つぐみside
いきなり風呂場から出ていってしまった深月を少し気にかけながら全身を洗っていく。頭、上半身、下半身の順番に丁寧に洗っていきながらさきほどまでの出来事を思い出してみる。
「やっぱり、変な風に思われちゃったかな…?」
つぐみとしては雷の恐怖から逃れるために、一緒に入ろうという思いだったのだが、果たしてそれは深月に伝わったのだろうか?一歩間違えればあらぬ誤解を生んでしまうんじゃないかという懸念がつぐみの中にはあった。
「だ、大丈夫だよね…みーくんなら…。……それにしても引き締まってたなぁ、みーくんの身体…」
深月の身体はよく言えばちょうど良く、悪く言えば中途半端に鍛えられた身体だった。腕の筋肉はピアノのおかげでそこそこあり、腹筋も少し割れていて、胸筋もそこそこ。ゴツすぎず、細すぎずといった感じだ。
「そう言えば、みーくんは大きいのと小さいのはどっちが好きなのかな?」
春先からあまり成長していない自分の胸を見てぽつりと呟いた。ひまりのように大きくもない、巴のようにスラッともしていない、蘭やモカのようにスタイルが良いわけでもない自分を深月はどう思ってるのだろう?
「いやいや、こんなこと気にしてもしょうがないよね!」
頬を両手でバシバシ叩き、湯船に浸かり疲れを取ってから風呂を出た。
(あと、背中に当たってたあの硬いのはなんだったのかな?)
つぐみside out
夕食時にあれだけ荒れていた天気は今は回復し、綺麗な夜空に満月が出ていた。
「改めて見ると結構眺めはいいんだな…」
ベランダに出てみると夏場特有の涼しい風と、虫の鳴き声のハーモニーが深月の身体を刺激する。夏って言ったらこれだよね。
「はぁ~落ち着く~」
しばらくこの感じを味わっていたかったが、時間も遅いので名残惜しいが部屋に戻ることにした。部屋に戻ってからは寝る準備をするのだが、いかんせん部屋が一人用の作りになっていて、更に隣はつぐみが使ってるので寝床がないのだ。仕方ないので、部屋の隅にちょうど布団一枚敷けるスペースがあったので、そこに敷いて今夜を過ごすことにした。
「みーくんそこで寝るの?」
「うん、そうだよ………って、つぐ!?いたのかよ!」
「さっき出たばかりだけどね。それより、みーくんお腹大丈夫?痛いって言ってたよね?」
「あ、ああああ!大丈夫だよ!大丈夫!!」
「ほんとに?何か顔が赤い気がするけど」
「大丈夫だよ!!全然!この通り!」
「そ、そう?だったらいいんだけど…。そろそろ寝るの?」
「う、うん。もう遅いし、それに明日には帰らなくちゃいけないから」
「あ、そっか。もう明日帰らなくちゃなんだよね…」
「そうそう、だからもう…」
「じゃあ、もう少し話そ?」
「え…はぁ…仕方ないな。で、また昔話でもする?」
「ううん、今回は私の事。……私ね不安だったんだ。みんなでバンドやろうってなったときは」
「え…でも、あのときつぐは…」
「うん、賛成はしたけど内心はすごい不安だったんだ。私みたいな普通の女の子にもできるのかなって。でも、ある日テレビで見たガールズバンドがすごく輝いていて、名前は覚えてないけど女の子だけであんなに大勢の人達を虜にしてるのがすごい印象に残ったんだよね。それからお父さんお母さんを説得したり機材を揃えたり大変だったけど、みんなで練習して本番に臨んで…大成功したときはやってて良かったなって思うし、時にはみーくんに教えてもらったりして迷惑かけちゃうこともあるけど…やっぱり私はAfterglowが、みんなが大好きなんだなって思うよ。もも、もちろん!お父さんお母さんも大好きだしみーくんも……その……好き…だよ……男の子として…」
「………」
「ねぇ、みーくん聞いてる?」
と、つぐみが深月の方を振り向いた時、深月は既に自分の布団で眠りの底に落ちていた。
「き、聞かれてない、よね?」
誰かがいるわけでもないのに、回りをキョロキョロしながら、つぐみはこっそり深月の布団に入り、彼の隣で眠った。
「おやすみなさい…みーくん」
既に眠ってる彼にそう言い聞かせながら。
翌日、旅館の女将によると、何故か深月とつぐみの間に気まずい空気が流れていたらしく、二人は微妙な距離感で帰っていったという。
最後いらなかったかも。