もし室! ~もしワンピースのナミが室伏もどき著『ゾーンの入り方』を読んだら~   作:世界の鉄人

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室伏もどきの半生

 「ゾーンの入り方」。序章が長いわね。練習方法は最後の方に書いていて、前半は日記みたいな感じね。

 って、え? この人、魚人よりも速く泳げるの? 巨人よりも力が強いの? 本当に?

 いやいや、ありえないって。いくらあのゴリラみたいな筋肉でもありえない。

 

 ……でも、本人がそう書いてるし。

 うそ臭い。うそ臭い。なんだけど、魚人を上回る人間がいる、みたいに書いてるのを見ちゃったら、読みたくなっちゃうじゃない。

 

―――

 

 海賊シツジョー。人は俺をどう思っているだろうか。

 年配の方は鉄人の息子と記憶しているかもしれない。若い海賊や海兵にとっては厄介な敵だろうか。巨人を超える力、魚人を超える水中速度。覇気と六式を操る天才。

 しかし俺は最初から何でもできるわけではなかった。むしろ魚人や巨人に比べれば潜在的な能力は劣っていただろう。ただ、俺は自分の壁にぶつかる度に、それを破ることができたのだ。壁だと思った所が壁ではなかった。

 この、壁を何度も越えられる能力。これは俺の特徴の1つと言っていいだろう。この能力を習得する方法については別書「超える力」に詳しく書いた。

 

 本書「ゾーンの入り方」ではもう1つの能力に注目したい。俺を深く知っている人は、ここぞという時に限界を超えたパフォーマンスを発揮する精神力、集中力こそが俺の長所だと言ってくれる。

 確かに、仲間が敵に囲まれた時、女性が人質に取られた時、ノックアップストリームで船が完全に壊された時。ここぞというピンチで自分でも信じられない力を発揮し、乗り越えることができた。

 ゾーンに入る、などと表現される究極の集中力。その世界に入るための条件とは何だろうか。実は俺自身も体系立った理論を持っていない。本書は俺の半生を振り返りながら、ゾーンとはそもそも何か、ゾーンに入るために何が必要か、考える一助としたい。

 

 

 

 俺の両親は海賊だった。

 父はイーストブルーの田舎生まれ。もとは世界最強の怪力を目指す海兵だった。人間の中では才能もあったのだろう。海軍支部の頃は敵無し。住民を背に海賊の攻撃を無傷で受けきり、鉄球一撃で船ごと海賊団を沈める。豪快な逸話の数々から、イーストブルーの鉄人と恐れられた。

 

 しかし、世界の壁は厚かった。グランドラインにある海軍本部。そこで力の差を痛感させられた。

 伝説と言われる海兵、ガープとの投擲勝負。コントロールこそ父が勝っていたが、ガープは父より10倍も重い鉄球を振り回し、しかも飛距離も4倍は飛んでいたらしい。父はあまりにも大きな差にショックを受け、仮病で3日間休んでしまったほどだったらしい。

 それから父は努力し、重さ半分、飛距離半分まではガープに近づいた。しかし年齢から来る衰えもあり、記録は頭打ちになった。

 

 その最中、父は世界最強の怪力という夢を我が子に託すことにした。

 父は血統因子の重要性を認識していた。どうしても超えられない生まれ持った才能の違い。特に大事なのが、覇気という不思議な意志の力だと考えた。魚人や巨人の巨体という才能も怪力につながるが、それは父の構想にはなかった。

 父は島民全員覇気使いという女ヶ島の女、その中でも選りすぐりの戦士である九蛇海賊団に目をつけた。海兵として何度か戦いを挑み、これだという女を探し、見つけた。それが俺の母だ。

 母は皇帝ではなかったし、覇王色や見聞色の覇気は使えなかった。しかし父が求めるのは怪力の才能。怪力と関連の深い武装色の覇気に限れば、皇帝より上か同じくらいの強さがあったという。何より若かったので父は才能を感じたそうだ。

 

