もし室! ~もしワンピースのナミが室伏もどき著『ゾーンの入り方』を読んだら~   作:世界の鉄人

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無理やり原作に入ってしまった。


原作開始・東の海の冒険編
ルフィVSナミ 前哨戦


 17歳となり、海賊王を目指して海に出たルフィ。すぐさま大渦にのまれ、船が大破してしまう。が、樽に入って漂流し、その樽がコビーという名の少年に拾われる。

 場所は海賊船だった。コビーは海兵になりたかったのだが、間違ってアルビダの海賊船に乗ってしまったという。ルフィはコビーの覚悟を試した後、アルビダをぶっ飛ばした。

 その後、コビーを海軍基地まで連れて行くことにした。そもそもルフィには航海技術がないので、コビーがルフィを近場の町まで連れて行くと言った方が正しいが。

 

 シェルズタウンという町についたルフィ達は、海軍支部モーガン大佐の圧制に苦しむ町の姿を目の当たりにする。また、モーガンのバカ息子ヘルメッポの虐待から女の子を庇うために海兵に捕まったという男、三刀流の海賊狩り、ロロノア・ゾロに出会った。ルフィはゾロを気に入り、仲間にすることにした。が、ゾロはヘルメッポの卑劣な罠にかかり、処刑されようとしていた。ルフィはゾロを救うために海軍に戦いを挑み、コビーも少し助力する。

 その戦いの中、なし崩し的にゾロはルフィの仲間となった。二人で共闘し、モーガン大佐を簡単に倒した。コビーもなんとか海軍に入れた。

 ルフィとゾロは町の住民に感謝されたが、海兵は立場上それを口にすることができない。出航したルフィ達の船に向かって黙って敬礼することにより感謝の意を伝えたのだった。

 

 さて、ルフィの仲間探しは続く。ルフィはまず音楽家が欲しいと言ったが、ゾロは航海士が先だと言って譲らなかった。ゾロもルフィと同じように航海の能力がなく、運任せで流されていただけであり、目的地に到達しない辛さを嫌という程知っていたのだ。

 

 しかし、いい航海士はなかなか見つからない。そもそも陸地にすらたどり着かない。ルフィもゾロも地図を持っておらず、持っていたとしても読めない。海流と風に流されるままに、大海原を漂う。

 大食らいのルフィとゾロ。食糧は1日で尽きた。飲み水も2日でなくなる。狭い船に男2人だけ。夢を語る余裕もなくなる。ルフィは腹が減ったと怒鳴る。その声にイライラするゾロ。まさかこのまま餓死なんてことは……。

 少し不安になったその時、ルフィが空に飛ぶ大きな鳥を見つけた。食糧だ。

 

「待て! 鳥ぃいいい!」

 

 ルフィは腕をゴムのように伸ばし、鳥を捕まえる。

 

「でかした! ルフィ!」

「うわーっ! 捕まったー!」

 

 と思いきや、逆にルフィが鳥に捕まってしまった。鳥に咥えられて空を飛ぶルフィ。

 ゾロは放っておこうかなと思った。ルフィの怒鳴り声にイライラしていたから少し懲らしめたい。それに助けなくともルフィはあの程度の鳥に負けない。

 しかし、すぐに気付いた。下は海。ルフィは悪魔の実の能力者であり落ちれば泳げない。助けにいくべきだ。

 

「バカ野朗!」

 

 ゾロはオールを手に持ち、全力でボートを漕ぐ、鳥を追いかけながら。

 これは、ある意味幸運だった。鳥が向かう先に、島があったからだ。人もそれなりに住んでいる。久しぶりの食事ができる。

 

「うわああああ! 助けてくれー!」

「そこの人ー!」

「乗せてくれー!」

 

 ふと、声が聞こえた。男が3人、溺れている。サーカスのような妙なメイクをしている怪しい連中だ。

 助ける義理はない。何よりこちらもルフィが気になる。

 

「こっちも急いでんだ! 乗りたきゃ勝手に乗れ!」

「そんなー!」

「殺生なー!」

 

 ゾロはオールを漕ぐ手を緩めない。

 しかし突然、船が大きな波にぶつかった。

 

「おわっ、ととっ」

 

 そして強風。さらに大雨。

 突然の天候の変化だ。船は風と波に押される。

 

「なんだァ? にわか雨か?」

 

 ゾロは空を見上げる。

 雲が近い。とても近い。ジャンプすれば届きそうな距離に、小船くらいの大きさの黒い雲が浮いている。

 

「雲ってこんな低いのもあるのか? うわっ、この雲、こっち狙ってねえか?」

 

 雲が何故か、ピンポイントにゾロの方に雨や風を降らせる。偶然とは思えない。どういう理屈だ?

