転生オリ主チートハーレムでGO(仮)~アイテムアビリティこれだけあれば大丈夫~   作:バンダースナッチ

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第16話

 右翼弓隊に迫っていた鴎国の歩兵隊を蹴散らし、その騎兵隊は敵の中央歩兵隊の側面へと到達していた。

 その先陣を駆るのはダルガ・リシューナ。金色の髪をなびかせながらその速度を速めていく。目指す先は今まさにバハムートの一撃が届こうとしている敵歩兵隊へ。

 

「さあ行くぞ……突撃隊形! 横から突き抜けるぞ!」

 

「あそこまでされて抜けられませんでした……じゃあ、締まりませんからね」

 

 リシューナのすぐ傍を駆ける騎士はそう軽い様子で返した。召喚獣の存在に圧倒され、そしてその一撃によって陣形を崩されるであろう敵部隊を抜けずにして、何が南天騎士団騎兵隊かと。

 

 南天騎士団騎兵隊、イヴァリース国内において最高の機動力を誇り、その突撃力は国内随一と言われている。ダルガ・リシューナ自らが指揮をとり、戦場を縦横無尽に駆ける姿から『風神』の二つ名を与えられている。

 この風神の名はリシューナ本人よりむしろ、その騎兵隊に与えられていると言っていい。機動、連携、練度、そして各個人の力量も一線を画していた。

 通常、騎兵の運用では大人数の部隊に対して突破行動を行うことは無い。突撃力があろうとも騎兵とて大地を走っているのだ、足が止まることもあれば転ぶこともある。しかし、この隊であれば陣形が崩れ迎撃状態に移れない歩兵隊を抜くことは造作もないと言えた。

 

「前列、ランス構え……チャージ開始っ!」

 

 その突撃は3匹目の龍の様に、そしてバハムートのメガフレアの様に敵陣を貫いていった。

 

「中列は開けた穴を広げていけ! ライオット! 合図を出せ、全隊を攻勢に転じさせろ!」

 

「了解です!」

 

 その指示を受け、突撃の最中でありながら弓を構え、それを天に向かって放って行く。小さな火薬の詰まった矢は中空で破裂し、赤い煙を出していく。予め決められた合図の一つであり、今回のそれは攻撃の意味である。

 

 リシューナは戦闘を駆け抜けながら剣を振り抜いていく。普段扱う武器はレイピアであるが、騎乗状態では振り払えるように通常の剣に持ち替えて戦う事にしている。正確に鎧のつなぎ目や首筋、一撃で相手を倒せる箇所を狙っていく。

 足を止めず、腕を止めず、されど頭の中では戦い以外の事を考えていた。そう、先の魔法である。

 あの子供、トリスタンは時魔法のメテオ、黒魔法の三大魔法、そして召喚魔法のバハムートとクリュプスを召喚した。さらに正しい情報かは分からないが、モンスター討伐でのフレア……それもこの状況を見るならば本当なのだろう。全くもって……。

 

「くくっ……くっはははは! 本当に驚かせてくれる」

 

 一人、また一人と敵兵を切り裂き、その返り血に鎧を赤く染めながらもリシューナは笑っていた。

 驚きの感情以上の歓喜、本物であったと、あの子供も自分と同じ一線を超えた存在であったと。いや、もしかすると自分以上であるのかもしれない。世の中にはそういった人間は存在する。努力だけでは到達することの出来ない域、ただ一人の存在で戦場に影響を与えるもの。

 普通の人間であれば凄いと思うだろう、味方であってくれれば頼もしく、そして頼れる存在に感じられる。常人よりも才能のある人間ならば恐るだろう、その能力に、いかにしても届かない力であると、そんな存在は有り得るはずが無いと、自分にも才能があるだけにそれがよくわかってしまうと。

 平時であれば開花しなかった才能かもしれない。しかし、今は戦時なのだ。そして戦時とは往々にしてそういった存在を生み出す。そう、人々に英雄と呼ばれる存在を。

 リシューナは高揚する気分を乗せるように剣を振るっていく。

 

 

 この戦場の中にリシューナと同じような考えに至っていたのはもう一人居た。

 遊撃隊の副官になり、その実質的な指揮をとっていたレミアである。

 レミアは自分がリシューナの言うところの常人よりも才能のある人間の一人だと思っている。他者よりも色々な方面でその能力は高いのだろう。今まさに戦場の勝敗を決した二人と比較しても、方面によっては優っている部分は多々あるだろう。

 だがしかしだ、自分に同じことが出来るのか? 全く同じことでなくともいい、別な方面、回復でもなんでもいい……あれだけの事を出来るか? そう問われれば不可能と即答するだろう。

 同時にクロムウェンの考えや思いも分かってしまう。リシューナは見ていないだろうが白魔法のアレイズまで使ったのだ。確かにアレイズ自体ならば自分も使える。しかし、それ以外にあれだけの種類、あれだけの大規模魔法を扱えるのか。

 魔法とは才能以外にもそれぞれの魔法を学ぶ時間が必要とされる。その魔法を学んでもいないのに扱えるはずがないのは当然の道理だろう。では白魔法でアレイズを覚えるまでにどれだけの時間が必要になる? 自分よりも高い才能をもっているならばその時間は短いのだろう、半分か? それとも1割ほどなのか? だがしかしだ、例え1割だとしても1年、それを全ての……黒魔法、時魔法、召喚魔法全てに当てはめてどれだけの時間が必要になる?

