転生オリ主チートハーレムでGO(仮)~アイテムアビリティこれだけあれば大丈夫~   作:バンダースナッチ

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第19話

 金髪の少年のあとに続き、私とローランド、相手方の取り巻き2名は街からわずかに外れた場所へやってきた。

 そこは草原の入口近くで、場所は開けており、くるぶし程度までの緑が生えている。

 

「ところで、君はアカデミー生だよな?」

 

「そうだね、少し前から通い始めてるところ……そっちも?」

 

 移動がてらの話をしながら、お互いに距離を開けて相対していく。

 

「ああ、こう見えても、もう通い始めている。正式な年齢になるまでは待てなくてね」

 

 アカデミーに参加する年齢は絶対というものは決まってはいない。ただ、通例として12~4程度からが一般的とされているらしい。この時代においても、かつての世界の中世と変わらずに、15で一人前扱いをされるからだ。勿論、それぞれの家や地方ごとに多少の風習というものがあるが、概ねこれが普通である。私くらいの年齢だと、その家でもっと基本的なことを学ばなければならないことが多い。私は中身の問題もあり、そのあたりはまぁ問題ない……とも言い切れないが、それ以上の事情も含まれている。

そういった点を見るならば、少年は家柄が大きく、かつ才能に溢れている……のだろう。ローランドが強いと認めているのならば、それに実力も伴っていると見える。

 

 ここまで考えれば、大方の察しはつくものだ。ガリランド方面で白獅子の装飾を普段からつけられることを許され、かつ家柄もある……とくれば、恐らくベオルブ家。年齢を鑑みるに次男のザルバッグ・ベオルブが妥当といったところだろうか。まぁ、多分に私の予想が含まているし、所謂読者の勘というものもあるが、しかしそれは間違ってはいなかった。

 

「戦う前に名前を……私はザルバッグ。 ザルバッグ・ベオルブだ」

 

 ベオルブ家。このイヴァリースにおける双頭の獅子の片割れである白獅子……つまり黒獅子であるゴルターナ公爵、それと対をなすラーグ公爵家の懐刀であり、北天騎士団団長を就任する家である。北天騎士団と南天騎士団、そのどちらが優れているかは私が言うべきことではないが、多くの貴族や騎士達は北天騎士団こそ最強であると口々に囃し立てている。その最たる理由がこのベオルブ家の存在にある……と。ちなみにというべきかはわからないが、作中の主人公であるラムザもこの家の三男である。まぁ、目の前の少年とは腹違いになるのだが……。

 

 さて、それはそれとして、これはこれで面倒なことなのだ。通常の貴族ならばゴルターナ公の名前を出せば、大体が引き下がる……はずだ。当然、公爵の収める地方とは王都を挟んで反対側にあるため、ある程度の影響力は落ちる。だがそれだってわざわざ公爵に喧嘩をうるような意味はない。しかし、それがラーグ公家やそれに近いところは別だ。目の前の少年がこの勝負のいかんで何かをいうことはないとは思うが、なんか後で怒られそうで困る。

 

「どうかしたか……名前を名乗れない理由でもあるかい? 別に君も本当は平民である……というわけではないだろう」

 

 こっちが考え事をしていたら、そんな言葉が飛んできた。まぁ、この際生まれの貴賎のことは気にしないが、いい気分もしない。それに相手が名乗ったのなら私も名乗るべきか。というか、もうどうにでもなれだ。

 

「はぁ……トリスタンだ」

 

「トリスタン? あまり聞いた記憶のない……いや――」

 

「トリスタン・ブランシュだ、爵位は魔爵」

 

 諦めて名乗ってみれば、案の定というか、少年……ザルバッグの表情が驚きに変わった。そして、目が大きく開かれ、思い至ったように大きな声を出してきた。

 

「トリスタン・ブランシュ……あの『奇跡の魔道士』か!! そうか、噂には聞いていたが、まさか本当に同年代とはね」

 

 よかった、災厄の魔道士と言われなくて本当によかった。いや、別に気にしてはいないのだが、とりあえず相手はこちらに悪いイメージはもっていないだろう。

 しかし、相手は随分と嬉しそうな表情に変わっている。対する私の表情は推して知るべしだ。だが、もう名乗りもあげたし、こちらの事を知っているならもうなんでも構わない。少し位焦がしてやる、物理的に。だって今ソーサラーだし、ここで装備かえられないし、だから仕方ないのだ。

