理想の果てに   作:災厄被害者担当 ティールウルフ

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第3話

 □王都アルテア 【槍士】グレン

 

 

 

 

 王都アルテアに無事ティアンの子供を送り届けた俺たちはレストランで食事をしていた。

 もちろん『天下三ツ星亭』何ていう高級店ではない。お財布に優しい庶民的なレストランだ。

 <Infinite Dendrogram>内では初めての食事。

 現実と変わらず味もするし香りもする。

 ファンタジーの世界ならではの料理もあって食べるのが楽しい……のだが。

 

 

 「……そんなに食べて平気なのか、アナ?」

 

 「平気に決まってんだろ。

  って言うか、こんな美味いものを食わずにいられるか」

 

 

 目の前で美味しそうに食事するアナに尋ねる。

 その理由はアナの食事にある。

 「そんなに食べて大丈夫なのか」とは聞いたが別にアナが大食いなわけでは無い。

 食べているものに問題があるのだ。

 

 

 「これは……うめぇ!」

 

 

 美味しそうに食べるアナの手元には、ぐつぐつと煮えたぎっている真っ赤な麻婆豆腐。

 それだけではない、食べるすべての料理が真っ赤で辛い物ばかりだ。

 見ているこっちが汗をかきである。

 それに変に目立つ。

 <Infinite Dendrogram>ではそうでもないが、アナは一般的に美人の部類に入る。

 そんなアナが激辛の料理を美味そうに食べる。加えて男言葉だ。

 今でも他の<マスター>が物珍しそうにこちらを見ている。

 

 

 「そんで、これから……どう、するんだマスター?」

 

 「……食ってから話せよ、待っててやるから」

 

 

 その言葉にアナはガツガツと料理を食べ始める。

 だが、これからの事は大切だ。

 

 

 「……とりあえず【槍士】カンストまでどっかでレベル上げするか」

 

 「………………んぐ。その後は?」

 

 「……そうだな、俺のリア友でもPKしに行くかな」

 

 「……流石の私もドン引きだぜ、マスター」

 

 

 もちろん冗談だ。

 だがいつかは他の国を見て回るついでに会いに行きたい。

 初めは、ドライフ皇国なんかが良いかもしれない。

 

 

 「……まぁ、適当に決闘ランカーでも目指すか」

 

 「いいな、決闘! 正々堂々戦えるしな!」

 

 

 いまいちアナの思考はよくわからない。

 <エンブリオ>の特性としては別に一対一でも一対多でも関係は無さそうだが。

 しかし今はとりあえず『槍士ギルド』でジョブクエストを受けながらレベル上げだ。

 ジョブクエストで得られるジョブスキルもあるからだ。

 基本的なスキルはある程度取っておきたい。

 俺は食べ終わったアナを後目に会計のためカウンターへと向かう。

 手持ちは<Infinite Dendrogram>を初めて1リルも使ってないので払えるはずだ。

 

 

 「お会計は4850リルになります~」

 

 「……おっふ」

 

 

 今日は夜までクエスト&レベル上げだ!

 

 

 

 ◇

 

 

 

 俺とアナが訪れたのは<サウダ山道>だった。

 メイン武器である槍は<ノズの森林>ではやはり扱ずらいからだ。

 ここでは振るうのに邪魔になるような木々は無いし、モンスターに気づくことが出来ずに不意打ちを食らう心配もない。

 《危険察知》スキルを持たない俺でも安心して戦いに集中できる。

 

 

 『はずだったって感じか? マスター』

 

 「……心読んでんじゃねーよ。っと!」

 

 

 気合と共に槍を突き込む。

 突き出された槍は凄まじいスピードで敵モンスターを貫通し、ドロップアイテムへと変える。

 【護鎧乙女 アテナ】のステータス補正によって俺はAGIが大きく上昇している。 

 【槍士】がAGIの伸びが高めなこともあるのだろう。そのおかげかレベル上げも周りの同じ初心者<マスター>よりもかなり早く上げられている。

 実際に【槍士】のレベルは18まで上がり、《瞬間装備》を会得した。

 【槍士】のパッシブスキルである《持久力上昇》と《筋力上昇》のスキルレベルの上昇、アクティブスキルである《チャージスパイク》も会得している。

 レベル上げとしては順調と言える、問題があるとすれば……

 

 

 「……くっそ硬い!」

 

 『口が悪いぜ、マスター!』

 

 

 敵モンスターに岩石系モンスターが含まれている点である。

 山道という事もあって【ゴブリン】系以外にも禿鷹のような【リトルロックバード】、ゴーレムの【ストーンゴーレム】やトカゲの【ロックリザード】なんかが多い。

 初心者にはきつい相手だ。

 幸いだったのは動きが遅い事、そして体全体が岩なんかで覆われていない事だろう。

 

