理想の果てに 作:災厄被害者担当 ティールウルフ
すまんな。
■【群狼王 ロボータ】
彼は生まれながらにして弱者だった。
人間が言うところの【ティールウルフ】、それが彼の種族名だった。
自身より弱いモンスターを狩り、狩られる日々。
自身が弱者であることに怒りを覚えたことは無い。ただそれをありのまま受け入れ、生き抜いてきた。
だがそんな日々にも終わりが訪れる。
それは<マスター>の存在。
突然現れた彼らは特異な力をもって、仲間をまるで作業のように殺していく。
同族だった仲間の群れは次々と姿を消していった。
諦めるかのように不死身の化け物に駆られる群れ。
息を潜めて隠れ潜み、生き永らえようとする群れ。
仲間を失い、居場所を失い、泣きながら逃げ出した群れ。
そんな同族の姿を見て、彼が何も思わなかったわけでは無い。むしろそれらは彼に大きな衝撃を与えた。
——なぜ、自分たちは弱者なのか? と。
生まれてこの方考えもしなかった疑問。
同時に心の底から湧き上がってきたのはマグマのような底なしの怒り。
<マスター>へ向けた怒りではない、自分自身の弱さへの怒りだった。
その怒りを胸に彼は群れの中で唯一
死んでも数日のうちに復活する化け物、それを何度も何度も何度も狩り続ける。
初めに居た仲間は今となっては一匹もいない、生き残ったのは彼だけだった。
唯々、収まらない怒りに突き動かされるように狩りを続ける。
彼には才能があったのだろう。
それに比例するように彼は『進化』を繰り返し、群れはその大きさを増していった。
そしてそれが聞こえてきたのはついこの間。
一際強い不死身の化け物を噛み殺し、『進化』を果たした時だった。
【【(<UBMユニーク・ボス・モンスター>認定条件をクリアしたモンスターが発生)】
【(履歴に類似個体なしと確認。<UBM>担当管理AIに通知)】
【(<UBM>担当管理AIより承諾通知)】
【(対象を<UBM>に認定)】
【(対象に能力昇華・死後特典化機能を付与)】
【(対象を逸話級――【群狼王 ロボータ】と命名します)】
意味は分からない。
ただその
振り返ると自身に付き従う数えきれない程の同族たち。
そして同時に理解した。
自分はついに狩る側になったのだと。
◆◆◆
——何故こうなった。
不思議な
そしてそのことごとくを返り討ちにしてきた。
率いる同族もあれよりはるかに多くなった。
もう自分を倒せるのは同類である、あの大瘴鬼ぐらいであろう。
——それなのに何故だ。なぜ我はここまで追い込まれている?
目の前に立っているのは小さくか弱い不死身の化け物。今まで戦ってきたものの中でも弱い部類に入るであろう。
それなのにそのたった一人に自分が、自身の群れが追い込まれている。
片腕を失い、まともに戦えないはずなのに。
片足が千切れ、まともに立てないはずなのに。
真紅の鎧を纏う男は止まることなく戦い続ける。
その禍々しい槍を振るうたびに仲間の首が飛ぶ。
それを止めようと超音速での牙顎を突き立てるが……
——何故、何故……何故倒れん!
まともに戦えないはずのその体は光の粒になることは無く、槍を振るう。
男は確かに限界だった、すでにまともに立てる体ではなく戦う事も難しい。
だが【群狼王 ロボータ】であった彼は一つ勘違いしていた、
「……アナ」
『分かってる!』
すでに立つ事も難しいほどボロボロの体、動くたびに骨の軋む音がする。
全体重を支え、動き続ける足はもう感覚さえもないだろう。
だがその体を全身鎧型であるアナが無理やり動かしていた。
本来ならば維持することも難しい態勢、人ではとることさえも難しい動きを無理やり行う。体への負荷は無視した荒業。『傷痍系』状態異常を無視することが出来る【護鎧乙女 アテナ】だからできる荒業だ。
そして片腕ではさばくことのできない攻撃の嵐。
片腕では不可能な“首を刎ねる”という芸当。
その不可能を男の持つ十字槍が可能にした。
銘を【鮮血無槍】
【
その装備スキルは《狂血無骨》という。
効果は“首または頭部への攻撃に限り、防御力を無視し切り落とし、貫く”
呪われた武器にふさわしいスキルだろう。
無論、それに対する呪いも大きい。
だがそんなことはこの場にいる男にも、【群狼王 ロボータ】にも関係ない。
問題は“槍に関して天才的な才能を持つ”男が【鮮血無槍】を握り、【群狼王 ロボータ】にとってその槍は自身を倒しえるということが重要だった。
何十、何百も槍と尖爪がぶつかり合う。
