『つぐみ、好きだ』
「え、ええええ!?突然どうしたの!?」
『愛してる、俺と結婚してくれ』
「け、結婚!?…で、でも私達まだ高校生だし……まだ……その…そういうことも…」
『そんなの関係ねえよ』
そう言うとみーくんは右手で私の顎をクイッと軽く持ち上げ、唇を近づけた。
「あ……」
『今日は、滅茶苦茶にしてやるからな…』
そして私も唇を近づけ、二人は…
ちょうどあと一息というところで私は眠りから覚めた。
「あ…夢…か」
時計を見ると7時ちょうど。いつもの私ならすぐに身体を起こして学校の準備をするのだが、今日はまだ布団の中にいたい気分だった。
(まだこうしていればあの夢の続きを見れるのかな…)
けれどあの後結局夢の続きは見られず、少しがっかりしながら私はちょっと遅めの準備を始めた。下に降りるとお父さんとお母さんは開店の準備をしていた。
「あら、おはようつぐみ。朝御飯できてるわよ」
「珍しいな、つぐみが寝坊なんて」
「うん、ちょっとね…」
夢が夢だったので、少し誤魔化す。すると、お父さんがとんでもない事を言い出した。
「はぁ~深月君、つぐみと結婚してくれないかな~」
「!?」
思わず飲んでいたコーヒーを吹き出してしまった。
「お、お父さん?一体どうしたの?」
「ん?いや、俺も若くないからさ引退するときに誰に店を継いでもらおうかな~って思って。そしたら深月君がぱっと頭に浮かんだんだ」
「で、でもなんでみーくんなの?」
「そりゃ、つぐみの唯一の男友達だし、優しいし、かっこいいし、周りの気配りもできるし、何より愛想がいいしな」
「私もお父さんの意見には賛成ね」
「後は、深月君とつぐみ次第だな…」
「ちょ、ちょっと!勝手に話を進めないでよ!」
「お、お前まさか将来の夢はバリスタになって店を継ぐんじゃないのか…?」
「私はいいけど…みーくんが…」
「そうなんだよなあ…」
「そう言えばつぐみ、あなたこの間深月君と学校の合宿に行ってきたのよね?」
「あっ、そう言えばまだ感想を聞いてなかったな。どうだったんだ?深月君と二人きりだったんだろ?」
「え、えっと…」
言えない。あの夜、みーくんにバレないようにこっそり告白して、一緒に寝たなんて…。
「つぐみ、顔が赤いぞ。まさか……一戦を越えたとか……?」
「そ、そんなわけないでしょ!と、とにかく私もう学校に行くね!」
「おー、行ってらっしゃい」
「気を付けてね」
全く…二人ともすぐそういうことを言うんだから…。そんな事を思いながら私は学校へ歩いていった。
「あ…」
家を出てから5秒。ふとみーくんの家の方を見るとちょうど彼も家を出たところだった。
「あ…」
みーくんも私を見つけ同じ声をあげる。
「「………」」
それからはお互い黙りあったままでその場から動けなかったが、みーくんがある事を切り出した。
「つぐ、顔赤いよ。大丈夫?」
「えっ?」
「もしかして熱でもあるんじゃないか?」
そう言うと彼は急いで私に近づき、おでこをくっ付け合うような形で熱を計った。その突然の行動に私の鼓動は更に早くなり、体もどんどん熱くなっていた。
「あっつ!お前今日どうしたんだ!?救急車呼ぶか!?」
「だ、大丈夫だよ!私学校あるからまたね!」
去り際にみーくんが何か言っていた気がするけど気にせず私は学校へと急いで向かった。
「やぁ、子猫ちゃん達。今日も君達は太陽のように眩しく、薔薇のように美しいね」
校門付近では学校一の有名人こと演劇部の2年の瀬田薫先輩にみんなが群がっていた。
「キャーっ!薫先輩ーー!」
…その中にひまりちゃんがいたのは見なかったことにした。
今日は学校があると言っても、生徒会の仕事のみでおまけに午後から先生方が会議があるらしくお昼頃には帰れるらしい。生徒会室から横目で校庭を見ればこの暑い中、運動部が一生懸命部活に取り組んでいた。
「羽沢さん、手止まってるよ」
「あ、すいません」
ついつい校庭の方に集中してしまい、仕事が疎かになっていた。私は気合いを入れ直すために両手で頬をバシバシ叩いてから仕事に取り組んだ。
結局、私は職員会議が始まるギリギリまで残って作業した。
「はぁ…ちょっと遅くなっちゃったな…」
携帯で時間を確認しながら下駄箱にて靴に履き替えると、校門に私服姿のみーくんがいた。
「み、みーくん!?」
「あ、つぐ。今帰るとこ?」
「う、うん…。それより、どうしたの?」
「いや、朝つぐの様子がおかしかったから買い物ついでに大丈夫かなって思って。ほら、朝あんなに熱かったろ?」
「あ、ああ。あれならもう大丈夫だよ」
「そっか、良かったよ。じゃ、帰ろうか」
みーくんと並走して隣を歩く。何故かこの感じがとても久しぶりに思えた。そんなに月日は経っていないのに…。すると、前から一人の女の子が歩いてきた。
「あ、美咲。よう」
「ん、これから帰り?」
「ああ」
二人の会話の感じだとどうやらみーくんとその美咲という女の子は知り合いらしい。
「そちらは?」
「俺の幼なじみだよ」
「は、初めまして…羽沢つぐみです」
「あー、ご丁寧にどうも。奥沢美咲です、一応ハローハッピーワールドってとこでバンドやってます」
「あ、私もなんです。After Glowっていうバンドでキーボードやってます」
「…そういえば、羽沢さんて羽沢珈琲店のと何か関係あったりします?」
「そこ、私の家です!是非時間があったら店に来てくださいね!!お父さんが淹れるコーヒーすごく美味しいので!」
「は、はい…」
「つぐみつぐみ、美咲がちょっと引いてるから…」
みーくんに言われて私はようやく我に帰った。
「あ…ごめんなさい。お店の事を聞かれるとつい…」
「あー、大丈夫ですよ。今度行こうかなって思ってたので」
「是非お待ちしてますね!」
「それじゃ、私はこれで失礼するね。深月、ちゃんと羽沢さんを送ってあげなきゃダメだよ?」
「わかってるよ」
「じゃあ、またねー。お二人さん」
そう言って奥沢さんは行ってしまった。話した感じでは悪い人じゃなさそうだ。お店にも来てくれるって言ってたし。それに、バンドという共通点もあったし。
「どうした?顔がにやけてるぞ?」
「ふぇっ!?そ、そんなことないよ!」
「いやいや、思いっきりにやけてだぞ?こんな感じで」
「もうっ!からかわないでよ!」
「ははっ、悪い悪い。…あ、そうだ。今日、珈琲店開いてる?久しぶりにつぐの親父さんが淹れたコーヒーが飲みたくなってきたんだよねー」
「開いてるよ!ついでに、私が淹れたのも飲む?」
「おっ、そりゃいいな。親子対決か。まぁ、多分まだ親父さんのが美味いと思うけどな」
「それはどうかなー?私だって結構上手くなったよ」
「それは、楽しみだな」
この後、みーくんは私とお父さんのコーヒー対決に二時間程付き合わされたのであった。
そろそろ、美咲の話も書いていきます。