世の中には二種類の人間がいる。追われる者と、追いかけるものだ。
とはいつかの海賊さんの言葉だが、今現在俺はその追われる者である。そして追いかける者は―――
「スピスピィ!!(待たんかワレェ!!)」
ご存知危険なスピアーさんである。
電気が暴走したあの場所はスピアーの巣だったようだ。それを薙ぎ倒し、そしてそこにあった電気玉まで盗んだのだ。電気玉はどうでもいいかも知れないが、巣を壊されてキレない奴はいないと思う。人間で例えると留守中に自宅にトラックが突っ込んでいたようなものだ。
そして俺は現在逃走中。無意識のうちに四足で走っていた。危険な目に遭うとピカチュウの本能で活動出来るのは嬉しい誤算だ。これで移動も速くなる。感覚も先程掴んだ。いやまあ自分の体だから掴みやすいだけなんだけどね。
当然電気玉を持つ手はないため口にくわえている。スッ転ぶだけで飲み込んでしまいそうだが、そんな危惧より後方に迫っている危機のほうが心配である。
『スピィ!』
増えてる増えてる!さっきまで一匹だけだったのに五匹くらいに増えてる!冗談キツいぜまったく。
だがしかし、あいつらのスピードと俺のスピードはほぼ互角。ゲームで言うなら同速である。これがレベル差から来るものなのか現実だとこうなのかは分からないが、ともかくそれが幸を成してスタミナが続く限り逃げ切れそうである。
が、現実はそんなに甘くなかった。
「ッ!?」
咄嗟に横に跳ぶと、先程まで走っていた軌道に紫色の毒々しい何かが通過していった。
『毒針』か。また厄介な。遠距離攻撃とか卑怯だろと思う。
「ピッ!?(ヤベッ!?)」
咄嗟ということで『毒針』は回避出来たものの、空中にいるため動くことが出来なかった。
スピアーたちを見てみると、二匹くらいが技の準備を終えていた。
「(避けられない―――!)」
スピアーが針を突き出すと、そこから『ミサイル針』が計七本飛んでくる。白い軌跡を残しながら、圧倒的なスピードで俺に迫ってきて遂に―――
ドン―――ドドドドド!!
一発当たり、更に連続してそれらは全て命中してしまった。そのまま吹っ飛ばされてしまい、地面を転がった。更に運の悪いことに、その内の一発は俺の口元―――つまり電気玉に当たっていた。
急に与えられた運動に反発出来ず、電気玉を呑み込んでしまう。喉に詰まりそう。というか苦しい、痛い、辛い。尋常じゃないほどに。
「(これをポケモンたちは楽しんでるのか…?)」
横たわりながら、迫り来る羽音を聞いてもそんなことを考える。
ポケモンバトルという競技で、ポケモンたちは互いに全力を出す。こんな辛い思いを毎日体験しなくてはならない。それはかなり辛いことではないのだろうか。
毎日毎日トレーナーに付き合ってバトルさせられ、傷つき、勝っても負けてもトレーナー同士は仲良くなっているが、果たしてポケモンはどう思っているのか。
自分を倒した憎い奴としか、俺には思えない。ライバル視するのではない。関わりたくないと、強く思うだろう。
そんな思いをしなくてすむには、どうすればいいか―――強ければいい。
強いことは正義だ、強ければ何でも出来る。強ければ負けることはない。勝てば相手を見下し、優越感に浸れる。
そうだ、強くなれば、逃げなくとも済むのだ。何故俺は逃げていたんだ。俺はあいつらよりも
電気玉を取り込んだのだ。取り出せるかは分からないが、少なくとも常時攻撃力は二倍である。多少レベル差があろうとも、負けるわけがない。
「スピ、スピスピ(これに懲りたらもう変な真似すんじゃねぇぞ)」
近づいてきたスピアーが、そんなことを言ってきた。ああそうだな。もう変な真似はしないよ、あれは事故だったけど。
スピアーは起きない俺を見てどう思ったのか、はたまた何も思っていないのか、その場で方向転換してもと来た道を進んでいく。
「ピッカァ!!(今度は堂々と勝負してやるよぉ!!)」
『不意討ち』とでも言うのだろうか。ピカチュウを使った記憶があまりないため覚えるかも不明だが、多分覚えなかっただろう。
しかしこれは意識的な
後ろ姿を見せて油断しまくっている奴らに、『十万ボルト』を浴びせてやる。いや、足りない。
八割で『十万ボルト』なのだ。百パーセント出しきれば、その電撃は『雷』になった。それをぶつけた。
ゲームでは単体技なのだが、電撃に指向性を持たせることが可能となった今、そんな制限はない。アニメでもロケット団をまとめて痺れさせていただろう、あの感覚で『雷』はスピアー全員に命中した。
アニメでありそうな黒焦げ状態になった五匹のスピアーは、その場に落ちた。死にかけの虫のように小さくなっている。
「スピ、スピィ…(お、おどれぇ)」
「ピッカ、ピカチュウ(いいか忠告だ、戦いならきっちり止めを刺してから背を向けろ)」
敵前逃亡していた俺が言えたことではないのだが。
まあ今回はあっちが半分くらい悪い。事情も聞かずに悪いと一方的に決めつけて、逃げる相手を追撃してきたのだ。いわばこれは正当防衛である。事情をしっかり説明して、事故だと分かってそれでも怒りが収まらないんだったら、俺も黙って殴られてたよ。男…いや
なのでこれはお互いに悪いということで終わる。文句は一切言わせない。言おうものなら電撃をプレゼントする。地面タイプには『草結び』で。
「ピ、ピカチュウ(まあなんだ、事故だったんだ悪かった。いつか詫びるよ)」
既に瀕死状態なのかスピアーに意識はなく、当然返事も無かった。
その場を後にした俺は今後の方針を定めていた。
やはりここは世界最強のポケモンだろうか。定番だが実に分かりやすい。それに生まれ変わったなら俺TUEEEくらい体験したいだろう。発展して主人公無敵的なものまでも。性格改変は……まあそこまで重要じゃないか。普通にスピアー倒せたし。
それに、ピカチュウという種族ならばその方法も明確である。他のポケモンならこうは上手くいかないだろう。
それすなわち、電気玉の収集である。レベル上げなんてことはしない。
電気玉を呑み込んでしまうアクシデントがあったが、それは一方で電気玉を持ち物として扱う必要が無くなったことを示す。更に、電気玉は重複効果を表すことが判明している。何故判明しているかと言うと、既に俺は電気玉を二つ所持していたのだ。首飾りのようなものを逆向きに着けていて気づかなかったのだ。そして検証してみた結果、そうなることが判明した。
道理でスピアー倒せた訳だよ。四倍だからね、流石にね。
つまり電気玉を呑めば呑むほど攻撃力が倍加していくのだ。計算式に直すと、俺のステータスに二の電気玉の個数乗することになる。うむ、文だと余計ややこしくなった。
ともかく今後の目標は電気玉を探すことだ。ダウジング出来れば楽なのだが、そんな便利な人間の道具をポケモンである俺が持っている訳がなかった。つまり地道に探すしかないのだ。
「ピー、ピカー!(よーし、やるぞー!)」
これから、ピカチュウ魔改造の旅が始まるのだった。