理想の果てに 作:災厄被害者担当 ティールウルフ
□<サウダ山道> 【槍士】グレン
聞こえてくるのは怒りに狂うモンスターの遠吠え。
鳴り響くのは槍によって奏でられた
推定、逸話級<UBM>【群狼王 ロボータ】。
そして【群狼王 ロボータ】が率いる一万に近い狼型の魔獣系モンスターの群れ。
一対一万の戦闘が始まってからすでに五分の時が過ぎていた。
五分……秒計算における300秒。
そしてグレンは五体満足、いや、左腕を失いながら四体満足で今なお戦い続けていた。
それはまさしく『奇跡』と呼ぶにふさわしいものだった。
誰が、始めたばかりの下級職のマスターが耐えきれると予想できただろう。
――Type:キャッスルの守ることに長けた<エンブリオ>なら可能だろうか?
いや、何千と繰り返された攻撃にその堅硬な壁を突破されるだろう。
——Type:テリトリーの範囲攻撃に特化した<エンブリオ>なら可能だろうか?
いや、最大の敵である【群狼王 ロボータ】を倒しきれずにやられてしまうだろう。
これは彼だからできた事。
まさしく【槍士】グレンと【護鎧乙女 アテナ】による命がけの戦闘と、両の指を超える奇跡を起こし続けた先に作り出した奇跡だった。
今はその中でも三つを上げよう。
一つは彼が、グレンが槍の扱いにおいて天才と呼べる才能を持っていた事。
未熟だった槍の扱いが、生と死の瀬戸際の戦闘で研ぎ澄まされていったのだ。
槍の振るい方、足の運び。
SPの消費が死につながるこの戦闘。
必然的にスキルによる攻撃を行うこともなく、その槍術は高みへ成長し続けた。
それこそ熟練の【槍士】、【剛槍士】のティアンと並び、超えるほどに。
もし仮に【
そして二つ目は【護鎧乙女 アテナ】としての特性。
全身鎧型エンブリオである【護鎧乙女 アテナ】。
第二形態へと至り、その効力を上げた《不壊なる護鎧》はこの場において大きな力をもたらした。
一万を超えたモンスターの攻撃。
必然的に被弾は増え続けるもののモンスターの巧みな連携、そして後ろの赤ん坊を守るため動けないグラン。
二つの結果が合わさり、一時的にグレンのステータスは『超級職』に届くステータスを手に入れていたのだ。
全身鎧として堅硬なアナは砕けることなく、その力を最大限発揮した。
そして三つ目、守ることに適した環境だった事だ。
守るべき対象である赤ん坊の背後は、砕けた荷馬車とアイテムボックスが破壊されその場にばらまかれた家具などによるバリケードとなっていた。
加えて、HP回復ポーションなどが無事に多く残っていたことも大きい。
しかし、グレンが耐え切ったことに一番大きく貢献したのはそれではない。
それは、【群狼王 ロボータ】が
<UBM>として用いる特異なスキルを使わず、驚異的なステータスで攻撃してこなかった事がグランを未だデスペナルティにさせない大きな理由の一つだった。
――たくさんの軌跡を起こし、幾多の死線を超えた。
それを成したグレンと【護鎧乙女 アテナ】。
しかし奇跡では超えられないものがある。
根性、気合では変えられないものがある。
それは……
『ッツ! マスター!』
それは、アイテムとしての
アナの呼びかけとモンスターの唸り声にかき消された破壊音。
だがそのアイテムの破壊は……初期装備である槍の消失は、右手から消えた重量が何よりはっきりと物語っていた。
「……詰んだな」
『今さら諦めんな!』
「……冗談だ。加算ステータスをSTRに切り替えろっ! と」
折れた槍の柄を迫りくるモンスターに投げつけ、拳を叩き込む。
槍が消え、チャンスと突っ込んできたモンスターに蹴る。
《不壊なる護鎧》によって上昇していたステータスによってモンスターは死なないものの一撃で戦闘不可能になっていく。
攻撃という面では篭手や脚甲による攻撃の方がはるかに高い。
人によれば有利になったと思うかもしれない。しかし今のグレンの状況は紛れもないピンチだった。
「……糞っ!」
グレンは槍を用いた戦闘において天才だ。
これは紛れもない事実である。
では、戦闘においては?
