もし室! ~もしワンピースのナミが室伏もどき著『ゾーンの入り方』を読んだら~   作:世界の鉄人

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双頭の鷲より高い空を

「サーカスはこれでおしまい。演奏も次で最後。『双頭の鷲の下に』行ってみよう」

 

 あーあ、終わっちゃった。ジュウシンが重い話をしたせいで、場がしらけちゃったまま。

 まったく、どうしてくれるのよ! 私達は何年もの鬱憤を込めて、本気ではしゃいでいたのに!

 

「双頭の鷲。こいつは2つの頭を持ち、それぞれの頭で対立する組織の一方ずつを操る鷲だ。その意味は、対立する勢力の両方の上層部に君臨し、自分の正体を隠したまま庶民の戦いを煽るという、自作自演戦争の象徴。この選曲はさすがジュウシンさんだ」

 

 ジュウシン信者の海兵は、相変わらずべた褒めで解説している。

 私達の気も知らないで。ちょっと八つ当たりしよう。

 

「ちょっと! ジュウシンさんの歴史の予想っていうやつ、深い意味か何かがあるんでしょうね! なかったら私、村人代表として怒るわよ!」

 

 私は怒りを示すように拳を握りしめる。海兵は困ったような顔をする。

 

「うーむ。ああいうジュウシンさんは滅多に見ないからなあ。でも、大きな意味があるとは思うよ。数日か数ヶ月後、ひょっとしたら数年後になって、『あっ、このことか!』、ってなると思う」

「数年後? 何それ。どうとでも言えるじゃん」

「いやいや、ジュウシンさんはちゃんと未来を見てるから。見聞色と独自の感覚を使ってかなり正確な未来を」

「未来って。……もういいわ。はあ」

 

 私は見せつけるようにため息を吐く。信者に教祖の失敗を問い詰めても否定されるだけ。そんな感じ。

 ふと、たしぎの声が聞こえた。

 

「ちょ、ちょっと! 歴史の予想ってどういうことです!? 何か証拠があるんですか!?」

 

 たしぎはジュウシンに駆け寄り、問い詰めている。

 

「昔のことだから文章には残っていない。ポーネグリフを見たわけでもない」

「だったら根も葉もない嘘じゃないですか! そういうことはやめてください! 政府が信用を無くし、無益な軋轢や争いを生むだけです!」

「根も葉もあるぞ。俺の海兵人生の中で、そういうことをやっている連中を見てきた。政府の罪を一般人になすりつける。なすりつけるために、たくさんの人を殺す。そういう連中をな」

「それは……っ! では、その証拠を見せてください!」

「公文書はもちろん燃やされてるぞ。俺が伝聞を基に書いた書類なら俺の部屋にあるが」

「な、なんですかそれは! 証拠になりません!」

 

 たしぎは証拠を出せと言っている。ジュウシンの文書は証拠にならないとも。

 しかし、私は思う。政府の公文書があったとして、何の証拠になるのかと。政府が自作自演をやっているのならば、文書もまた偽装しているだろう。魚人が悪いことをした、魚人の狙いは人間全員だ、だから人間は魚人全体を恨むべきであり、安全のために政府に金を払うべきだ、というような内容になっているはずよ。

 つまり、公文書であってもジュウシンの個人的な記録であっても、証拠としての価値は同じなのよ。どちらも偽装できる。信じるか信じないかは個人の自由。いえ、どちらも信じるべきではないのよ。ただ政府がこう言っている、ジュウシンがこう言っている、という情報だけ認識しておけばいいの。情報に色はいらない。利用することはあってもね。

 

 

―――

 

 

 ジュウシンさんはすごい。私が数時間かけて説得しても魚人達は怒ったままだったけど、ジュウシンさんはちょっと歴史の話をしただけで、彼等を黙らせてしまった。

 見た感じ、ハックさんに負けた時よりも、さらに深く打ちひしがれている。そりゃあそうだよね。アーロンさん達は人間と戦うことを天命のように感じていたのに、それこそが敵の狙いだったなんて。政府の手のひらの上で踊らされていたなんて知るとね。

