「ここか…」
「委員長、本当にここが彼のマイホームなのですか?どうみてもボロ屋にしか見えないのですが…」
「天才ほど意外と貧乏だったりするのだよ」
「はぁ…」
「あの…」
「しかし、わざわざオーストリアから来た甲斐があったな、ゴトー君!やっとあの天才に会えるのだぞ?」
「そうですね。私も実はかなり興味があったんですよ。世界中の音楽評論家を唸らせた天才日本人がどんな人物か」
「あの…」
「たった2回の公演でオーストリアどころか世界中を虜にしてしまったんだ。こんな人物に興味を持たない訳がないだろう」
「もうだいぶ前の話ですけどね」
「あ、あの!」
「ん?なんだね君は」
「さっきからずっとそこにいますけどもしかしてみーくんに何か用事ですか?」
「君はミヅキ・モモヤマの知り合いかね?だったら今すぐ彼を呼んできてくれないか?大事な話があるんだ」
「わ、わかりました!」
そう言ってつぐみはパタパタしながら深月の家へと入っていった。
「今時の若いものは知り合いの家にもチャイム無しで堂々と入っていくのかね?」
「さぁ…」
「みーくん、起きて!お客さん来てるよー」
「ん…」
「ほら、みーくん!」
「つぐ…?どうしたの…?」
「お客さん来てるよ!みーくんに用があるんだって」
「客…?どんな?」
「えっと、いかにも外国人みたいな背の高い男の人二人がみーくんに用があるんだって」
「へー…眠いからパス」
「え、ちょっとみーくん!」
「zzz…」
「はぁ…」
「遅いですね…」
「まぁ気長に待とうじゃないか。まだ時間はあるのだから」
「それはそうですけど…あっ!戻って来ましたよ!」
「どうだったかね?」
「すいません…。まだ眠いらしくて取り合ってもらえなかったです…」
「そうか…まぁ、こんな朝早くに来た私達にも非はある。彼にこれを渡しておいてくれないか?」
「これは…?」
「大事なもの、とだけ言っておこうか。彼にとっても私達にとってもね」
「わ、わかりました!」
「それでは私達はこれで失礼する」
「あ、あの!」
「ん?どうしたのかね?まだ何か?」
「良かったらうちの喫茶店で少し休憩していってはいかがでしょうか?見た感じ外国から来られたようですし長旅の疲れもあると思うので…」
「すまないが、私達はこれから用事があるんだ。気持ちだけありがたく受け取っておくよ。それでは」
そう言って彼らは行ってしまった。暫くポカーンと立ち尽くしてしたつぐみはやがてハッと我に帰り、受け取ったものを深月に渡すため再び家へと入っていった。
「なにこれ?」
「おじさん達からみーくんに渡すようにって言われたんだ」
「手紙か何かか?そのおじさん達これに関して何か言ってた?」
「ううん、ただ渡すようにってだけしか言われてないかな。あっ、もうこんな時間…。私お店の手伝いしなきゃいけないからもう行くね。後でそれ私にも見せてね!」
「うん、わかった………とは言ったものの、開けてみるしかないよな…」
封をあけると何やらお洒落なデザインのカードが入っていた。カードの表には「桃山深月様へ」と書かれており、裏面には「貴方をウィーン国際ピアニスト養成機関へご招待します」という手書きのメッセージと電話番号が記載されていた。
「なんなんだ…これ…ピアニスト養成機関…?」
すると、突然深月の携帯電話が鳴った。番号を見るとなんとさっきカードに書いてあった番号からかけられてきていた。
「もしもし…」
恐る恐る出ると渋い中年の男の声が聞こえてきた。
「私からの贈り物は見ていただけたかな?」
「あの、あなたは…」
「おっと、失礼。私はウィーン国際ピアニスト機関のユース部門の委員長を務めているジェームス・カイルという者だ。君の噂は常々こちらにも届いているよ、ミヅキ・モモヤマ」
「どうして俺の名を?」
「簡単さ。私も君の演奏に魅了されたうちの1人だからだよ」
「俺の…演奏に…?」
「そう、君がまだ小学生くらいの時かな。私はウィーンの小さなホールで日本人のしかもまだ小さな少年が演奏すると聞いた。正直私はバカにしてた。日本から来たしかもあんな小さい子供に何が出来ると、だが、その軽蔑は一瞬にして驚愕へと変わった。舞台に立った君はたった1人で喜怒哀楽全ての感情を曲と合わせながら表現していたんだ。度肝を抜かれたね。今まであの幼さであんな芸当をやっておける子はいなかったからね」
「たまたまですよ」
「君はまだ自分の才能に気づいていないようだが、君にはたくさんの人を魅了することができる確かな実力がある。そこでだ。君には私達が運営するウィーンにあるピアニスト養成機関に所属し、そこで実力を伸ばしてもらいたい。そこでならいずれ君が歴代の偉人達と肩を並べるようになるのも時間の問題だからね」
「……」
「もちろん、すぐに決断してくれとは言わない。……そうだな、一週間後にもう一度答えを聞こう。そこまでに自分の考えをまとめておいてくれ。もっとも、私としては来てもらいたいのが本音だがそれは君が決めることだ。一週間後いい返事を待ってるよ、では」
一方的に話が進んでしまったが、とりあえず俺の事は評価してくれているのは理解できた。
「一週間後…か…」
そこから彼の一週間の葛藤が始まった。
クリスマスに一応つぐみと美咲のやつを分けて書く予定です!