 父は母に強く求婚した。母は強い男を好んでいたので喜んで受け入れた。

 しかしこれが海軍及び政府の中で問題になった。

 九蛇海賊団と言えば名の知れた悪党。政府や海軍にも犠牲者は出ている。そんな相手と結婚するのは許せなかった。お互い素性を知らないまま偶然愛し合うなら言い訳もできたかもしれないが、父は軍艦を引っさげて何度も戦いを挑んでいたのだ。その中で少なくない死者も出ていた。その目的が婚活では死んだ者が浮かばれない。父自身は「俺が九蛇と戦ったことで一般人への被害が減ったことも事実」と譲らないが。

 ともかく、父は罪人と見なされ、賞金首になってしまった。その額7596万ベリー。父は海賊として生きるしか道がなかった。

 

 そして俺が産まれた。

 俺は生まれてすぐに父と母から戦闘の英才教育を受けた。

 起きている間はずっとトレーニング。ハイハイや水泳はもちろん、食べるのも言葉を発するのもトレーニングだ。

 例えばおっぱいを吸うときに、肺やお腹の力だけではなく、肩やお尻も揺すって全力で吸えば、全身運動になる。言葉は音によって筋肉の動き方が違う。素早く動きたい時には「いええい」、さらに力を入れたい時には「ぎええぎ」、空気に乗るように動く時には「おううお」と言った感じだ。

 寝るときもトレーニングと言っていいかもしれない。落ち着くための呼吸法。回復を早めるための呼吸法とは何か。いろいろ試してみた。また、揺れや転がりを利用して、疲労回復が速くなるようにふとんや手足の配置を考えた。

 

 間違いなく、こんな赤子は他にいない。唯一無二のトレーニングをこなしたと言っていいだろう。しかし苦しいとか厳しいとか感じたことはなかった。俺は常に全力を出していたし、疲れた時は全力で休んでいた。そうすると精神的にも辛くないのだ。むしろ全力だからこそ色んな失敗が見えてきて、その失敗を乗り越える方法も見えてきて、毎日が楽しいのだ。詳しくは「超える力」を参照。

 俺は1歳になる前には物干し竿で懸垂ができるようになっていた。1歳直後には逆上がり。2歳前には前転とバク転。3歳になると拳で丸太を割り、4歳では大人を背負って砂浜を走り、5歳では指で丸太を貫き、6歳では水面を蹴って走り、7歳では武装色の覇気を習得。取っ組み合いで一般の大人が相手にならないレベルになってきた。

 

 当然のように同世代では敵無し。巨人や魚人の子の強さは分からないが、人間では母の故郷である女ヶ島の子が相手でも勝負にならなかった。

 しかし俺にも弱点があった。持久力のなさだ。200mくらいまでは断トツトップで走れるのだが、それ以降は同世代の子に次々と抜かれてしまった。「こんなはずじゃない!」。そう叫んで何度も挑戦したが結果は同じ。俺は負けた経験がなかったこともあり、酷く打ちのめされた。家でふとんに包まりオンオン泣いた。

 そんな俺に父は言った。

 

「シツジョーは瞬発系の筋肉が多いのだろう。持久系の筋肉は生まれながらに少ないんだ。でも怪力に重要なのは瞬発系の筋肉。持久系で無理に競う必要はない」

 

 天狗になっていた俺には父の言葉が身にしみた。誰にも得意不得意がある。力が強いからと言って人間として優れているとかそういう話ではないんだ。そう思えるようになったのはいいことだったと思う。

 

 8歳の頃、ゴールド・ロジャーが処刑された。最強の男の最期だ。未来のライバル達も集まっているはず、ということで父に連れられて見に行った。

 最強の男は最後まで破天荒だった。死に際に財宝の存在を明らかにすると、観衆から地鳴りのような歓声が上がった。それは感動的で時代の節目を感じさせるものだったし、父が言うように強者がたくさんいて独特の緊張感や高揚感があった。が、正直俺は、宝に興味を引かれはしなかった。俺は強さを追及することに楽しさや喜びを感じていたからだ。宝はどうでもいい。

 