 もちろん、予想でしかない。証拠のある話ではない。でも、私やアーロンさんのように、政府の深い闇を知っていると、納得してしまう。政府はこういうことをする連中だとね。自作自演、自分の罪を被害者に被せる、こんなことはしょっちゅう。だから、細部は異なっていたとしても、大筋はジュウシンさんの予想通りでしょうね。そう思える。予想が完全に外れている可能性もあるけど、歴史の中で同じようなことを何度もやってるってことは確信できる。だから結論は変わらないの。

 

 1人を見て他の人間や魚人を同一視し、敵視する。これはバカげてるってこと。

 

 アーロンさんもそういう結論に至っていると思う。だって部屋に帰ってから一度も私を睨んでいないもの。人間に対する悪口もない。ただ、ポツポツと独り言を言っている。「俺は今まで何を」「フィッシャーさん、どうすれば」とかそんな感じ。

 意外だったわ。証拠のない歴史の予想でも、使いようによってはこんなに効果があるのね。あのアーロンさんの心を動かせるなんて。ジュウシンさんを見くびっていたわけではないけど、力だけではなかったのね。言葉で人を動かす方法も知っていた。

 でも、ちょっと引っかかるわ。もっとこう、背中で見せるっていうの? フィッシャーさんのような包容力が欲しかった。ジュウシンさんほどの人なら、もっといい方法が取れたんじゃないかって。何も宴で盛り上がっている最中にやらなくてもねえ。

 

 

 この数日後、私はハックさんに聞かされた。ジュウシンさんが皆の前で魚人の歴史の予想を喋ったのは、革命軍への共感を誘うためでもあったと。

 その理由はまさかの私のせいだった。私がアーロン一味に、私の正体は革命軍だと言っちゃった。これが問題だった。全ての魚人をいつまでもコージ王国の牢に入れておくわけではない。どこかで本部の海兵や政府に見つかり、革命軍の情報を喋ってしまうかもしれない。その可能性を減らすために、あの場で政府の悪辣さを宣伝し、政府に対する嫌悪感を共有させたのだとか。

 私が魚人に革命軍の話をしたなんて、どうやって知ったのか。ジュウシンさんはナミさんの村で宴の準備をしていたはずなのに。それに、革命軍の暴露を知ったとして、どれだけの時間でアーロン一味を懐柔する戦略を考えたのか。改めてジュウシンさんの恐ろしさを思い知ったわ。

 

 

―――

 

 

 宴の翌日。みかん畑で作業していると、大勢の来訪者が現れた。

 

「チチチチチッ。私は海軍16支部大佐ネズミだ。君かね、ナミという犯罪者は」

「えっ……」

 

 先頭にはネズミ大佐。アーロンと手を組んでいたクズ野朗。こいつが部下を引き連れて、嘲るような笑みを浮かべている。

 ネズミの隣には怒りをジッとこらえるゲンさん。さらに隣に酷く狼狽しているたしぎ。

 

 こいつは今、私のことを犯罪者と言った。まさか戦うつもり? でも、どうして今になって? 村の脅威はなくなったのに。

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ! 私がアーロンに従ってたのは脅されたからで、村に危害を与える気はこれっぽっちもないわ! それくらい分かるでしょ!」

「ふん、そんなことはどうだっていい」

 

 どうだっていい? じゃあまさか、法に則って逮捕とか言う気なの? こいつ自身が、アーロンと手を組んでいた犯罪者なのに?

 

「チチチッ。よく分からんという顔をしているな。いいだろう。簡単に説明してやる。この村では、海軍に毎月収めるべき税金が何年も支払われていなかった」

 

 何こいつ。それを言っちゃうわけ!?

 

「それは! アーロンが! だいたいあんたらも賄賂を!」

 

 ああ、もう! あったま来た!

 

「まあ待て。私はやさしいからな。延滞料金は請求しないでおいてやる」

「だからって……」

「そうだなあ。しめて、7800万ベリーってとこか?」

「えっ。あっ」

 

 7800万ベリー。私が、今まで集めてきていた金額。そのものずばり。

 

「あんた! アーロンから聞いたんでしょ!」

「何のことか分からんな」

 

 しらばっくれてっ!

