転生オリ主チートハーレムでGO(仮)~アイテムアビリティこれだけあれば大丈夫~ 作:バンダースナッチ
今回指揮することになった部隊の人数は310名。私達を除くと、フォアラントら干され組が30名、見習い戦士組が100名、弓兵30名、シーフ5名、アイテム士5名、そしてそれ以外はジョブの判別以前の問題で、一般から徴兵した人たちが130名入り、合計で300名となる。
干され組は練度は兎も角として、一応何度かの実戦を経験している。ジョブ的に見るとナイトが大半で、何人かモンクが居るといった感じだろうか。
総評するならば練度・士気共に低い、連携何それ美味しいの? といった感じである。とは言え、ある意味仕方ないのだが。
そもそも元は別の部隊にそれぞれ配属されており、隊に負担をかけない程度の割合になっていたのだ。そこから集めて来て「お前たちは新しい部隊に行き、新しい隊長がつく」と言われるのだ。
一体私が何をしたのかと問い詰めたいところだ、それとも短時間でここまで手を回した事を褒めるべきなのだろうか? いずれにせよ厄介極まりない。
「隊長、組み分けが終わりました」
一人の体格のいいモンクが私に話しかけてきた。彼は干され組の一人であり、実直な性格な男性だ。そして正義感もある……まぁつまりその関係で上から反感を買ったのだが。
それはさておき、私が最初に指示を出したのは報告の通り組み分けである。
徴兵組から弓を扱えるものは弓を持たせ、残りの者は見習い戦士組を含めて振り分けをする。フォアラントら30名をリーダーに各5名づつ配置し6人パーティーを作っていく。これで180名の前衛部隊が出来上がる事になる、苦肉の策とも言えるが……。
シーフ、アイテム士のメンバーは偵察、本隊との連絡役、それと救護役を担ってもらう。弓兵は70名まで増やすことができ、残りの40名を私の護衛役という配置だ。
「それじゃあ各組ごとに盾をもって攻撃を受け止める役を2名以上、攻撃する役とそれぞれ分担を決めるように伝えてくれるかな。
ああ、武器は得意なものが無ければ槍を選ぶようにね」
「分かりました、装備の手配のほうは?」
「それなら私の方からリシューナ子爵に伝えてあります、直に届くでしょう」
こういった細かい事は隣にいるレミアさんが担当してくれている。振り分けなどについても細かい調整はほぼ任せきりである。この人がいない場合はフォアラントがその役割に入るのだが……彼もあまり細かい事をするのに向かない性格のようで、レミアさんが副官につくと聞いた時点で少しホッとしたような顔をしていた。
リシューナ子爵には感謝の念が絶えないところではあるが、このレミアさん、動きを見るとかなりの実力者に見えるのが不思議である。外見が白魔道士のローブを着ているから、中身の程はわからないのだが。
「……上手くいくと思いますか?」
「今回のように急な編成は、私も初めてですので何とも言えませんが……ですが、何もしないでいるよりはマシでしょう」
今回の部隊方針の考えとしては、増援の重装隊を正面にて集中運用……および盾役の人たちで初撃を抑える、その後に槍でパーティーごとに対応をしていくというものだ。
成功のための鍵は最前衛の重装隊、そして私の遠距離魔法となる。いかにこの二つの要素で相手を崩せるかという点だ。幸い、私達の部隊は遊軍扱いとなる。正面から敵にぶつかれというものでは無いというのは大きい。
この遊軍の扱いは臨機応変の一言に尽きる。本来は指揮官、所属兵共にある程度以上の練度を必要とされる部隊である。ただし、その能力に初めから期待しなければ……という前提を置けばある種正しい配置なのかもしれない。
ただ、状況に対応するために歩兵、弓兵の混成であり、かつ300名というある程度の規模にはなってしまうのだが。
「後は……2日間でどれだけ連携を覚えられるか……か」