 10歳になると、父の付き添いで賞金稼ぎを始めた。強い海賊は主に父が仕留めたが、俺も下っ端と戦った。父は船長や幹部と戦いつつも俺の方を気にしていたから、もし危険な攻撃が来ても俺が致命傷を負うことはなかっただろう。しかし実践の感覚は身についた。

 父は賞金首だから海軍に罪人を受け渡すことができず、それを代わりに俺がやった。海軍は俺が父の子だと気付いていたが、俺を人質に取るようなことはしなかった。世間体を気にしたのか、父の復讐を恐れたのか、理由は分からない。もっとも、海軍支部の海兵の大多数は一般人とそう変わらない。たとえ多数でかかっても俺に勝てなかっただろう。

 

 12歳になると、俺も男の本能に目覚めてきた。

 特に母の紹介で昔手合わせした女の子(その島は男子禁制なので当時は女装して入った。12歳では女装しても筋肉骨格でバレる)。俺と同い年で、長い黒髪で、三姉妹の長女だった。見目美しく、戦闘の才能もピカイチ。これだけでも記憶に残るのだが、何より負けず嫌いで、俺に打ちのめされても決して屈せず、何度も何度も挑戦し、外が真っ暗になっても食い下がってきたことが強烈な印象として残っていた(その時は暗さを利用したヒットアンドアウェイの持久戦で体力を削られ、両者ダウンの引き分けとなった)。

 当時からとても美しいと思っていたのだが、性に目覚めたためか、彼女のことが何度も何度も夢に出てきた。日中も妄想が止まらない。トレーニングに集中できない。下半身がどうにもならない。

 そんな俺に父は言った。

 

「シツジョー。筋肉の成長を促す男性ホルモンはキンタマで作られるんだ。チンコが大きくなるのはいい傾向だ。キンタマが元気な証拠。見る見る筋肉が大きくなるはずだ」

 

 そうか。恋さえもトレーニングなんだ。

 下半身が天狗になっていた俺には父の言葉が身にしみた。夢に見るほど恋焦がれ、頭は彼女でいっぱいになってしまうのだが、その状況こそ最高のトレーニング環境。届かぬ思いは苦痛ではなく快感となった。

 

 実際体は急激に大きくなった。思春期は誰でも伸びるというのもあるが、俺は12歳から15歳で身長160cmから187cmとなった。体重も55kgから95kgまで増えた。

 立派な体格となった俺は、父から武者修行の旅を提案された。グランドラインに出ることも許可された。俺は喜んで旅に出た。自分の強さを試してみたいのもあったし、妄想しつくした彼女がどれほど美しくなったか見たかった。

 

 グランドラインに出るまでは簡単だった。しかしそこからが厳しかった。急に嵐になったり、納まったり。真夏になったりアラレが降ったり。時には船ごと丸呑みにしようとする巨大なクジラや海王類が現れて。緊急回避の衝撃で割れてしまうログポース。高波で見事に真っ二つに割れる船。

 俺は船がなくとも空中を蹴ったり水面を走って移動できるが、それも体力が続くまで。ログポースを失い方向が分からない中、運が悪ければ溺死していただろう。

 幸い俺は運がよかった。近くにいくつか船が見えたので、一番豪華そうな船の側面に捉まり、次の島まで移動させてもらった。船が島へつくと、住民は緊張の面持ちで揉み手をしながら歓迎した。恐怖を隠しているようだった。

 船の中から黒服の男たちが出てきて、村長らしき男に指示を出した。村長らしき男は新鮮な食糧や立派な着物が山盛りになった荷台を指差し、それを黒服に差し出した。黒服は当然のようにそれを受け取り、しかしまだ何かを村長に要求した。村長は引きつった笑みを浮かべて揉み手を続けるが、それだけだった。

 すると黒服は、突然銃を取り出して村長のこめかみに突きつけた。村長は目をひん剥いて両手を上げ、次いで遠くの山を指差した。黒服は村長の腹を軽く殴り、気絶させて肩に担いだ。

 

