転生オリ主チートハーレムでGO(仮)~アイテムアビリティこれだけあれば大丈夫~   作:バンダースナッチ

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導入的な


CHAPTER.2 奪う者奪われる者
第17話


 窓の無い大広間、部屋の中央のテーブルにはゼラモニア大平原を中心とした地図が広げられており、その周囲を取り囲むように10数名の男たちがいた。

 

 「それで、大平原における戦況はどうなっている?」

 

 まず言葉を発したのは一団の中で最も若い青年であった。

 青年の右隣に立つ壮年の騎士がそれに応えるように地図へと近づき、その上にのっている駒を動かし始める。

 

 「はっ、現在戦況は我が軍が押されている状況にあります。北部戦線では完全に畏国側に抑えられました。中央では兵数では優っていますが、かの雷神に苦戦。南側では小競り合いが続いてる状況ですが……」

 

 「北部に回っていた部隊が南下し、援軍にくる……か」

 

 「恐らくは……その場合は南側の戦力では厳しいでしょう」

 

 壮年の騎士は淡々とその事実を告げていく。青年は僅かにため息を漏らしている。その様子を周囲に立っている騎士たちは不安と焦りの表情を浮かべている。

 

 ここはナルビナ要塞、ゼラモニア大平原に構えられている鴎国側の大拠点である。かつてはゼラモニアの一大拠点であったが、鴎国に敗北後に接収される形で収まっている。

 

 「……っ、敵が南に戦力を割くというというのならば、今この時を狙い北部へと兵を回すべきではないでしょうか!?」

 

 僅かな沈黙に耐えられず、一人の指揮官がそう声を出した。男は青年が来る前より赴任していた将校の一人だあり、この状況の責任を負うべき者の一人に数えられている。そうした自覚があり、その打開策を提示しなんとか挽回しようとしている。

 

 「それで……それは誰が行くのだ?」

 

 「殿下の許可が降りるのであれば、私自らが参りましょう!」

 

 そのやり取りを殿下と呼ばれた……オルダリーア王国第1王子、ラナード・ヴァロワはゆっくりと首を横に振った。

 

 「それで、行ってどうする。あちらには魔人とやらが居るのであろう?」

 

 「ぐっ……そのような、兵たちの噂だけやもしれませんし、今もいるのかすら定かではありません。事実、北部での最後の戦闘後は出現報告すらないのですから……例え居たとしても私がその首を上げてみせましょう」

 

 その言葉も一つの事実である。実際にその魔人の存在を知っている人間はいない、生き延びた兵たちもその姿を見たわけでもなく、しかし確かに存在している。だがその動きもわからず、正体もわからない。

 かの大魔道士エリディブスがゼラモニア側へ来た、と言われる方がまだ信じられるというのも無理はないとラナードは考えている。

 

 「そのあたりを確かめるためにも、今はまだ動くべきではないだろうな……ロマンダからの報告は?」

 

 ラナードは再び自分の側近である壮年の騎士へと声をかけた。

 

 「は、ひと月前までの情報ですが、確かにロマンダとの戦闘にエリディブスが居たはずとの事です。今の小競り合いでこちらに来るとは考えられませんな。」

 

 「ならばアレと同じような存在がもう一人いることになるのだぞ! もしいるのならば、早めに対処しなければならんではないか」

 

 別の騎士が反応し、声をあげる。それに反応するように口を開き始める者たちも出てきた。

 「しかし、実際にいるのであれば砦という拠点に篭られた状態で戦わねばならんのだぞ」「だからこそ、そこは囮を……」「結果は変わらないではないか」「しかし……」

 このやりとりはラナードが到着する以前から繰り広げられている光景であった。

実際にその戦場を目にしていない者、存在を信じていないもの、過小・過大評価するもの。そうして対処しようとした結果が今の現状である。

 

 「そうして派遣された火竜使いは行方不明……南部側へ来るにせよ、北部で待機してるにせよ、対処するのであれば平野に引きずりだし、かつ……ざっと数千の兵……いや、もっと言えば1つの部隊を使い潰すつもりで行かなければならないな。

