理想の果てに   作:災厄被害者担当 ティールウルフ

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特に何も起きない回。
読み飛ばしてもらっておkです。


第8話

 □<サウダ山道> 【槍士】グレン

 

 

 

 

 王都アルテアへのログインより一日後。

 俺とアナは“決闘都市”ギデオンへ向けて<サウダ山道>を歩いていた。

 出現するモンスターも弱い上に途中までは一度走った道だ。道に迷うこともなく、襲い掛かってくるモンスターを倒しながら進んでいく。

 

 

 「なぁマスター、なんでいちいちギデオンまで歩かなきゃなんねぇんだよ。

  別に竜車に乗ることも出来ただろ?」

 

 

 隣を歩くアナが拗ねたような顔で愚痴たれる。

 今のアナは全身鎧形態ではない、『メイデン』特有の人型形態だ。

 今装備している【鮮血無槍】と特典武具の【黒狼肩甲 ロボータ】だけでも戦力としては過剰だったので、話し相手になってもらう為装備せずに隣で歩いていた。

 <エンブリオ>であるアナを装備せず【黒狼肩甲 ロボータ】を装備しているからだろうか、アルテアを出てからずっとこんな調子である。

 

 

 「……スキルのレベル上げと肩慣らしだよ。片腕で槍を使うのに慣れすぎちゃったからな」

 

 「でもそれだと夜までに向こうに着かないぜ? まさか夜も歩き続けるつもりなのか?」

 

 「……まぁ、野宿も一回ぐらいしてみたいだろ?」

 

 「はぁ? 私は絶対嫌だぞ。

  それにそんな事言って、真夜中に<UBM>に襲われてもしらねぇぜ? まだ【大瘴鬼 ガルドランダ】とかいう<UBM>もいるらしいしな」

 

 

 ……フラグか?

 なんだか、アナは事あるごとにフラグを立てている気がする。

 流石に同じ<サウダ山道>で二度も<UBM>に会うことなど無いだろう。出会ってしまったら、それはもう奇跡だ。

 ……因みにこれはフラグではない。

 

 

 「……そう言えば【群狼王 ロボータ】は<UBM>でも逸話級っていう、最弱の部類らしいぞ?」

 

 「はぁ~。【大瘴鬼 ガルドランダ】に出会ったら、十中八九マスターは死ぬな」

 

 「……言っとくけどお前も道づれだかんな?」

 

 

 しかし実際、出会ってしまったら確実にデスペナルティになるだろう。そんな出歩く度に死にかけていてはたまらない。

 『掲示板』でもよく情報が流れているが、上級職の<マスター>のパーティーでもよく死んでいるみたいだ。

 それでも諦めず<UBM>を探しては挑み続けている<マスター>もいるようだが。

 しかし逆にあれほど強かった【群狼王 ロボータ】が逸話級なら、噂に聞く<SUBM>の【三極竜 グローリア】を見てみたくもある。

 そんな事を考えながら【ティールウルフ】や【ロックリザード】を倒していく。

 

 

 「なぁマスター、なんか楽しい事話そうぜ。流石に暇すぎる」

 

 

 暇すぎたのだろう。

 いつも通り唐突にアナが話しかけてくる。

 

 

 「……ギデオンに着いてからの事でも考えとけよ、この周辺で一番大きな闘技場があるらしいぞ?」

 

 「へぇー、いいな! 私たちも決闘ランカーに名を連ねるか!」

 

 「……そうだなぁ、それもいいかもな」

 

 

 今の俺達は対人戦をしたことが無い。

 そう言う意味では、死んでもデスペナルティにならない闘技場での決闘はもってこいだ。

 闘士系統につくのだから『闘士ギルド』でのジョブクエストもあるだろう。

 とは言ってもジョブクエストを受ける利益は小さい。闘士系統というジョブはジョブ特有のスキルが比較的少ないからだ。

 闘士系統の特徴としてMP以外のステータスが満遍なく伸びる事、そして全ての武器種が使用可能な事が上げられる。逆に他の専門職よりは力は発揮できないという欠点もある。 

 もとより装備枠を増やすことが目的の俺からしては気にすることでは無いのだが。

 

 

 「……まぁ暇つぶしだからな。レベル上げにしろ、決闘にしろのんびりやるさ」

 

 「おう、食って歩いたりもしたいしな!」

 

 

 俺の言葉にアナが同意する。

 そんな事を他愛もない会話を交わしつつ、日が暮れるまで歩き続けたのだった。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 「本当に何も出なかったな。私は本気で<UBM>に遭遇するぐらいの事は起きると思ってたんだが。

  もしかしてこれから現れるのか?」

 

 「……勘弁してくれ。お前が言うと現実になりそうで怖い」

 

 