 

「あまり加減は得意じゃないんだけど、構わないよね」

 

「ああ、こちらこそ。魔道士が剣士と一対一の状況だ、なんなら最初の魔法位は待つさ。勿論、寸止め……もしくは致命になる攻撃は控えるつもりだ」

 

「……そう、ローランドに対しても止めるつもりだったみたいだしね、こっちもまぁ気をつけるよ。それと終わったら回復もするよ」

 

 随分と機嫌がよくなっているのだろう、わずかに魔法の跡の残る剣を引き抜き、ゆっくりと構えてくる。剣を両手にもち、正眼の構えというやつだ。

 ならば私もと、先の戦いでもらったドラゴンロッドを背中から引き抜き、右手でそれを突き出すように構える。性能的にはウィザードロッドのほうがいいのだが、高価な装備のほうが色々とお得なこともあるのだ。同時に一気に集中を高めていく。

 

―――――

 

「地の砂に眠りし火の力目覚め……緑なめる赤き舌となれ! ――『ファイラ』!」

 

 宣言通り、初撃を待ったザルバッグは僅かに肩の力を抜き、一気に草原を駆けて行く。正面には巨大な火球……先の受け止めたファイアが随分と大人しく感じられる。

 両手に持つ剣に戦う意思を込めていく、その意思に呼応するように刀身がゆっくりと光り始めていく。古代、魔法を行使する際に使われたルーン文字が浮かび上がり、剣は魔力を帯びていく。ルーンブレイド、騎士剣などのように大型や特殊化されていない剣では、最高と言っていい剣である。

 

「魔法とて、それを繋ぎ止めている点は……ある!」

 

 火球が到達し、周囲の温度が一気に跳ね上がっていく。炎の勢いによって、肌が焼かれ呼吸すら辛くなってくる。だが、それを恐れているようではベオルブという名を背負うことなどできない、それを示すように火球……ファイラの中心の一点をルーンブレイドで切り払う。古代文字が強く反応し、その形を成していた魔力が霧散していく。それを誰よりも感じたのは、魔法を撃ったトリスタンのほうだった。

 ファイラはその形を崩し、いくつかの炎の塊を周囲へと飛び散らしながら威力を弱めていった。飛び散った炎は草原の一部を焦がしていくが、最早それは誰かの脚を止めるものでは無くなっている。

 

「そんなのアリかっ!?」

 

 威力を完全に削がれた炎を突っ切るように抜け、ザルバッグはその剣をトリスタンへと薙いでいった。寸止めするつもりであったが、僅かな……それでいて確信に近いものが、剣を振り抜かせていた。

 

「――――っ!!」

 

 どちらの声か、息を飲む音がした。ザルバッグの普段の訓練通りなら、間違いなくあたっていた剣。それをトリスタンは紙一重で後ろに半歩下がることで回避をしていた。必中の間合いであるそれを、しかし回避されるという確信。トリスタンは魔法を打ち破られたことで、お互いに油断がなくなっていた。

 第2手になる行動は、再びトリスタンのほうから。半歩下げた右足で蹴り上げ、さらにその反動で後ろへと転がり込む。剣を振り抜いた体制へのその蹴りは、ダメージはないにせよ、ザルバッグは僅かにその姿勢を立て直す時間を作らされた。

 

「ちっ!」

 

「地の底に眠る星の火よ」

 

 その間に詠唱を開始していく。唱える魔法は『ファイガ』、集中と詠唱時間を余分にとられるが、目の前の相手に魔法で勝利する為には戦闘能力を奪うか、はっきりと勝敗を突きつけられる状況が必要と考える。前者であれば難易度で言えば楽であるが、ふと自分の中にある衝動に気づいたのだ。勝ちたい――と。

 対してザルバッグはさらに踏み込み、その魔法を完成させまいと攻撃を繰り出していく。薙ぎ、払い、突く。同年代どころか正規兵ですら回避が難しい攻撃を続けていく。最早寸止めなど考えておらず、多少斬ってしまっても仕方ないとさえ思っている。