互いに音速を超えた超音速、どれだけ時間がたったかもよく分からない、ただ刻々と終わりだけが近づいて行く。
そして
先に仕掛けたのは男……グレンではない。
全く倒れる様子を見せないグレンに焦った【群狼王 ロボータ】だった。
大きく息を吸い込み、毛を逆立てる。それは何度も見せた咆哮の構え。
だが決定的に違う点が一つ。
咆哮の貯めに呼応するように黒かった毛が白く変化していく。
それは彼が<UBM>に至った際に手に入れた能力。
『AOOooooooooOOON!!』
『天狼咆哮』
その能力名通り、天まで届く狼の咆哮。数多の<マスター>を葬った必殺の一撃。
だがそれは直接的な攻撃ではない。
「なっ!」
同時に新たに追加される【拘束】と【脱力】の状態異常。
動きが取れなくなったグレンに『天狼咆哮』で強化された配下のモンスターが襲い掛かる。
狙いは首。
鎧が無い生身の場所だ。
流石にどれだけ攻撃しても倒れなくとも首を噛みちぎれば死ぬだろう。
【群狼王 ロボータ】は仲間がその首に噛みつく姿を想像し……自身の首に何かが突き立つ衝撃を受け意識を失った。
◇◇◇
□【槍士】グレン
【<UBM>【群狼王 ロボータ】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【グレン】がMVPに選出されました】
【【グレン】にMVP特典【黒狼肩甲 ロボータ】を贈与します】
地面に倒れながら<UBM>討伐のアナウンスを聞く。
目の前には首から胴体にかけて槍が貫通し、光の粒となっていく【群狼王 ロボータ】。
その最後の姿を見つめながら立ち上がる。
「……意外と呆気ない最後だったな」
『いやいや<マスター>が頭のおかしい事をするからだろ』
アナが呆れたように言うが大したことは何もしていない。
しいて言うなら【群狼王 ロボータ】の切り札が俺に対して相性が悪かったというところだろう。
あの状態の俺に対しての【拘束】はあまり意味を持たないのだ。もとより動かせる箇所など腕と頭ぐらいのものだ。そのほかはアナが無理やり動かしている。
加えて言うなら【脱力】もだろう。
アナに無理やり腕を動かせ、投擲した十字槍。
その効果はおそらく部位的な防御無視、STRに50%のマイナス補正が掛かっても大した意味は持たなかった。
『だからと言って首を噛まれながらなんて頭逝ってるぜ?』
「……まぁ相打ちってことだな」
首の付け根から噛みちぎられたように出来た傷。
投擲に全力を注いだ結果だ。
おかげで【出血】が【貧血】へと変化し、凄まじいスピードでHPが減っていく。
だが【死呪宣告】も残り数十秒、今となっては出血死か呪殺かの違いしかない。
『運がいいな。丁度援軍も来たみたいだぜ?』
「……まぁ少し遅かったけどな。あっ、赤ん坊は無事か?」
『ああ、無事だぜ。モンスター共みんな<マスター>に夢中だったからな。
今でも<マスター>の足齧ってるぜ?』
「……いや、助けろよ」
残りのモンスターも数少ない。援軍がここにたどり着くまでの間は俺の体を齧っているだろう。
鎧の個所はEND差で1ダメージも通らないのだが……。
むしろダメージをHPに変換しているのでやってることは延命措置だ。
ただ頭を齧ろうとした奴は許さん。唯一動く右腕を叩き込む。
『で、どうだったよ<マスター>。
決意したことは貫き通せたか?』
……最後の最後でウザい奴だ。
「……ああ、悪くない。
ただアナが糞鎧ってことがよく分かったよ」
『張った押すぞ? <マスター>』
だがああ、気分だけは妙にいい。
「……デスペナルティあけたら飯驕ってやるよ」
『そんなの当たり前だろ。あ、あと辛いやつだぞ?』
近くへ走り寄ってくるいくつもの足音、そしてイベントクエスト達成を告げるアナウンスを聞きながら俺は瞼を閉じたのだった。
【死呪死亡】
【パーティ全滅】
【蘇生可能時間経過】
【デスペナルティ:ログイン制限24h】
【群狼王 ロボータ】
種族:魔獣
主な能力:群狼強化、狼王権限、天狼咆哮
最終到達レベル:41
討伐MVP:【槍士】グレン
MVP特典:【黒狼肩当 ロボータ】
発生:認定型
作成者:???
備考:<UBM>としてはかなり普通の部類。
群れで行動し、その群れの大きさに比例して強さを増す。
配下モンスターだけでも『群狼強化』を使えば亜竜級モンスターを、『天狼咆哮』を使えば純竜級モンスター狩ることが出来る。
……もしかしたら後で特典武具銘、変えるかも
■■■機能を出そうかと思ったけどやっぱやめた、すまそ