理想の果てに 作:災厄被害者担当 ティールウルフ
□<ノズの森林> 【槍士】グレン
辺り一面に木々が生え並び、初心者向けのモンスターが数多く生息する<ノズの森林>。
周囲からは見えずともモンスターの唸り声や他の<マスター>達の戦闘音が聞こえてくる。
そんな中、俺の周りには二人の子供の姿があった。
一人は大きな大木を背に蹲る子供。
俺が先ほど【ティールウルフ】から助け出したティアンの子供だ。
一人は俺の目の前で見上げるようにドヤ顔で腕を組む少女。
日の光にキラキラと反射するロングヘアの金髪に澄んだ青い瞳。
頭には古代のスパルタ兵の兜によく酷似した装飾の兜をかぶり、白いドレスのような服をたなびかせている。
言うまでもない、俺の<エンブリオ>である【護鎧乙女 アテナ】である少女だ。
「……ところで何でだ?」
「はぁ、聞いていなかったのかマスター?
私も何度も言うのは嫌なんだけど……今回は特別だぜ! Type:メイデンwithアームズの【護鎧乙女 アテナ】だ、よろしくなマスター!」
呆れた様子で元気よく再び名乗るアテナ。
その様子は見ていて微笑ましいものがあるがそうではない。
問題なのは、
「……そうじゃなくて、何で俺の<エンブリオ>がレアカテゴリーの『メイデン』かって話だ」
<Infinite Dendrogram>を始める前によく調べておいたおかげだろう。俺はレアカテゴリーに属する『メイデン』の意味もよく知っている。
メイデンとは他の五つのカテゴリーに加えて付くことがあるハイブリッド型。
基本形態が人型の女性であり、その生まれる為のパーソナル故か強敵を倒すのに適した
ここまでは別に問題は無い。むしろレアカテゴリーであり、強者打破系という珍しい力を手に入れられて喜ぶところだ。
だが、俺にとって『メイデン』が生まれるパーソナルに問題がある。
それは、
『<Infinite Dendrogram>の世界をゲームだと思っていない、もしくは<Infinite Dendrogram>での命が現実世界と同じ重さを持つ』と考える人に稀に発現する。
だからこそありえない、俺は<Infinite Dendrogram>をゲームだと認識しているしティアンもNPCだと理解しているのだから。
「なんだよマスター、私がメイデンだったのが嫌だって言うのか?
普通は涙を流して喜ぶところなんだぜ?」
不服そうに睨みつけてくるアテナ。
もしかして怒っているのかもしれないが全くもって怖くない。
「……違ぇよ。なんで俺からメイデンが発現したのか不思議に思っただけだ」
「ほんとにそれだけか?」
「……あと、メイデンってなんか重たそうだなって」
「なっ!! それは私が重い女って言いたいのか!?」
そんな事は言ってはいないが……。
まぁ意味としては同じだろう。
「なおの事悪いわ!!」
しまった、意識が共有されるなんて書いてあったがこれの事か。
よくよく考えれば戦闘中に一々言葉を交わすのはかなり手間だ、メイデンには必須の能力といったところか。
しかし【護鎧乙女 アテナ】とは少しゴロが悪い。
アテナと呼ぶのにどこか違和感を感じてしょうがない、できれば略称で呼びたいところだ。
アテナ……アテ? いや、普通にアナでいいだろう。
「……これからお前の事はアナって呼ぶから」
「おう! 意外とマスターはガツガツくる系なんだな!
