0時丁度は無理だった。ごめんね遅くなって。
後、終わりどころを見失ってしまってるので「他にも色々あるし、そろそろ終わらせないとなー」と考えている作者であった。
まだまだ続きそうだけどねッ!!(泣)
鴉天狗の羽根ペン。
それはかつて願った、友との誓いの証。
互いに切磋琢磨し、対立し、笑い合いながら、過ごした思い出の結晶。
遥か未来に希望を持ち、再会を願う魂の結晶。
なんとなく。彼がこの羽根ペンを使うのを躊躇った理由が分かった気がする。
同時にそれは、俺がこの羽根ペンを使う理由にもなった。
黒の羽は不思議な力を持っていた。
お伽話でもなんでもない、小説家さんの言った通りの本物という証明だろう。
それが時代によるものか、鴉天狗の力なのかは分からないが。
手に取ると、不思議な力がすんなりと自分を受け入れたのを感じた。
身体の中に心地よい異物が入り込む感覚を全身で感じる。
ふと、例の羽根ペンは手から消えていた。
願う事なら。
いや。
俺に、願う事はない。
「俺から行けばいいのだろう?……文、待っていろ」
吸い込まれるような黒眼を持っていた少年の目は、
神社の裏手を越え、森の中を進んでいく。
進む。
進む。
あの地まで、ひたすらに進む。
決して、恐怖がなくなったわけではない。無数の蜂に襲われたのが脳裏に焼き付いて離れない。
それでも、行くべき理由がある。
異世界に通じる世界の亀裂。
元々、あの花の上に存在するそれは、花を妨害なしには通れない。
結局のところ、目的の為としても交戦は避けられないのだ。
「きたぞ、怪物」
高木のない広々とした空間の中心に構える異形の存在。
見渡せば、以前の時より空間が広くなっている。おそらく、先日俺も味わった蔓により、陽の光を遮る樹木も片っ端から薙ぎ払い、養分にしているのだろう。
ただの花ではない。
意思が確かに存在し、狡猾に生きていた。
怪物のテリトリーに入り、向かい合う。
ラフレシアも字に気付いたのか、自身の周辺に蔓をなびかせる。
瞬間、複数の方向から蔓が襲い掛かってきた。
「さぁ。あの時の屈辱、雪がせてもらうぞ……!」
鴉天狗の大まかな特徴としては二つ存在する。
一つ、剣術に秀でていること。伝説にはかの源義経が幼き牛若丸であった頃、牛若丸は天狗から剣術を習ったという。
二つ、速さに置いて鴉天狗の右に出る者はいないこと。これは射命丸文の能力から考えても想像しやすい特徴だろう。
ならば、鴉天狗の羽根と融合した人間はどうなるか。
鴉天狗本来の性能は出せなくとも、この二つに秀でるのは当然の帰結である。
鴉天狗由来の反応速度と俊敏性を持った字には、この程度の攻撃は回避出来て当然である。
蔓が身体掠る事もなく、正面に向かって疾駆する姿はラフレシアにとっても脅威に映るだろう。
先程の猛威に加え、背後からも攻撃を繰り出して字を追い詰めようと画策した。
しかし、瞳が紅くなると同時に動体視力も向上している字は、体勢が整う前に隙間を縫って回避。そのまま要所である塊の三箇所を殴り倒し、蹴り飛ばして速やかに後方まで下がる。
「……まずは関門その一、と言ったところか」
要所と定めた三箇所。それは、周辺に点在するラフレシアが操る蜂の住処三つ。
つまり、蜂の巣。
字は蜂の利用法に、一つの弱点を見出していた。
「ミツバチという蜂がいるように、花の蜜や花粉を持ち運ぶ蜂がいるのは当然だが。悪く言えば花と蜂の関係性はそこにしかない。つまり、蜜によって蜂達を操っている事は容易に想像できる」
「だが、住処を破壊されて怒らない蜂はいないだろう?潤沢な餌の事などそっちのけに襲撃者を襲う」
蜂の巣から、幾万の蜂か一斉に飛び出す。やがて、全ての蜂が空をも覆った。
「より効率的な運用法があったとしても、怒り狂う奴等を従わすのは骨が折れるぞ」
字が恐れたのは、蔓と蜂の多方向同時攻撃である。それをされれば、字とて前回の二の舞になっていただろう。
しかし、蔓の射程距離外まで退避した今なら。蔓の妨害を最小限にした上で蜂のみを相手にすることが出来る。