 

「――古の眠り覚まし 裁きの手をかざせ!」

 

「させるかぁっ!」

 

 試し合いである事忘れ、お互いがムキに、そして全力に近くなっていく中である種の共通の認識が出来始めていた。共に同年代に相手は無く、周囲の大人とも一線を画している。剣と魔法の違いがあれど、そこにある孤独感を持っていると。

 振り抜かれる剣を時に上体を反らし、時に杖をもってその軌道を逸らす。詠唱の集中を切らさず、されど攻撃を見切っていくトリスタンにザルバッグも内心で舌を巻いていた。

 しかし、完全に回避は出来なくなっている。ザルバッグ自身も後のイヴァリースを代表する英雄の一人。徐々に動きを捉え、わずかづつであるがトリスタンのローブを裂いていっている。

 だが、それでも尚正面からの攻撃では詠唱を防ぐ事は出来なかった。

 しかし、それで諦めるような性格であるはずもない。そして、それをトリスタンも感じていた。

 

 故に、二人は全力を持って最後になる攻撃を繰り出していった。

 トリスタンの魔法が完成し、先程とは比較にすらならない巨大な火球。それに対してザルバッグは追撃を止め、その剣で突きの構えをとる。剣を横にし、両腕で構え反動をつけていく。父や兄、偉大とも言える騎士たちの動きを見続け、そうして不完全ながらも形を作ろうとした『剣技』、完成に近いモノマネを。

 

「大気満たす力震え、我が腕をして閃光とならん! ――『無双稲妻突き』!」

「『ファイガ』!!」

 

 二人の丁度中心、火球と雷撃を伴った剣気。それが互にぶつかり合い、巨大な爆発へと変化していく。静かだった草原を爆音が揺らし、離れた位置にある木々にすらその風圧があたっていく。

 当然爆発にもっとも近い二人はそれによって吹き飛ばされ、ついには両者ともに動けなくなった……。

 

 尚、その様子を見ていた取り巻き二人とローランドは――ドン引きしていた……。

 

――――

 

 私の最初の感想としては、なんというか有り得ない……というものだ。

 痛む体を無理矢理にでも動かし、ローブの中に入れておいたハイポーションを傷につけていく。

 現在の私の体は、左肩を手酷くやられており、体全体は爆発の衝撃と炎の熱でそこら中から悲鳴が上がっている有様だ。

 薬が傷に染み込むが、徐々に傷が塞がり始めていく。ある意味便利な世の中だ。痛む体を堪えて、ゆっくりと立ち上がり、のそのそとザルバッグへと向かって行く。

 

 頭の中では、ある仮説が成り立っていた。

 実際の所、私を含めてだが10歳そこそこの子供の戦いではないだろう。周囲を見渡せば爆発の跡に所々が焼け焦げている。そうして思い至ったのは、この世界が正しくファンタジーなのだろうという事だ。

 ファイナルファンタジーとして見たときに、最年少のキャラは一体誰だろうか? 思いつくのは6のリルムや4の双子等だ。既に大分昔の事であるため、性格な年齢は覚えていないが、少なくとも15以上ではないだろう。

 つまり、この世界は子供であっても鍛えればそれだけ強くなれるのだ。勿論、それは万人ではない。所謂才能、もしくはシステムの恩恵のようなものがある者に限られるのだろう。体格の差はどうしようもないにせよ、技術や魔力などは私の知る年齢のそれとは別次元にまで上げることが出来るのであろう。

 そして、そこに環境という要素が加わるのだ。この世界では貴族とはそういった環境にある。幼くとも親から多くの技術や師を与えられ、将来には強くなることを望まれる。このイヴァリース……だけではないが、平民たちの反乱が少ないのはそういう理由もあるのではないだろうか。

 

 たっぷり30秒以上かけて、爆発地点から反対側にいるザルバッグの元へと辿りついた。彼の表情は満足気であり、笑みすら浮かんでいる。まぁ、酷い傷だが……。

 杖を持ち直し、新しい詠唱を紡いでいく。今度は黒魔法ではなく、白魔法だ。

 ちなみに、現在私は黒魔法、白魔法、時魔法、召喚魔法と魔法とつくものは付け替える必要がない。ソーサラーのアビリティである『全魔法』のおかげである。まぁ、風水や陰陽が無いのが少し寂しいが、今までに比べれば非常に楽なので贅沢は言わないでおく。