だがいいぞ、私はそっちの方が好きだ」
……やはり俺の<エンブリオ>は少し頭が弱いらしい。
これは俺が面倒を見ろという事なのだろうか。
目の前で顔を真っ赤にして怒りだしたアナを傍目に考える。
「くぅぅ~、まぁいい。
それよりその子供はずっと泣きじゃくっているが大丈夫なのか?」
「……忘れてた」
なんだかんだで自身の<エンブリオ>に夢中になっていた。
今の俺にはとてもじゃないがモンスターと戦える余力が無い。
先ほどの【ティールウルフ】との戦闘で体中傷だらけだし、HPも半分を切っている。一対一ならともかくモンスターの群れを相手にティアンを守りながらというのは不可能だ。
HP回復ポーションも買ってはあるが三つしかない。
できるだけ早く<ノズの森林>を抜けてアルテラに送り届けなければ。
「残念ながら思う通りにはいかないようだぞ、マスター?」
「……ああ、気づいてるよ」
不敵に笑うアナを一瞥しながら、数少ないHP回復ポーションを一息に飲み干した。
地面に突き刺していた槍を握るのとタイミングを同じくしてそいつ等が姿を現す。
「GURUUUUU!」
木の陰から出てきたのは既知のモンスター、【ティールウルフ】。
違うのは数。
聞こえてくる唸り声は三つ。
姿を表した【ティールウルフ】は三体だ。
一体でギリギリ、三体もいるとなれば守る事はおろか倒しきれるかも怪しい。
しかしそれは、先ほどまでの俺ならば……だ。
「……おい、お前と俺で勝てると思うか?」
「ヘッ! 愚問だぜ、マスター」
その声には一切の迷いも疑いもない。
まるで自身が負けることなど想像もしていないかのように。
「……あぁ、そうだな。その通りだ。勝つぞ、アナ」
返事は聞こえない。
だがそれでいい、今、この瞬間において言葉は不要だ。
互いに胸の奥で熱い思いを感じ取っているのなら。
槍を一回転、眼前に突き出すように構えをとる。
その動きに呼応するかのように光の粒子が体を覆っていく。
「……なるほど、
光の粒子が収束すると同時に現れたのは全身鎧。
両腕の深紅の篭手、そして胴体からつま先まで一つながりになるように真紅の鎧が装着されていた。
唯一鎧が無いのは胴体から篭手にかけての脇、そして頭ぐらいだろう。
形態としては古代スパルタ兵の完全武装に近い。
「……それにしてもやけに精巧な作りだな」
篭手だけでもただの一枚の金属から出来ておらず、いくつもの金属が繋ぎ合わさるようなっている。篭手を付けたまま細かい作業が出来るのではないかと思うほどだ。
加えて軽い。
明らかに金属鎧の重さではないだろう。
そもそも全身鎧なんて金属で出来ていたら歩くのさえままならない。とても実践向きではないはずだ。
だが今の俺は問題なく動くことが出来る。
<エンブリオ>である【護鎧乙女 アテナ】の能力か、もしくはゲームの世界故か。
『私は結構、美に関しては煩いんだぜ? マスター』
「……美に拘るぐらいなら兜も付けて欲しかったけどな」
『兜は私のものだから無理だ!』
本当に意味が分からない。
アナが俺のパーソナルから生まれてきたと思うと少し悲しくなってくる。
だが、アテナという女神は美と戦略をつかさどる守護神と聞いたことがある。
そしてこの全身鎧がアテナの持っていたとされるアイギスをモチーフとされているとすると合点がいく。
重さに関してはステータス補正におけるSTRが高いのかもしれない。
しかし今はそれらのすべてはどうでもいい事だ。
「……まぁ、こいつらを倒せれば問題ないか」
背後にいるティアンの子供がモンスターに殺されたら俺の負け。
ティアンの子供を守りつつ、モンスターを倒しきれば俺の勝ち。
明らかに敵の方が有利な条件だ。
『それでも私たちが勝つけどな‼』
「……いいから集中しろ」
勝負は一瞬。
嘆くも笑うもその後だ。
言葉を皮切りに感覚が鋭く研ぎ澄まされていく。
いつでも敵の首をとれるように指先まで力を込める。
お互いに睨み合い、動けない……というよりも動かない。
敵の狙いは後ろの子供で、俺はそれを通さんとしてるからだ。
