もし室! ~もしワンピースのナミが室伏もどき著『ゾーンの入り方』を読んだら~ 作:世界の鉄人
相手は格上。正面からの戦いは危険。でも何もできないってわけじゃない。
あいつは見聞色を使えていなかった。攻撃が当たったし意志のことを石って言ってたからたぶんそう。
だったら、この芭蕉棒を使って、温度差を作れば。光の屈折を上手く利用して、姿を消せるはず。
ミラージュ・テンポ。
やった。できた。私の姿が目の前のガラスから消えていく。
蜃気楼の理論を空気の操作に応用。一回でできちゃうなんてさすが私ね。
でも口に出して喜んじゃあダメよ。あいつは近くにいるからね。
建物に身を隠しつつ、少しだけ顔を出す。
「ようし! どうやって食おうかなー? やっぱ丸焼きかー?」
「キー! キー!」
ゴム男はユズを自分の腕でグルグル巻きにしている。結んでいるわけじゃないから、ちょっとしたきっかけを与えれば外せると思う。
ミラージュ・テンポ。
とりあえず新技で姿を隠す。そしてこの、蜃気楼の壁を前方に動かしながら、自分も前に歩いていく。
かなり難しいわ。前方に進もうとしているから特に難しい。等温線は横に伸びてるから、横に動くのは楽なんだけどね。あと後ろも。まあでも水や空気を押すっていう練習をしてきたから、温度差を保ったまま空気を押すってことも、できなくもないわ。実際できてるし。
「おーい! 誰かいねえかー!? マッチくれー!」
クソッ。男が叫びながら走り始めた。この空気を押しながらこのスピードには追いつけない。
ちょっとリスクがあるけど、解除するしかないわね。
男は大声を出し、手当たり次第にノックしていく。誰も出ない。町人はバギーに見つかりたくないから町の外れまで逃げてるのよね。
ああでも、1人歩いてきたわ。ここの町長さん。
「おっさん! マッチくれ!」
「君は今日ここに来たのか?」
「ああそうだ!」
「悪いことは言わん。さっさとこの島から出て行った方がいいぞ」
厳しい顔で言う町長さん。私も同じこと言われたわ。バギーがいるからって。
「うん? なんでだ?」
「この町は残虐な海賊に支配されているからだ」
「ふーん」
「ふーんって。分かっとるのか!?」
ゴムの男は興味なさそう。まああれだけの生命帰還が使えるのだものね。腕に自信はあるはずよ。
おそらくバギーより彼の方がずっと強い。呼吸の野生味、深さを考えるとね。たしぎくらいの強さはあると思うわ。生命帰還を合わせれば、もっと強いでしょうけどね。
バギーは遠目に見ただけだけど、小物だった。呼吸も浅い。身体能力は私と同じくらいじゃないかしら。
「それより飯屋ってどこあるかな? おれ腹減っちまって」
「店はどこも畳んじまってるよ。誰もバギーに見つかりたくないからな」
「えーっ」
って、こんな思考にふけっている場合じゃなかったわ。町長さんとゴムの男が話しているこの間。どうしても集中力が落ちる。この隙に、近づく。
「くっそー。バギーめ許せん! おれのめしを邪魔するなんて!」
「まさか戦おうなんて思ってないだろうな? 相手は海賊だぞ!」
「そんなもん気にするか。おれも海賊だ」
「何!?」
えっ、こいつ海賊だったの? この成りで? ……裏は無さそうよね。ただのアホ面に見える。
でも、海賊なら話は速いわ。手加減は必要ない。
最初の一撃で、決めようかしら。相手は格上。油断しているこの時が最初で最後のチャンスだと思うのよ。だから、ありったけを込める。最高のパフォーマンスができれば、一発ノックアウトも不可能じゃないはず。
よし。やるわ。まずは究極の静を作る。
感じる。全身を巡る血液の流れ。肌を差す潮風の動き、冷たさ。潮の匂い。チリチリと肌を照らす日差し。
身も心も、私を包む世界に溶け込ませる。乱流の中を動く時と同じ。現在、今この時の世界を全力で感じて、意識を広げていく。
見えた。風の流れのその先。そして同調していく体。
ふふっ。あれから例の川いっぱい練習したからね。時間をかければいつでも静のゾーンに入れるのよ。そして、動のゾーンも、引き出せる。
「ふんっ」
逆複式呼吸。静寂の世界に一石が投じられ、波しぶきが上がる。
そこに、気持ちを込める。心を震わせる。
世界を感じる喜び。無限に広がる意識が生む浮遊感。楽しさ。それによって生まれる感謝。現代への感謝。何より、愛! 愛を込める!
