もし室! ~もしワンピースのナミが室伏もどき著『ゾーンの入り方』を読んだら~   作:世界の鉄人

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ナミちゃん、戦闘訓練をする

 数週間は農作業中心に生活した。と言っても単に手足を動かすだけじゃなくて、全身を使って力の流れを作って草を抜く、指で耕す、木登りする、川を渡る、というようなことを意識していたわ。

 だから基礎的な筋力が上がったし、感受性や身体制御能力も上がってきた。水面走り、水中走り、指ジャンプ、はあまり練習しなかったけど、たまに確認のようにやってみると、上達していたわ。やっぱり基礎を伸ばすと応用も勝手に伸びるものね。一番は筋力の問題が大きかったと思うけど。

 さて、ここの生活にも慣れてきた所で、たしぎとの模擬戦を受けることにしたわ。実力が全然違うことは分かってる。基礎能力自体たしぎの方が上だし、彼女は剣を持つとギアが3段階くらい上がる。剣筋は未だに見えない。

 

 だけど、私は気付いたの。剣を振るう時の、お腹の動きは見えるって。

 

 全身で生んだ力の流れがお腹や手先に伝わる時に、加速度は重さに反比例する。だから手先はとても速いんだけど、お尻、お腹、胸なんかはあまり速くない。私でも見える。そして、このお尻、お腹、胸の動きを見て、力の流れを感じ取れれば、手先の動きも感じ取れる。たぶんね。

 もともと大気という流体を感じ取り、天候を予想することは得意だった。人間の体は流体と固体の中間だけど、泥を理解した今の私ならたぶん感じ取れると思う。そしてそれができればたしぎ相手にそこそこ戦えると思う。本来なら遥かに格上の相手にね。それを試してみたい。できないかもしれないけどすごく好奇心がわいてる。だから戦いを受けることにしたの。

 

 と言っても、戦いの日に備えて準備はさせてもらったわ。まずはたしぎ本人から剣術の指導を受けた。女性の力で剣を強く振るための構え。素早い動きをするための呼吸法。そして綺麗な太刀筋の出し方。この全てに今までの修行の内容が凝縮されていて驚いたわ。そしてうれしくもあった。やっぱり私は成長していたんだなって。全身を使った振り方、呼吸法、力の流れに逆らわない美しい太刀筋。過去の私にはできないだろうことがすんなりできた。

 それから、たしぎには悪いけど九蛇のボタンさんから指導を受けた。初めは夜中にこそっと訓練を覗いてたんだけど、見つかっちゃって。怒られて。わけを話したら(たしぎが海賊を嫌うため海賊から指導を受けると怒られる云々)もっと怒られて、でも指導はしてくれたの。いきなり棒を持たされてボタンさんとの戦闘だったけどね。怪我しないように手加減してくれたとは言え、ボロボロになるまでしごかれた。ダメだしばかりで褒めてくれなかった。「闘志がない」「覇気がない」「才能がない」とね。きつかった。

 昔の私ならすぐに逃げ出したでしょうね。武術なんて嫌いだったし。でもその時の私は頑張れたのよ。ボタンさんの言うとおり、闘志もなく、覇気もなく、才能もないんだろうけど、楽しかったから。呼吸法の上達。棒を振るう力の上達。棒を受ける身体の受け流しの上達。こういうのがね。格上のボタンさんとやるといくつも発見があって、その度に成長できて、楽しいのよ。時間を忘れるほどに。また私はゾーンに入ってしまったのよ。

 ところでボタンさん、シツジョーの母なんだってね。見た目30歳くらいだから驚いた。顔とか身長が似てたからお姉さんかなと思ってたんだけど。娘のユリさんと並んでたら本当に姉妹に見えるもの。

 

 ともかく、私は戦いのために準備をしてきたの。だから今日は勝つつもりでやるわ。勝算が薄いことは分かっているけどね。

 

 場所は演習場。地面は原っぱ。

 たしぎの武器は竹刀で私の武器は木の棒。時間は早朝。周りには私やたしぎをアイドル扱いしている男共。でも気にしないわ。もう慣れた。

 

 たしぎは私に教えた時のように、少し体を捻って頭の上に竹刀を構えている。私は両手で棒を抱きかかえるような感じ。私の方が力が出しやすい構え。スピードは落ちるけどね。

 

「いつでもいらしてください」

 

 たしぎは仕掛ける気がない。私を指導するつもりのようだ。まあ実力差からそうなるだろうけど。

 

「では!」

 

 私は飛び込み、相手の間合いに入らないように意識しつつ、棒を振るう。

 たしぎは後ろに下がって避けた。私はさらに追撃する。相手の間合いに入らないように意識しつつ。

 たしぎは攻撃を避け続ける。それもできるだけ小さい挙動で避けることを意識しているようだ。このままでは私の体力が先に尽きる。

 

 少し力を抜、くっ?