 しかし、相手は自然。語りかけても仕方のないこと。ただ現実を受け入れればいい。

 

「敵なら切るだけだ。喧嘩売る相手は選ぶんだな、雲」

 

 ゾロは三本の刀を取り出し、構える。

 

「鬼、斬り!」

 

 言いながら、雲に飛び掛り、斬りつける。

 雲はばっさりと両断された。

 

「ふんっ」

 

 ゾロは刀を仕舞い、再びオールを漕ぐ。

 

「す、すげえ!」

「あの雲を倒すなんて!」

 

 と、いつの間にか妙なメイク男達が船に乗っていた。

 

「って、何乗ってやがる!」

 

 ゾロはノリで殴ってしまうが、勝手に乗れと言ったのは自分だったと思い出す。

 

「ええーっ。そんなー」

「勝手に乗れって言ったのはそっちじゃないですか」

「そうだったな。まあいい。乗るなら漕げ」

 

 ゾロは妙な連中にオールを手渡す。ゾロは顔が怖く、また先ほどの剣技で妙な男達は海賊狩りの男の話を思い出していたので、妙な男達は激しくうなずき、オールを手に取った。

 

 

―――

 

 

 強い。あの男。バギーの比じゃない。

 雲相手に迷わず切りかかるなんて。雲に攻撃は効かないけど、あの殺気は侮れない。この距離でも背筋がゾクリとしたわ。

 でも、正体は分かる。三刀流と言えば海賊狩りのゾロ。見た目が怪しいからなんとなく攻撃しちゃったけど、賞金稼ぎだから敵ではないはずよね。無理に戦う必要はない。黙っていれば向こうも攻撃してこないはず。

 ただ、後ろに余計な連中が乗ってるわね。バギーの所の下っ端。あいつらだけじゃ何もできないだろうけど、バギー救出に動くのは目に見えてる。陸に上がり次第仕留めましょう。

 

「降ろせこの!」

「キーッ」

「ふん! 鳥なんかに負けるか!」

 

 うん? 上から人の声? ユズの悲鳴も。

 って、え!? ユズが若い男に襲われてる? どうして?

 

 

―――

 

 

 あの後、たしぎは手紙を残していなくなった。1人で旅に出て心を鍛え直すのだという。海兵は辞めるかもしれない。私が世界地図を書く旅に出かける時、使えそうならクルーに入れて欲しい、と綴られていた。

 私はしばらく村で過ごし、復興を手伝った。子ども達にトレーニングを教えることもあった。彼等はジュウシンサーカスの衝撃が忘れられないようで、自分もああいうことができるようになりたいと言って、私に寄って来た。面倒なので途中からゲンさんに任せたが。

 復興作業が落ち着くと、ノジコを連れてコージ王国に向かった。今度はトレーニングのためではない。観光のためだ。

 

 と言っても、トレーニング自体は毎日欠かさず行っている。村が解放されて強くなりたいという意欲が落ちたのは確かだが、ジュウシン流トレーニングは心地いいし、楽しいし、美容にも健康にもいい。以前海兵に聴いたが、ジュウシンが若く見えるのは生命帰還という技で細胞をコントロールしているからだとか。この技はジュウシン以外にも使い手が複数おり、ジュウシンより年上なのに10代に見える女性もいるとか。髪や体脂肪率も操れるらしい。六式のような政府の奥義であり修行すれば誰でも習得できるようだ。ならば私もこの技を覚えたいと思った。簡単ではないだろうけど。

 

 島へ着く。ノジコはまず、港からでも見える海王類と巨人の迫力に驚いていた。まあ誰でもそうなるわよね。それから、例のイルカが寄ってきて、女のイルカを紹介しろとせがんできた。適当に無視しておいた。