 

「清らかなる生命の風よ、天空に舞い邪悪なる傷を癒せ――『ケアルガ』」

 

 白く輝く光が、ゆっくりと私を中心に渦を巻いていく。光の粒子は私たちの傷へと到達し、出血を止め、その痕を消していく。光が収まる頃には痛みも引き、体も十分に動くようになっていた。

 

「私の負けかな?」

 

「どうかな、僕が勝ったとは思えないけど」

 

 仰向けになって、右手を握って開いてを繰り返している。今の魔法でほぼ回復してくれたようだ。

 勝敗で言えばどうなのだろうか、初手を譲られた為私の勝利ではないことは確かだ。まぁ、ジョブはソーサラーなのだから、どうあっても近接になる一対一では不利と思えば……いや、言い訳にしか聞こえないか。

 

「しかし、まさか2回とも突っ込んでくるとは思わなかったよ……」

 

「うん? ああ、そうだな……ううむ……何というか、あそこで引きたくなかったのだ」

 

 攻撃魔法一択だった私が言えた義理ではないが、やっぱり人としてちょっとどうかしているのではないだろうか?

 思わず失礼な事を考えてしまったが、折角なので口に出してみる。

 

「もしかしてさ、君って結構……脳ミソ筋肉で出来てる?」

 

「……頭の中がファイアで出来てる魔道士に言われたくないな!」

 

 返す言葉もない……いや、せめてファイガ……もっとだ、ファイジャと言って欲しい。だってかっこいいじゃないか。ストップやスロウ、ドンアクなんて使って勝ったって、それを試合と言えるだろうか。まぁ、ドッカンドッカン魔法撃つのが好きなだけだが……。

 

「よいしょっと……さて、流石に騒ぎすぎたみたいだ。私はこれで失礼するよ、どうやら迎えも来たみたいだしな」

 

「ああ、うん。ていうか、なんで僕たち戦ったんだっけか……まぁいいや、こっちも迎え来たみたいだしね」

 

 町の方を見てみれば、ステラが走ってきている。そのさらに先にはダレンさんに、見たことのない貴族の男性が立っている。まぁ、あちらさんの関係者だろうと結論付け、ローランドに声をかける。なんというか、勝負の時間は短かったのだが非常に疲れた。

 

「あー、トリス……逃げたほうがいいかも」

 

「うん?」

 

「ステラのやつ、スゲェ怒ってる……ていうか手に杖もってるぞ」

 

 見れば手に木の杖を持っている。というか見たことある杖だ。どこだったか……ああ、ベヒモスの時に渡した癒しの杖だったか……。

 

「ローランドの……バカー!」

 

「ふぎゃあ!?」

 

 殴れば傷が回復する杖……をフルスイングして顔面に叩き込むステラ。首がちょっと変な方向に向いているローランド……なんかもうグダグダな様子である。

 そして、ステラの顔がゆっくりとこちらへと向き直る。目には涙を浮かべ、手にはローランドの血が付いた癒しの杖。背後には怒りのオーラが見える。

 

「いや、待ってくれステラ……僕は傷は治ってるし……」

 

「トリス様も……バカー!!」

 

「はぎゅ!?」

 

「……楽しそうだなぁ。それじゃあ私は行くぞ、またな!」

 

 心配と不安にかられたステラに殴られ続けるのをスルーし、ザルバッグは体を抑えながらさっさと行ってしまった……。

 

 こうして私とベオルブ家の次男との戦いは、何とも締まらない終わり方になってしまった。

 しかし、これを機会に彼とはそれなりの付き合いになり、友人という関係を築いていけるようになったのは、嬉しい事だった。

 

 そしてこの出会いから一月後、ついに私の元に前線へと戻るようにとの伝令が入る。ゼラモニア大平原での優位を獲得したイヴァリースは、ついにナルビナ要塞を基点としたオルダリーア本隊への攻撃を仕掛けるというものだ。

 それは、後に第四次ゼラモニア大会戦と呼ばれる10万以上の兵がぶつかり合う戦いである……。


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