 なんてこと。ちょっと力を抜いたその瞬間を分かっていたようにたしぎが突っ込んできた。

 だけど見える。

 

「ふんっ」

 

 お腹と胸の動きから手先の動きを予想する例のやつ。驚いていたからほとんど無意識に予想してガードしたんだけど、本当に成功した。自分でもこんなに上手くいくとは思わなかった。これもボタンさんとの特訓の成果か。

 

「ふっふっふ」

 

 思わず笑みがこぼれる。うれしい。本当にうれしい。飛び跳ねて叫びたいくらいうれしい。

 やったー! 本当に成功したー! ってね。棒を持つ手が痺れて痛いけど、それが全く気にならないくらいうれしい。

 

「しっ」

 

 と、いけないいけない。勝負の最中だった。たしぎがもう一度踏み込んできた。

 でもダメだ。喜びすぎた。全く集中できない。

 

「いたっ」

「油断禁物。一度攻撃を防いだくらいで安心してはいけませんよ」

 

 脳天に綺麗に一撃もらってしまった。痛い。

 

「くぉおおおおお」

 

 頭を抱えて座り込む。本当に痛い。怪我しそうな痛さだ。

 そう考えると、ボタンさんは滅茶苦茶絶妙な手加減してくれてたんだね。だって翌日には痛みは完全に消えていたから。たしぎはそういう手加減をしてくれないようだ。

 

「大丈夫ですか? やり過ぎましたか?」

 

 いや、手加減してくれるのかな?

 

「大丈夫、です。はあ、はあ」

 

 呼吸を整えつつ、立ち上がる。たしぎはホッと息を吐く。

 よし、もう一度だ。今度は一度ではなく二度、三度防ぐ。打ち合いを演じてみせる。

 

「では、もう一度お願いします」

「はい、こちらこそ」

 

 あ、今はダメだ。呼吸が落ち着かない。理由はさっきの喜び。

 

「ちょっと待ってください。その前に言いたいことが」

「なんでしょう?」

 

 たしぎは少し不安そうな顔になる。嫌われたかもしれないとかそういう感じの不安。

 でも心配しないで。そういう話じゃないの。私は未だにうれし過ぎて、集中できないの。

 私は大きく息を吸う。

 

「たしぎの一撃を防げた! うれしいいいいーーー!」

 

 たしぎはポカーンと口を空けていた。観客の男たちもポカーンだ。

 でも私にとって、これは口にしなければ我慢ならないくらいうれしいことだったのだ。この儀式を通過してやっと平常心を取り戻すことができる。

 

「よし、次お願いします!」

「は、はひっ」

 

 私の奇行に慌てるたしぎ。この隙に攻める。

 

「くぁっ、とぅっ」

「ぐっ、くっ」

 

 さっきと違って避けられない。竹刀で私の棒を防ぐたしぎ。これは、いけるかも。

 ぶつかり合いなら、私の構えの方がパワーで有利。そして今は呼吸のタイミングとか意識とかそういう面でも私が有利。

 

「とぅっ、かぁっ、ふん!」

 

 たしぎが体制を崩した所で、今日最高の大振り。全身の力を棒に込める。

 これは避けられまい!

 

「ぐっ」

 

 ええっ!? バク中で避けた!? それも先ほどよりずっと速い動き。そして荒々しい。

 ピンチになって野生が出ちゃったみたいな。

 

「つぇええい!」

「つぁっ」

 

 バク中の勢いを利用した払い。狙いは私の棒。

 私はたしぎのお腹の動きから攻撃を予想し、棒を手放さぬよう手に力を込めた。しかし、結果は無残なもの。

 

「ひぎぃっ! いったーーーっい!」

 

 私の持つ棒は鉄球で殴られたような重い衝撃を受けた。その振動を手のひらに直に受けたせいで、とてつもない痛みが。

 しかし運がよかった。実はこの時、私の棒はパキンと折れていた。だから衝撃は完全には伝わっていなかったのだ。そうでなければ私の手の骨が折れていたかもしれない。

 