「つ、お、おおおう!」
「ドゲブウッ!?」
決まった。最高の一撃。身体、意識、心。全てが一致した今の私の最高の一撃。
男は舞い上がり、遥かかなたまで飛んでいく。空中でユズを手放した。やった。
ユズはふらふらと落ちてから、翼を広げ、なんとか風に乗る。
「ユズー!」
ミラージュ・テンポを解き、ユズに呼びかける。
「キー!」
ユズは答え、私の方へと戻ってくる。今なら鳥の気持ちも分かるわ。彼は喜んでる。
「き、君がやったのかね。今のは」
町長さんが目を大きく見開いて驚いている。
「ええそうよ。だから言ったでしょ。バギーなんか怖くないって」
「う、うむ」
まあでも、ミラージュ・テンポの有無は大きいけどね。これがないと無傷では勝てないと思う。
「いきなり、出てきたように見えたが。まさか、悪魔の実の能力」
「違う違う。簡単な光の屈折よ」
ふふっ。そう見えちゃうのかな。私が初めてコージ王国に行った時と同じような反応ね。
―――
ふと視界に入った。何かが放物線を描いて飛んでくる。
「なんだあれ? って、うちの船長じゃねえか!」
それはルフィだった。鳥に捕まった次は大ジャンプ。何故こうなるのか。探す手間が省けたのは助かるが。
「おいおいルフィ。何してやがっ」
空中のルフィに話しかけながら、気付いた。ルフィは白眼をむいて気絶している。そして頬にくっきりついた棒で殴られたような痕。
「や、やられたってのか!? 何者かに!」
ルフィは受け身もできず着地し、無造作に回転しながら跳ねる。推進する勢いは止まらず、跳ねながらとある民家に突っ込んだ。
「おい! 大丈夫か!」
急いで駆け寄るゾロ。ルフィの突っ込んだ壁には穴が開き、埃が立ち上る。
その埃の奥から、声がした。
「う、いてっ。どこだここ?」
「ルフィ!」
どうやら壁にぶつかった拍子に目が覚めたようだ。ひとまず安心だ。
「おう! ゾロ!」
「何やってんだお前は。全く」
ゾロの心配を他所に、ルフィはケロッとしていた。
「そういや俺は何でこんなとこにいんだ? たしかさっき、鳥の肉を食おうとして」
「覚えてねえのか?」
「うーん。思い出せん」
「誰かに殴られたんだろ。自分の顔見てみろよ」
ゾロは自分の頬っぺたを指差し、その後に家の窓を指差す。
ルフィはつられて窓を見る。そして右頬にくっきと長方形の痕が残っていることに気付いた。
「なんだこれ!」
「誰かに棒か何かで殴られたんだろ。お前、けっこうぶっ飛んでたぞ」
「何ぃ!」
「心当たりねえのか? 海賊か海兵か」
ルフィはうーんと顎に手をおいて考える。そして、ハッとした。
「まさか! 肉泥棒!」
「肉泥棒?」
「おれが捕まえた鳥を、自分のだって言って盗もうとした女がいてよ」
「女だァ?」
ゾロは疑ってしまう。自分の認めた男が女に負けたとは考えにくい。ゴリラみたいな女だとしても。
何より打撃が効かないはずのゴムの体にどうやってダメージを?
