります。あとは人間関係ですね。

 

「かっこいいよね。刀をこう、ズバズバって振り回すところ。私もやってみたいわ」

「いえいえ、私はまだまだ若輩者です。コアラさんこそすごいじゃないですか。魚人ではないのに魚人空手を習得して」

「ああそれ、やってみれば分かるわ。魚人だとか人間だとか、あんまり気にしなくていいのよ。やる気があれば誰でもできるわ」

「そうだったのですか。意外でした、もっとも、私にはとてもできそうにありませんが。少なくともコアラさんのような若さで極意に到達することは難しそうです」

「またまたあ。謙遜しなくたってたしぎも十分すごいじゃん。自分でも分かってるでしょ? 同期の男達より自分の方が強いって」

「いえ、そういう問題ではなく」

 

 などという話を延々と続けていました。ハックさんは横で気まずそうにナミさんの様子を伺っていました。

 その時です、私達の傍に別の魚人が近づいてきました。

 

「あれ? そいつナミじゃねえか?」

「お前は確か、カンチパ」

「ハックさんお久しぶりです。いつぶりですかね」

 

 カンチパと呼ばれた魚人は30歳くらいに見えます。ハックさんと違い体は弛んでいて、お腹がぽっこり出ています。修行の形跡はありません。今日初めて見た魚人でした。

 二人はしばらく思い出話や身の上話をします。魚人島がどうとか、仕事はどうとか、魚人の彼女を作るためにここにやってきたとか、アーロン一味は抜けてきたとか。そのアーロン一味の話の途中で、彼はナミさんを指差します。

 

「そうそう! アーロンさんの話で思い出した! このナミ、アーロン一味ですぜ! 驚いた。こんな所まで何しに来てんだか」

「えっ」

 

 この人は、何を言い出すのか。ナミさんが海賊の仲間? それも魚人の仲間?

 

「この娘は真面目に修行しておるよ。わしが見る限りはそれだけだ」

「ええっ!? あのナミが?」

「あのと言われても、とても海賊のようには思えんが。それにアーロンは大の人間嫌いじゃないか? まさか治ったのか?」

「いやいや、あの人は今も人間をゴミや家畜にしか思ってませんぜ。ただ、有用な人間は嫌いじゃないんでさあ。ナミは海図書くのが上手いんだ。それを俺たち魚人が使えば海流を操ることだってできちまう」

 

 私は2人の話を耳に話しながら、今までのナミさんの言動を思い出します。

 海賊が嫌い。ここへは修行しに来た。ナミさんはそう言ってました。

 また、魚人に対しては、どちらかと言うと避けているようでした。その表情に嫌悪感が読み取れて、気にはなっていました。しかし、その感情はアーロンを忌避こそすれ、仲間になるとは思えません。

 

「でたらめ言わないでください! ナミさんは海賊嫌いなんです! アーロン一味なわけありません!」

「なんだこのガキは? いきなり突っかかってきやがって」

「いや、わしも聞きたい。この娘は本当にアーロンの仲間なのか? 証拠はあるのか?」

「ハックさんまで。まあ信じられないのも無理はないか。見た感じただのガキだしな。でも、そいつの左肩を見てくだせえ。あっしと同じ刺青があるでしょう? これがアーロン一味の証拠ですぜ!」

 

 私は嘘であってくれと願いつつ、ナミさんの肩を見ます。

 見た瞬間、頭が真っ白になってしまいました。あったからです。カンチパと同じ刺青が。

 

「確かに、アーロンもそんな刺青をしていた気がするな」

 

 ハックさんが苦々しそうにつぶやきます。私も同じ気分です。いいえ、もっと苦しい。

 海賊は敵。そう教わってきたし疑いもなく信じてきました。しかし、そうだとすれば、私は苦楽を共にした親友と戦わなければならない。

 

「下手なことは言えんが、おそらく止むを得ぬ事情があるのだ。そう気を落とす必要はない」

 

 ハックさんが私を気遣うように声をかけます。

 私も、同じ意見です。ナミさんが自分から進んで海賊になるとは思えません。もしや家族が人質に取られているのでは? それで、仕方なく従ったフリをしているだけでは? だとしたら、ナミさんは守るべき市民。海賊としての罪に問われることはないはずです。

 私達はナミさんが目覚めたら真実を問うことにしました。

 

 

―――

 

 

 はっ。寝ていたようね。ここはどこかしら。日差しが眩しいわ。

 

「ナミさん、意識が戻りましたね」

 

 右からたしぎの声。左にも若い子がいる。魚人と一緒に修行してる子ね。目立つから覚えてるわ。

 っと、びっくりした。女の子の隣、例の屈強な魚人のおじさんがいる。やっぱり魚人を見ると反応しちゃうわね。よくないことなんだけど。

 ええーっと、それで、私はなんでここで寝てたの?