 それで……誰がその囮の部隊を指揮する?」

 

 最後の言葉に全員の口が閉じられる。先の戦いで派遣された火竜使いは個人の戦闘力で言えばかなりのものであった。それが所属する部隊がただの一戦闘で敗れたというのだ、そこに名乗りを上げるものはおらず、しかし名乗りを上げなければ話は先に進まない。

 平民の兵だけで編成したところで逃げられるのがオチである、かと言って中途半端な戦力では囮の役目すら果たせない。

 

 「つまり、現状は『魔人』とやらの情報を集める必要がある……全くもって厄介な事ではあるがな。」

 

 結局その言葉でまとまることになってしまう。突然湧いてでた戦力、切り札か? どこかの国からの援軍か? そもそも一人の存在なのか……憶測を重ねながらも方針が固まっていった。

 ラナードは僅かにその口を歪め……まるでこの状況を楽しむように、いや事実楽しんでいるのであろう。指揮官達に言葉を返さず、状況を確認していく。

 

 「ふむ……ゼラモニアの貴族連の動きは?」

 

 「はい、現在貴族連は従来通りオルダリーアに忠誠を誓うとの事です。旧王派は一部がイヴァリース側へと付いています。まぁ、この戦争の始まりを考えればむしろ当然かと。」 

 

 その報告を聞き、さらに口の歪みが大きくなっていく。

 

 「そうか、では準備怠り無く……な。他の者は南部への援軍、そして件の魔人とやらの情報を集めよ。次の大会戦……畏国にとっても鴎国にとっても重要なものとなるぞ。」

 

 その言葉の後、その場にいた全員が膝を着き、そうして会議が解散されていった。

 大広間に残ったのはラナード一人。王族用の椅子へと腰掛け、なにも無い天井を仰ぎながら、これからくる近い将来へと思いを馳せていった。

 『魔人』と呼ばれる存在、それは果たして自分の人生を彩るものとなるか、それとも今までと同じように期待だけで終わる存在なのか……と。

 

 

――――――

 

 ゆっくりと瞼を開く、窓からは朝日が差し込み、僅かに風が入り込んでいた。

 天気の良さとは裏腹に、夢見がよくなかったようで頭が僅かに重たく感じられる。

 

 眠気を覚ますために顔を洗いに行こうと思い、未だに慣れない部屋で着替えを取り出していく。

 そう、慣れない部屋なのだ。

 

 ここはフィーナスの屋敷ではなく、ガリランドの貴族街の隅にある屋敷である。屋敷と言っているが、広さ自体はフィーナスのそれとは比べるまでもなく小さいものだが、現在ここに住んでいる人数を考えるとそれでも十二分な広さに感じられる。

 

 ゼラモニア平原での戦いの後、私ことトリスタンはルザリアを経由し、ここガリランドへと来ることになった。

 ルザリアでは国王こそ不在だったものの、クラウディア宰相から魔爵への任命と褒美をもらうことになった。とは言え褒美はブランシュ家のものとして実家に送られたが……。

 

 その後はすぐにガリランドへと移動し、士官アカデミーへと通う事になった。

 そこでこの屋敷へと住むことになったのだが、これでも妥協の末なのだ。実際には貴族街中心部にあるゴルターナ公の用意した物件があったのだが、さすがに広すぎた。使ってないから好きにして構わないとか言われても非常に困る位の大きさだ。元が日本人である私としては、狭いほうが安心するというものだ。結局、その他諸々の理由からここに仮住まいを持つことに決まった次第である。

 

 さて、こちらの生活についてだが。まず、こちらへと来たのは私、フィーナスの屋敷に居た使用人一人とこちらを管理していた使用人二人、さらに護衛の兵が屋敷の側にある小屋に5人、それにダレンさん、ローランドにステラの3人を加えている。

 ダレンさん3人はこの屋敷に近くにある、ぎりぎり平民街のほうへと居を構えてもらっているが、諸々の理由とはローランドとステラの事である。

 

