翌日。いつも通り朝から木の実食って、水を飲んで、木の実を磨り潰して、それをミュウに飲ませようとした時だった。
―――バッチリ目があったのである。それはもう、そらす方が難しい程に。
「……」
「……」
互いに状況を理解出来ていないようで、しばし無言で見つめあっていた。それはもう、どこぞのカップル並に見つめあっていた。
そして、先に脳が情報を処理し終えたのはピカチュウの方であった。
「ピカッ!?(目覚めた!?)」
「ミュ!?」
突然声をあげたことにミュウも驚いてしまったようだ。すまん。
あー、えーっと、こういう場合どうするのがいいんだ? 回復したからはいバイバイ、とはいかないだろう。なんだ、まずは挨拶でもしたらいいのか?
とか考えていると、ふわふわとミュウが浮き上がっていって、こちらを見下ろしてきた。ジーッと視線を向けてきて、やがて―――
「ミュ~? ミュミュウ~♪」
「……ピカ?(何て?)」
今まで他のポケモンとは普通に会話出来てた分、驚きが大きかった。
全く意味を読み取れないのだ。本当にただ鳴いているだけ。無意味に鳴いているだけなのだ。思わず聞き返してしまうのも無理ないだろう。
犬とかの鳴き声とも違うもんだから余計に分からない。犬なら度々遊びにいく友達の家で飼っていたから、ある程度は感情次第で何か伝えようとしているのが分かるのだが、ポケモンの、それもミュウのものとなると流石に無理だった。ガーディとかなら出来たかもしれなかったのに。
「ミュウ? ミュミュミュウ~」
「…ピカピ(だから分からんて)」
楽しそうに空中でくるくると回りながら何かを訴えてくるも、残念ながら意味は分からない。寧ろ意味は無いのかもしれない。
言葉の通じないまま、俺たちは無駄な時間を過ごしてしまった…。
☆
「ミュウ~♪」
宙を漂いながらご機嫌そうに俺の後ろを着いてくるミュウ。なかなか可愛いものがある。
結局あのあとも意志疎通を図っていたのだが、残念ながら全て無駄に終わってしまった。
ただミュウを存命させるということは成功したので、俺という存在はもうお役御免ということだ。つまり寄り道は終わりである。
技も大体完成したし、あとは本来の目的である電気玉集め、そのためにオーキド研究所に行くというのを再開しようと旅立った訳だ。
巣も結局ただの木の実置き場になっていたが、初めて自分で作った家ということで、しばしの別れは若干思うところがあった。
さて、持てるだけの木の実を持って、さあ出発だ、というところで不意に気配を感じ上を見てみるとミュウがいて。
無視するように歩みを始めるもずっと着いてくるのだ。治ったんだから好きなところ行けと言っても通じなく、最初に戻る。
「ピカー…(危ないよなぁ)」
ミュウと言えば幻のポケモンである。人間に見つかればさぞ狙われることだろう。
そしてその近くにいる俺は絶対とばっちりを喰らう訳で、しかも今向かっているのは人間のいる場所。危険極まりないだろう、俺も、ミュウも。
そんな俺の思いも知らず、ミュウは自分の尻尾を追いかけて遊んでいる。しかしきっちり着いてきているもんだから撒けないのだ。
スピード勝負に持ち込もうにも、流石に『神速』と『電光石火』じゃ勝負にならない。やるだけ無駄である。
どうしたもんかなぁ…。
「スピスピィ!(おいワレェ!)」
「ピ?(あ?)」
声をかけられたと思い横を見てみると、いつぞやのスピアーさんがそこにいた。
「ピー、ピカ?(何か用ですか?)」
「スピッ、スピスピ!(惚けんなワレェ!リベンジや、こっち来んかい!)」
敵に背を向けて戦いの場に向かっていくスピアー。バカかな?