『もう! 分かったからさっさと片付けろよ、マスター‼
なんか疲れてきたんだけど‼』
「……だからうっさいって‼」
叫ぶと同時に四肢に力をこめる。
下向きに構えていた槍先が跳ね上がり、敵の首へしなりながら突きあがる。
それに対して【ティールウルフ】の行動は遅い。
まるでコマ送りの様にワンテンポ遅れて動き出す……がやはり遅すぎた。
跳ね上がった槍は【ティールウルフ】の抵抗も許さず、その首を跳ね飛ばす。
『ッ‼ マスター‼』
「わかってる!」
不意打ちまがいの一撃で【ティールウルフ】を仕留めたが、それはたった一体だ。
すでに残りの二体は俺の横を抜け走り出している。
だが、AGIは俺の方が高い。
今なら追いついてもう一体を倒すこともできる。しかしその場合は子供は諦めなければならない。
それでは俺の負けだ。
そうなればとれる行動は一つだけに絞られる。
「くそっ‼」
子供の元へと全力で駆け、体で子供を守るように覆う。
これが最善策。
唯一、ティアンの子供を守ることが出来る方法だ。
そしてこの方法は正しかったのだろう。
ほぼ同時に体の二か所に衝撃が走る、何らかの攻撃を受けたのだろう。
HPはほぼ全快の状態とは言え、そう何度も攻撃は食らえない。
俺は残りのHPを確かめようと、視界の端に目をやり。
「……どういうことだ?」
全くと言っていいほど減っていないHPゲージに目を見開いた。
確かに少しづつはダメージは食らっているようだが雀の涙のような値だ。
『へへぇ! 驚いたか、マスター‼
これこそ私の保有スキル、《
「……それより効果を言え」
今でもがりがりと攻撃を受けていて少しづつだがHPが減っている。
あんまりこの馬鹿にかまう時間はないのだ。
『マスターはせっかちだなぁ。
《不壊なる護鎧》はパッシブスキル。
効果は『鎧の部分に受けたダメージを10%減少させ、減少させたダメージ分だけ好きなステータスに上乗せする』
そして『鎧を着ている個所への傷痍系の状態異常は無効化する』っていうのもあるぞ!』
「……それなら受けたダメージ全部STRに上乗せだ」
言うが早いか振り向きながら、襲ってくる【ティールウルフ】に拳を叩き込む。
俺のSTRはたいしたものではない。
だが、【ティールウルフ】の攻撃でそれなりには上がっていたようだ。
二体共、鳴き声をあげながら地面の上を跳ねる。
そしてそんな隙を逃すはずもなく、槍で倒しきった。
「お疲れだな、マスター」
人間形態に戻りながら笑うアナ。
そんなアナを一瞥し、ティアンの子供を抱えて歩き出す。
初めての戦闘で疲れすぎて喋るのがめんどうなのだ。
ただ、これだけは言っておく。
「……俺の<エンブリオ>、使いずれぇ」
「なっ!」
「あ、あとその頭に着けてる兜外しとけ。
変に目出つし」
「これは、私のアイデンティティーだ!
外して欲しければ髪止めを買ってくれ……じゃなくてその前だ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎ出すアナをほっておき歩き出す。
アナの声は煩いが、なぜだか気分は悪くはない。
ゆっくりとアルテアを目指し歩き出すのだった。
【護鎧乙女 アテナ】
Type:メイデンwithアームズ
全身鎧のステータス補正型エンブリオ。
『保有スキル』
《不壊なる護鎧》
鎧の箇所に受けたダメージを10%減少させ、減少させた値を好きなステータスに上乗せする。
(効果はダメージを与えた敵が倒れるまで)
鎧を着けた箇所への傷痍系状態異常を無効化する。
『装備補正』
攻撃力補正 10
防御力補正 80
『ステータス補正』
HP補正:C
MP補正:G
SP補正:F
STR補正:F
AGI補正:C
END補正:D
DEX補正:G
LUC補正:G
(感想で聞かれたので念のため)
全身鎧で防具をつけられないので補正は高め。
強者打破系としてはステータスで圧倒する系で少し弱め。
人間形態はパズ○ラのアテナをイメージしてもらえればあってます。