 初日は軽く買い物して、カフェでお茶して、例の海軍の宿舎で寝泊り。宿舎が使えるなんて、とノジコは驚いていたわ。

 翌日は王城に行ったわ。立派なお城は入場無料で、娯楽施設になっている。コンサート、サーカス、ミュージカル、ダンス。いろいろやってたわ。たしぎとも行きたかったな。ちなみに王族は一般人として生きているが世界会議には出席しているらしい。

 

 さらに翌日。演習場を回ってノジコに私の実力を見せてあげたわ。フグ型フィンをつけて水面を走ると驚いてた。ノジコは大きなイルカ型フィンをつけて、3歩くらい沈まずに済むかな? というレベルだった。

 射撃場、投擲場も回ったわ。射撃はモデルガンを貸してもらって的に撃つってだけだけどね。本物の銃は恐い。

 投擲場は、ジュウシン達が投擲海賊団を名乗っているだけあって、すっごい本格的だったわ。やり投げ、石投げ、円盤投げ、砲丸投げ、ハンマー投げ。筋骨隆々な男女が「ぎゃっ!」「とぅとぅ!」「さーっ!」「ちょれい!」などと奇声を上げ、ものすっごく真剣に投げていた。シツジョーの本に書いてあった声によって大きな力を出すってやつ。あれね。

 少数だけど、水投げ、空気投げ、なんてのもやっていた。水投げを教えているのは魚人。やっぱ魚人って投げるの上手いのね。アーロンも水で人を殺せるし。空気投げは水投げよりも難しいらしい。その極意である空気心を教えられるのはジュウシンとシツジョーと5mくらいある魚人の女性、キャビアだけらしい。でも、私は空気投げの方ができそうだと思った。空気を感じるの得意だから。

 ふと、投擲場の隅の方から歓声が上がった。

 

「うぉおおおお!」

「久しぶりにジュウシンさんが教えてくれるらしいぞ!」

「ジェリーさんとお子さんも一緒だ!」

 

 ジュウシンがここに来るのは珍しいらしい。若い女性と6歳くらいの我がままそうな男の子を連れている。何となく、愛人とその子どもだと思う。

 

「がははははは! どうだ! それえええ!」

 

 我がままそうな子が手に持つ棒を振るう。えっ、風が出た?

 

「うわっ」

「ちょっ、つよっ」

 

 棒の先から風が出て、大きな男たちを飛ばす。今のは流体の操作とは違う。棒から勝手に風が出た。私にはそう感じた。

 

「がはははは! ママに作ってもらった芭蕉棒だ! それそれそれええええい!」

「うわわわっ」

「ちょっ、やめろって。やり過ぎ」

 

 棒を振るたび飛んでいく男達。すごい威力。しかも、調整できるみたいね。棒の振り方によって風の出方が違う。

 

「何あれ? どういう理屈?」

 

 ノジコが聞いてくる。

 

「分からない。でもあれ、めちゃくちゃ欲しい」

「えっ……」

 

 ノジコは嫌そうな顔をした。確かに風に煽られるのは迷惑だろう。しかし、私は別のことを考える。あの棒があれば、風を感じられる私ならば、すごいことができる。自然現象を再現できる。おそらく。

 

 ジュウシンは演習場の目立つ場所に行くと、人を遠ざけさせた。大技を見せるらしい。

 

「まずは。空気をつかむ。この時にゆっくり動くことを意識するんだ。大きな筋肉を使うには遅い力の波が必要だからな。そして始動は大きな筋肉の方が有利」

 

 ジュウシンはお腹の前あたりで空気をつかむポーズをした。いや、実際に掴んでいる。固体のような感触のはずだ。私にはそれが見える。

 

「そして回転を始める。すうう、ぐわん、ぐわん。すううい」

 

 例によって変な声を出しながら、ゆっくりと回転を始める。

 えっ、あっ!? や、やばい! これはやばい!

 手に持つ空気が、あんまりにも大きかった! 私の傍にある空気さえ、彼の手のひらの中!

 

「うええう、おああお、ふおおふ、ふんふ、ふんぬ! ふんぬ! ふんぬ!」

 

 ジュウシンの回転が徐々に速くなる。その回転に空気が巻き込まれ、吸い込まれていく。風が吹く。突風が吹く。砂煙が舞い上がる。砂利や葉っぱが皮膚を打つ。

 やばい! これ以上はヤバい!