「付け焼刃でも何でも、成さなければなりません……他の隊からも何名か指導役を連れてきましょう」
「そうですね、僕もダレンさんに頼んでみます」
レミアさんと二人で他の隊から手配をし、多少なりとも形を仕上げていく。とは言え、一部の兵は私が近づくと露骨に嫌な顔をするので、やはりダレンさんに直接頼んだのが早かった。教導役は主に、元々いた隊の兵が名乗りを上げてくれたのは有難い話だったのだが。
しかし、付け焼刃とは所詮は間に合わせでしかない。結局のところ不完全な形で敵軍との会戦にあたる結果となった。
砦攻めから3日後、私にとっての2度目の戦いが始まる。前回との違いは平野での戦いになるという事だ。それも砦からは多少の距離をとり、なるべく近づかせないようにする必要がある。
……なぜかって? 同じ事をレミアさんに聞いたら呆れたように。
「……城壁の修理どころか、門も吹き飛んでいますから……砦として機能しませんから」
思わず謝ってしまった。別に悪いことをしたはずではないのだが、そこにすら気づかなった事も含めて頭を下げてしまった。
さて、今回こちらに向かって来た鴎国軍の数は4000、対する畏国軍は3000である。1000の数……この戦力差は非常に大きいと言える。元々居た畏国軍は4000であったが、砦攻めにて300名が死亡、怪我人は600名に上った。
しかし、この怪我人の全てが戦えない訳ではない。この世界と現代での大きな違いとして、魔法や仕組みの分からない薬品の有無である。多少の怪我ならば範囲魔法を使っていけば問題無いし、MP……魔力は休めば回復していくのだ。連戦ではその恩恵は薄まる反面、時間があればあるほど怪我人の治療は加速的に進んでいく。
このため、600もの怪我人のうち400は治療が済み、200名は砦に残ることになった。勿論怪我人だけで砦を守ることは不可能である、ここに500の守兵を残しての出陣となった訳である。
陣容を簡単に説明してしまうと、リシューナ子爵の騎兵隊、ダレンさんが指揮をとる中央の歩兵隊、父の本隊と弓隊、そして私達の遊軍である。予定される流れは歩兵隊にて中央を抑え弓隊で援護、その後父の本隊の一部と私達遊軍で両翼に展開していくという流れである。
実際の軍議にはレミアさんが出席し、私はお留守番という形になったのが、なんとも情けない感じがするが。リシューナ子爵から……。
「一応お飾りの指揮官って事になってるが……好きなように暴れろ、期待しているからな」
と、何ともありがたいお言葉をいただいてしまった。ならば私に期待されるのは魔法での敵への攻撃なのだろう、下手に用兵などを期待されるよりは余程ましといえる。
すでに周囲の空気は戦闘時のそれ……敵軍は既に見えているのだ。程なくして戦いが始まるだろう。僅かに震える手を握り、精神を集中させていく。
気持ちを切り替える、これは……戦争なのだと。
感情を押さえつける、今度は……上手くやると。
「レミアさん、動き始めたら重装隊へ支援魔法を……僕はヘイストを」
「わかりました、それではプロテスをかけていきます……大丈夫ですか?」
レミアさんが私の肩にそっと手を置いてきた、たったそれだけの事で気持ちが僅かに落ち着いてくる。息をすっと吸い込み、ゆっくりと吐き出していく。
「……ええ、大丈夫です」
そして、この言葉に反応するように……戦いの火蓋は切って落とされた。
―――――
「ダレン隊長! 補助魔法の付与が終了しました」
「よし、では行くとしようか……これより攻撃を開始するぞ! 敵前衛を粉砕する!」
声大に宣言し、前進を開始したのは中央歩兵隊のダレン。
ブランシュ子爵の副官の地位でありながら、その勇猛な戦い、そして堅実な指揮から兵、各将軍からも信頼を寄せられている人物である。
900名の歩兵隊は正面から向かってくる敵に対し、同じく正面から駆け出していた。求められる事は敵を抑え、押し返し、そして撃破する事。死傷率は高いが、それでもその士気は高かった。
