転生オリ主チートハーレムでGO(仮)~アイテムアビリティこれだけあれば大丈夫~ 作:バンダースナッチ
先制攻撃には欠かせない弓矢をあやつる戦士
『チャージ』して力をため弓を引き敵を射抜く
「トリス……次の遠征に参加してみないか?」
ベヒーモスとの戦いから半月ほど経ったあたりで遠征から戻ってきた父の言葉を要約するとこうだった。
いや、もっと言うならば拒否権は殆ど無いように思われるほどだが。
今このイヴァリースは隣国オルダリーアとの戦争の最中である。正確にはどれだけ続いたのか分からないが、戦争の継続年数を考えれば間違いなく私も参戦させられる。
つまり、こうした言葉が来ること自体は元々わかっていたのだ。分かっていたのだが、いざこうしてその言葉をかけられた事は私にとってやはり衝撃的なものであった。
戦いに赴くこと、ソレ自体は諦めていたとは言え、私の年齢を考えれば後数年はあるだろうと予想していた。しかし、その自身の予想を覆すことになったのは皮肉なことなのか私自身の行動の結果だ。
討伐隊の指揮での戦果。それも初陣でありながら多数のモンスターを討伐し、想定外の出来事であり、正規兵をもってしても危険であるベヒーモスを退けたこと。そのどちらもが父の予想していた私の実力を遥かに上回るものであり、またその力は現在の戦争の状況において必要とされていたものであった事。
過去に魔法使いとしてラ系の魔法で一人前、ガ系で熟練、そしてジャ系の魔法でエリート、もしくは相当の才能があるものでしか扱えないという状況である。
また、魔法使いとは敵から攻撃の第一標的とされることも多く、その性質から非常に戦死しやすい職業だ。
作中において『聖騎士』に代表される固定ジョブと言われる職業があった。
その固有アビリティである『聖剣技』。それらの能力は一様に高く、ノーチャージで魔法以上のダメージに叩き出し、かつその射程距離が魔法と同じという鬼畜っぷりのアビリティだ。
これらのおかげで一部を除く魔法職業の存在価値がなくなったと言われる程だ。
では今この世界、この現実に置いてもその図式が成り立つのか? 答えは否だ。
討伐時にも分かったことだが、魔法の射程と威力、そして効果範囲は作中におけるソレとは違う。
戦争時における位置づけとしては魔法のランクが上がるにつれて攻城兵器へと近づいていく。つまり、小隊レベルでの戦いではなく軍規模の戦いにおいてその真価を発揮していくと言ってもいいのだろう。
つまり、まだ幼いと言える年齢の私であっても、その扱える魔法とは非常に得難いものであり、かつそれを活用したいというのが父の考えである。
しかし、果たしてそれだけなのか?
戦力が欲しいと考える反面、父は体裁や面子を気にするところがある。勿論それは貴族として必要なものである。しかし、だからこそ分からない点もあるのだ。
戦場に私のような子供を連れていけばそれが周囲にどういった感情や思惑を与えるかを考えないはずがないのだ。
「勿論、僕も戦争に参加しなきゃならないのは分かるけど……」
「今の畏国には少しでも戦力が必要なのはもちろんの事だが、今回はそれだけではない」
父が私の言いかけた言葉をどう判断したのかは分からないが、さらに言葉を続けてきた。そしてその内容はまた別の意味で私に衝撃を与えるものだった。
「……ブランシュ家の後継に関しての問題だ」
「後継? 普通に考えれば僕かエスト……それも長男である僕って事になるよね」
後継の話とは大抵が長男が選ばれるのが世の常だ。とは言え、私としては別に後を継ぎたいという思いはそれ程なかったりもするが。
「そうだ。ここで問題なのがミルナの方の家……つまりラムサス家には後継が居ないという事だ。
私とミルナが婚姻を結ぶ際に子が二人以上できれば一人をラムサス家へと養子に出すという条件を出されたのだ」
「ええっ!? じゃあ、エストはそのラムサス家に行くって……いや、ちょっと待ってよ、あれ? なんでそこで僕が戦争に出るっていう話に繋がるの?」
