すまん。
夢を見た。
この夢は子供の頃からの夢。
綺麗な女の子と別れる夢。
追いかける夢。
そして、その子に抱えられながら、眠る夢。
そのどれにも、涙があった。
決別の覚悟。
叶うはずのない悲願。
そして、永遠の別離。
……俺は少年の頃から、最後の涙の意味は知っていた。
だからもし、この夢の通りに世界が廻るのなら。
最後の涙だけは、流させまいと決意した。
それが俺の……。
君は、どうしたい。
「あなたは、だれだ」
君は、どうしたい。
「俺は……彼女に会いたい」
それだけかい。
「……会うだけじゃダメなのか?」
君はもう知っているよ。
「……」
それだけかい。
「いや、そうだ……。それだけじゃない。俺はきっと、守りたいんだ。あの時、手を取れずに死んでしまった過ちに報いる為にも」
……。
「教えてくれ。大切な人の守り方を」
もう持っているだろう?
「持っている?何をだ?何が言いたいんだ?」
大丈夫。
僕の願いと共に、君は羽ばたくんだ。
「願い……?もしかして、あなたが龍之介さんの……!!」
それの使い方は、分かるね。
月並みだが、言葉を贈ろう。
『最高の結末へ向かい給え』
「うああああああああああああ!!」
溢れた涙は止まず、一粒、二粒と次々に零れ落ちる。
「字ぁ……!字ぁあ……!!」
涙で視界が滲む。声が枯れるほどに泣き叫んだ。
ふと、頰に。
温もりを感じた。
目を見開く。
彼の右手が、文の頰をさすっていた。
「ああ……」
こちらも掠れるぐらいの声で、言葉を紡いだ。
「泣かせないように……って……決めてたのになぁ」
「あざな……?」
「あや。ごめんなぁ。遅くなった」
少女は、顔を青年の胸に埋めた。
「バカ……!このバカ……!!」
「ごめん。本当にごめん」
「死んだかと思っだぁ…!!だっで……!!いるなんて……!!」
「大丈夫だから。近くにいるよ。消えたりしないから」
「字ぁ……!!」
「会えてよかった。本当に。よかった」
二人は、しばらく不恰好に抱き合っていた。
大きな地響きの音により、二人は我に返った。
まだ、異変は終わっていない。
その事実が、二人の顔色を変えた。
「文。積もるは山ほどあるが、先にあの化け物を倒さないと……!」
「今は博麗の居候が戦ってるから、時間は稼いでくれてる!急いで逃げよう!」
「ぐっ……!待て、今その人が一人で戦ってるのか!?」
「ええ、大丈夫。あの人、博麗の巫女と同じぐらい強いですから!」
そう言って字の手を引こうとする文に、字は疑問を呈する。
「その人だけで勝てるのか?」
「そうですよ。いつものように……」
「その『いつも』っていうのは結果論に過ぎないんじゃないのか……っ。その人がどんなに強かろうと……!……勝てなきゃ守れねぇだろ……!」
「……っ!?」
字の激昂は正論であった。
「あれはお前たちから見て楽勝な相手なら何も言わないが、現に今この時まで戦ってるんだろう?そんな苦戦している相手を見て、確実に勝てるとは思えない」
「じゃあ、どうするんですか」
「俺に考えがある」
「無謀な考えじゃないですよね」
「見てくれれば分かる」
そう言って、字が取り出したのは黒い羽ペン。
瓦礫から屋根の瓦を取り出し、そこに『砕』の字を書いて壁に放り投げた。
壁に激突にた瓦はしばらくした後、ひとりでにパキンっ、と粉々に壊れる。
「これは一体何ですか!?」
「昔、鴉天狗が外の世界に置いていった小説家との友愛の品らしい。こんな使い方がある事はさっき知ったが」
「さっき?」
「ふとコレの使い方が分かって、俺の左腕にさっき『活』の字を刻んでいたんだ。今は消えてしまったが、きっとこの羽根ペンには『字の通りの現象が起こる程度』の能力がある」
「なんで分かったんですか?」
「些末事だ。……そんな事より、先に向こうを片付けるべきだ。……なぁ、文」
「なんです?」
「俺の考えなんだが、俺を担いで飛ぶ事は出来るか」
「……あの」
「なんだ、文。無理はしないでくれ」
二人の目の前には遠くてなお大きく凶暴な植物の巨人、そしてそれの進行を阻止すべく動く博麗の人間。
そんな中、文と字は、字の提案により。
「……無性にすっごく恥ずかしくなってきたんですが」
「それはガマンしてくれ」
お姫様抱っこをしていた。
「なんでですか!?別にこれじゃなくても良くないですか!?」
「さっきも言っただろう。自分だけで行くならともかく、俺は唯一無事だった右手ぐらいしかまともに動かせないんだ」
「だからそうじゃなくて、何もこの体勢でなくたっていいという話をしてるんです!!」
「まず作戦だが……」
「話を聞けェ!!」
「さっきの瓦の要領で奴の足部分、腕に『文字』を書く。文は俺を運ぶ事と避けるのに専念してくれ」
「さっきの『砕』の字を書くんですか?」
「いや、それよりも植物に効果的な字があるだろう?」
「……なるほど」
「とにかく、花が咲いてるところがラフレシア本体と分かった以上、体を構成する蔓を減らすしかない。頼むぞ!」
「はい、行きますよぉ!!」
鴉天狗の翼を広げて飛び立ち、僅か1秒で最高速度に到達する。
字はGに耐えながら、正面にいる巨人を見据える。
勝てるだろうか。
策はある。だが、確実に勝てる保証なんて何処にもない。
それでも。
不思議と、彼女といるとなんでも出来る気がしていた。
それは文も一緒であった。
二人の戦いの火蓋が切って落とされた。
この瞬間をただ一時のモノにしたくない。
自分で断ち切った心を。
記憶と共に消えた思い出を。
もう一度繋ぐ為に。