「まったく食いしん坊な女だった。いきなり棒で殴ってきやがってよ」
「棒? お前のほっぺたの痕についてるくらいの大きさか?」
棒、ということは本当にその女が犯人なのだろうか。
「何言ってんだゾロ。棒だぞ。お前の刀より長いくらいの大きさだ」
「ああ、うん」
棒の直径を聞いたのだが、説明が面倒なのでやめた。
「許せん。おれから肉を奪いやがって。食い物の恨みは深いんだぞ」
ルフィはやる気になっている。このままその女との戦いになるだろう。
ゾロは基本傍観に徹するつもりだ。一対一の戦いに水を差す気はない。船長がそこらの女に負けるようでは困るし、格上だとしても女相手に二対一は恥ずかしい。ルフィの勘違いということもありえるので、その時は自分が止めるつもりだが。最後にもう1つ、聞きたいことがあった。
「待てよルフィ。お前はゴムのはずだろ? なんで棒でやられるんだ?」
「ああそうだった。あいつの棒は痛ぇんだ。なんでだ?」
ルフィも分からないらしい。残念だ。
「俺が知るかよ」
「はっ。まさか、ばか力」
そしてルフィとゾロは女の捜索を始める。
女がどこにいるかは分からない。とりあえずルフィが飛んできた方向に歩きながら、それらしき人物を探すことにする。
「出てこーい! 肉泥棒ー!」
「それで出てくる泥棒はいねえよ」
ルフィはゴムの能力を使って建物の屋根に上り、叫ぶ。またゴムの能力を使い、空中を飛んで人影を探しながら、叫ぶ。
「おーい! 肉泥棒ー! くそー! 腹減ったー!」
ルフィが腹減ったと言うので、ゾロも腹が減っていたことに気付く。どこかで飯を食わせてもらおう。
近くの民家にノックする。「おーい」と声で呼ぶ。反応無し。別の民家をノックする。そこも反応なし。また別の民家も反応無し。
「あっ、おっさん!」
と、そこでルフィが誰かを見つけたようだ。ゾロもルフィの飛んでいった先に向かう。
そこはペットショップだった。経営者はいないが犬が見張りをしていた。ルフィが見つけた男はこの町の町長であり、犬に餌をあげにきたのだという。
「バギーがやってきて、町の皆は逃げたのだが、この子は動こうとせんのだ。主との約束を守るために」
店主は亡くなっているが、犬は店主の言葉を守り、店番を続けているのだとか。忠犬である。
「なあおっさん。そんな話より飯食わせてくれねえか。おれ腹が減っちまってよ」
「今言うことかよ。まあ、食事には俺も賛成だが」
町長は困惑していたが、食事は出してくれた。いい人だ。
「あーっ、うまかったー。ありがとなおっさん!」
「構わんよ。しかしきみ、本当にバギーと戦う気かね?」
町長は以前にルフィとした会話の内容を気にしていた。
「バギー? 女の名か?」
ゾロはそいつがルフィから肉を奪った女だとあたりをつける。
「女? いや、バギーは男だが」
しかし違ったらしい。
「バギーって誰だ?」
そしてルフィは覚えていなかったらしい。
まさか殴られた衝撃記憶が飛んだ? 町長は説明するかどうか迷った。言えば戦おうとするかもしれないからだ。しかし、一方で戦って欲しいという感情もあった。そしてその場合に記憶がないというのは都合がよかった。
「道化のバギー。ピエロのようなメイクをした海賊だ。この町の一角を占拠し、やりたい放題暴れ回っておる。町人はバギー達に見つかるのを恐れて町の外れに隠れるように暮らしておる。町に人がいないのはそのためだ」
「ああそうだった! めしの邪魔をしたやつだ!」
「お前の記憶はめしだけか」
ルフィは怒って立ち上がる。
やはりバギーと戦う気はあるらしい。町長は、今回ばかりはもう一押しすることにする。
「実は勇敢な少女が、バギーと戦うと言っておってな。よければ協力してやってくれんか?」
ナミのことだ。強いのは分かったが若い娘。1人で戦わせるのは心配だった。ピンチになったら町長は玉砕覚悟で突っ込み、ナミをなんとか逃がしたいと思っていたが、町長の力量では時間稼ぎもできない可能性もある。
「女? 別にいいけどよ。バギーを倒すのはおれだ。そして肉を腹いっぱい食う!」
「ああいいだろう。好きなだけ食わせてやる」
「女で思い出したが、バギー一味に棒を使う女はいるか?」
「見たことはないが、わしも詳しくは知らんからな。いるかもしれん」
「そうかい」
ゾロの予想では女はバギー一味。ルフィから肉を盗む女なんて海賊くらいしか思いつかない。そしてその女は強いようだから、ルフィが相手をすることになるだろう。ならば自分が、一番おいしい所をもらう。船長のバギーは俺が斬る。
ゾロは激しい戦いを思い浮かべ、1人、口端を吊り上げた。
ナミは雨が降ったら戦闘を始めると言っていた。現在は晴れ。雨がいつ降るかは分からない。町長がそれをルフィとゾロに告げると、2人は立ち上がった。