父の話は判った。判りたくはないが理解はした。しかしだ、次の問題はその話と戦争に関することだ。
どうにも嫌な予感がしてくるなか、さらに父が話しを進めてきた。
「私を含めて周囲の者たちはお前を当然推すだろう。だが、ごく一部の声でお前が平民と仲良くしすぎているのをよく思わないでいるのだ」
「仲良くし過ぎるって……ローランドたちの事? っていうかそんな事言うのは一人しかいないじゃないか」
この手の話題でいい顔をしないのはボルミア男爵だろう。日頃から貴族と平民はどうこうと言っている。そして父や母も明言はしてこなかったがスタンスは同じだったはずだ。
避難めいた視線になってしまったであろう、父の方へと視線を投げつけてみればため息を吐きながら続けてきた。
「私とてそうだ、だが今回のベヒーモス討伐の件で多少心象は変わったがな。
それでも多くの貴族はそうは思っておらん」
「変な理屈だよね……それで、そういった事を気にせずにするためには分かりやすい形にする必要があるって事?」
「そうだ。まぁそれだけでもないがな……これについてはおいおい分かる」
結局、この言葉を締めにしてこの会話は終わることになった。
私としては別にブランシュ家というものを継がなくても別にいいとも思う。ただそうなると私がラムサス家にいく形になるのだが。それ自体は構わないが、それは結果として何か変わるのだろうか?
やはり色々と体裁というものがあるのだろうか。この家とて貴族の中でみればあまり強い立ち位置ではない。ならばこそそういった噂でも無いに越した事はないのだろう。なによりこの家はゴルターナ公の配下という扱いという点もあるのだろうし。
貴族というものは何とも面倒なものだと改めて思わされた瞬間である。
その後、屋敷で改めて私が次回の遠征に参加することを告げられた。母は事前に聞いていたらしく何も言っては来なかった。しかし、その表情からは内心を伺うことが出来なかったのが意外なところではあったが……。
母は子供を可愛がるという点では私よりもエストにその関心が向いていると言える。私に対する感情は現在はその才能という点ではないだろうか?
その答えを本人から聞くというのも中々にはばかられるものではあるので、聞くに聞けない内容ではあるが。
さが、そんなブランシュ家とは別に私個人としてしっかりと伝えなければならない相手と言えばローランドとステラであろう。
いつもの如く中庭に集まったところで話しを切り出していく。
「それでトリス様、改まってどうしたんですか?」
「またモンスター討伐とかか?」
「うん……えっと、次の遠征に僕も参加することになったんだ」
既に決まったことであるので、自分に言い聞かせる意味も含めてはっきりと口に出してみた。改めて思うが結構非常識な事ではないだろうか?
その考えは二人にも共通したらしく、言葉の意味を噛み砕くまでに多少の時間を要したようだ。
「遠征って! 戦争に行くってことかよ!」
「ちょっと待って下さいよ! なんでトリス様が行くなんて事になるんですか!?」
その後もしばらく矢継ぎ早に質問……というよりも最早思うことをただただ口に出していく状況が続いた。それが10分も続いたところでやっと二人の息が切れてきたようだ。
「まぁ、僕自身も結構いきなりのことだからさ……戸惑ってはいるんだけど。
色々とあるみたいだよ」
自分で言っていてなんだが、まるで人ごとのような気分だ。
戦争に行けば戦う相手はモンスターではなく人。まだその意味を分かっていなかった事も多分にあるのだろう。
「でも……死んじゃうかもしれませんよ!?」
「そっか、そうだね……まだ全然実感が沸かないけど、その可能性もあるよね」
「じゃあ俺も行くぞ!」
ローランドはもしかするとある種の英雄の素質というものがあるのかもしれないと最近思うようになった。
以前の討伐時にも臆することなく戦いに望み、ベヒーモスにも同様に立ち向かっていた。子供だから、まだ恐怖を知らないからそんな発言が出来る。そう言われてしまえばそうなのかもしれない、だがそれでも彼は自分の父を亡くしているのだ。彼にとって死というものは身近に感じられるはずだ。
