ゲームで言うなら木が邪魔で進めない奥地までやって来た。先程の場所と違って木が密集しているせいで昼間にしては結構暗い。
そしてぺラップが言っていた通り、他のポケモンの気配が一切しなかった。確かに勝手に使っても怒られなさそうである。
そのままどんどん奥に進んでいく。
―――デテイケ
……さて、どこかにマーキングでもしなくちゃいけないな。暗いし広いしで下手したら迷ってしまう。
あ、マーキングと言っても目印をつけるだけで別に犬のようにする訳ではないからな。というか、こっちに来てから排泄行為一切してないから多分出来ないと思う。どうなってんだポケモンの体。
とりあえずそのまま奥に進んでいく。
―――デテイケ
…さあて、どこかに大きくて分かりやすい木はないかなぁ。その辺の木でもいいっちゃいいが、やっぱり大きければそれだけで便利だしな、選び放題だしそれくらいはさせてもらう。大きすぎるのも問題だが。
気にしないようにして奥に進んでいく。
―――デテイケ
……なんかさ、目の前に不定形生物っぽいのがいるんだけどさ、こんなポケモンいたっけ? あれか、『溶ける』使ったポケモンだろ。じゃなきゃ説明つかないだろ。
「ピー、ピッカ?(えーっと、出てかないとダメ?)」
問答無用、とでも言うようにそいつは急接近してきて『シャドークロー』を繰り出してきた。
咄嗟に転がることで回避に成功したが、せっかく集めた木の実が散らばってしまった。
というか、なんともまあ危険な奴だ。ゲームに
ゆったりした動きでこちらを向き、またも迫ってくる。黙ってやられる訳にもいかないだろう。『十万ボルト』を放った。
電気玉の効果で四倍にまで威力の上がった『十万ボルト』は、確実に幽霊の胴体に命中した。だが、それはすり抜けていってしまった。そのまま相手を貫通した『十万ボルト』は延長線上の木を倒して消えてしまった。我ながらえげつない威力である。ってそうじゃない。
尻尾を使って器用に攻撃をいなしつつも、マジかと内心悪態をついていた。特殊攻撃が通じないとなると物理技が必要になるが、そもそも幽霊に物理技なんて効く訳がないだろう、イメージ的に。つまり打つ手なしである。
奴の言う通り出ていけば追撃はされないだろうが、攻撃を回避しながら逃げると言うのは結構難しい。後方を気にしながら全力で走らなければいけないのだから。
段々と攻撃が強力になってきた。同じ『シャドークロー』を受けているはずなのに全然威力が最初と違った。しかも『シャドーボール』も使ってくるのだ。同時に。回避がすげぇ難しい。というか普通に劣勢であった。
―――デテイケ
出ていくから攻撃しないで、とでも言えば逃げれるのだろうか。まあ逃げるのは何か嫌だから絶対しないけど。
木の実をかじりながら慎重に距離をとっていく。落ちた木の実をくわえるのって以外と難しかった。ともかくこれで体力は若干回復した。まだ戦えるが、果たしてどうしたもんか。
幽霊らしく光にでも弱いのだろうか。なら『十万ボルト』の稲光で怯むと思うのだが、そんな様子はなかった。継続しなければいけないのだろうか。
…試してみるか。電気を体内に溜めて少しだけ放出する。すると体表に電気がまとわさって周辺が明るくなった。疑似『フラッシュ』である。
しかし幽霊はお構い無しに攻撃してきた。
「ピッ!?(いってぇ!?)」
誤って『シャドークロー』に直撃してしまった。そのまま吹き飛ばされて木に背を打った。
クッソ、絶対泣かしてやるぞこいつ。泣くか知らんけど。
しかし妙だな。今の立ち上がるまでの数秒は絶好のチャンスだったはずだ。なのに何故追撃しなかった?
―――デテイケ
変わらないデテイケコールである。人間の精神は言われたことの逆をやるんだぞ? 今ピカチュウだけど。
今さらだが、こっちに来る前から心霊現象には強い方だったためこいつはそこまで怖くなかった。それにポケモンの世界は大抵の心霊現象がゴーストタイプのポケモンの仕業と分かっているから全く怖くない。ゴースゴーストゲンガーがよくやっているのだ、そういうイタズラは。
あとはロトムとかか。電化製品に乗り移って驚かせてくるらしい。
……ん? 電化製品ってことは代わり…そういうことか。
こいつの正体は誰かが操作してる
つまりどこかに本体がいるのだ。そしてこういう場合は俺をどこかで見ていると相場が決まっている。
「ピッカァ(種が分かれば簡単だな)」
全力で電撃を放出した。『放電』である。ゲームでもお馴染み…だと思うこれは全体技、つまり『十万ボルト』のような指向性がなく、周辺に無差別に広がる。四倍の威力で。
木々を薙ぎ倒し、幽霊を貫通し、やがてそいつに命中した。
「ゲゲゲッ!?(アバババ!?)」
ボワン、と目の前の幽霊が消えて、代わりに後方の上から鳴き声が聞こえてきた。そしてドスン、と地面に何か落ちた音がした。
見てみるとゲンガーがそこにいた。悔しそうな目でこちらを睨んでいる。
「ピッピッピ(ふっふっふ、作戦の勝利だな)」
「ゲゲ、ゲンガー!(頼む! ここから出てってくれないか?!)」
「ピカピーカー?(何故だ? ここ誰も住んでないって聞いたんだけど)」
「ゲゲ…ゲンガー?(それは…あれ、何でだ? そもそも何してたんだ?)」
……はぁ? つまり何か、無意味にそんなことしてたのか。俺の苦労は一体…いや、いい修行になったか。やっぱ実戦はいい経験になる。そこはありがたかった。
「ゲゲゲ。ンガー…?(悪かった。いつか詫びるから許してくれ。それにしても本当に何してたんだろ…?)」
本人も相当困惑していた。こっちが聞きたいことなのだが、それは。
やれやれ、ともかく謎の森事件はゲンガーの仕業だったと。そういうことだ、これで普通のポケモンもやがて住み着くようになるだろ。
俺もさっさと自分の巣を決めよう。
……あ、木の実丸焦げになってる。許すマジ、ゲンガー。