 

 「フッ‼」

 

 

 掛け声と共に【ストーンゴーレム】の岩の鎧の隙間を狙い穿つ。

 AGIの差で槍は狙い通りその体を削りえぐる。

 だが、それだけでは倒れない。

 

 

 『GUOOOOO!』

 

 

 <Infinite Dendrogram>のゴーレムも例に漏れずHPが多いのだ。

 STRが高くない俺では一撃では倒せない。

 槍を突きさした形で止まる俺に向かい、ゴーレムの腕が唸りを上げる。

 例え、HPとENDも補正があると言えども食らえば【ティールウルフ】のような微ダメージでは済まないだろう。

 だから、やられる前にやる。

 

 

 「……っらぁ!」

 

 

 槍を離し、動きの遅い【ストーンゴーレム】に向け拳を叩き込む。

 四、五発叩き込むと【ストーンゴーレム】はドロップアイテムを残し消えていった。

 本来なら反射ダメージを食らうところだが、【護鎧乙女 アテナ】は鎧型<エンブリオ>。

 俺が負うダメージは0である。

 

 

 『それ、逆に乙女である私で殴りかかってるんだぞ? わかってるか?』

 

 「……まぁ、これが一番効率いいからな」

 

 『そういう問題じゃねぇ! 私が嫌なんだ!』

 

 

 アナはそう言うが篭手自体には傷一つ付いていない。

 これもアナの<エンブリオ>としての性質なのだろう。

 本当に硬い奴だ。

 

 

 『それは私が硬い女だって言っているのか!』

 

 「……間違ってはいないな」

 

 「否定しろよ、マスター!」

 

 

 そんな事言わないでもわかっているだろうに。

 お互いに軽口をたたきながらモンスターを次々と倒していく。

 加えてここのモンスターはドロップアイテムがそれなりの値で売れる。金不足な俺たちにはぴったりなのだ。

 

 

 「……っと、またレベルが上がったな」

 

 

 【ゴブリン】を倒すと同時にレベル上昇のアナウンスが脳内に響く。

 一つ目の下級職だからか、初心者向け狩場でもかなりレベルが上がりやすい。

 だが、それでも限界があるのだろう。

 流石に少しレベルが上がりずらくなってきたように思える。

 そろそろ狩場を変えるべきかもしれない。

 

 

 『マスター、一度アルテアに戻らないか?

  私なんか疲れてきたんだけど』

 

 「……お前の事は知らないけど……そうだな。

  ジョブクエストの報告もしなくちゃならないし」

 

 

 それに新しい槍も欲しい。

 新しい狩場へと向かう為にももう少し攻撃力の高い槍が必要なのだ。

 初心者装備は初心者用狩場までという事なのだろう。

 【ゴブリン】が落としたドロップアイテムを拾い上げ、アイテムボックスにしまい込む。

 その瞬間だった。

 

 

 『おい、マスター』

 

 「……ああ、なんか来てるな」

 

 

 聞こえてきたのは何かが駆ける足音。

 何かが迫りくるような足音が地鳴りと共に聞こえてくる。

 揺れからして<サウダ山道>の王都アルテアとは逆方向、確か”決闘都市”ギデオンへと続く道のはずだ。

 道の向こうに薄っすらと砂埃が見える。

 

 

 「……あれは……人か?」

 

 『ああ、正確にはモンスターに追われている人だな』

 

 

 馬に乗ってこちらへ逃げる人、そしてそれを追いかける形のモンスターの群れだ。

 モンスターの数は10を超えている。

 

 

 『助けるか? マスター』

 

 「……まぁ、どちらにしてもこっちに来るしな」

 

 

 それに助けたらもしかしてお礼……もとい金が貰えるかもしれない。

 迫りくるモンスターの群れに向かい槍を構える。

 すでに馬に乗って逃げている人……おそらくティアンの商人はすぐ近くまで来ている。

 しかし馬もどこかに傷を負っているのか満身創痍だ。

 このままではモンスターに追いつかれるかここまで逃げ切られるか分からない。

 ティアンの商人がやられては、もらえる物も減ってしまう。

 

 

 「……しょうがない」

 

 

 すでにアナは鎧形態へと変形ずみだ。

 俺は足に力を込めながら前傾姿勢をとり、

 

 

 「え?」

 

 

 逃げながら驚きの声を上げるティアンの横を駆け抜け、後ろへと続くモンスターを蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされたモンスターは文字通り吹き飛び、光の粒へと変わっていく。

 だが、それだけでは止まらない。

 蹴り飛ばすと同時に一番近くのモンスターに槍を振るい、首を飛ばす。

 

 

 『GARURURUUU‼』

 