今回もこの発言がすぐに出た事は、彼の勇気というものをよく表しているものだと私は思う。
「ダメだよ、ローランドまでついて来たら誰がフィーナスの町を守るんだ?」
だから私はローランドが断りづらそうな言葉を選ぶことにした。
平民だとか、子供だからだとか、そういった事ではない。私にはまだ彼らを巻き込むだけの覚悟が決まっていないだけなのだ。いや、もちろん前者の理由も十二分に成り立つのだが。
「うぅー、だけどよ……」
「それに、トリス様はともかくとして私達じゃ追い出されちゃうよ」
「だから二人はこれからもっと強くなってよ。そしていつか僕を支えて欲しいんだ」
「当然力になれるならなんでもします! でも……私達はその……平民ですけどいいんですか?」
私の言葉に反応してきたのはステラのほうだった。ローランドの方を見ると口には出さなかったようだが、同じような感情を持っているらしい。
二人がその事を懸念する理由は良くわかる。両親を始め、この屋敷に来るということはその問題に直接触れることになるという事だ。それでも二人を連れてくるのは私のわがままと言われるのかもしれない。
ただ、うぬぼれでなければ二人は私を慕ってくれていると思うのだ。
「僕は……僕にはあまり関係ない事だよ。二人は大切な友人だし、仲間だと思ってる。
二人はそう思ってくれないかな?」
「そんな事ありません! 私はトリス様に救われましたし、こんなに良くしてもらってます。今私がここに居られるのもトリス様のおかげです……でも」
その音場に続くのは周囲の事なのだろうか。彼女は年齢に合わず非常に賢いと言える。ならば今の状況で私に負担が掛かってしまうという所まで考えが及んでしまったのか。
「なら問題ないさ。周囲がそれで騒ぐなら何も言われないだけの実力をつければいい」
そういった面では今回の参戦の意味はあるのだろうし、私自身が戦う理由にもなる。
次いでまだ唸りながら考えているローランドの方に視線を向けると、今度は彼の気持ちを話してくれた。
「俺はさ、貴族ってのが嫌いだったんだ。でもトリスはなんか違うなって思う。
あー! もうよくわかんねーけど、とにかく俺も力になるよ!」
とりあえず遠征の事は諦めたのか、まとまらない考えを吐き出してくれた。そんな彼の様子を見て大切な友人という存在を得られた喜びと、若干のいたずら心が芽生えてしまったのは仕方ないことだと思いたい。
「まぁ、ローランドはあの時の決闘で僕の子分になってるから今更だけどね」
「うぐっ!」
「えー! なんですかそれ? ちょっとローランド、教えてよ」
「ううううるさい! あの時は……だー! もう!」
「あははは! 思い出してみると懐かしいね。一言目はなんだっけ? 「お前貴族か?」だっけ」
日頃から鍛錬と称してローランドとは1対1で模擬戦をすることになるが、あの時のように武器もなく殴り合うような事はない。ただ、本人はやっぱり未だに悔しいようだが。
「もういいだろ、あの時の話は!」
「えー、私も子分になりたい! トリス様、いいですか?」
「うーん、僕としてはあまりそういうのは気にした事ないんだけどね。
でも断る理由はないかな」
と言うよりも日頃の会話や行動、立ち位置から既に3人の立場という物が出来上がっているような気もする。
なのでステラの申し出を受けても何かが変わるという事はないのだが……それでもステラとしてはそういった繋がりというものが欲しいのであろうと考え、それを受け入れる事にした。
「でもよー、子分ってなんかさー弱っぽく感じるんだよな」
「あー、うんまぁ、なんかどこかの山賊みたいな感じなのは否めないけどね」
「あ、じゃあなんでしたっけ……騎士が主君に忠誠を誓うあの……」
そう言ってステラが頭に手を当てながら考え始めた。言わんとしてることが判ったらしいローランドもそれに習い思い出そうとしている。
主君に忠誠を尽くす これ自体はこの時代よくある事だ。
