もし室! ~もしワンピースのナミが室伏もどき著『ゾーンの入り方』を読んだら~ 作:世界の鉄人
アーロン一味崩壊
目を覚ましたカンチパに私が助けた旨を説明する。彼は私に感謝を言ってから、女達に復讐すると息まいてアーロンパークへ泳いで行った。このままなら私が裏切り者扱いされることはないだろう。しかし心配なので、一応私もアーロンパークへ向かう。
アーロンパークに着く。まずは、嫌だけどアーロンに挨拶。そして成果を報告。
「失敗したわよ。今回は」
「シャーッハッハッハ! そうかそうか! まあ気長に頑張れや!」
特に怒られることはなかった。やはりカンチパは私の裏切りの可能性について報告していないらしい。
そのカンチパは、幹部達に女達への戦いを頼んでいた。しかし幹部達は浮かない顔だ。
「やりましょうや! いい女達がタダで手に入りますぜ!」
「俺はタコの魚人じゃねえとトキめかねえからなあ」
「アーロンさんが言ってただろ。欲しい女はテメェで手に入れろよ。チュッ」
「クロオビさん! クロオビさんなら分かってくれるだろ!」
「俺もアーロンさんに賛成だが……。カンチパよ。本当にいい女だったのか?」
「そりゃあもう極上ですぜ!」
「うーむ……」
クロオビだけは思案顔だが、幹部1人では何もできまい。今の私なら分かる。彼等の呼吸のリズム(単純な呼吸ではなく筋肉の静と動など)から推し量れる力量。クロオビは多少洗練されているが、例の女魚人には遠く及ばない。同じ魚人なら絶対に勝てない。アーロンだけは魚人の中でも優れたサメなので分からないが。
アーロンパークを出て、自宅に戻る。道中特に問題はなかった。しばらくゆっくり過ごすことにする。
修行漬けでちょっと疲労が溜まっている。筋肉は大丈夫なんだけど、なんというか、頭が疲れている。全力のし過ぎという感じ。動くにしろ休むにしろね。この『全力で動き全力で休むという繰り返し』もまた、呼吸として考えれば、次に私は『ぬるく動きぬるく休むという繰り返し』により、この疲労感を拭うことができると思う。『全力の繰り返し』では全身の深い所、脳の隅々まで動かしていた。ある意味では動と言える。『ぬるい繰り返し』では全身の浅い所、脳の一部だけが動くと思う。ある意味では静と言える。こう捉えると、全力生活とぬるい生活は動と静の繰り返しと表現できる。だから今の私は、ぬるい繰り返しをすれば疲労感が取れると考えられる。理論はこんな感じ。
ふふっ。いい傾向ね。本を読まなくても自分の感覚で気付けるわ。私が成長するためにやるべきこと。その理論。これも修行のおかげね。
休もうと思っても習慣は簡単に消えない。体がやりたがっている。だからぬるい動きを意識しながら、軽く指ジャンプ、呼吸法の確認、空気押し、等々をする。
それから農作業へ向かう。庭のみかん畑。ノジコはいるかな?
いた。濃い水色の髪の女。前より小さくなった? いえ、私が大きくなったのかな。
「おっひさー! ノジコー!」
「ナミ。頭でも打った?」
珍しく気持ちのいい挨拶をしてあげたのに、ノジコは呆れた様な顔をする。まあこういう姉だと知ってたけどね。
「ふふっ。お姉様、ご老体を押してお疲れでしょう。私が代わりにパパッとやっといてあげるわ」
「何あんた? 本当におかしくなったの? って、うわわっ。危ないじゃない!」
ノジコが座る脚立を持ち上げ、少しズラす。ノジコは危ないと言ったが、今の私はノジコの呼吸を感じ取れる。どうすればバランスよく動けるか分かる。だから脚立をズラすくらいで危険はないのよ。
私は手足を使い、まるでイモリかヤモリのようにするすると木を登る。そしてノジコが切っていた枝へと接近。
「へえー。木登り上手になってるわね」
ノジコはそう言って私に枝切りバサミを貸そうとする。私はゆっくり顔を横に振って断る。不振そうにするノジコ。
私は折るべき枝に狙いを定め、両手をやや開けて持つ。そして、力の波を作るための呼吸。全身を流れる力、木の枝に流れる力の両方を意識しつつ、腕を外側に曲げる。
「ふん!」
パキン。簡単に折れる枝。ノジコは驚いている。
「すっご! ナミ、あんたゴリラにでも弟子入りしてたの?」
ゴリラ。いいえ、ゴリラよりもずっと力の強い人間です。
「まあ、こんくらいの細い枝ならわけないわ。木の幹みたいに大きいと無理だけどね」