「すみません。棒が折れてしまいました。私が弁償します」

「あっ、いえ、大丈夫です。私の実力不足のせいですから」

 

 そうして早朝の戦いは終わった。

 しかし今日の終わりではない。たしぎの攻撃をほぼ無意識に防いだあの感覚、私はそれをきちんと習得したかった。だからすぐさま武器屋に行き、棒を5つ購入。再び演習場に戻り、再戦。

 この戦いでは、私は一度もたしぎの攻撃を防げなかった。たしぎが先ほどのバク中を経て強くなったのもあるが、私が無意識に動けなかったせいでもあった。

 

 私は竹刀で叩かれた痛みに苦しみながら、その理由を考えていた。そして出た結論は、過去に囚われていたから。過去、私はたしぎの攻撃を受け止めることに成功した。その記憶、その感覚を思い出そうとしていた。そのせいで、思考が現在に集中できていなかった。シツジョーの本に書いてあったことと同じ。

 次は、過去を考えない。気まぐれな天候を予想する時と同じ。現在だけに集中する。もうこんな痛い思いはしたくないしね。

 

「せいっ、くっ、はぁっ!」

「見える、見え、おっと!」

 

 そして、2度の防御に成功。3度目はたしぎが大きく踏み込んだので、棒で防いでも弾かれると思い、後ろに避けた。

 

「ふんっ、ふんっ、とぅっ」

「ちょっ、それはっ、無理ぃいいいいい!」

 

 しかし避けた所をたしぎが追いかけてきた。さらに私の逃げる先を狙い澄ますかのような連撃。対応しきれず、肩に一発もらってしまう。

 

「痛いいいいい! 痛いよおおおおお!」

 

 また叫ぶことになってしまった。

 しかし私は気付いた。思ったより痛くなかったということに。反射的に叫んじゃったけど叫ぶほどではなかった。

 理由は自分でも分かった。実は肩に一撃もらう直前、咄嗟に体を捻っていたのだ。それで竹刀との相対速度を下げ、衝撃を弱めることに成功していた。これをもっと上手くやれば、痛みはほぼ無くなるかもしれない。棒で受け止める時も同じ、上手く捻ったら衝撃が弱まり、手の痛みが消えるかもしれない。

 私は俄然やる気が出てきた。痛みを無くすために痛みの出る行為を試す。矛盾も感じたが、細かいことは気にしたくない。

 

「もう一度お願いします!」

「喜んで!」

 

 お腹の動きを見る。竹刀の動きを感じる。棒で防ぐ時の力の流れを感じる。そして受け流す。

 よし! あまり痛くない!

 

「止め方が、変わりましたね!」

「ふふ、ふっ。分かります?」

 

 打ち合いながら話す。互いに笑顔。楽しいからね。

 

「ではこういうのは、どうですか!」

 

 と、たしぎはフェイントを入れてきた。

 今日初めてのフェイントだ。だけど見えてるのよ。私は剣先じゃなくてお腹を見てるの。打ち込む時はお腹がもっと大きく動く。フェイントは動きが小さいわ。

 私はフェイントを無視して直後の一撃を防ぐ。

 

「やりますね。さすがです」

「ふっふっふ」

 

 と、たしぎはまた同じようなフェイントを。

 私はまた同じようにフェイントを無視、して?

 

「あいたっ」

 

 あれ? 当たっちゃった。お腹の動きは小さかったのに。

 

「ナミさんが私のお腹を見ていることは分かっていました。ですからここの動きを小さくしたまま攻撃してみました」

「なるほど」

 

 確かにそうだよね。種が分かれば攻撃できちゃうよね。どうしよう?

 

「お腹が動いていないから、力も伝わっていない。だからさっきの攻撃はあまり痛くなかった。でも、真剣なら、それでも切られちゃう」

「そうですね。刀ならではフェイントかもしれません。これだから剣術は奥が深くておもしろい」

 

 もう一度再戦。今度はお腹だけじゃなくて、手も見ないといけないのよね。難しいわ。

 

「あいたっ」

 

 相手のお腹と手に集中していたから、自分の手の受け流しを意識するのを忘れちゃったわ。棒を弾かれちゃった。

 そうして訓練は日が落ちるまで続いた。その日は痛みを忘れて動けたが、翌日は全く動けないほど全身が痛かった。

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