射命丸文は伝えない   作:夢見 双月

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『心』を整える

 ワシの友の話だ。無理に聞かなくても良い。ほとんどアイツの自慢だからな。

 

 

 アイツが名もなき小説家の頃、下手っぴな文章で世界を動かそうと躍起になって空回ってた時期がある。

 

 その頃はもう必死に書き、ネタというネタを全て消費して、世間に訴えかけようとしていた。

 

 当然、日の目をみない新人小説家など世間は無視し。

 

 数少ない読者からも離れられて行ってしまい、小さな努力すらも棒に振った。

 

 当時はそれでいてメンタルの弱い奴だったから、ワシらに助けの連絡一つもせずに自殺に追い込まれていった。

 

 アイツはやがてロープを持ち、傍迷惑な事にワシの家の山へ自殺のために入っていった。あやつら片桐家の者が山に入る輩を監視し始めたのもこの話を聞いてからじゃ。我が息子、娘ながらなんと優しいことか。

 

 そして、ロープを首にかける瞬間。声が聞こえてきたという。

 

『お兄さん。何をしてるんですか?』

 

『えっ?死のうとしてるんです』

 

 コイツバカじゃろ?

 

 人がいるのに死のうとするんじゃぞ?

 

 バカじゃろ?

 

 当時の話を聴いてみたら、あの時は幻だと思ったらしい。

 

『死にづらくありませんそれ?』

 

『何故?』

 

『苦しいじゃないですか。楽な死に方もっとありますし。今日は諦めて楽な死に方探した方が有意義ですよ』

 

『死ぬのに有意義も何もあったもんじゃないな』

 

 一見、ツッコミ所は満載なんじゃが、この会話によってアイツは自殺をやめた。

 

 経緯を知れば分かるが、此奴の正体こそ鴉天狗じゃ。じゃが、鴉天狗という事と、こんな感じの事を言っていたという事しか知らんからイメージと違う事がある。お主の追っている少女とは関係ない可能性もあるからな。

 

『あっ、生きてるついでに私の新聞読んで下さいよ』

 

『はっ?』

 

 その鴉天狗はあろうことか、自分が書いたという作品をアイツに見せたんじゃ。あくまでイメージじゃから、新聞ではないかもしれんぞ。

 

『……』

 

『どうですか……!誰が見ても素晴らしい出来ですよ!』

 

『いや、嘘っぱちってのがわかりやすい、いい作品だな』

 

『完全に皮肉じゃないですか!?』

 

 どんな内容だったかは知らんが、思っくそ貶しまくって批評したらしい。まぁ、アイツは着眼点やアドバイスには目を見張るものがあったからいい加減な事は言わんかったろう。

 

『そんなんでいいなら、俺の方が良いものを作れるぜ』

 

『言いましたね……!なら、勝負です!』

 

 簡単に言えば、ライバルだったらしい。時にはアイツの部屋の中、2人で缶詰になって苦しんだり、心が折れそうな時はベジなんたらのように励ましてくれたそうだ。

 だが、誰であれ切磋琢磨し合う仲というのは、成長するにはもってこいだったろう。

 やがて人気が出始め、当時の名声がワシや画家と同じくらいまで上り詰めてきた時。

 

 

 別れが訪れた。

 

 

『何故だ!?お前の新聞も、次が読みたくなるぐらいには洗練された出来になったばかりじゃないか!?』

 

『こればかりは趣味ですからねぇ。鴉天狗の存続とどちらを比べるんだ、と言われてしまうと……ですねぇ……』

 

 もちろん、この時にはアイツは鴉天狗の正体を知った上で絡んでいた。だからこそ、納得出来ない事もある。

 

『「誰もが永遠に届かない夢のような場所」!?俺にすら新聞を届けられなくて何が新聞屋だ!?』

 

『……っ!』

 

『地味に楽しみにしてたんだぞ!?お前の記事に、俺の連載を載せてくれるって!そっちの仲間にも読んでもらえるようにするって!』

 

『……がい……めて……!』

 

『有名になったら、友達のよしみでページを全部使って記事にしてやるって!冗談でもよぉ、本当に嬉しかったんだぞ!?それをお前は……』

 

『お願い……やめて……』

 

『あっ……』

 

 やっとバカは気付いたのさ。鴉天狗のヤツが苦渋の末に、離れる事を決めたのを。

 鴉天狗の涙がそれを意味していた。

 

『ごめんなさい……!ごめんなさい……!』

 

『……!』

 

 そりゃ、何も言えないさ。謝られようが、泣かれようが、なんて言えばいい?

 少なくとも、引き止める事はもう出来ない。かと言って、馬鹿正直なアイツだ。ただの別れであると割り切る事もできない。

 

 去ろうとする鴉天狗に最後、アイツはこう叫んだ。

 

『絶対に、お前の場所に届くぐらいの作家になってやる!絶対にだ!!覚えてろ!!俺は必ず、て”め”ぇ”に”と”と”く”ッ!!』

 

 泣きながら叫んで、情けなかったと思うぜ?出会って1年や2年じゃない。アイツはこの頃には立派なおっさんだ。そんなヤツが鼻水垂らしながら泣いてやがんだ。

 

 そして、鴉天狗は飛び去って行った。

 

 泣き崩れるバカに、ひらひらと羽根が落ちていった。

 

 それが、お前に渡した鴉天狗の羽根ペンさ。

 

 

 

 ん?何故羽根ペンかって?

 

 アイツがそう言ってたからさ。

 

 

「龍。俺は永くねぇ。そろそろ死ぬぜ?マジってやつさ。こりゃ参ったね」

「何言ってんだ。鴉野郎ともまだ会えてねぇ奴がよ」

「耳が痛いねぇ。……おい龍。そこにいるんだろう?」

「……ああ、いるぜ」

「俺が毎回自慢してるアイツの羽根……なんだがよ……。あれ、偽物なんだわ」

「ああ……は?」

「お前、俺の家に来る度に『あそこの金庫の番号なんだよ』って言うだろ?仕方ねぇから教えてやるよ」

「お前……」

「結局、アイツに会って、アイツのための作品を書くために置いておいたのに……全然会えねぇんだもんなぁ。その時以外使う機会なんてないよ」

「……」

 

「お前が持っててくれ。会えたらでいい。渡してくれ」

 

 

 

 

「馬鹿野郎。あの後すぐに死んじまいやがって。何が鴉野郎のための作品だ……」

 

 

「もう、作ってんじゃねぇか。……鴉のための物語を」

 

 

 お察しじゃと思うが、金庫にあったのはその羽根ペンとアイツの晩年の本。そして本に不恰好なセロハンで貼られたアイツ愛用の羽根ペンがあった。

 

 持っていってやってくれ。コイツ、画家の野郎が編み出した特殊ラミネート加工をしてやがるから、物理的な衝撃は当たり前、耐水、耐火、ブラックホールにぶん投げても壊れねぇよ。……ブラックホールは言い過ぎじゃな。……おい、本気にしたらワシ怒るぞ?マジでやめろよ?大事にしろよ、全く。

 

 

 

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