それからも素手や足を使ってテキパキと枝を折っていく私。「曲芸みたいね」と褒めてくれるノジコ。途中で蜂や芋虫を見つけたら軽く気絶させてビンに入れる。「もしかして、食べる気?」と気味悪そうなノジコ。木の手入れが終わったら草抜き。ここでも圧倒的な身体能力、身体操作能力を発揮してしまう。「どうしよう。気付いたらナミが知らない人になっていた」若干引き気味のノジコ。草抜きも終わったら森で食材集め。ここも素早い身のこなしと冴え渡る嗅覚で簡単に山菜を集めていく。
さらにはそれらを使った料理。繊細且つ素早い包丁さばき。豪快且つ調和の取れた味付け。
「どうだ! これが進化した私! スペシャルナミよ!」
「スペシャルナミ。ぷふっ。でも料理はおいしいわよ」
「ノジコは今、私をバカにするように笑った。だけど今の私は、満たされ過ぎているのよ! 力に、そして愛に! だからいくらでもサービスしちゃうのよ! スペシャルなナミを!」
「ぷふふっ」
自分でもバカみたいって分かってる。何を言ってるか分かんないってことも。だけど久しぶりに、こうやってバカをやれているってこと自体が、すごいことなのよ。ベルメールさんが殺されてから、心に全く余裕がなかった。でも今は、余裕ができた。敵はまだ、近くにいるのにね。
過去や未来に囚われず、今を楽しむ。それができるようになったのも今までの修行のおかげ。ゾーンの入り方 3. の派生かしらね。
その日は、ゲンさんに色仕掛けをして遊んだり、皆に指ジャンプを披露して驚かせたり、ゲンさんとノジコにジュウシン親子の偉大さを説明したり、ノジコに『ゾーンの入り方』を読んで実演したりした。おもしろかった。
明日は、魚人がいなければだけど、水面走りを披露してあげようと思う。
翌日の朝、私はいつものように指ジャンプから始める。他にも逆複式呼吸で体のバランスを確認したりして、ミカン畑へ。
「みーかんーのはーながー、さあいてーいるー」
歌を歌ったりして、体の求めるリズムに合わせて、踊るように動く。作業の1つ1つが心地いい。
「ご機嫌ね。何その歌? 自分で作ったの?」
と、ノジコもやってきた。
「ううん。コージ王国のミカン畑に行くと、小さい子達が歌ってた。あそこは歌もいろいろあっておもしろいよ」
「へー。私も行ってみようかな」
「是非行くべきよ。まあでも、私がアーロンに勝てるようになるまで、もう少しかかると思うけど」
「ゲンさんは無理だと言ってたけど、私は信じれるわ。あなたなら勝てるようになるって」
「ありがとう」
「でも、ジュウシンやシツジョーがそんなにすごいのなら、一緒に戦ってもらえばいいのに」
「それは考えたけど、言い辛くてね。いい人達だから、誰も死なないで欲しいって思っちゃって」
「ナミはいい子過ぎるわね。もっと人を頼るべきよ」
私がいい子過ぎる? そうなのかなあ。自分では善人でも悪人でもないと思ってた。海賊専門とは言え泥棒やってたし、男に色仕掛けして遊んだりしてるし。
前日は特に問題なく終わった。この日もこのまま過ぎていけばいい。そう思っていた昼頃。突然、村から発砲音が消えてきた。次いで悲鳴。
急いで現場へ向かう。村人達が集まっている。その中心にいるのは、泡を吹いて倒れるアーロン一味の見張りと、その原因であろう人達。数は7。見覚えのある顔がチラホラ。今は私服だが、コージ王国にいた海兵達だ。そして最も親しくしていた女性もいる。
「たしぎ! どうして!」
たしぎも私に気付く。一瞬顔をほころばせ、すぐさま緊張感ある表情に戻る。
「皆さんを助けに来ました! アーロンの支配は今日で終わりです!」
たしぎに続き、周りの海兵達が雄たけびを上げる。なんて力強い発声なの。そして無駄のない逆複式呼吸。皆が皆、ハックさんのように洗練されている。あの島でも上位数パーセントに食い込む実力者ばかりが集まっている。これほど心強いことはない。
「ノジコ。これはたぶん、勝てるわよ」
「彼女がナミの言ってたすごく強い友達?」
「うん。それに、周りの人達は、その友達よりもさらに強い。たぶん1人1人がアーロンと渡り合える実力者。だからこれは、勝てる。いけるわ! 解放されるのよ! この町は!」
