『後、少し。今日の夜まで待ってくれ』
『まだ、やりたい事がある』
二人で電車に乗って都会の方に向かう。その間、文は妙によそよそしくなっていた。
何をされるのか。想像出来ない訳ではない。
そういう事なのかもしれないと思いつつ、否定出来ないかもしれない自分に驚愕した。
自分は幻想郷の妖怪である。決して人間ではないのだ。
それでもこの二日間、たった二日間で変わって来ている自分も確かにいた。
「降りるぞ」
その言葉に驚いて、意味がわかってすぐに立ち上がる。今の自分はおかしい。そう思いながらも、字について行くことしか出来なかった。
彼と共にデパートのような場所に入った。そこで彼はカメラを借りたいと言い出した。私の持っている写真を使いたいらしい。すぐに返して貰った。
別の場所に行って貴金属の店に行った。何かを買ったのは見ていたはずだった。
でも、それどころではなかった。私は字になにを言われても上の空だったと思う。
「……」
字の所為だ。今、私は凄く動揺している。
「……い」
「おい!大丈夫か!」
「わっ!!だ、だだだだ大丈夫です!」
「……全然大丈夫じゃないだろう。どれだけ声を掛けたと思ってる」
初めて字が怒るのを見た気がする。そこまで長い間一緒にいた訳ではなかったので、当たり前かもしれないが。
「ところで、ここはどこですかね?」
あはは……と笑いながら聞く。正直、来た道すら覚えられていない。どれだけ私は色恋沙汰に弱いのだろうか。
「……ここに来た理由は、お前を帰すためだ」
………………え?
自分のナニカが止まった気がした。
「今日の朝のことだ。橋立と梢が来る前だ。実は一人、来客があった。もちろん俺が対応したが、その人は幻想郷という場所から来たこと。文がそこから事故でここの世界に来たこと。文は……人間ではないこと。色々教えてくれたよ」
「……知ってたんですね」
「ああ。あの人は文を連れ戻しに来たそうだ」
目眩がした。
もう、会えなくなる。
その事実だけが、文に大きくのし掛かっていた。
「だからせめて、夜まで待って欲しいと願い出た」
「……え?」
「後悔はしたくない。だから無理を言った。応えてくれるとは思わなかったが」
彼は続けた。
「知って欲しかった。お前が心配するほど、俺は弱くない。支えてくれた人達がいることを。ここに君の未練を断つ」
「忘れないでいて欲しかった。どんな事があっても、俺が、君が、傍に居ると思えるように。ここに俺の未練を断とう」
「コレは君へのプレゼントだ。そして……」
「好きだ。未来永劫別れようとも、君を愛し続けよう」
視界がぼやける。文は涙を流していた。
「君に迎えが来た時にやっと気づいた。一目惚れだったんだ。時間が有限な上に、遅かったとは思う。……答えを教えてくれないか」
「ごめんなさい」
発した言葉は何よりも弱々しく、儚いものだった。
「ごめんなさい。私も好きなのに、ごめんなさい……」
彼は微笑む。答えを得たとでも言うように。
二人は抱き合う。
「そのロケットペンダントを持っていてくれ。せめて、文が俺を忘れないように。迎えの人によると、君に関係した人たちの記憶は消えるそうだ、物しか、残らない。それでも、きっと思い出す。きっと会いに行く。待っててくれ」
「うん……!待ってる。待ってるがら……!!」
二人が交わした融けるような口付けは、温かかった。
雪の結晶が二人を彩っていた。
「おーい、起きてるー?ねーえー。起きろぉー!!」
「!?」
少年の目が覚める。目の前には梢がいた。
「やっと起きた。あんた起こすのホント手間がかかるわねー!」
「……悪い」
「早速だけど、ご飯作って!今日のあたしはあんたのご飯食べないと元気出ないのよねぇ……」
「分かった。……何故付いて来る?」
「あ……あたしも、手伝うわよ。少しずつでも頑張らないと、橋立さんの姉さんみたいになっちゃうから」
「ふっ、そうか。少しずつ覚えていけ」
二人で揃って台所へ向かう。準備をしていると梢から声が掛かった。
「ねぇ、権兵衛。この掛け軸、気に入ってる?」
「ああ、何故だろうな。それに俺は魅力を感じる」
「ふーん、この『字』がねぇ……」
「違う」
「え?」
「それは
「どっちでも良いわよ。……あ、ごめん!先に風呂入らせて!」
「急にどうした」
「昨日遅くに入ったから、まともに身体洗えてないのよ!ごめんね、借りる!」
「おい……!やれやれ」
台所に戻ろうとすると、とある写真が入った額縁が目に入る。
ぎこちない俺の表情と……もう一人の女の子は誰だったか。
額縁を掴み少し考えるが、朝ご飯の準備の途中だったためそちらに意識を戻した。
「字ぁー!シャンプーないよぉー!」
「あ……。すぐ行く!」
おっと、忘れていたか。
ポケットから取り出したペンダントを首に付け、歩き出した。
「あー間に合ったー、これで休刊の分は返上ですねぇ!」
筆を置き、背伸びをする。今回の見出しは河城にとりの発明ランキングワースト10である。奴のせいで川の中に一回叩き落とされたのだ。これぐらいで許されるだけありがたいと思って欲しい。
今回の騒動では、あのはたてが真っ先に助けを求めていたのは驚きだった。おかげで救出も早かった。
おもむろに引き出しを開ける。そこにはたくさんの記事が詰め込まれていた。それは、彼女が記事にしなかったものが入っている。理由は様々、記事にするべきではないと判断したもの、単純に文自身が恥ずかしいもの。
一番上にある記事、『東方文字録』は、その後者にあたる。
さぁ、今日も面白い記事を探しに行きますか!
文は小さいペンダントを首に掛け、大空へ羽ばたいていった。
メリークリスマス!
これをやろうと言い出したのは自分で、リクエストしてくれたのがM氏なのですが、どんどんクリスマス間に合わなくなってしまいこの体たらく……。
M氏ごめんね!頑張ったよこれでも!
本筋は変えるつもりはないですが、近々修正するかもです。
特別編の企画としてはまたやりたいとは思ってますので、もし要望があれば(時間もあれば)頑張ろうと思います!
見てくれた方、ありがとうございました!