 あっ、思い出した。たしぎを救った所で急に体が重くなって、そこから記憶がないわね。普段よりずっと大きな力を出したから、脳に限界が来ちゃったのかな。

 

「ひょっとして私、溺れちゃったのかしら?」

「はい。ここにいるハックさんが助けてくれましたが」

 

 たしぎの視線の先には例の魚人。難しい顔でこちらを見ている。

 正直怖い。好きになれない。だけど、感謝はしたい。

 

「ありがとう。助けてくれて」

 

 言えた。自分でも驚くくらいあっさりと。でもいざ言ってみるとなんだってことないわね。

 

「いや、当然のことをしたまで」

 

 ちょっと恥ずかしそうにするおじさん。照れてるみたい。ゲンさんを思い出す。

 うん、そうだよね。魚人も人も同じなんだよね。いい人もいれば悪い人もいる。

 心に引っかかっていた物がすうっと落ちていくような感じがする。私、今なら魚人とも友達になれそうよ。

 

 自然と笑顔になる私。1人で勝手に感動する。過去を乗り越えたこの瞬間に。

 

「ぷっ、ぷふふふっ」

「ふっ」

 

 あれ? 何故かハックさんと、コアラさんだっけか、が笑ってる。私の方を見て。私変な顔してたかな?

 

「たしぎ、私の顔、なんかついてる?」

「いえ、そういうわけでは」

 

 そう言うたしぎは、何故か私から顔を背ける。隠し事をするように。

 

「ちょっとたしぎ、やっぱり何かついてんでしょ!」

「いえ、違います」

「じゃあなんで視線を逸らすのよ!」

「いえ、それはその……」

 

 私に背を向けるたしぎ。やっぱり何か隠してる。

 私は後ろからたしぎ抱きつく。

 

「何か隠してんでしょ! 教えなさい。さもないとお」

 

 おっぱい揉んじゃうぞ。というかもう揉んでるけど。

 

「ひゃんっ。ちょっ、ナミさん。そこはダメですって!」

「じゃあ教えなさい! 何を隠してるのか!」

 

 これでもか! これでもか!

 

「ダメですダメです! そういうのは禁止! それに隠し事なんてありません! ありませんって!」

 

 と、しばらくじゃれていた私とたしぎ。ハックさんは恥ずかしそうに去っていった。

 残ったのは私とたしぎとコアラ。

 

「ねえナミちゃん、その肩の刺青のことなんだけど」

 

 ふと、コアラが言った。瞬間、私の心臓がドキンと跳ねる。

 アーロン一味の刺青。まさか気付かれた? ハックは魚人だし、もしやアーロンと接点があった?

 

「ちょっとストーップ!」

 

 私はたしぎを解放し、今度はコアラに近づく。

 

「い、刺青がどうかしたのかなあ?」

 

 ああダメだ。下手な演技。焦ってるのがバレバレね。

 

「うん。ナミちゃんってアーロン一味なの?」

 

 くそっ、やっぱりか。何故バレた。誰がバラした。

 

「そ、そう思う? ハックさんの勘違いだったりしない?」

「さっき元アーロン一味の魚人が来たの。その人が、ナミちゃんはアーロン一味唯一の人間だって」

「えっ」

 

 ちょ、ちょっと待って。アーロン一味の魚人が来た? じゃあ私がここで修行していたこともアーロンにバレちゃうの?

 

「コアラ! そ、その魚人は今どこに!?」

 

 私はコアラの両肩をつかみ、叫んでしまう。失礼なやり方だけど、私も余裕がない。私がお金を集めず修行していることがアーロンにバレたら、村が危ない。やつは人間の復讐を許さない。ちょっとでも反抗すれば徹底的に痛めつける残酷な男だから。

 

「わ、分からない。でも街の方にいると思う。魚人の彼女を作りたいと言ってたから」

「ありがとう!」

 

 聞くや否や、私は走り出す。いても立ってもいられない。早く魚人を見つけて捕まえないと。海に潜られたら追いつけない。

 

「ちょっとナミちゃん! どこ行くの!」

「その魚人に会って、話をつけてくる!」

「私も手伝うよ!」

「えっ……」

 

 予想外の提案。コアラとは今日話したばかり。まさか手伝ってくれるとは。アーロンが関わる危ない話なのに。

 いや、そうでもないか。人探しくらいなら危険もない。

 うん、手伝ってもらおう。たしぎも、手伝ってくれるかな?

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