もし室! ~もしワンピースのナミが室伏もどき著『ゾーンの入り方』を読んだら~   作:世界の鉄人

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ルフィVSナミ 意地の戦い

 ルフィは膝を軽く曲げ、右拳を後ろに構える。

 

「出てこい! 肉どろブォグッ」

 

 肉泥棒と叫ぼうとしたところで、右わき腹に衝撃を受ける。

 

「ぐくっ」

 

 叫ぶタイミングと合わされたため、棒が腹に深く入ってしまった。ルフィは苦痛に顔を歪ませながら、バギーのいた酒場に突っ込む。

 そして攻撃した本人、ナミは驚いていた。棒が腹に入った瞬間、ルフィは体をひねり、衝撃を和らげた。乱流泳ぎにも通じる一瞬の間の判断。それを身につけている。

 

「ぐくくっ。痛ぇなこんにゃろう」

 

 土煙を上げながら出てくるルフィ。痛いという言葉とは裏腹にダメージは薄い。そのことにナミはショックを受ける。自分の最高の一撃で、この程度のダメージしか与えられなかったからだ。

 

「見えなくても近くにはいるんだ。だったら」

 

 ルフィは左足を強く地面にぶつけて踏ん張り、右足を後ろに振り上げる。

 

「ゴムゴムのォ、ムチィイイイイイ!」

 

 叫びと共に蹴り出される右足。それは長く伸び、酒場の前にある広場全体を覆うように、ルフィの前面を旋回する。

 ナミは通過する足をジャンプで避ける。しかし空気は切り裂かれ、その切り目に沿うようにミラージュ・テンポの屈折も失われる。

 なんてデタラメな生命帰還。こんな方法でミラージュ・テンポが破られるなんて。

 

「そこかァ!」

 

 切り裂かれた空気に、ナミの身体の一部を見つけたルフィ。ゴムのように伸びる腕で殴りかかる。

 

「くっ」

 

 ナミはミラージュ・テンポが消えてショックを受けていた。しかしコージ王国での経験のおかげか、体は無意識に反応できた。

 ナミは芭蕉棒を振り、その反動で拳を避ける。足で地面を蹴るよりこちらの方が速い。また、足は地面についているため、避けてすぐに反撃できる。

 私には経験がある。あいつの分かりやすい攻撃には当たらない。ミラージュ・テンポがなくとも私の有利は変わらない。

 自信を取り戻したナミ。全身に勇気が満ちていくのを感じる。

 

「ずええああああ!」

 

 その勇気を力に変えるように、奇声を上げてルフィへと駆ける。ミラージュ・テンポで身を隠していた時は、声や足音が出ないようにしていた。これでは真の意味の最高の一撃が出せない。本当の全快のパワーをぶつける時は、音も利用した方がいい。

 

「ふん!」

 

 右腕が伸びたままのルフィは、その腕をムチのようにしならせてナミにぶつけようとする。しかしそのしなった瞬間をナミは察知。すぐさまジャンプの体勢を取り、ドンピシャのタイミングで跳んで腕をかわし、その跳躍の勢いも合わせて棒を振り上げる。

 

「うおおおおえええいうっ!」

 

 ナミは奇声を上げて棒を振り下ろす。狙いはルフィの脳天。

 

「負けるかァ!」

 

 ルフィは棒に頭突きで応戦。棒と頭がぶつかり合う。

 

「ぐっ」

「くうっ」

 

 ナミはルフィの頭の動きから力の流れを予想し、最高の打撃を加えたつもりだった。しかしルフィの眼光。そこから来る意志の力によって、予想外の揺れが生まれた。この揺れには対応できず、完全な力は伝わらなかった。むしろ自分の腕が痺れてしまう。

 

「くっ。今のは何? 覇気?」

「にっしっし。い、痛くねえぞ。そんな棒!」

 

 ルフィはうろたえるナミを見て話しかける。言葉とは裏腹に頭に大きなタンコブができており、目には涙が浮かんでいる。痛いのは間違いないようだ。

 しかし、ミラージュ・テンポは破られ、声を利用した最高の一撃でも倒せなかった。ナミはまた不安になってしまう。

 

「ゴムゴムのォ、ガトリングゥウウウ!」

 

 その隙を逃すまいと、ルフィはゴムの反動を利用したパンチの雨を振らせる。

 ナミは棒を利用した反動、且つ最小の動きでパンチを避ける。数は多いが単純なバネの振動。流体や泥を扱うナミにとって予測は簡単だ。

 しかし素早い動きは長く続かない。徐々に体が追いつかなくなっていく。まずい、当たっちゃう。

 いや、だったら。

 

「サァアアアイ!」

「うぐっ」

 

 先ほどのお返し。ナミは拳を避けるのではなく、棒でぶっ叩いた。

 ナミの腕が痺れるが、ルフィも痛そうだ。パンチが止んだ。

 しかし、ルフィは歯を食いしばり、再び構える。

 

「ガトリングゥウウウウ!」

「サアアアイ! サイサイサイ! サァイ!」

 

 ルフィは叫び、拳を繰り出す。ナミも奇声をあげながら、自分に向かってきた拳だけをぶつ。

 意地と意地のぶつかり合い。両者とも全力で拳を出し、また棒を振るう。

 打ち合いの勢いは互角。しかし互角のまま強くなっていく。動けば動くほど、疲れに反比例するように、力が増していく。それをなすのは意識の覚醒。無限に広がる意識。ニュートン物理を脱し、波動の世界に踏み込む。そのに先にある意識が、力を与えてくれる。もっと先へ。もっと深く。方や愛。方や覇王。

 しかし、まだ何かが足りなかった。不意に、両者がバチンと弾かれる。

 

「ぐっ」

「くっ」

 

 まるで爆風を受けたように吹き飛ぶルフィとナミ。ルフィは受身を取らず民家に突っ込むが、ナミはそうはいかない。芭蕉棒を利用して、空中で体勢を整え、吹き飛ぶ身体を上方へ逃がしていく。旋回する鳥のように空を舞い上がる。高さは50m近くまで達する。このまま落ちれば痛いが、芭蕉棒で風を作ればゆっくりと降りられる。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ。くううっ」

 

 降りた所で、腕の痺れに気づいたナミ。芭蕉棒を落としてしまう。すぐさま拾おうとするが、手が握れない。体も重い。先ほどのやり取りで全身が疲れている。

 

「やるな、おまえ。はあ、はあ」

 

 ルフィも民家から出てくる。拳はパンパンに腫れ、血を流しているが、握った手にはまだ力がある。疲れもナミほどではない。

 何故この状態で拳を握ることができるのか。ナミの腕よりも酷い状態に見えるが、実際に戦えるのはルフィの方。意識が肉体を超越している。死を恐れていない。

 こういう相手と戦うべきではない。ナミの本能が警告する。

 

「はあ、やめるわ。私の負けよ」

「なに?」

 

 まだ一発ももらってないが、それも時間の問題だろう。何よりルフィの戦い方に恐怖してしまい、戦意を失ってしまった。

 

「あんた強いわね。私に勝った褒美にご飯奢ってあげる。話とか聞きたいし」

「えっ、いいのか!?」

 

 ルフィは一瞬で戦闘態勢を解き、笑顔になった。ナミの予想通り、ご飯を奢ると言えば戦闘は回避できたのだ。

 

「お、おい。俺を忘れん、なよ」

「ゾロぉおおおお!」

 

 と、ゾロが広場の隅の方にいた。腹から血が流れるが、意地で立っている。その肩には気絶した町長を担いでいた。


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