トリスタンの隊へ新任兵士たちがまとめられた事によるプラスの点、それがここに出ていた。少なくとも数回の出陣を経験している騎士と兵たち、そこに気にかけるべき新兵が居ないという事実は純粋な練度の平均を高める結果となっていた。
同時にダレンは思う、自身がここで結果を残せばそれだけ、自分の主であるブランシュの子息であるトリスタンを守る結果に繋がると。
「敵歩兵隊、こちらに突っ込んできます!」
「よし、全隊止まれ! 大盾隊全面へ、敵魔法の射程に入るな……後ろの魔道士隊も釣るぞ」
整然と陣形は変わり、敵を迎え撃つ形へと……今回の戦いでは畏国には魔道士隊は編成されていない、しかし居ないからと言ってそれが致命的な点ではない。居ないならば居ない戦術を立てるしかないのだから。
ダレン隊は大盾を全面へと押し出し、一枚の壁を作り出した。盾を持つ者は腰を落とし、横にいる兵と可能な限り密着していく。そして、敵が来るその一瞬まで号令を待つ状態へと移る事になる。
「来るぞー!」
「……今だ、バッシュ開始! 押し返せ!」
ギリギリまで敵を引きつけ、そしてその最後の一瞬に今まで待った時間をぶつける様に、その盾を敵兵の正面へと叩きつけていく。
盾とは言ってしまえば鉄の壁である。その壁が人の瞬発力によって前へと押し出され、それに当たればどうなるか……。直撃した者は絶命し、軽くても骨折する程度にはダメージを受ける。
「突撃!」
しかし、その攻撃も全隊から見ればただ出鼻をくじく程度にしかならない。ならば次にすべきはその僅かな隙をどれだけ広げられるかだ。
ダレンの号令により、大盾兵の後ろに居た槍兵の攻撃の後、一斉攻撃が始まった。
両軍の歩兵隊が入り混じり、乱戦の状態へと移り変わっていく。
そして同時にお互いの軍も次の動きへと移ることになる。
畏国側は弓隊を右翼へと展開し、中央への援護、後方への牽制へと移動し始め。鴎国側は歩兵隊に遅れながらも中央へと魔道士隊を移動させていく。それと同時に兵数の差を利用し、隊の一部を分け左翼(鴎国側からは右翼)から敵本隊へと回り込ませ、さらに一隊を弓隊への牽制および中央歩兵を包囲するべく移動を開始した。
中央では数の差がありながらも、畏国側がやや優位に立っていた。その一端を担うのがダレンを含む精鋭歩兵隊である。
「ダレン隊長! 敵も動き始めましたぜ!」
「我らはまずはこいつらを倒してからだ!」
剣で戦う騎士にダレンは返り血に鎧を汚しながら答えた。その手には右手にフレイル、左手に盾というスタイルである。
盾で一方の攻撃を受け流しながら、フレイルにて相手の鎧ごと叩き潰す。普段は剣を装備する事が多いが、こうして歩兵隊での混戦ではこのスタイルが一番慣れていた。当然剣も人に教えられる程に技量はある、しかし自分には力で相手を潰す戦いが合っているとも思っている。しかし、子供であるトリスタンにはこの戦いは不可能だろうと……そんな場違いな事を考えながらも戦いは続いていった。
囲もうとしていた敵兵を味方と連携しながら叩き伏せていく。
「さあ! 次の相手はどいつだ!?」
「……ん? 隊長……何かやばい感じがしますぜ」
ふと、自分の横で戦っていた騎士の一人がそう呟いた。幾度も自分と共に出撃した信頼のおける部下である。そして同時にこいつの言う嫌な予感というものが往々にして的中することも……。
そして、その言葉直ぐに証明されることになった。
中央にて戦闘が始まり、両軍が動き始めたところでついに私達にも指示が飛んできた。内容は左翼から来る敵部隊を抑えろというものだ。
指示と同時に移動命令を出し、敵部隊へと向かっていく。数はおよそ500……撃破ではなく抑えることを主眼としなければならない。
……とは言え、倒してしまっても問題ないはずだが……。