腰に無理やりつけた布を括り付けた木の棒を取り出し、巻き付けた布の部分にライターで火をつける。
さらに、上着の内ポケットに引っ掛けておいたビンを取り出した。
蜂の絨毯が火を見て僅かながら動揺する。
なるほど。動物同様、火を嫌うのは当たり前か。
「俺の家には愛煙家で、異常な程酒好きな爺さんが以前いてな。この松明こそ手作りだが、他のは全て家に置いてあった。例えばこの変に高火力なライターとか、このアルコール98%のスピリタスと呼ばれるものとかな」
そう言って、一気にスピリタスを口に含みだす。
人間である字の異様な光景を恐れながらも、蜂達は退治せんと突貫していく。
字は口に含んだ酒を松明に向けて噴き出し。
突如、火炎放射が蜂を尽くを包んだ。
「……おえっ、げほっ!うっ……!……はぁ、はぁ、きついなこれ……!少し飲んじまったし……ピエロの真似事なんかするもんじゃないな」
辺りは蜂によって焦土のように見えた。
あちらこちらで草や木の葉が燃え移っていた。
「……ついでに言えば、こっちは風上だ。火は緩やかでもお前達を包んだ筈だ。……だが……すまない」
小さくそう呟く。許されることではないが。
気休めの謝罪を言葉に乗せた。
「さて、あとはお前だけだ」
ラフレシアには聞こえるはずはない字の言葉。しかし、彼に応えるかのように植物全体が揺らめいた。
まだ負けてない、と。
正面から突進する字。左手には酒。右手には松明を持って突撃した。
それにラフレシアは幾多の蔓を以って払いのける。
「くぅ……!」
思わず声が漏れる。先程よりも迫真に迫ってくる殺意を受け流し、松明で弾く。
松明を当てて軌道を逸らした蔓が僅かに焦げていた。
「うおおおおおああああ!!!」
字の雄叫びが森中に響く。
それが勝負の終わりを告げる叫びとなった。
松明が蔓に弾かれた。それに気を取られた瞬間に左足を取られる。
字が酒瓶を投擲するも、これすらも弾かれてラフレシアを僅かに掠めた程度に撒き散らされた。
あらゆる方向から襲い掛かる蔓の猛攻に、転倒しながら防御の態勢を取るものの、全てが字に直撃した。
勝敗はここに決した。
「俺の勝ちだ……」
字が、そう呟いた。
「……教えておいてやる。アルコールってのは水よりも蒸発しやすい。だから、今のお前の近くの空気中にも蒸発して気体となったアルコールが存在する。そして、もう一つの着火材、マッチの数本に火をつけてお前に投げる。あとは、さっきと同様、燃え移るだけだ」
そう言って手首の力だけでマッチを複数、ブチまけられた酒の辺りに投げた。
小さな爆発と共に燃え盛る世界最大の花を見て、立ち上がる。
「言ったろ。爺さんは愛煙家だ、って。マッチやライターなんて、俺の家にうんざりするほど積まれてる爺さんの置き土産だよ」
しばらく、花が燃え尽きるまで、その場にいた。
辺りをうろついて大きい火種を消しながら、ひたすら待ち続けた。
やがて、最後の煙の一本が消えると字は手を合わせ、目を閉じた。
「傷はあるが、まだ動けるだろう。後は、あの亀裂に飛び込むだけ……か」
もう戻ってこれないかもしれない、そうかつての恩人は忠告してくれた。それは事実だろう。
「それでも……」
会いに行きたい。決意は揺るがなかった。
––––今まで、ありがとう。
「よし……行こう!」
思いっきり一歩を踏み出し、亀裂に向かって飛び出した。
光に包まれる。
そして。
「は?」
空に投げ出された。
「……すまん橋立さん。早速死ぬかもしれん」
何も出来ないまま、字は林の中に墜落していった。
––––。
––––––––。
––––––––ん?
…………なんだあれ。
おーい。誰かいんのか?
おおっ、クレーターか!?なんで、って……!
大丈夫かー?おーい。
仕方ねぇ、取り敢えず運ぶか。
ん?ええー?なんだお前。
「なんでお前の翼、片方にしかついてないんだ?」
「ま、いっか。……てか、死んでないよな?大丈夫だよな?……アイツに借り作りたくないから無事であって欲しいんだけど……」
「……後で慧音に相談してみるか」
幻想の果ては、ついに彼を受け入れる。
拾い人は案内人なれば。
再会の時は近い。