「ンガガ(はいよ、持ってきたぞ)」
「ピカー(ありがと、助かったよ)」
現在俺はそこそこ大きな木の下に穴を掘っていた。そこそこな大きさに仕上がったと思う。
何故ここなのか、といえば周辺にアニメとかでありがちな元々巣だったような場所はなく、わかりやすいこの木にしたのである。
そしてゲンガーは『サイコキネシス』を用いて大量の木の実を持ってきてくれた。この世界木の実が腐らないから貯められるだけ貯めたいのである。無駄が出ないし。
穴の中に持ってこさせた木の実を次々入れていく。これだけで半分近く埋まってしまった。おそらく数ヶ月は余裕で保つと思う。
あとはベッドの草とか葉っぱを敷いて拠点の完成である。
「ピカピカー?(そういえば、結局何でここにいたんだ?)」
「ゲンガー…(全くわからんのですわ)」
「ピッカ?(いつからいたかは?)」
「ゲー…ゲンガー(えーっと、多分一週間も経ってないと思う)」
ふむ。そんな短い期間しかいなかったのか。危険だからというぺラップの言葉は何だったのか。一週間以上前なら危険ではないじゃないか。
とはいえ、このゲンガーの状態については少々思うところがあった。
『催眠術』という技がある。ゲームでは相手を眠り状態にする技だが、アニメではまんま現実の催眠術のように相手をコントロールすることも出来ていた。おそらくゲンガーはこれを喰らってあんなことをしていたのだろう。
とはいえ、ゲンガー自身も『催眠術』は使えるとのこと。同じ催眠使いでは格上でないと成功しないらしい。そしてゲンガーといえば結構な『催眠術』の使い手、相手は相当なポケモンであると予測出来る。
ただ、そんなことをした目的が不明瞭な点が気になる。自分のすみかだと主張すればポケモンたちは了解して滅多なことでは手を出さない。俺だって好き好んでスピアーの巣に近づきたい訳じゃないのと同じである。つまりこの時点で己の巣だとアピールする目的ではないことが伺える。
無差別に攻撃を仕掛けたいなら何も領域を決めなくとも良いはずだ。というわけで戦闘狂という可能性も潰える。
あと考察出来ることは何だろうか。うーむ、自衛のため? これが一番ありえそうだが、ゲンガーに『催眠術』をかけれるほどの奴が何故自分で自衛しないのか、という疑問が生じる。面倒だと言うなら誰も来ない場所にいけばいいのだ。この世界には秘境のような場所は山ほどあるし。
まあ、いくら考えたところで答えは出ないのだ。それにもう終わった事だし、気にしないことにしよう。
「ゲンガー!(またなー!)」
「ピッカー!(おう、またどこかでなー!)」
ゲンガーは自分の居場所に帰るそうだ。といっても実際には人を驚かせる心霊スポット的な場所らしいが。
ふわふわと浮いて、やがて夜の闇に消えていった。
俺も木の実を二つほど食って、その夜は柔らかい自然のベッドで気持ちよく眠った。
☆
翌日。知らない天井だと思えば新しい自分の巣であった。寝惚けた頭を働かせるために木の実を食べる。うん、旨い。仄かな酸味と甘味があって普通に果物のようだ。
朝から果物を食べられる贅沢をしながらも、目が覚めてきた。そう、ここに巣を作ったのは修行のためである。目的を忘れてはいけない。
現在俺が使える技は『電気ショック』『十万ボルト』『雷』『放電(のようなもの)』の四つなのだが、一応元を正せばただ出力の調整と指向性を持たせるかどうかを弄っただけの技たちである。実質使える技は二つのようなものだ。さらにいえば電気タイプの技しかない。この問題を解決するためにここに来たのだ。
最優先で覚えるべき『電光石火』、これの習得をまず目指す。
ポケモンの技というのは、体感的にはイメージと行動に依存する。例えば『十万ボルト』を出そうとするときは、『十万ボルト』という技を出そうとするのではなく、電撃をどれくらい放出するか、どこに向かわせるかを考えて使うと結果的にそれが『十万ボルト』になるのである。つまり技の名前は後付けのような物なのである。最終的には慣れになるかもしれないが。
そしてそんなイメージを持って『電光石火』を使うにはどうすればいいか。
単純に考えれば、素早く移動して相手に体当たりする、というものをイメージすればいい。
だが、
とりあえず一回試してみよう。狙うは昨日の戦闘で出来た丸太。
まずは加速。普段の数倍のスピードをイメージする。そのイメージを維持して走る。そして体当たり。
………
いってぇ!? これじゃ普通の『体当たり』だし、意外と丸太ががっしりしててこっちがダメージ喰らった。
それに全く速くなってない。普通の全速力だった。先は長そうだなぁ。
『電光石火』を覚えるための特訓として、まずは体力作りと素早さを上げるためにランニングを始めてみた。
他に方法が思い付かなかったし、多分これが一番効果的である。本当は自分より速いポケモンと競争できれば、それが効果的なんだけどそんな知り合いいないし。
ただ、意外と体力はあるみたいで次第にマラソンのように持久力を鍛える結果となっていた。まああんだけ電撃放てるのに体力がないとか考えられないわな。
というわけで、全速力で走り続けるという結構ハードなことを今はやっている。要は短距離走を連続してやっているようなものだ。
これだと結構辛いものがある。スピードが落ちないように維持しつつ、ひたすら走るのである。やっぱりマラソンっぽいが、これが全速力のスピードを維持するのだったら訳が全く違うことが分かるだろう。
「ピカァ…(あぁ…疲れた)」
もう動けない、というところまで走っていた。ゴロンと四肢を地面に投げ出しながら、持ってきた木の実をかじる。ああ、鞭打った体が癒されていく~。
来た道を振り返ってみる。こうしてみると随分と遠くまで走ってきたようだ。ずーっと真っ直ぐ走ってきたから当然といえば当然だが。
全速力を維持しつつ、木々を避けるのはなかなかに良い特訓になったような気がする。『電光石火』に繋がるかは分からないけどな。未だに糸口が掴めなかった。
―――……
ピコン、と不意に耳に何か音が入ってきた。風の音でも木々が揺らめく音でもない。これは…
―――ュ…ゥ…
鳴き声? しかもかなり弱っているような。
どういう事だろうか。ぺラップの言葉を信じるなら、この周辺は危険だからと誰も近づいていないはずだ。
それなのに声がした、ということは……
ともかく、声のする方へ向かっていった。