 ルザリアへ行く前にフィーナスへと立ち寄った際、二人にガリランド行きのことを話したところ着いて行きたいと言われたのだ。私としても今回この二人を一緒に連れていければいいなと考えていたので、その事をダレンさん、そしてグレモスさんに相談してみたのだが、意外とすんなりいけるのではないかという事になった。

 グレモスさん曰く、私に爵位がついたことで多少の自由は許されるようになるらしい。さらに母や父に黙っていれば別に問題ないだろうし、母は別としても父にはバレても強くは言ってこないだろうという考えだ。

 先の戦いにおいて私の上げた戦果は大きく、ブランシュ家に対しての貢献度も非常に高いものになっている。わざわざ事を大きくしなければ別段問題ないだろうという事らしい。

 

 しかし、原作における主人公ラムザの親友であるディリータと呼ばれる少年のように、士官アカデミーへと一緒に通わせる事は当然不可能だということは釘を刺されてしまった。なので二人については日中はダレンさんに任せる事になっている。

 

 さて、着替えを済ませ、朝食をとるために広間へと向かう。そこにはすでに二人が到着していた。

 

 「お、トリス! おはよう!」「おはようございます!」

 

 朝食の準備の手伝いとして、お皿をテーブルへと並べるのを手伝っているところだ。私も返事をし、先に席へとついておく。

 ここで手伝うと使用人の人からのツッコミが入ってしまうので、まぁ仕方ないと割り切ってしまうのがいいと学習したのだ。

 

 準備を終え、3人で食事を始めながらとりとめのない会話をはじめる。昨日はなにをしたとか、今日は何をするだとか。なんでもない会話なのだが、先の戦いの後から私にはこの時間こそが最高の癒しなのだ。仕方ないだろう、あの状況は普通にトラウマになってしまいそうになる……。

 

 「そういえば、トリスのほうはアカデミーのほうはどうなんだ?」

 

 そんなローランドの質問に若干の苦笑いを浮かべてしまう。

 

 「いやー、勉強漬けだよ……文字通りね。ホント是非一度体験させたいくらいだよ……」

 

 「最近、トリス様の目の色が消える時がありますよね……」

 

 アカデミーとは勉強する場所……学校なのだ。学校とは当然色々と学ぶところであり、勉強することも当然といえば当然なのだ。

 しかし、しかしだ……。

 

 そう考えたところで外で物音がした。いつもの時刻通りに学校へ向かう馬車(正確には鳥車なのか?)が到着した合図のようなものだ。

 

 「おっと、来たようだし僕は行くね。二人も頑張ってね」

 

 「おう! 今日こそダレンのおっさんから一本とるぜ!」

 「トリス様も頑張ってくださいね!」

 

 席を立ち、屋敷の外へと止まっている馬車へと向かう。

 重武装ではないにせよ、帯剣した護衛兵数名がこちらへと頭を下げてくる。これに関しては未だに慣れないので、さっさと馬車へと乗り込んでしまうに限る。

 

 さて、私のアカデミー生活についてだが……。

 ここでひとつ考えてもらいたい。通常こういった形でのアカデミー……もとい学園生活はどういったものが想像されるだろうか?

 

 自分は高い能力を持つ子供、周囲は大人よりは年齢が近いにせよ自分より年上、色々とぶつかりあったり、認め合ったり、それでいて青春のような展開があってしかるべきではないだろうか?いや、そうあるべきだ。そうであってほしかったんだ!

 

 では、現実はどうか?

 

 私は物々しい護衛の元アカデミーへと到着、そのまま周囲へ挨拶をする事もなくアカデミーの3階へと移動、専用に用意された部屋へと案内される。中には私を教える専門の教師が日替わりで3人づつ居るようになっている。そして一日缶詰だ。

 

 そう、周囲と関わる事が一切ないのだ。何故? と聞いてみたら、これがゴルターナ公からの要請だったらしいし、アカデミー側もそれに賛成したのだ。

 理由としては、そもそもこのアカデミーに来る段階では爵位を持つ人間は殆どおらず、かつそもそも戦争に参加している者もいない。そこに異例の10歳での、魔爵とは言え爵位をもち、かつ派手にやらかした子供が来たら周囲がどう反応するかわからないからだ。

