「はぁー…夏ってほんと憂鬱…」
コンビニで買ったゴリゴリ君(ソーダ味)を頬張りながら美咲は商店街を歩いていた。普段はバンドの練習だったりミッシェルに入ったりと色々忙しい美咲も今日は完全オフだ。いつもの美咲なら妹と一緒に遊んでるのだが、今日はちょうどその妹が小学校の遠足でおらず、両親も出掛けている。だからといって家でゴロゴロしてても仕方ないので、こうして外を歩いている。
「あ、ここって…」
ふと、美咲の目に止まったのは先日つぐみとの会話に出てきた彼女の実家、羽沢珈琲店だった。
「言ってみる価値はあるよね…」
そう呟きながら頬張っていたゴリゴリ君の棒をゴミ箱に捨て店のドアを開けると冷房の風と共に中の景色が目に入ってくる。喫茶店らしい落ち着いた雰囲気とどこかレトロな雰囲気を漂わせる感じがした。
「いらっしゃいませ!」
しばらくボーッとしていた美咲は声をかけられ、ようやく我に返った。
「あ、奥沢さん!来てくれたんですね!」
「まぁ、はい…」
「どうぞ!こちらの席にお掛けください!あ、これお品書きです!注文が決まったらよんでくださいね!」
「はい…」
メニュー表には喫茶店ならではの無難な物や軽食などがリーズナブルな価格で表示されていた。
(なるほど…この店の評判が良いのも頷ける…)
一人感心しながらメニューを選ぶこと10分、ようやく決まりつぐみにメニューを頼んだ。
「意外と迷っちゃったな…」
待つこと10分ほどで美咲の頼んだメニューが運ばれてきた。
「お待たせいたしました。アイスコーヒーとモンブランになります」
「あ、どうも…」
ミルクと砂糖をよく混ぜ、一口飲もうとしたときある人物が来店してきた。
「あ、みーくん!いらっしゃい!」
「!?」
思わずコーヒーを吹き出しそうになってしまった。
「つぐ、席空いてる?」
「うん、空いてるよ」
「じゃあ、いつものでお願いね」
「はーい」
私はなるべく彼に見つからないようにやり過ごそうとしたが、返ってそれが目立ちバレてしまった。
「あれ、美咲?偶然だね」
「そうだね…」
「今日は完全オフ?」
「まぁそんなところかな…深月は?」
「俺は単に腹ごしらえだよ」
「腹ごしらえってもう3時過ぎだけど」
「まぁ、そこは気にしなさんな。…おっ、来た来た!」
「お待たせ、みーくん。いつものアイスティーとカツカレーね」
「サンキュー、つぐ。っじゃ、頂きます!」
「その組み合わせ…合うの?」
「食べる?」
「いや、いい」
余程お腹がすいていたのだろうかあっという間に完食してしまった。
「ご馳走さま!……あ、美咲モンブランいらないなら貰うぞ?」
「ダメ、これは私の」
そう言うと彼は「ちぇー」と言いながら私が食べ終えるまでモンブランをガン見していた。
「ありがとうございました!」
会計を済ませ、店を出ると先に出ていった深月が待っていた。
「美咲、この後大丈夫?」
「あ、うん大丈夫」
「家に来てくれるか?見せたいものがあるんだ」
「いいけど深月の家ってどこにあるの?」
「ん?すぐそこだけど」
「え…どこ?」
「そこだよ。つぐんちの隣のあれ。俺一人暮らしなんだよ」
そう言って深月は小さな平屋を指差す。正直驚いた。羽沢さんと幼なじみとは聞いていたけどまさかお隣どうしだったとは。
「まぁとりあえず入ってよ」
「お邪魔します…」
深月の家は年頃の一人暮らしの男の子にしてはかなり小綺麗だった。
「以外と綺麗なんだね」
「金無いから買うものがないだけだよ。ところでなんか飲む?」
「あっ、じゃあお茶で」
「はいよ」
お茶を一口飲んだところで私は早速本題を切り出した。
「ところで見せたいものって何?」
「ああ、それはな…」
そう言うと彼は立ち上がり、「ついてきて」とでも言わんばかりに奥の部屋へと歩いていき、私もそれに着いていった。
「これだよ」
他より少し広めの部屋の中央には年季の入ったピアノが置かれていた。
「もしかしてこれを?」
「少し違うね」
そう言いながら彼はピアノまで歩いていき、閉じていた鍵押さえを開きながら言った。
「ようこそ、桃山深月のプチコンサートへ」