 

 有り得ないのだ……あの子供が魔法に関与してから……いや、物心がついてからどれだけの時間があった? 言葉を理解し、魔法を理解し、そこからがスタートなのだ。ならば5年か? 多く見積もっても6年。6年だ、たったそれだけの時間しか無いのだ。

 

「……」

 

 レミアは自分の体が震えていることに気がついた。震える体を抑えようと右手で左腕を抑える。それでも尚、震えが止まる事はない。そうだ、クロムウェンも同じ考えに至ったのだろう。だからこそ排除しようと考えたのだ。

 そしてそれと共にリシューナの考えも……自分を付けたのは監視の意味も含めているのだろうと。どのような存在であれ、まだアレは子供なのだ。単独で砦を落とし、軍を崩壊させる力を持った子供など考えたくもないが、それでも事実は事実。その成長が真っ直ぐ……それが貴族にとってであれ、国にとってであれ……成長すれば良し、もしその考えが周囲の意思と違う方向に進むのであれば……。

 

 レミアはローブから一本の短剣を取出し、それを握り締めた。願わくば、これを使う機会が訪れる事がないように……そう願いながら。

 

 

 

 バハムートの一撃、そしてそこにリシューナ子爵率いる騎兵隊の突撃により、この戦いの大勢はついたようだ。

 最早中央の鴎国軍は瓦解しており、後方にある本隊は前線を見捨てて撤退しようとしている。いや、アレは撤退というよりも逃走と言うべきか……。

 頬を伝う汗を右手で拭い、息を一つつく。指揮をとっていたウェインさんは既に前線を押し上げるべく、前へと進んでいった。この状況ではもう私の出番はないだろう。

 

 今だ戦いの最中ではあるが、自分の役割を終えた事が私の緊張の糸を切ったようだ。

 足から力が抜け、尻餅をつきそうになったところで後ろから抱きかかえられるように支えられた。

 振り返ってみればそこにはレミアさん……が、表情が怖い。いや、戦場なのだから当然なのだが、どうにもその視線が私に向いている気がするのだが……。

 

「えっと、どうかしましたか?」

 

「……いえ、なんでもありません。お疲れ様です。

後は残った敵を追撃するだけです、私達遊撃隊は後方に下げましょう」

 

 険しい表情が和らぎ、いつもの表情へと戻ってくれた……。若干の安堵と共に、先に騎乗したレミアさんから差し出された手を取り、本陣へと向かうことにした。

 

 今回の戦いでの自軍の被害は死傷者を合わせて実に700名にも登ったが、同時に敵軍にも致命的とも言える大打撃を与えることが出来た。オルダリーア側の被害は投入した戦力の4割を喪失、2割が捕虜、そして2割が軍から逃げ出すという結果になった。

 そしてこの戦いでの被害は、こと北部戦線で見ればイヴァリース側の勝利を決定づける事になり、私達は追撃の勢いをもってさらに奥の砦へと攻め寄せ、これを陥落。

 この時点でゼラモニア平原北部における鴎国側の兵力はほぼ壊滅。最後の砦を落とし、その勢力図を畏国のものとすることが出来た。

 

 砦攻めに関してはほぼ特筆すべき事は無かった。初戦に置ける奇襲、そして先の戦いによって兵力を枯渇させた鴎国側に苦戦する事はなく、ほぼ指示通りに魔法を放つだけであった。

 ……まぁ、メテオやバハムートなどの砦を破壊しかねない魔法は使用禁止を言い渡されたのだが。

 

 初戦の戦闘から僅か2週間、強行軍とも無理攻めとも言えるこの進軍は鴎国側の援軍を許さなかった。同時に相手側も攻めるだけの情報と勝算を得られなかったのだろう。

 

 そしてこれらの一連の戦いは私という存在の名を自軍、敵軍……そして自国、敵国問わずに広がり始める。

 一部の貴族や兵からは災厄の魔道士。

 

 自国の民からは奇跡の魔道士。

 

 そして敵軍の兵からは……『魔人』と。

 

 そしてそれは私を取り巻く世界が変わっていく事を示し。世界の……歴史の流れに飲まれていくことを示していた。

 

 

 また、一連の戦いが一段落した頃、ゴルターナ公からの褒賞として異例ではあるが、私に魔爵の爵位が与えられる事になったとリシューナ子爵から伝えられた。真実かどうかは分からない噂ではあるが、今回の戦いで私を排斥しようとしていた貴族からの爵位移譲という形らしい。

 そして王家からの褒賞として、『ソーサラー』を名乗る事を許された。そしてその証としてドラゴンロッドを与えられるらしい。まぁ、既に50個程持っているのだが……。ついでに言えば、ソーサラーのジョブが解放されたようだが、新しく覚えられるのはダークホーリーだけという残念な感じが否めない。

 

 これからの私については北部戦線に決着が着いた為、リシューナ子爵率いる本隊は南部方面への援軍へ向かい、父は北部の砦の守りに就く事になる。

 私という存在がいる可能性がある以上、敵もそう簡単に手は出せないだろうという判断である。

 そして当の私は、来る会戦までの期間に王都ルザリアへと向かい、その後魔法都市ガリランドにある士官アカデミーへと通う事になる。数ヶ月程の時間ではあるが、その間に指揮官としての教育を修了させるべきという意見からこうなった。

 

 

 それは新しい出会いと共に、よりこの世界へと深く結びついていく事になる。

 

 

 

   Chapter.1 異端たる者    end


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