彼等を戦わせることを躊躇していたのは事実。でもいざ戦ってくれるとなると、うれしさが勝る。このメンバーなら、誰も死なずに済むだろうと思えるしね。今の私にはだいたいの力量が分かるから。アーロンも昨日見てきたしね。
その後、たしぎは村長を呼び、村長はいないので代わりにゲンさんが出た。
「住民達全員をここに集めてくださいますか? できるだけ一箇所に集めていただいた方が守りが簡単なので」
「うむ。手分けしてできるだけ速やかに行おう。いずれ騒動に気付いたアーロン達が来るだろうからな」
「ドイさん達はゴサの町をお願いします」
「おうよ!」
ドイと呼ばれた海兵と他1名は、消えたと錯覚する程のすさまじい速さで、ゴサへと向かう。さらに別の2名も別の町へ。
「たしぎ、数減らし過ぎなんじゃない?」
なんか不安になってきた。7人揃っていれば勝てるだろうけど、2人では対応し切れないと思うんだけど。
「大丈夫です。すぐに援軍が来ますから」
たしぎは自信ありげに言う。だけどこの島って、まず入るのが難しいはずなのよね。魚人が船を壊しちゃうから。
「たしぎ、あなたどうやってこの島に入ったの? 魚人に襲われなかった?」
「それは……」
たしぎがこれまでの経緯を説明してくれる。
たしぎは潜入班の隊長に選ばれた。潜入班の役目は突入班より一足速く島に潜入し、現地人の安全を確保し、それを突入班に伝えること。突入班は情報が入り次第突入する。よって潜入班は少数精鋭で、突入班は数が多い。
潜入班はもともと、ハックさんや人魚達がカンチパに謝罪する、という形でアーロンパークに入り込むつもりだった。しかしアーロン一味は潜入班の船を囲むと、ハックさんがいたにも関わらず、いきなり攻撃を始めた。人魚を力ずくで奪うつもりだったらしい。
もはや話は不可能。作戦は変更される。潜入班は船に集う魚人を退けた後、直接人の住む村へと向かう。突入班は直接アーロンパークへ向かう。という作戦に。
出鼻を挫かれたたしぎは慌てた。しかし、一分もせずにハックさんの正拳突きが敵のエイのような魚人を捉え、一撃で沈めてしまう。その魚人は敵の幹部だったようで、他の敵は恐れをなしてすぐさま逃げていった。
しかしたしぎ達の船は初めの攻撃で致命的なダメージを受けていた。これ以上の航海は不可能。たしぎは大きな魚人の女性に岸まで運んでもらうよう頼む。その時たしぎは、人間は女性に掴まって、女性が泳いで岸に連れて行く、というつもりで言った。しかし女性は、人間達を一列に並べると、いきなり技を放った。
空気を操り、固体のようにして押し出す技。上手く調整すればその空気に乗って遥か遠くまで飛ぶことができる。似た技が魚人空手にあり、これはジュウシンが編み出した応用技だという(たしぎの発言ではなく別の海兵の補足)。たしぎ達はこの技で空気に乗ってココヤシ村の近くにやってきた。そこでイルカのシゲノブに出会い、この島の現状、アーロン一味の強さ、見張りがどこにいるか、などを聞いたという。そして先ほど、たしぎ一行はこの村にやってきた。
「気になるのだけど、シゲノブはアーロン一味の強さについて、何て?」
「アーロンはコアラさんより少し強いくらい。幹部は私より少し強いくらい。他の魚人はナミさんより弱いそうです」
「は、ははっ」
なんだ。その程度だったんだ。私、ふつうの魚人より強くなっちゃってたのね。
強さの見立てはイルカの勘でしかないけど、たぶん合ってるわ。私もなんとなくだけど、そのくらいかなーって思うもの。呼吸とか筋肉を見ているとね。
―――
ジュウシンさんの投擲により、次々とアーロンパークへ降り立つ突入班。私もその1人。だけど突入班はアーロン一味に誰も手出ししていない。ハックさんに止められているからだ。「ここは私に任せてくれ。魚人の恥は魚人が始末をつける」と。
「全員でかかってこい! わし1人も倒せんのか! 小童どもが!」
「俺を殴ったのか? 下等種族に跪く裏切り者の分際で!」
「ハックさん! どうして人間の味方を!」
「ハックさん! 元はと言えば人間が悪いんじゃないか! 俺たちを差別するから!」
アーロン達がハックさんに不平を言う。しかしハックさんは聞き入れず、拳を叩きつけるのみ。
「くそぅっ! やりたい放題しやがって!」
「アーロンさん、援護する。ちゅっ」
「ああ、任せたぞチュウ。ハチも俺に合わせろ。俺と幹部であいつを倒す」
「わ、分かった。アーロンさん」