 

「チチチッ。お前達、探せ。みかん畑のどこかに隠してあるはずだ」

 

 ネズミの指示で、彼の部下の海兵がみかん畑に入る。

 もうダメ! 我慢できない!

 

「入るな! 人間のクズが!」

 

 私は近くに落ちていた木の枝を取り、海兵へとかける。

 怒りを込めて全力でやってやる。呼吸、力の流れ、相手の動き。その全てを合わせる。

 

「ふんっ、ぬっ!」

「うぉっ」

「ぎゃああああ!」

「うわあああ!」

 

 一振りで3人の海兵が吹っ飛んだ。我ながら中々のスイングね。もう常人の域は超えているかも。

 

「この! 抵抗するのか小娘ェ! お前達、やってしまえ!」

 

 ネズミの声で、彼の部下たちが私に迫る。誰も銃を構えていないのは運がよかった。これなら対処できる。こいつら、動きはてんで大したことない。昔の私以下。

 土を踏みしめ、力の流れを感じ、枝を振るう。相手のタックルを軽くいなし、そのいなした勢いでまた枝を振るう。戦いという感じがしない。流れるような、踊るような、作業。

 

 最後にネズミを拳で殴り飛ばし、作業完了。

 

「ま、まいった。許してくれ。なんでも言う通りにするから」

「それじゃあ村の復興を手伝いなさい。アーロンパークの金には一切手を出さず、村から税金も取らず。というか、アーロンからもらった賄賂を村に返しなさい。あれは元々村のお金よ」

「前半は、分かった。しかし、アーロンの金は、ない」

「全部使ったの?」

「う、うむ」

「何に?」

「い、いやあ。それはその……」

 

 頬を赤く染めるネズミ。だいたい予想はできる。カンチパと同じだろう。

 

「ふんっ」

「ぬぐごばっ」

 

 もう一回拳でぶん殴ってやった。ネズミは勢いよく転がり、庭の外で気絶する。すっきりした。

 しかし、小物ね。なんでこれで大佐になれたのかしら。

 

「よくやった」

 

 と、ゲンさんの声。そう言えばゲンさんとたしぎも来てたのよね。

 ゲンさんは笑顔でグーポーズ。たしぎは、何故か震えている。恐ろしそうに。

 

「たしぎ、怯えることないって。こいつらはただの腑抜けよ。何もできやしないわ」

 

 私は安心させるように手を大きく広げる。しかしたしぎはまだ震えている。

 

「ナ、ナミさん。そうじゃ、ないんです」

 

 たしぎはそう言いながら、目を湿らせる。もう少しで涙がこぼれそう。

 

「ちょ、ちょっと。どうしたのよ」

「ジュウシン、さん。あの人の言っていたこと。その意味が、分かっちゃって……」

 

 ああ、昨日のあれか。たしぎはジュウシンに突っかかってたものね。海軍や政府の正義を信じて疑わず。

 それで行くと、ネズミ大佐って似てるかもね。話に出てた政府に。アーロンと手を組んで賄賂をもらい、海軍本部にはアーロンの蛮行を隠す。アーロンが倒されると、正義面して遅れてやってきて、金寄越せ。うん。似てる。より小物にした感じだけどね。

 似てるから、たしぎは感じちゃったのね。ジュウシンの予想が正しいかもしれないって。私は海軍に悪いやつもいると知ってたから大して気にしなかったけど、たしぎにとっては大事だったのね。

 

「ご、ごめん! ごめんなさい! ナミさん。私、ネズミ大佐と、戦えなかった」

「いいって。そんなこと気にしなくても」

「ごめんなさい。知っていたのに。ううっ。ナミさんはいい人で、ネズミ大佐はアーロンとつながり、村から搾取していたって」

 

 ボロボロと涙を流すたしぎ。私はその泣き顔を隠すように、胸にそっと抱きしめる。

 

「ごめなさい。海兵が、相手も海兵だからって、庇って。友人のあなたを見捨てるようなことっ。私はなんて、酷い! 醜い!」

「いやいや、大丈夫だって。たしぎは全然悪くない。ちょっと勘違いしていただけよ。私は気にしないからさ」

 

 泣いて懺悔するたしぎ。慰める私。彼女が心の整理をするには、少し時間が必要だった。

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