 

 いきなり仲間が殺されそのモンスターは唸りを上げながら動きを止めた。

 姿としては俺が初めて戦った【ティールウルフ】に近い。

 だがどこか【ティールウルフ】よりも雰囲気が違う、ただ言えることは【ティールウルフ】よりも確実に強いという事だろう。

 跳びかかってくる【ティールウルフ】もどきを蹴り飛ばしながら別方向からの攻撃を槍で防ぐ。

 どうやら連携も【ティールウルフ】よりもはるかに高いらしい。

 

 

 「そ、そいつは【アースウルフ】、【ティールウルフ】の進化モンスターだ気を付けろ!」

 

 

 背後から先ほど逃げていた商人の声が聞こえてくる。

 

 

 『逃げてなかったのかよ』

 

 「……お礼貰わなきゃならないからな」

 

 

 しかし【アースウルフ】か。

 おそらく今まで戦ってきた中では一番の強さだろう。

 レベル的には10台後半辺りのはずだ。

 【ティールウルフ】よりも強く、【ストーンゴーレム】に近い防御力。

 

 

 「……だが、勝てない相手じゃねぇな」

 

 『当たり前だぜ』

 

 

 跳びかかってくる【アースウルフ】の噛みつきをわざと篭手で受け、下を這うように襲い掛かろうとする【アースウルフ】に叩きつける。

 とどめに二体まとめて槍で突きす。

 うん、強いがそれほどではない。

 

 

 『涎は後で拭いてくれよ!?』

 

 

 アナの要求を聞き流しながら残りの【アースウルフ】を倒し続ける。

 かわしきれない攻撃を鎧で弾き、跳びかかってきたのを槍で突き殺し、威嚇代わりに蹴りを叩き込む。

 残りの【アースウルフ】の数に比例するように隙がでる連携攻撃。

 その隙を見逃さず、槍を振るう。

 槍が通じる分【ストーンゴーレム】よりも時間が掛からない。

 五分後には10体以上いた【アースウルフ】の姿はなく、ドロップアイテムだけが無感動に散らばていた。

 

 

 「……レベルが2も上がったし美味しい相手だな」

 

 『今のマスターと私ならまだ余裕があるな!』

 

 

 実際にあと10体は増えてもギリギリ勝てるだろう。

 

 

 「あ、あの! 助けて下さりありがとうございます!」

 

 

 後ろを振り向くとぼろぼろの姿のティアンが頭を下げていた。

 先ほど助けたティアンの商人だ。

 

 

 「た、助けてください!」

 

 「……は? 何言ってんだこいつ」

 

 『マスター、口に出てるぞ』

 

 

 ミスった。

 てっきりお礼でも貰えるのだと思っていたので、予想外の言葉に思っていた言葉が口から出てしまったようだ。

 

 

 「実は向こうにまだ私の仲間と積み荷が残されていて……。

  【アースウルフ】の群れに襲われているんです」

 

 

 商人は【アースウルフ】に追われてきた方向、ギデオンへと続く道を指しながら言う。

 その焦り様から言っている事は本当だろう。

 今この瞬間も彼の仲間は【アースウルフ】に群れに襲われている。

 

 

 「お願いです! 私の仲間を、妻そして息子を助けてください!」

 

 【クエスト【救出しろ――ギルバード商行団 難易度:六】が発生しました】

 【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

 

 商人は顔をくしゃくしゃに歪めながら叫ぶように助けを乞う。

 同時にクエスト発生アナウンスが脳内に響く。

 おそらくイベントクエストなのだろうが、勝手に受ける形になってしまった。

 

 

 『どうするんだ、マスター?』

 

 「……まぁ、いいんじゃない?

  俺たちでも【アースウルフ】は倒せるみたいだし」

 

 

 今の俺たちでも【アースウルフ】は十分相手どることはできる。

 正直、守りながらだとどうかは分からないがクエストを受けてしまった今では大した問題ではないだろう。

 そうなれば、できるだけ早く助けに行かなければならない。

 

 

 「……おい、正確な場所を教えろ」

 

 「は、はい! 場所はこの山道を道なりに進んだ途中です!」

 

 

 商人の言葉を聞くが早いか走り出す。

 ただ、純粋にクエストの為という理由だけで。

 その先に待ち構える敵も知らずに……。

 




【アースウルフ】(原作では登場しない)
種族:魔獣
クラス:-(Lv15前後/下級)
生息地:アルター王国/<ノズ森林>、<サウダ山道>ほか
備考:【ティールウルフ】の進化個体。
   地属性を得たことによって防御力が多少上がり、簡単な地魔法を扱うことが出来るようになった。
   災厄被害者担当モンスターから抜け出そうと日々精進中である。


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