直属の対象は王家であったり、公爵家であったりと多々あるが。騎士とはその俸禄や領地を預けられる……言ってしまえば給料を支払ってくれる相手に、代わりに忠義を尽くす。
ただし、それを表す形というものは多岐に渡っている。というのは私の知識の中だけだ。現在二人が何を表そうとしているのかがイマイチ分からない。
「えーっと、託身とか? それとも忠誠の宣誓? 後は……」
「んーっと、ほら! 騎士になる時にするアレだよ! 剣で肩を叩くやつ」
「あー……騎士の叙任だっけ?」
「それだ! あれやろうぜ!」
騎士の叙任とは騎士として認め、その職に就くことを認めるものであって忠誠を誓うのとは若干違うのでは? とか思ってしまったが、この場合はあまり関係ないのかもしれない。いや、もちろんその場でも忠誠を誓うものではあるが……。
とは言え、こういったものに憧れるというのもあるのだろう。本来騎乗する馬、この世界でいうならチョコボが無いと騎士じゃ……などと野暮なツッコミを入れるつもりもない。形だけでも、私達の中での関係を深める行為と捉えるべきなのだ。
「わかったよ、剣はどうするの?」
「これでいいんじゃね?」
そう言って私に渡して来たのはかつてローランドと決闘した時に渡した木剣だった。そういえば最近はあまりやっていないが、剣の修行をしていた時はローランドもこの木剣を使っていた。
「あー、いいなローランド。私にも貸してよ」
「へへーん、これは俺のだから嫌だよ。ステラは何か持ってくればいいだろ」
「はいはい、それじゃあステラには僕が使っていたのをあげるよ。ローランドと同じものだからこれでいいかな」
「ホントですか! えへへ、やった」
この年の女の子が木剣を貰って喜ぶというのも非常に間違っている気がしないでもないのだが、ここはグッと我慢をする。ローランドはお前は剣使わないじゃないかとステラに突っ込んでいるが。
私としても初めて買ったもらった木剣ではあるが、最近は剣以外に走っていることもあるので、ここは二人を公平にするために渡すのもまた思い出に残る使い方なのだろう。
「おーっし! それじゃあやろうぜ!」
ローランドはそう言いながら片膝を地面につけ、そこで体が停止していた。
「……こっからどうするんだ?」
「うーん、僕もやった事ないからわからないけど……まぁいいんじゃないかな、僕たちのやり方と思ってやれば。じゃあ剣を渡してくれるかな」
ローランドから木剣を受け取り、それを自分の目前へと掲げる。
そしてその剣の腹の部分でローランドの肩をそっと叩く。
「ローランド……忠誠を誓い、僕の騎士になってくれるか?」
「ああ、まかせろ!」
「うん、頼むよ」
そしてその剣をローランドへと返す。
同じ動作をステラにも繰り返す。先ほど渡した剣を再び受け取り、同じように。
「ステラ、君も僕に忠誠を誓い、僕のための騎士になってくれるか?」
「はい、もちろんです!」
「……ありがとう」
何とも不思議な気分だった。友人でありながら、今まで共に勉強してきた仲でありながら、これからも変わらない仲でありながら。
ただ3人で共に進める気がしてきた。そしてこの私達だけの叙任式はきっと私自身も特別な意味を持っていたのだろう。
本来の正しい形式ではないのかもしれない、行為自体には意味も無いのかもしれない。それでも、きっと私達にとっては大切な思い出になった出来事だった。
それから3ヶ月の時が経ち、ついに私は父の遠征へと参加することになった。
見送る側である母、グレアムさん、エニル先生、警備の人たち、使用人の人たち、そして町を出るところでローランドとステラをはじめとする多くの町の人たちに見送られる事になった。
その光景は、誰よりも私自身が一番実感したと思う。
見送る人たち全員の目に……いや、ローランドとステラの二人だけは違ったが、私が無事に帰って来れない可能性が十分にあるという事を分かっている目。
その視線を受け、これから私が向かう先が戦争であろうという事を。改めて私に認識させるものであった。