 

「うひゃあああ!?」

 

 恐ろしくなって変な声を出してしまった。しかしまだ恐い。私はにノジコの頭を押さえ、二人で地面に伏せる。巨大な竜巻に、巻き込まれないために。

 っと、風が弱くなっていく。ジュウシンが、竜巻を上に投げたからだ。

 

「いたたたたっ。何よ、あれ……」

 

 ノジコが顔についた砂を落としながら言う。

 

「人間の力で、竜巻を起こしたのよ。しかも、あの竜巻、コントロールできるみたい」

 

 私は上空を指差す。竜巻が空を飛んでいる。

 

「はああああああ?」

 

 叫ぶノジコ。気持ちは分かる。やっぱり無茶苦茶ね。

 ジュウシンはジェリーと呼ばれた女性に近づき、説明を始める。

 

「今のはいつもの回転風投げと少し違う。自分の力や覇気をできるだけ弱くして、その分回転数を増やした。でも、威力は変わらないだろう?」

「むしろちょっと強かったかも」

「だろ! だろ! そうだよな!」

 

 ジェリーが答えるとジュウシンは喜んだ。

 

「やっぱりそうだった! 力を入れ過ぎて、自然を感じ取る能力が弱くなっていたんだ! そしてこれが弱くなると、技の威力が落ちる! そこで、芭蕉棒の出番だ!」

「ああっ。僕のなのにぃ」

 

 ジュウシンは男の子から棒を取り上げた。

 ってまずい! ジュウシンがあれを使っちゃうと!

 

「やめてよ。あなたが芭蕉棒使うと死人が出るわ」

 

 ジェリーさんがジュウシンの腕をつかむ。よかった。まともな人がいてくれた。

 

「いやいや、そんなヘマはしない」

「あなたの手加減、あなたが思ってるより下手よ?」

「そうか?」

「とにかく、あなたは使わないで」

 

 ジュウシンはガックシ崩れ落ちた。愛人の方が立場は上らしい。愛人かどうか知らないけど。

 男の子がジェリーさんに近づく。

 

「ママ。僕の……」

「あんたもダメ。さっき人に向けて使ったでしょ」

「ええっ。そんなあ」

 

 ジェリーさんは男の子を睨む。男の子もジュウシンと同じように崩れ落ちた。

 と、ジェリーさんは何故か、私の方を見た。

 

「どう? あなた使ってみる?」

「えっ! いいんですか!?」

 

 私の使いたいという気持ちを察してくれたのだろうか。心を読めるようだしそうなのかもしれない。

 とにかく、運がよかった。早速使わせてもらえるなんて。

 

 棒を手に持つ。棒だけど凸凹があって木の枝みたい。だけどこの方が持ちやすい。

 重さは私がいつも使っている棒より少し重い。だけど大丈夫。十分操れる。

 

 まずは確認。軽く振ると、軽く空気が出る。強く振ると鋭い空気が出る。反対に引くと、空気が引く。その時に空気を触ってみる。若干温度が下がっている。押すと熱くなり、引くと冷たい。棒の中で圧力差が起こって温度が変わっているのだろう。

 

「ええっと、じゃあ、こういうのとか」

 

 私は押して引いてを繰り返す。ただ繰り返すだけじゃない。流体の流れ。熱風と冷風の位置をきちんと配置する。そして、混ぜる。

 

「で、できた……っ」

「すごいわね」

 

 ジェリーさんがパチパチと拍手してくれた。

 

「やはり天才だったか」

 

 ジュウシンが腕を組んでにやにや笑っている。ちょっと恐い。やはりって何? いつから見てたの? 私のこと。

 彼等以外の屈強な男女も、とても驚いている。口をあんぐり開けている人もいる。ちょうどジュウシンサーカスを見た他所の村人のように。

 そんなにすごいことを私はやったのだろうか。あのすごいサーカスを見ているから、ここにいる人なら雲くらい出せると思っていたのだけど。

 

「信じられない」

「なんで、ジュウシンさんの技を……」

「あんな若い娘が。ジュウシンさんにしか理解できない領域を」

「ありえない。あの程度の身体操作能力で」

「まさか天然もの!?」

 