「待つのは面倒くせえ。おれは行くぞ」
「俺も同意権だ」
「そうか……」
町長は少しホッとした。できるなら少女に戦って欲しくなかったからだ。若い男たった2人に任せるのも気が引けるような思いはあるが、少女に比べればマシだ。
これで2人が負けてしまい、どうせなら協力させるべきだった、となってしまう可能性もあるが。総合的に考えて、現状が一番いい。
2人は町長に案内され、バギー一味が占拠している酒場に向かう。そこで気付いた。自分たちが向かう先、その上に、黒々とした雲が広がっていることに。
「あの雲は……」
ゾロは気付く。自分がこの島に入るときに見た雲に似ている。黒くて意志を持っているように動く。高さはとても低い。そしてどしゃ降りの雨を降らせる。ただ、大きさが違った。ゾロが見たものは小船くらいの大きさだったが、今は城くらいの大きさ。
建物に近づくにつれて、風が強くなってきた。建物の破片も飛んでくる。男達の悲鳴も聞こえる。バギー一味の声だろう。しかし、雨が建物を覆っているため、どうなっているかは見えない。
―――
ミラージュ・テンポで姿を隠したまま、雲を大きくしていく。大きくなると、バギーのいる建物周辺に雨を降らし、外に出ている大砲を濡らす。これで一番厄介な大砲は使えない。
次は雲の力を使って風を起こし、バギーのいる建物にも雨を入れる。隙間の開いた家だから、強い風と雨なら、中まで水が入る。そもそも、家自体も壊せる。たぶんね。
「つ、ええええい!」
芭蕉棒を振るえば、すさまじい風が飛んでいく。それを雲が増幅し、バギーのいる家へと叩き込まれる。
数瞬の後、木の抉れる音がした。やっぱり壊せたわね。
「ひゃああああ!」
「うわあああ! 屋根があああ!」
「なんだこの天気は! 嵐か!」
バギー一味の悲鳴が聞こえる。これで、浸水成功ね。これで、銃も使いづらくなったはず。
このまま雨が止むまで放っておきましょう。倒せはしないまでもバギー達の体力を削れるはずよ。ついでに私は休憩。大きな雲を作るのに棒を何度も振って、疲れちゃったからね。
しばらくポケーっとしていると、男が3人、バギーの建物に近づいてきた。ここの町長、海賊狩りのゾロ、そして麦わら帽の男だ。
なんて組み合わせなのか。麦わら帽の男は海賊だから、海賊狩りのゾロなら捕まえてくれると思って、あいつのいる方に飛ばしたのに。逆に仲良くなってるように見える。そしてその2人と町長も仲良くなってるように見える。どういうことなの?
ミラージュ・テンポ。
とにかく今は、隠れて様子を伺うことにするわ。
小雨が降る中、麦わら帽の男が「出てこいバギー! ぶっ飛ばしてやる!」と叫ぶ。バギーは雨にうたれてすこぶる機嫌が悪そうだった。「なんだてめえは。俺様は今機嫌が悪いんだ。ぶっ殺すぞ!」バギーも叫んで返した。
そして戦いが始まる。いきなり総力戦。怒れるバギー一味対。2人。やっぱり数が多いわね。体力もあんまり減ってないみたい。怒ってるから一時的に力が出てるだけかもしれないけど。
「ゴムゴムの、ガトリング!」
麦わらの男が叫ぶと、すごい勢いで腕が伸び、また縮み、また伸び、と繰り返し始めたわ。その拳の一撃で人が吹き飛ばされるほどの威力。バギーも殴られ、飛んでいく。やっぱり化け物だったわね。この男。力は思ったより強くないけどさ。生命帰還だけ特別に得意なのかな。
ゾロの方は幹部と斬りあってるわね。確かカバジだったっけ。曲芸を利用した攻撃をしてるわ。ジュウシンサーカスを見た後だと小物に見えるけど。
あっ、町長さんがその辺の下っ端にやられちゃった。まあそうなるわよね。
でも、総合的に麦わら達の方が押してるわ。たった2人ですごいわね。あっ、曲芸師が雨で滑って、ゾロに斬られちゃった。これは酷い傷。もう復帰は無理ね。
「な、なんだこいつらは!?」
「どうして俺たちを攻撃するんだ!」
「めしの恨みは深いんだ!」
「何ィ!?」
うろたえるバギー一味。麦わらの男は構わず殴り続ける。しかし、食い意地張ってるわね。ご飯が食べたくて海賊にケンカ売るなんて。
「うろたえるなお前達! ゴムには刃物だ! 連携で攻めろ! 剣士は俺が殺る!」
「はい! 船長!」
バギーの声で一味は冷静さを取り戻したわ。でもゴム男は餅塊が使えるのだから鉄塊も使えると思うわ。刃物は意味がないと思うの。
ゾロの方に向かったバギーは、うわわっ。これはすごい。すれ違い様に何箇所もバッサリ斬られちゃったわ。バラバラに落ちる手足や頭。即死ね。
あれ? でもおかしいわ。血が出てない。まさか生命帰還? バギーも生命帰還の使い手なの?
って、あっ、動いた!