 俺は一部始終をジッと見ていた。黒服達は村長が指差した山へと歩いていった。

 住民はそれを見届けると、淀んだ顔で方々へと散っていく。俺は腹が減っていたので定食屋に向かった。そこで食べながら店主に尋ねてみた。

 

「あの黒服の人たち、誰ですか?」

「政府の役人さ。知らないのか?」

「私、最近グランドラインに入ったばかりで」

「何!? まさかお前海賊か!?」

「違います。賞金稼ぎです」

「はあー。若いのに無茶するねえ。ってのは変な言い方か」

「それより、役人はどうして村長を殴ったのでしょう? 住民の味方のはずでは?」

「聞かないでくれ。深く関わらない方がいい。あまりいい話じゃない」

 

 と言った感じで店主はなかなか話そうとしなかった。

 しかし俺は諦める気がなかった。同じ質問を何度も続け、店主を怒らせてしまったが、なんとか聞き出せた。

 曰く、最近フィッシャー・タイガーという魚人が天竜人の奴隷を逃がしてしまったらしい。それは人として立派なことかもしれないが、天竜人は誰も逆らってはならない権力のトップ。フィッシャー・タイガーは賞金首となり、逃げた奴隷も政府や海軍に追われ、次々と捕まっている。そんな奴隷達の中に、この村に逃げ込んだ人が6人いた。村長は匿おうとしたのだが、何らかの手で奴隷の存在が政府にバレてしまったらしい。村長も役人に捕まった。奴隷を隠した罪で殺されてしまうかもしれない。

 

 確かに、嫌な話だった。聞かない方がよかったかもしれない。

 俺は良心と自己愛の狭間で悩むことになった。人を救う観点で言えば奴隷を助けるべき。しかしそうすると俺は犯罪者として政府や海軍に狙われることになる。

 俺はいまいち踏ん切りがつかないまま、とりあえず元奴隷がどういう状況にあるか知りたいと思い、急いで山へと向かった。

 

 と言っても、厳密な場所は分からず、しばらく山のふもとでうろうろすることになったのだが。しかし不意に爆発音を聞いた。急いでその音の先へ駆けつけると、一人の奴隷と政府の役人が戦っていた。

 奴隷と言っても無力ではなく、屈強な男で、かなり強かった。一体一なら役人に勝てただろう。しかし多勢に無勢。屈強な奴隷と似た力を持つ役人が3人。力は劣るが銃を持つ役人が30人以上いる。

 屈強な男以外の5人の奴隷は既に捕まっていて、子どもや美しい女達が「どうして戦うの!? 逃げればいいのに!」「あなただけでも逃げてええええ!」と泣き叫んでいた。しかも、叫ぶ度に「黙ってろ」と役人に顔を殴られ、口から血を流す。それでも叫ぶのをやめない。

 屈強な男の方も、逃げずに役人と戦い続ける。体がボロボロになっても立ち上がる。目は力を失っていなかった。強く役人をにらみつけていた。

 意地だ。男の意地。二度と屈しないという強い決意。

 

 彼等の戦いを目にし、衝撃を受けた。悲しみ、怒り、そして不謹慎だが感動も覚えた。

 俺の体は知らないうちに動き始めていた。思考を忘れ、後悔なんて置き去りにし、ただ目の前の戦いに集中していた。

 3人の役人と俺とはそんなに実力差がないはずだった。しかし、三人の動きが止まって見えた。次の動きも手に取るように分かった。風が、音が、世界が、教えてくれるのだ。意識が無限に広がるような感覚。死角から飛んで来る銃弾さえかわすことができた。

 

 その戦いの最中、楽しさを感じていたことは覚えている。空を飛んでいるかのような浮遊感があった。しかしハッとした時には、役人は全員気絶して、戦いは終わっていた。正直、どのように倒したか、どれくらい時間がかかったか、全く思い出せない。感覚としては一瞬で終わった感じだったのだ。小さい頃、大好きなプールでトレーニングすると時間が短く感じた。あの感覚に似ていた。

 究極の集中力。これをゾーンと呼ぶのなら、俺はゾーンの経験者なのだろう。

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