 ああ、ジュウシンの技だったのね。それも、彼等の反応を見るに、けっこう難しい技。もしかして、シツジョーの本で言うところ上級だったりして。きゃーっ、どうしましょう。私って天才なのかしら。

 でも、ノジコは困惑している感じだ。あんまり喜んでない。

 

「どう! ノジコ! すごいでしょ!」

「え、ええ。まあね」

 

 やっぱりあんまり喜んでない。まあ天才だからと言って人生プラスとは限らないからね。アーロンは天性の強さがあっても人を不幸にするだけだったし。

 

 その後、投擲場の男女は「俺も」「私も」と言って次々と芭蕉を手に取り、振るっていった。皆、私に負けじと雲を出そうとしていたけど、誰もできなかった。強風や竜巻は出せていたけど。

 なお、ジュウシンは彼等に雲を出すコツを説明していたのだけど、その時には『素手で』火と冷気を起こしていた。意味不明です。そして芭蕉棒を使ったわけでもないのに、私より大きな雲を即座に作っていた。結局私には理解できない領域の技だった。

 

 皆が芭蕉棒を試した後、ジェリーさんがそれを持って私に寄ってきた。

 

「はい。あなたにあげる。この道具はあなたが一番ふさわしいみたいだから」

「いいんですか? でも、ジュウシンさんやお子さんのために作ったんじゃ……」

「いいって。あいつらには必要ないから。ジュウシンにとって実験にはなったみたいだけどさ」

「で、では。いただきます! ありがとうございます!」

 

 なんて幸運。そして喜ぶ私を見るジェリーさんの笑顔。なんていい人なんだろう。

 ノジコは1人で焦っていた。「どうしよう。これに見合うお礼なんて出せないよ」と。そんなこと気にしなくていいのに。

 

 翌日。ノジコが「絶対にお礼としないとダメ」と言うので、ジェリーさんの家に向かった。

 前日に聞いていたが、家はジュウシンの家のすぐ近くにあった。1人で小さなカフェを経営していた。客はそこそこ。私達も客として店に入った。

 私達はお礼として船に積んであったみかんを全部持っていった。200個くらいだ。邪魔になるかもしれないと思ったが、ジェリーさんただ笑顔で「ありがとう」と言うだけだった。いい人だ。

 しかし、ノジコはまだ不安らしかった。「本当にいいんですか? こいつにこんな高価なものあげちゃって!」「別のお礼も!」などとしつこく言った。ジェリーさん「大丈夫。気にしないで」と返していたが、ついてには「うーん。どうせならもっとすごい使い手になって欲しいかも」と言った。

 ノジコは私の頭を手で押さえつけ、上下に振った。お礼をさせるように。「分かりました! 厳しく言いつけます!」と返しながら。

 ちょっと酷いわよね。こんな子ども扱いって。焦るノジコは見ていておもしろかったから、言い返さなかったけどさ。

 

 私は絶対にジェリーはすごい使い手だと思っていた。あのジュウシン相手に全く怯まないし料理の包丁裁きもすさまじいからだ。呼吸は一般人に似ているがこれは強さを隠すための偽装だと感じる。そして性格は穏やかで話しやすい。だからちょっと聞いてみることにした。

 

「ねえジェリーさん。覇気って何なの?」

 

 この島の皆がよく口にしている覇気。シツジョーの本にも出てくるけどその内容は詳しくなかった。

 ジェリーさんは少し悩んでいるようだった。

 

「うーん……。まあ、いっか」

 

 何がいいのだろう。間が気になる。

 

「グランドライン、特に後半の海では有名な戦闘技術よ。戦闘以外にも使えるけど」

「そうなんですか」

「覇気は大きく別けて3つ。覇王色、武装色、見聞色と呼ばれる覇気があるわ。覇王色は威嚇による心の振動で他人を気絶させたりする。武装色は体に意志を込めて硬くする。見聞色は他人の心を感じ取る。武装色と見聞色は誰でも身に付けられるけど、人によって得意不得意がある。覇王色は完全に才能と言われていて、100万人に1人しか身に付けられない」

「へえ。じゃあジュウシンさんは全部できるんですか?」

「いいえ。あの人は覇王色はできない」

「えっ」

 

 ジュウシンにもできないなんて。覇王色はほんと珍しいってことなのかな。

 

