ピカチュウ。言わずと知れたポケモン界の代表的ポケモンであり、最も知名度が高いポケモンである。
ポケモンをよく知らないという人でも、ポケモンについて尋ねられたらポケモン=ピカチュウという考えでピカチュウと答えるほどの知名度である。
アニメではサートシ君の良き相棒として活躍しており、最近ではサトシピカチュウ専用のZ技まであるほどピカチュウは優遇されていた。
ゲームのバトルで使えるかと言えば微妙なところではあるが、積んでバトンタッチ出来れば三タテも可能にはなる。襷カウンターも可能なので一匹だけならば倒すことは可能だ。
さて、そんな超有名なピカチュウなのですが、何故今頃そんな説明をしたかと言うと…
「ピッカ(どこじゃいここ)」
俺がピカチュウになっていたからだ。
☆☆☆
俺は一応高二の一般的な人だったと思う。レベルの低い高校に通い、バイトもして、ありきたりすぎる生活を送っていた。
ある日の事だ。ポケモンガチ勢の友達に交換進化したいからお前もやってくれと頼まれたのだ。
今はネット通信で自由に交換出来るだろとにわかなりに反撃するも、自分以外が育てたポケモンを使いたくないという理由だけで俺の言葉は無視された。
頼まれたら断れない性格上、友達から半額もらってウルトラサンを買ってみた。交換出来れば良いのだからとゲームは途中でやめるつもりだった。
が、始めてみると、いつの間にか日が昇っていた。朝日を見ながら、俺はポケモンにドハマリしたことに気がついた。
それから何日も徹夜して、その友達に教わりながらガチ勢としての道を歩み、とうとうレート1800間近というところで寝落ちして、起きたらピカチュウである。
うむ、前世というか、人間の頃の記憶は普通に残っていた。なんだか逆に落ち着かない。
いっそリセットされていたほうが楽だった気がする。ピカチュウは基本的には四足歩行なのだが、人間の感覚的にどうにも上手く歩けない。本能で普通に歩けないものか…
さて、切り株から降りて辺りを見渡すも、森が広がっていることしか分からなかった。右も左も木々に埋もれている。
取り敢えず森を抜けるために歩き出すも、小さい足のせいで非常に動きが遅い。四足歩行も慣れない。現実ってのは辛いね。
少し歩いたところでキャタピーに出会った。ということは、ここはトキワの森だろうか。初代は知らないんだよなぁ。
キャタピーはこちらを一瞥するも、すぐにノロノロとした動きで前進を再開した。
良かった。野生のポケモンのようだ。しかも善良な。これでトレーナーだったり気性の荒いポケモンだったりしたら目も当てられなかった。一瞬でKOされる。
安堵の息を吐くと、不意に視界に光る何かを見つけた。
「ピィ?(何だ?)」
近付いてみると、中に電気が走っている小さな玉がそこにあった。
これは…
「ピカ(電気玉…?)」
電気玉とはゲームに出てくるアイテムの一つである。ポケモンに持たせて『投げつける』という技を使い相手にぶつけることで、そのポケモンを麻痺状態にするという代物だ。
しかしこれにはもう一つ、効果があった。それはピカチュウに持たせることで攻撃と特攻をそれぞれ二倍にするというものだ。
そんなものがどうしてここに…。ともかく拾ってみると、バチッという静電気が流れ、同時に体内から何かが競り上がってくるのを感じた。
「ピ、ピッカァ!(うお、なんじゃこりゃ!?)」
瞬間、体から無差別の電気が走った。近くの地面や木に当たり、それらを薙ぎ倒しておく。
咄嗟に電気玉を投げ捨てるも、暴走を始めたそれが止まることは無かった。だが先程より威力は落ちた。
鳥ポケモンたちが逃げて、キャタピーやビードルも焦って逃げていた。
「ピィィィ…!(止まれ止まれ!)」
人間に存在しない器官から電気が迸っている。それが電気玉によって暴走し、制御出来なくなっていた。
元より操作出来なかったものが暴走したら手がつけられない。が、このままではいずれ火事でも起こってしまう。そうなる前になんとか鎮めなければならない。
感覚を思い出せ。あれから上ってきたのだ。それを閉じるか別の場所に流すか出来れば、止まるはずだ。
冷静に、だが素早く瞑想する。イメージでどうにかなるかは分からないが、何もせずにいるよりマシである。
………
どれくらい経っただろうか。一分か、十分か、はたまた十数秒か。よく分からないが、最悪の事態は避けられたようだ。
放電し過ぎたのかもうクタクタである。地面に四肢を放って倒れた。
「ピィ…カ(電気玉って、恐ろしいな…)」
横目にそれを眺め、そう強く思った。
これを自在に操作出来るピカチュウとは、実はとんでもない実力を持っているのではなかろうか。
…いや、人間から成り変わった俺が出来ないだけかも知れない。普通のピカチュウは皆電気を自在に操れるのだから。
多少回復したので、今度は電気玉を触る前に軽く放電練習をしてみる。感覚は先程ので大分掴めた。
軽くそれを開くと、バチッ、と頬の付近で電気が流れた。
今度は少し強くすると、より長く流れた。八割くらいで『十万ボルト』っぽいものが出来た。『電気ショック』にしては威力が高すぎるし。
恐らくこれで操作はバッチリである。再び電気玉に触れてみる。
……大丈夫、放電していないし、しっかりそれは閉じられていた。適応が早いなと我ながら思う。
もしかしたら、ピカチュウの本能が戻りつつあるのかも知れない。近いうちに四足歩行もお手のもので速く移動出来るようになるのだろう、きっと。
さて、何となく持てるようになったは良いものの、どうしようか、これ。
いや、持っていくのはほぼ確定事項だ。何故ならポケモンの世界で一番危険なのは野生のポケモンである。それらに対抗するには必然的に強くなければいけない。
雷の石を見つけてライチュウになるのも手だが、進化するならアローラライチュウでないと何か嫌なためカントーっぽいここでは進化することはない。と思う。よって進化せずに強くなるにはレベルを上げるかこれを持っていくかしかないのだ。
だが、ゲームでは何気なくポケモンに道具を持たせていたが、実際ピカチュウには物を所持するスペースがない。
手で持っているなら片手が常に使えないという面倒なことになるし、どこかに挟むということも出来ない。さて、どうしたものか。
ぐぅーー
……まあ、腹減るよな。あんだけ放電したら、体力の消費は相当なもんだろうし。
何か木の実近くにないかなっと、辺りを見回す。
「スピスピ」
ちょんちょん、いやチクチクと背中をつつかれた。
「ピッカ(はいはい、ちょっと待ってね)」
「スピスピ」
「ピィカ(何か食い物見つけるまで待てってば)」
「スピスピ」
「ピィッカ…チュウ?(もうしつこいっての!…え?)」
思えば、誰が己の背中をつついているのか考えていなかった。
今の俺に知り合いなどいない。必然的に関わってくるのは元のピカチュウとして関係を持っていた奴か―――
「スピスピィ!(てめぇ何俺らのすみか荒らしてんだァ!)」
気性の荒いポケモンだけである。