 さらに、今回のアカデミーへ通う目的が士官候補として、必要な知識の詰め込みが優先されたからだ。そもそも剣や槍などの近接戦闘技術はこの年代に教えるレベルを軽く超えており、魔法に関しては私以上の魔道士を探すほうが難しいという状況だ。そこまで言われて思わず謝ってしまった。

 

 そんな訳で現在は、私に優先される基本的な知識の修学と、たまに来る偉そうな魔道士の人といくつか会話をするだけになっている。

 さらに、周囲の貴族の子息たちが変なことを考えないように、わざわざ分かりやすい形として護衛をつけている状態らしい。とは言え、黒獅子を冠する公爵家に表立ってどうこうする輩はイヴァリース内にはいないのでは……と思ってしまうが。

 というかどんだけ私は気に入られているんだろうか。これはあれだろうか、今後の戦争への完全参加のフラグががっちりと固められてしまっているのだろうか。

 

 勿論これはゴルターナ公勢力の思惑も多分に含まれている。私を囲い入れるのも目的と言えば目的なのだが、現在の南天騎士団には使える人材が少ないのだ。

 ここでいう「使える」というのは、ゴルターナ公本人に忠誠を誓っており、かつその意思で動ける人たち……という意味だ。

 

 ゴルターナ公は先代から爵位と領地を引き継いだが、未だに旧派閥をまとめられないでいる。先代を中心においていた旧派閥は政治的な面を重要視し、現在の新派閥は軍事面を重要視している。この観点の違いから度々軍議や会議で衝突することがあり、対立が深まっているらしい。

 言ってしまえばどちらも大切なのだ。しかしそれで収まるなら苦労はせず、かつての領主に重用された者たちは軍事偏重の公爵に対し不満を抱き、逆に武人に分類される公爵は何を軟弱な事を……と言っているらしい。「ぷらいどがたかいとたいへんですね」 と作文のように締めくくりたいが、それに巻き込まれてしまった身としてはため息が出るのも仕方ないだろう。

 さらに言ってしまうと、新派閥のほうには魔道士が少ないのだ。これはイヴァリース全体にも言えることだが、武人系=前衛タイプ 学者・政治系=後衛タイプ 大雑把に、本当にざっくりと書いてしまうとこんな状況なのだ。なので新派閥に属している父の子供で魔道士系、それも傍から見れば結構な戦力である私を抱き込もうとしているらしい。

 なんとも難儀な話ではあるが、様々な事情から私は現在のような扱いを受ける事になっている。

 

 そんな私の現状説明的な思考を断ち切るように、ふと授業の流れが止まった。目の前に立っている頭を丸めた老人教師から、そういえば……と話が始まった。

 

 「トリスタン、君に会いたいという人が居てね。数日後に訪ねてこられるそうだ」

 

 「はぁ……それはまぁ構いませんが……」

 

 普段は誰か来る際は特に断りというか、前置きもなく来るのだが今回はこうして話が入った事に、僅かに疑問を持った。そして続く言葉は中々に衝撃を与えるものであった。

 

 「うむ、かの魔道士エリディブス殿が尋ねられる。現在はロマンダとも小康状態に入りつつあるらしく、その合間を縫って君に会いたいそうだ。」

 

 「ぶほっ……また凄い人が来ますね……」

 

 大魔道士エリディブス、現在のイヴァリースにおける最高位とも言える魔道士だ。単独で一つの軍隊とも渡り合えると言われ、その圧倒的な魔力と破壊力から現在のイヴァリースのロマンダ・オルダリーアという二正面での戦いを支えている人物の一人である。

 さらに言うとここガリランドにあるアカデミーの一つ、魔法専門の王立魔法院の出身であり、このガリランド内での彼の知名度は非常に高い。

 こちらの方に来れば北天騎士団の面子やそういった人物に会えるかもしれない、そう考えていたのだが、まさか相手から来てくれるとは思わなかったために、今の驚きは非常に大きかった。

 そして同時に、何か面倒な感じがしないでもないと思ってしまった。




14/02/20 訂正 ラナード ゼラモニア>オルダリーアへ

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