「まあ覇王色の真似事はできるけどね。あの人は空気の心を捉え、動かすことができるから。これは魚人空手の技の応用らしいけど」

「へー」

 

 サーカスでもジュウシンと魚人の女性の風だけは格が違った。やっぱりあれって心があったんだ。

 

「あなたもたぶんできるわ。空気を感じ取るのが上手だから」

「えっ、本当ですか?」

「うん。きっと」

 

 こういう格上の人に褒められるとうれしい。

 と、そこでジェリーさんが何やら考え始めた。

 

「うーん、そうねえ」

「どうしました?」

「いや、あなたの修行方法を考えていたのだけど」

「えっ。本当ですか?」

「ちょっ、ナミ!」

 

 こんな人に修行を考えてもらえるなんてついてるわね。ノジコは「またお礼が返せなくなるー」と苦しんでいるけど。

 

「まずは、動物と仲良くなることかな」

 

 ジェリーさんはにこりと笑った。

 

「動物?」

「うん。そう。実はね……」

 

 ジェリーさんの説明はこんな感じだった。動物は言葉が使えない。だから動物と意思疎通するには言葉によらない会話が必要になり、それが相手の心を読むという見聞色の覇気の練習になる。また、動物は野生の勘で動いているため、さまざまな物事が人間よりも深く理解でき、思考によらない爆発的な動きもできる。その野生の勢いが武装色の覇気に必要だという。

 

 

―――

 

 

 ということがあり、仲良くなった鳥のユズ。というより餌付けしただけだけど。

 そのユズを襲うのは許さない。

 

「この!」

「えぶっ」

 

 私は芭蕉棒で男を叩きつける。風の引きつけも利用し、横腹に深く入った。男は勢いよく飛んでいく。ふつうの相手ならこれで決まり。

 だけど、違和感があったわ。棒の衝撃が吸収されたような。……まさか鉄塊の応用、餅塊(もちかい)? そのレベルの相手なの?

 

「いちちちっ。おい! 何しやがる!」

 

 男は腹を押さえながら立ち上がる。やっぱりあんまり効いてない。

 若い男。歳は私と同じくらいに見える。背は私よりちょっと高い。顔はふつう。でも頭が悪そう。

 服装は田舎の冒険少年って感じ。立ち姿勢は一般人にも見える。だけど違う。野性味がある。呼吸が一般人のそれじゃない。この男もまた、強い。

 

「おい! 急に殴ってきたのおまえだな! 痛ェじゃねぇか!」

 

 もうほとんど痛がってない。やっぱり餅塊を使える達人? なら、戦うべきじゃない。

 

「ご、ごめんなさいね。その鳥、私のペットだから」

 

 と謝っていると、急に男の顔から怒りが消えた。

 

「あれ? なんで痛ェんだ?」

「ん? いや、意志を込めた攻撃だから」

「石?」

 

 意志の発音が石に聞こえるんだけど。

 どういうこと? 餅塊の使い手が、覇気を知らないの? 海兵じゃないの? 厳密には私のは愛であって覇気じゃないらしいけどさ。

 あっ。まさか彼、私と同じ天然の使い手?

 

「とにかく、その鳥は私のペットなの! 攻撃しないで!」

「何ィ! こいつは俺のめしだぞ!」

「ダメだって!」

 

 男の腕が伸び、ユズを捕まえようとする。その手を、咄嗟に芭蕉棒で払いのける。

 今、咄嗟だったんだけど、こいつの腕、ありえないくらい伸びたわよね? まさかっ。

 

「痛ェ!? だからなんで痛ェんだ?」

「ひ、ひいぃっ!?」

 

 や、やばいわこいつ。体を伸ばす技と言えば生命帰還。しかもとんでもないレベルの使い手よ。あんなに一瞬で、あんなに長く伸びるなんて。細胞をまるでゴムのように操ってる。信じられない情報処理能力よ。

 ジュ、ジュウシンより上かもしれない。生命帰還の技術は。この男ヤバ過ぎる。に、逃げようかしら。勝てるわけないわよね。

 

「す、すみません! 失礼しました!」

 

 平謝りし、すぐさま猛ダッシュで逃げる。後ろからユズの悲鳴が聞こえる。でも無理。相手が悪すぎる。

 見捨てるわけじゃないのよ。隙を見て、後で取り返しに行くから。

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