『マスター!』
叫んだのはアナ、同時に視線を右へと向ける。
目に映ったのは凄まじいスピードで走り込んでくる一体のモンスター。
真っ黒な毛並みに一際大きな体の巨狼。
「……ここで来るか!」
飛び込んできたのは他でもないロボータ。
奴は戦いに参戦しなかったのではない、ただひたすらグレンに隙が出来る時をうかがっていたのだ。
そして今、槍を用いた戦闘から戦い慣れていない素手による戦闘に切り替えきれなかったグレンの隙を逃さなかった。
(速い!!)
超級職並みのステータスのグレン。特にAGIに関しては二万を超えている。
しかしそれよりも僅かに速い。
下級モンスターである【アースウルフ】などとの戦闘に感覚が慣れ、右腕を殴り切った態勢。
蹴りも放てる態勢ではない。
(————間に合わない)
次の瞬間には後ろの赤ん坊は殺されているかもしれない。
そう、迎撃しなければ……。
そう考えると同時に叫んでいた。
「……アナ! やれ!」
無意識。
例え、思考を共有できるメイデンとは言え、無意識では何も伝わらない。
しかし、アナはそれを成した。
『無茶言うぜ……マスター!!』
動き出す右足。
蹴れない体勢、それに関係なく右足が
『GRU!?』
<UBM>であるロボータも予想外の攻撃に目を見開きながらその強靭な爪を振り下ろす。
一方はAGI二万を超え、下級モンスターを一撃で戦闘不能に追い込む回し蹴り。
一方は<UBM>としての高いステータスで振るわれた鋭い爪撃。
互い一閃。
すさまじ勢いでぶつかり合った反動に、互いに宙に体が舞う。
幸いだったのは吹き飛んだ先が赤ん坊のいる馬車では無かったことだろう。
しかし、互いに一撃の反動は大きく表れていた。
「……おい、やっぱり、糞鎧じゃ、ねぇか。防具の意味……しってんのか、アナ」
『はぁ!? 何言ってんだマスター! むしろあそこで意図をくみ取った私を褒めて欲しいね!』
激しい痛みを訴える背中。
凄まじい衝撃でうまく動作しない肺を動かしながら文句を言う。
そして腰のアイテムボックスからHP回復ポーションを取り出し、
全身鎧型<エンブリオ>であるアナだから出来た、無理やり体を操った回し蹴り。
それは見事と言えるだろう。
しかしロボータとの相打ちによる代償は大きかった。
グレンは右足を半ば失い、ロボータはその自慢である鋭い爪がへし折れたのだ。
しかし代償としてはグレンの方が大きいと言える。
何しろ【左腕欠損】と【右足欠損】による継続ダメージ。なによりこれでは赤ん坊を守り切れない。
ある意味、勝敗は決したと言ってよい。
このままではまともに戦えず、すぐにデスペナルティになり赤ん坊も殺される。
結果は火を見るよりも明らかだった。
だが、グレンは結果的に再び奇跡を起こした。
それこそ無意識、偶然の産物と言えるだろう奇跡。
『【群狼王 ロボータ】の自慢である爪をへし折った』のだ。
ロボータは一匹のモンスターであり、狼の
だから……
『AOOOoooooooooON!!』
山道に響く大きな遠吠えと共に、グレンを狙った戦闘が始まった。
しかしそれだけではない。
あえて、もう一度言わねばならない――<UBM>は特異なスキルを持つ、と。
【群狼王 ロボータ】は主に三つの能力を持つ。
その一つは『群狼強化』
その名のとおり、配下であるモンスターを強化する能力。
そして『群狼強化』は率いる配下が多いほど強化される、それは配下のモンスター達だけで亜竜級モンスターなら簡単に狩れるほどに。
「……強くなってんのか」
配下のモンスターが次々と襲い掛かる。
片足を失い、敵は【群狼王 ロボータ】によって強化させている。
その差は顕著に表れた。
篭手で防ぎきれていた牙が腕まで達し、鎧で遮断出来ていた【フレイムウルフ】の火魔法が鎧下の体を焼く。
その強化は生きているモンスターの値によって決まる。
グレンがとどめを刺しきれずに戦闘不能に追い込んだ四千を超えるモンスターの強化分も。
避ける事に集中しながら必死に凌ぐ。
迷わず地面を転がり、片足で地面を蹴る。少しでも荷馬車から距離をとるように。
だがその考えも儚く砕け散った。
避けた先に突如現れた大きな影、そう【群狼王 ロボータ】だ。
本来ならば目で追えていたはずのその姿。
もちろんグレンも鎧形態のアナでさえも注意を払っていた。
しかし、その動きに気付けなかった。
『狼王権限』
