12月24日 クリスマスイブ
365日ある1年の中でも極めて特別な日とされる今日は町全体が騒がしかった。外へ出れば飾り付けされた商店街やお洒落なイルミネーション。あちこちで賑わう出店や人々の声。更にこの時期はレストランや喫茶店でクリスマス限定メニューを出すところが多いためそういったところも賑わいやすい。
羽沢珈琲店も例外ではなく、朝9時開店から今に至るまでいつもの倍以上の客が来店した。え?どうして俺がそんな事を知っているかって?
それじゃあ説明しよう!
俺は今から6時間前の朝7時に自分のベッドで熟睡していたんだが、突然携帯のバイブレーションが鳴ったんだ。どうやらつぐみから電話のようだ。眠い目をこすりながら俺は起きたての不機嫌な声で電話に出たんだ。そうしたら突然デカイ声で…
「もしもし!みーくん?今起きてる!?起きてるなら今からちょっと私の家に来てくれないかな?」
「えー?なんでー?」
「ああもう、こうしちゃいられない!私がそっちに行くから起きておいてね!」
何やらつぐみの焦ってる声がした気がするんだが、気のせいかと思って俺はまたベッドに身を委ねて寝ようとしたんだ。そうしたら今度は家の鍵が開いた音がしたかと思うと、勢いよく俺の部屋のドアが開いたんだ。どうやらつぐみが本当に来たらしく、俺の体を揺さぶったり頬をペチペチ叩いたりして無理矢理俺は起こされそうになったんだが、俺もそう簡単には起きなかった。すると、つぐみは何かを察したのか俺のトップシークレットを隠している場所をピンポイントで言い当てやがった!
それからだ、トップシークレットの事を言われてしまった俺は渋々着替えて準備を整えてからつぐみの家に向かった。あの時のつぐみは普段見せないような完全に悪人面の顔をしていたなー。
「今日はごめんね、急に起こしたりして」
家に入ると急につぐみに謝られた。さっきあんなに悪人面してやつがよく言うなと思ったけどなんだかんだ言ってあまり気にしてないので
「気にするなよ、今日は暇だったし」
なんて言ってみる。すると、つぐみの顔がパアッと明るくなった。うんうん、やっぱりそういう顔してる方がずっと可愛いな。
「良かったー。実はね、今日クリスマスイブでしょ?お店がすごい混雑すると思うし、私達だけじゃ回しきれないからみーくんにもお願いしたいんだけどいいかな?」
「なんだ、そんなことか。それなら任せろ!」
そういうと更にパアッと明るくなった。やべ、めちゃ可愛い。
「で、具体的には何をすればいいんだ?」
「そうだねー、あと一時間くらいで開店だからホールの清掃と確認お願いできるかな?」
「かしこまりっ!」
それから今に至るわけだが、なんというかすごいやり易いな。結構手伝ってるしつぐみや、つぐパパつぐママと一緒だからってのもあるけどこういう仕事も悪くないな。あ、因みに今はプチ休憩です。
「みーくん、そろそろいいかな?」
「あいよ、今行く」
さて閉店まであと4時間、頑張りますかね!
「深月君、すまないがこれも頼む!」
「了解です!」
「みーくん!3番テーブルのお客様の対応お願い!」
「かしこまっ!」
「深月君、流石にその量は厳しいんじゃないかしら?」
「全然いけます!」
「すいませーん、こっちまだですかー?」
「今行きナス!」
こんなやり取りが続き、閉店まで30分を切りラストオーダーの時間になった頃、厄介な客が来店してきた。
「いらっしゃいませ」
「おい、看板娘の娘はどこだよ。そいつに俺の接客されろ」
その客は熊のような見た目をしていて如何にも「自分強いですよ」アピールするかのような振る舞いをしてきたので穏便に対応することにした。
「申し訳ありませんが、今彼女は別の対応に追われているので僕が代わりに…」
「だったらてめえがそれをやりゃいいだろうが!こっちは看板娘目的で来てんだよ!さっさと出せや!」
「はぁ、かしこまりました」
一旦その客の元を離れ、つぐパパのところに相談に行く。
「どうします?もうラストオーダーですし…」
「仕方ない、つぐみに行かせよう。深月君はつぐみと代わってくれ、危なくなったら僕が行くから」
「わかりました、もしそうなったら俺もすぐ行きます」
つぐみの元に行き、成り行きを説明して代わってもらった。
「つぐみ、何かあったらすぐ逃げろ」
「大丈夫、任せておいて」
他のお客の会計を済ませ、見送るとつぐみの嫌がる声が聞こえた。
「やめてください!」
「いいだろぉ?少しくらい」
「だ、ダメです!」
「んな事言ってほんとは嬉しいんだろぉ?」
そこへ、つぐパパが止めに入る。
「お客様申し訳ありませんが、ここはそういう店ではないので…」
その瞬間つぐパパの腹に蹴りが入った。
「うるせえよ、邪魔すんな」
「お父さん!!」
「へへ、お楽しみはこれからだぜ?」
「喋るな」
「あ?」
気づけば俺は男の目の前まで歩みより睨み付けていた。
「聞こえなかったか?喋るなと言ったんだ、下衆が」
男の身長は俺よりも一回りほど大きかったがそんなの関係ない。
持っていたモップの柄で男の脛を叩き、うずくまったところで思い切り腹に蹴りをくれてやった。男はビビりながら帰っていった。
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。それより、つぐみを心配してやってくれ」
つぐみは男から離された後、店の奥に逃げるように行ってしまった。
「つぐー?あ、ここにいたか」
「みーくん?」
「もう大丈夫だ。ごめんな、怖い思いさせて…」
「怖かった……怖かったよぉぉ…」
「ああ、もう大丈夫。大丈夫だから」
しばらく俺はつぐが泣き止むまで抱き締めてやった。もう二度と怖い思いさせないように。
「もう大丈夫?」
「うん、大分落ち着いたよ。ありがとね、みーくん」
「どういたしまして」
「おーい、二人ともー。外出てみないかー?雪降ってるぞー」
つぐパパに言われて外に出ると真っ暗な空から真っ白な雪が降っていた。
「綺麗…」
「ああ…」
「ねぇ、みーくん。私ね、将来なりたい夢があるんだ」
「へぇー、なんだ?」
「それはね……」
すると、つぐは俺の近くまで来て耳元でそっと囁いた。
「みーくんのお嫁さんだよ…」
「え!?」
「さて、そろそろ閉店の準備だね。戻ろっか」
「あ、ああ!」
来年のクリスマスもまたこうして過ごせるといいな…。そんな事を思いながら深月は店に戻っていった。