「他の同胞達は周りの雑魚共を掃除しとけ! 俺達の戦いを邪魔してこんとも限らんからな!」
その声で、周りの魚人達が私たちに向かってくる。しかし強者は1人もいない。私達の戦闘は数秒で終わる。
残ったのは幹部とアーロンのみ。ハックさんとの戦い。
「ハチッ! 何故戦う!」
「うっ」
「お前は人間だからと言って、全員を悪者扱いするような男ではなかったはずだ!」
「そ、それは……」
「ハチ! 裏切り者に耳を貸すな!」
「チュウ! お前は芯がない! 心が弱い! だから弱いままなんだ!」
「なんだとぉ! このっ!」
ハックさんは説教しながら戦うつもりのようだった。なんだかんだ彼等を見捨てていないらしい。彼等の心を。
「そしてアーロン! お前の覚悟はこんなものかぁ!」
「クソッ、老害めぇ!」
戦いは終始ハックさんが押していた。勝負がつくのも時間の問題。
まず戦意喪失したハチが正拳突きを食らい、ダウン。次にチュウが口で放った水鉄砲を、ハックさんが手で掴まえ投げ返し、それがチュウに当たってダウン。最後にアーロンとハックさんの一騎打ちになる。
アーロンは一方的に殴られたが、戦意は全く衰えなかった。歯が折れても、鼻が折れても、頼みの武器が折れても、立ち向かい続ける。恐ろしい執念。死を想像する程のダメージを受けても納まらない怒り。
それはきっと、私が関係する事件と無縁ではないだろう。私を救ってくれた人。魚人達の英雄。彼の優しさを踏みにじり、殺した人間の悪意。
「も、もうやめてくれ! ハックさん! アーロンさんが死んじまううう!」
はっちゃんが泣きながらハックさんの腕にしがみつく。ハックさんはぞんざいに振り払う。
「ハックさん、やめてくれ」
「もういいでしょう、ハックさん。俺達の負けだ」
「許してくれ。同胞同士で戦うなんて何の意味もない」
私たちが無力化していた魚人達も、力なくハックさんに訴えかける。
「見せてみろ! お前達の覚悟とやらを! 人間達を支配する? それが正しい? ならばその正しさを証明してみろ! このわしに!」
ハックさんは怒りの形相で叫ぶ。すごい迫力。その声に魚人達はのまれ、黙ってしまう。私ものまれていた。
「ジシャアアアアアアアア!」
しかし、アーロンだけは別だった。奇声を上げてハックさんに襲い掛かる。
血に染まった顔。殴られてあちこちが変形し、腫れ上がっている。目はほとんど見えていないだろう。しかし精神は衰えない。全力で、我武者羅に、攻撃を続ける。
ハックさんは無言で攻撃をかわし続ける。ハックさんの目も、心なしか濡れている。
幾ばくかやり取りが続く。不意に、ハックさんが構える。
「究極奥義、4千枚瓦ァ」
この動きは、全力。ダメ、今のアーロンにそんな攻撃をしちゃったら死んじゃう!
「ハックさん!」
「正拳!」
私は無意識に叫んでしまう。しかし拳はアーロンの顔面へ向かう。
が、その拳は、空ぶった。アーロンの顔の横、ギリギリを通って。
「ハックさん」
「勝負はついた。気を失った者に攻撃を加えるような真似はせんよ」
ハックさんの言葉通り、拳圧を受けたアーロンはよろめき、倒れ込み、そのまま動かなくなった。
戦いの終わり。魚人海賊団は全滅。魚人達は意気消沈して縄につく。
縄で縛られた魚人達。海兵達が手早く軍艦に乗せていく。いつの間に港に来ていたのか。
その軍艦にジュウシンさんが見えた。彼は船から飛び降り、私に近づいてくる。
「牢番はお前に任せる。何人かは逃がしてもいい」
「えっ」
「本気で説得しろ。真っ当に生きられるように。真の敵を見定められるように。その上で、合格だと思ったら逃がせ。革命軍に誘ってもいい。お前の魚人に対する感謝の程を見せてくれ」
いきなりそう言われても……。
縄に捕まり、裁かれるのを待つだけの魚人達。死刑になる人もいるだろう。中には私の恩人もいる。彼等の生殺与奪権を、渡されてしまった。この世で最も、魚人達に負い目を感じているかもしれない、この私に。
ジュウシンさんは私のトラウマを克服するチャンスって言ってたけど。これは、逆に、飲み込まれるような気が……。
室伏国の住人が見聞色を使えてそこそこ常識を持っていると考えると、ルフィ・アーロン戦までアーロンに手を出さない展開は無理でした。
本当はこの名シーンは削りたくなかったのですが。