それに何故行かなくちゃいけないのか。あっちが勝手に因縁をつけているだけなので無視して進行を再開する。
☆
「ピカッ!(いい加減しつこいぞ!)」
『スピスピィ!!(お前が逃げるからだろォ!!)』
「ミュミュウ♪」
あのあとしばらくして、今度は大群で襲い掛かってきた。前回のように五匹程度ではない。数十は下らない数が集まって追いかけてきている。
流石に分が悪いと思い、逃走を開始した。いや、というか戦う理由がこちらに無いから無視しようとしているのだ。断じて逃げではない。
始めは素のスピードで距離を空けられていた。『電光石火』の特訓の成果というか副産物がこんなところで役に立つとは思わなかった。
しかしスピアーたちも簡単に距離が離れていくため、スピードアップを図ってきた。『追い風』を使用し、今はジリジリと距離を詰められている。
ミュウはこの状況に危機感を全く持っていない様子だった。関係者じゃないからなのか、この
しかしスピアーもスピアーで結構バカである。あれだけの数がいながら、後ろからしか追ってこない。回り込むとか知恵を絞ることが出来ないのか。やはり虫には厳しいのか?
時折電撃を後ろに放ち錯乱させることは出来ても、到底逃げ切れるものではなかった。本当に不幸だ、こっちに来てから。
「スピィ…(追い付いたで)」
既に大量のスピアーと対峙していた。流石に間近に迫っている連中に背を向けるバカではない。
頬袋からバチバチと電気が走り連中を威嚇する。相手さんに意味はなくとも、こちらにとっては若干の鼓舞になるようで、闘争本能が昂ってくる。
「ミュウ~?」
「ピカピ(危ないからちょっと退いててくれ。あとこれも)」
背負っていた木の実を入れている布を外してミュウに渡す。
するとこちらの言葉が伝わったのか、ミュウは木の実を詰め込んだ布を持ちながら遥か上空に退避していった。これで『放電』も気兼ねなく使える。
だが、『放電』にだって限界はある。これだけの数だ、瀕死状態のスピアーでも肉壁となって全てには攻撃出来ない。困ったものである。
「スピィ!(用意!)」
一匹が号令をかけると、他のスピアーが一斉に両手の針を構える。既に技の準備も完了しているようだ。
「スピィィ!!(撃てぇ!!)」
瞬間、視界を埋め尽くすほど無数の『ミサイル針』が襲い掛かってくる。当然ながら隙間があまりにも少なく、普通は避けきれない。
が、それはあくまでも
『電光石火』を使用。体が勝手に動き、通常の数倍以上のスピードで走り出す。
『電光石火』は攻撃技であるが、ゲームと違って
今回は回避のためにこれを使う。僅かにしか存在しない隙間を掻い潜り、スピアーたちに接近する。
スピアーたちは『量』で攻撃してきたが、こっちは『質』で対抗する。よく質が高くとも量には勝てないというが、そんなことはない。そういう場合が多いというだけで、勝てないという事実があるわけではないのだ。
「ス、スピ!?(何だと!?)」
避けきれないと思われた技を回避されてスピアーたちは困惑状態。想定外のことに動きを止めていた。
チャンスと思い、高く跳び上がる。
先ほど『放電』では全員に攻撃を与えられないと説明したが、それはあくまでも直線的な話だ。それだと後ろの奴に当たらないのだが、連中の中央に行けば、満遍なく当てられるのだ。
「ピカチュウ(リベンジ失敗だな)」
『放電』により無作為に電撃が走り出す。
『スピー!?(ギャァァ!?)』
四倍化された威力の『放電』にスピアー悶絶、その後撃沈である。
地面に着地し周りを見てみると、スピアーたちは黒焦げになり、死にかけの虫のようピクピクと震えていた。いつか見た光景である。
「ピカピカ、ピカチュウ(これに懲りたら、もうちょっかいかけてくんなよ。それに因縁つけんのやめろ、あれ事故だから)」
ポケモン界に法だとか暗黙の了解があるか知らないが、事故に責任を求められても困る。ピカチュウにどう責任取れと? ちゃんと謝罪もしたんだぞ。
と、自分を正当化(?)して、焦げ臭いからその場を離れようとした時だった。
「ピッ!?(何!?)」
直感に従って跳び跳ねると、先ほどまでいた場所に大きな針があった。
見てみると、スピアーが一匹残っていたらしい。しかも雰囲気が明らかに先ほどまでの普通のスピアーと違う。
強者は雰囲気からして違うんだな…参ったな、勝てねぇぞこれ。