「がふっ」
なんてこと。斬られたはずの手が、浮いて。しかも、後ろからゾロを突きさした。
な、なんていうこと。このレベルの使い手なの? 風の心を感じ取り、失った腕を動かすなんて。いや、違うか。風が動いた感じはなかったのよね。まさか覇気? 私の知らない何かがあるの?
「ゾロぉ!」
「ふっふっふ」
倒れるゾロ。麦わら帽の男が必死の形相で叫ぶ。思ったより仲良かったのね。
しかしやばいわ。バギー。とんでもない化け物だったのね。でも運がいいわ。やつはゾロを倒して油断してる。これはチャンスよ。バギーは生命帰還や手を操る覇気(?)はすごいのかもしれないけど、打撃に対する防御能力は低い。ただでさえ低いのに、バラバラになってるってことは、全身を使った受け流しもできない。だから決まるはず。
同じことをやるわ。数時間前に麦わらの男を吹き飛ばしたのと同じ。全力の一撃を叩き込む。
ああダメ、動いちゃったわ。
「お前! ゾロをよくも!」
「何がよくもだ! てめえから海賊に突っ込んできた癖に」
麦わらの男がバギーに殴りかかる。バギーは体をバラバラにして避ける。そしてナイフを持った手で麦わらの男を攻撃。ほんと器用ね。
対して、麦わらの男は地面の雨水で滑っちゃう。思ったより動きが悪いわ。だから、バギーのナイフに切られ、ちょっとずつ傷が増えていく。鉄塊は使えないみたいね。不思議だわ。
麦わらの男は時おり伸びる手でバギーを攻撃するけど、全部避けられちゃう。地面が滑るから踏ん張りが効かなくて、パンチの勢いが弱くなってるのよね。それも関係あると思うわ。
「ふん。お前の麦わらを見ていると、いまいましいあの男を思い出す」
「えっ。シャンクスを知ってんのか?」
おっと、戦闘が一旦止まったわ。あの麦わら帽は曰くつきみたいね。会話が始まったわ。
でも、これはチャンス。動きが止まっていれば、最高の一撃を叩き込める。
集中。身も心も、私を包む世界に溶け込ませる。静の極意。心と体をピタリと停止させる。
「そうして俺はバラバラ人間になっちまったのさ」
「ふーん。シャンクス悪くねえじゃん」
「何ィ!?」
そして、動の極意。力の流れの最高点に、心の最高点を合わせる。
「そういやおまえ、でかっぱなだな」
「黙らっぶけどばー!?」
決まった。吹き飛んでいくバギー。バラけて小さいからすごい勢いで飛んだわ。島を出たんじゃないかしら。
「バ、バギー船長ー!」
バギー一味は叫び、飛んでいった船長を追いかけていく。まあ一部は残ってるけどね。
「おのれ麦わら! 船長に何をした!」
「いや、あいつが勝手に飛んで行っただけだ」
「なにィ!?」
「バカを言うな! 何かやったんだろ!」
そうして残った一味と麦わらの戦闘が始まる。すぐに終わったが。もちろん麦わらの勝ちだ。
戦闘が終わったので、私も姿を現わす。
「ふふっ。お疲れさん。バギーをやったのは私よ。だからお宝は私がもらうからね」
言わなくてもよかったんだけど、一応ね。下っ端を倒したのは麦わらだから、義理で言ってあげた感じ。
「あ! おまえは!」
ところが麦わらは、私を見るなり怒り始めたわ。しかも腕を振り上げる。
これは、殴るってことよね。
「肉返せ! こんにゃろう!」
やっぱり殴ってきた。当たれば危ない一撃。
でもかわせるわ。何度も見てきたからね。そもそも予備動作が大きすぎるのよ。たしぎの剣技を受けてきた身としては、出だしの早さと工夫が足りない。
「ちょっと、まだ根に持ってんの?」
「当たり前だ! 肉の恨みは深ぇんだ!」
こちらを睨む麦わらの男。性格は単純に見える。裏表はなさそう。
うーん。たぶん、ご飯を奢ってあげるって言えば、戦闘を回避できるわよねえ。でもさ、相手は海賊。何の恩もないのに奢るってのもねえ。
相手が格上ならそれもありよ。逃げるのももちろんあり。でもね、たぶん、私でもこいつに勝てそうなのよね。戦闘を見た感じだと。こいつもバギーと一緒。生命帰還とか体力みたいな一部はすごいけど、総合的な能力が足りない。
ミラージュ・テンポ。
「あっ、消えっ」
そもそも見聞色の使えないこいつでは、私を見ることもできない。だからきっと勝てるわ。海賊を夢見る少年に世の中の厳しさを教えてあげましょう。