私は周囲との身長や体格差があるため、普通に走っての移動では差が出てしまう。その為ちゃっかりチョコボに乗っているのだが、以前討伐隊時に乗った大型チョコボとは違い、戦争用に飼育されたチョコボは気性が荒いのが難点だ。その為、手綱はレミアさんが握ることになった。
歩調をあわせ、行軍していく。既に前衛組みには補助魔法を入れてある為、ぶつかっても多少はマシになるはずだが、私の隊でそこまで事は期待しないほうがいいだろう。
ある程度の距離から弓隊での攻撃を開始し、相手の進軍速度を削いでいく。とは言え、これも数は70しかいない為、本当に僅かながらの効果しか上げられないでいる。しかし、僅かでも効果はあるのだ。
隊の指揮をレミアさんに任せ、攻撃魔法の詠唱と集中を開始していく。この魔法についてゲームと現実の大きな違いの一つ、それが標的を定めずに魔法を唱えられる事だ。何を当然な と言われるだろうが、これは非常に大きいと言える。なんせ敵を含む標的を定めなければならない場合、敵が近づいてからでなければ詠唱ができないのだから。
魔法を練り上げ、完成直前まで持っていく。同時に隊の前列へと進み、なるべく敵を射程に収められるようにしていく。
「ってトリスタン! お前、なんでこんな前まで出てきてるんだ! おい、レミアさんよ!?」
「レミア副官か副隊長と呼びなさい。大丈夫です、魔法を撃ったらすぐに下がります……それよりも敵がもうすぐ来ます、訓練通りに」
「ちっ! 勝手にしろ……おらお前ら! 盾持ってる奴は前にでろ! びびんじゃねえぞ!」
フォアラントが悪態を付きながらも指示を飛ばしていく。新兵組みはまだ恐怖がある中、機敏とは言えないまでも訓練通りに動き始めている。
……敵の距離は50M程
「弓隊に攻撃をもっと奥にやれって伝えろ! これ以上はこっちにも当たるぞ!
こっちゃ部隊長のガキが前に出てきてんだ、ちったぁ気張れよ!」
「各員、冷静に動きなさい……負傷したら隊列を崩さずに下がりなさい、各リーダーは抑えることを最優先に、被害を無視して戦う場面では無い」
フォアラントは怒鳴りながら、レミアさんは対象に淡々と指示を出していく。しかし、やはりと言うか全体から緊張と恐怖の空気が感じられる。こちらの倍近い敵を相手にするのだから当然と言えば当然ではあるが……とは言え、私自身も冷静ではいられないのだから人の事は言えないか。
そして、敵の距離は15Mを切った。もう目の前と言える距離である……そして同時に、完全な射程距離である。
「地に閉ざされし、内臓にたぎる火よ 人の罪を問え! 『ファイジャ』」
巨大な火球が複数現れ、明確な……私の殺意をもって迫り来る敵へと放たれる。
こちらへと到達する前に、巨大な爆発とその爆風、そして巻き起こる炎により前列に居た敵兵を飲み込んでいく。僅かに爆風が収まり、その結果が光景として現れてくる。
敵も味方も一瞬ながら呆然とし、静かな空気が流れる。こちらに迫ってきた兵が物言わぬ存在に変わった事を受け入れるための時間のように。
そして次の瞬間には味方からの大歓声が響いた……・
「ありえねぇ……あの時のは……」
「魔力の暴走……やはりそんな事ではなかった」
歓声が響く中、二人の言葉はかき消されることになったが、今はどうでもいい。
レミアさんの腕を引き、指揮を継続してもらうように促す。
「っ! 攻撃開始! 敵は浮き足立っています、押し返しなさい!」
そして、雄叫びと共に突撃を開始し始めた。
これで勝てると、これなら勝てると。
士気の上下は敵とこちらで逆転し、技量以上の成果を出している。敵も先ほどの魔法を見ていた者は弱腰になり、同時に前線に居た指揮官を倒せたのか、混乱が強くなっていっている。
しかし、その戦場の空気を変えるように、中央に魔力の高まりを感じた。
レミアさんもそれに気づき、そちらに視線を向け……その光景を目にした。
「……あれは、サラマンダー!」
視線の先には、巨大な赤い龍が炎を纏いながら畏国軍へと突っ込んでいく瞬間であった。