 不思議そうに首を傾げ、焚火に小枝を放り込むアナ。

 その横で俺は一人、黙々と手に入れたアイテムを弄りながら返事を返す。

 そんな俺達の周りには明るく遠くまで見渡せていた景色は見当たらない。日が沈み、夜の静かな闇が辺りを覆い隠していた。

 アルテアの夜とは大きく違い、数メテル先しか判断がつかない。《暗視》でも無ければまともに戦闘はできないだろう。

 だが一日歩き続けたからか、すでに<ネクス平原>まで辿り着き障害物が少ないため見渡しがよい。

 古物商でかったモンスター除けのマジックアイテムも買ったのでそうそう襲われることは無いはずだ、それこそ<UBM>にでも出会わない限り。

 

 

 「ところでマスター、さっきから何してんだ?」

 

 

 焚火を弄るのに飽きたのか、覗き込むように近寄ってくる。

 しかしアナが気になるような事は何もしていない。

 

 

 「……《鑑定眼》のスキルのレベル上げだよ」

 

 

 実は王都での【鮮血無槍】の浄化依頼が終わるまでの間、《鑑定眼》をとるためのアルバイトをしていたのだ。

 パーティーで動くなら大抵【斥候(スカウト)】がいるのだが生憎俺は独り(ソロ)

 その為、こういった基本的なスキルは一人でとらなければならない。

 本当は《殺気感知》、もしくは《危険察知》といったスキルが欲しかったが流石に時間が足りなかった。

 なので《鑑定眼》を使えるレベルまでレベルを上げているのだ。

 

 

 「はぁー、マスターも大変だな。そんなつまらなさそうな事しなきゃならないなんてよ」

 

 「……お前もなんかスキルでも取ってくれれば楽になるんだけどな。メイデンでも取れるスキルはあるし取ってみたらどうだ?」

 

 「げぇ……ヤだぜそんなの、マスターがやってくれ」

 

 

 アナは肩を上げながら首をすぼめ、焚火から暗闇へと歩き出す。

 

 

 「……どこ行くんだ?」

 

 「散歩だよ、散歩。今日一日何もして無くて体力が有り余ってるんだよ」

 

 「……遠くまで行くなよ? 襲われても知らないぞ?」

 

 「わかってるよ。マスターが<UBM>にやられる前には戻って来るって」

 

 

 ……そのまま襲われてしまえばいいのに。

 闇へと消える後姿を見送るながらひそかに呪う。

 しかし思っていたよりも詰まらない旅になってしまった。<UBM>とは言わないがもう少しハプニングがあってもよかったのだが。

 今でもモンスターの声らしき唸り声は聞こえるが、全く姿を見せる気配はない。高額だったマジックアイテムが値段に見合う働きをしているからだろう。

 具体的な値段は言わないが【群狼王 ロボータ】の討伐報酬が半分消し飛んだぐらいだ。

 かなり性能がいい。

 

 

 「……まぁ、たまにはこんな日があってもいいのかもな」

 

 

 今にしてみれば、まだこの世界に来てから三日目である。

 むしろ今まではハプニングが多すぎたのだ。

 一日目で下級職をカンストなどガチ勢でもそうそうできないだろう。

 加えていきなり<UBM>に挑むなど狂人のやることである。

 ……いや、ゲームならボスへの死に戻り前提のチャレンジなど当たり前だろう。こう考えてしまうのはやはり、この世界をゲームだと思っていない証拠かもしれない。

 

 

 「おーい! マスター!」

 

 

 聞こえてくるアナの声に我に返る。

 どうやら無意識に考え込んでいたようだ。

 アナの声のする方へ顔を上げ……

 

 

 「……ちょっと待て、そこで止まれ」

 

 「何でだよ?」

 

 「……なんでだよ、じゃねぇよ。その手に引きずってるのは何だって聞いてんだ」

 

 「あぁ、これか? 私が拾ったんだ、従魔にしようぜ!」

 

 

 アナはそう言って手に引きずった人型の何かを俺に見せる。

 なるほど、確かに泥だらけでぐったりとして死んでいるようにも見える。おまけにへんな唸り声が聞こえてくるので完全にゾンビか何かのモンスターにも見えなくはない。

 だが、

 

 「……それ、何か分かってるか?」

 

 「はぁ? グールかゾンビじゃねぇの?」

 

 

 正直、ゾンビやグールを従魔にしようとしたアナにドン引きだが……今それは関係ない。

 

 

 「……いや、それ<マスター>だろ」

 

 「え?」

 

 

 左手には<マスター>の証である“本を象った紋章”が輝いている。

 絶対にグールやゾンビなどと言った名前ではない。

 

 

 「……今すぐ元の場所に返してこい。そいつが起きる前に」

 

 「……そうだな、うちはペット厳禁だって言われたしな。

  しっかり返してこよう、起きる前に」

 

 

 ……オエット厳禁などとは一度もいったことは無いがその通りだ。

 従魔候補のモンスターならともかく、<マスター>は駄目だ。

 俺も協力して、起きないように運び出し……

 

 

 「う、う~ん……ってあれ?」

 

 「「ふっ!」」

 

 

 見事、目覚める前に投げ捨てる事に成功したのだった。

 

 


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