その能力は、配下の数×全ステータス+1。
これこそ【群狼王 ロボータ】たる由縁の能力。
ロボータ単体ならばその脅威は逸話級<UBM>に属するだろう。
しかしあくまで単体ならば、群れを率いるその力は伝説級にも届きうる。
そして一万を超える群れを率いるロボータの力はゆうに逸話級を超えていた。
これが<UBM>。
これが王。
これが【群狼王 ロボータ】
群にして個、個にして群。ロボータは紛れもなく<UBM>だった。
「ぐっ!」
『マスター!』
ただ腕を振っただけ。
本来なら大ダメージを受けても防ぎきれる攻撃。
しかし勢いを殺し、踏ん張る足はすでに無い。
簡単に宙を飛び、赤ん坊がいる壊れた荷馬車に叩きつけられる。
死ななかったのは運がいいだけ。それでもダメージを20%減少させてギリギリだ。
「……糞、ずりぃなぁ」
泣きたくなる。
元から倒しきれるとは考えてはいなかった。
ただ、王都アルテアからの増援が届くであろう時間を稼ぐ。それだけだった。
しかしそれさままならない。
俺に力が足りないからだ。
だから今、自分は何もできずに倒れている。
「……ああ、ほんとに悔しい。
まさか暇つぶしに始めたゲームでこんな思いをすることになるとはな」
『……マスター?』
思わずこぼれた愚痴に自嘲的に笑う。
「……でも決めちゃったから、決心しちゃったからなぁ。
逃げないって。守り切るって」
動く右手で取り出したポーションを飲み干す。
左手もない、右足もない、加えて言うなら武器もない。
だがやろう。
動く体があるのなら、諦めきれない熱が心にの追っているのなら。
「……いくぞ、アナ」
『どうするつもりだ?』
「……ハッ! それこそ愚問だぜ」
死ぬまで、増援が来るまで守り抜く……なんてことは言わない。
今からは勝ちに行く。
これからは守るなど一切考えない。
欲しいのは一つ、勝利の喜び。
狙うは一つ、奴の首。
「……お前もガツガツしたほうが好みだろ?」
『……分かってんじゃん!』
一人、今度は獰猛に笑う。
回復ポーションは飲み干した、おかげでHPは完全に回復している。
状態異常のダメージもアナの<エンブリオ>のスキルの影響を多少は受けているのか微々たるものだ。
「……後は武器が欲しいな」
戦うのに素手というのは締まらない。
この際、剣でもなんでも構わない。崩れた荷馬車の中を見渡す。
そして見つけたのは怪しく揺らめく一本の十字槍。
「……運がいいな」
『いや、ちょっと待て。色々おかしいだろ』
アナが何か言っているが使えるのなら関係ない。
確かに槍の柄部分が何かの骨のような形かつ真っ赤で、矛先がなんだか脈うっている気がしないでもないが問題ない。
何より槍はこの一本しかないのだから。
『いや、よく見ろよ! 赤というよりどす黒いぞ!
それに普通の武器は脈打たない!』
「……ん? 【出血】と【死呪宣告】、あと【装備変更不可】?
こんな状態異常受けたっけ?」
『ば、ばかぁぁぁぁあ!』
問題ない。
呪いの武器だろうが使えるのならば。
新しい十字槍を支えに立ち上がる。
『そんなの使って死んでも知らねぇぞ!』
「……人を呪わば穴二つってな」
『……もしかしてそれって私も道ずれってことか!?』
「……別に二人だけじゃねぇよ。
どうせなら一万と一匹も道ずれにすればいいのさ」
赤ん坊から離れるように荷馬車を出る。
そんな俺をモンスターの群れが出迎える。
今度こそいたぶり、殺してやろうと。
『AOooooooooOOON!』
「……行くぞアナ! 第二ラウンドだ!」
再び<サウダ山道>に槍戟の音が響き渡り始めるのだった。
【■■■槍】(原作には登場しません)
“決闘都市”ギデオンのアレハンドロ商店においてあるガチャから排出された呪いの十字槍。その見た目は何かのどす黒い何かの骨ので出来た柄と脈打つ矛先という、ザ・呪われた武器★。
呪われているので所有者は手放したが、Aランクで出たということでギルバード商業団が買い取った。
王都に居を構える<月世の会>のオーナーである【
(武器としては普通に優秀)
・装備補正
攻撃力+200
・装備スキル
《■血無■》Lv.5
■または■■への攻撃に限り、防御力を無視し切り落とし、貫く。
・呪い
【出血】【死呪宣告】【装備変更不可】
装備権限:合計レベル50以上。
足りない場合は(50-現在レベル)×5秒【死呪宣告】を速める。