転生オリ主チートハーレムでGO(仮)~アイテムアビリティこれだけあれば大丈夫~   作:バンダースナッチ

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ウィザードロッド

持つ者の魔法の能力を上げる効果のあるロッド


第20話

 ゼラモニア大平原西部、南天騎士団本陣が置かれている砦がある。全軍の兵を収容することは出来ないが、主要なメンバーとその側近を集め軍議を開く事に活用されている。

 その一室には、現在の南天騎士団の主要な騎士たちが集められていた。

 徴集の伝令を受けガリランドから戻った私は、今回は副官であるレミアさんを連れて軍議に参加する事になった。一応の仕官教育を受け、爵位を持ったことから正式に部隊長として認定され、建前上での決定権を持ったからだ。

 父やリシューナ子爵達と行動していた時は隊を任せられては居るが、その指揮はレミアさんが執っていたし、それを統括する二人も理解していたため体裁は省かれた形であったが、今回に関してはむしろ出るようにとの事であった。

 

 定刻近くになりレミアさんを連れて会議室へと向かうと、その末席に私の席であろう場所が確保されていた。

 席は長机に大きな平原を模した地図。それに南天の模様の入ったいくつかの駒が置かれており、その向かう先にはナルビナ要塞と書かれた場所がある。そして、鴎国の国旗が描かれた駒はその要塞の前に置かれていた。

 

「相手は野戦を挑んで来るんですかね?」

 

「恐らくは。兵数の上では南天騎士団を総動員しても鴎国軍には届きません。相手は数の利を利用し、まずは野戦でこちらの数を減らしてくるでしょう」

 

「わざわざ城塞があるのにその優位を捨ててまで?」

 

「籠城は時間稼ぎをする手段ですから。こちらには北天騎士団が援軍として向かっています、相手の目的もこちらへの侵攻である以上攻撃に主眼を置いてきます。なので、こちらはまず野戦で相手を減らして要塞攻めに……相手はこちらを倒し、そのままイヴァリース本国へと雪崩込みたいと言った所ですか」

 

 ここでこの戦争の特殊さが少し出ていると言える。この戦争の元々の目的はオルダリーアによって占領されたゼラモニアの解放である。勿論、イヴァリースも善意でやっている事ではなく、オルダリーアの力を削ぎたい為である。

 しかし、既に戦乱は長く続きすぎたのだ。お互いにその戦争の意義を忘れ、お互いの国へと攻め入り、そして自国の領土にしようとしている。侵攻側と防衛側から、互いに侵略する戦争へと形を変えてしまっている。

 往々にして戦争とはそういうものである……と言われればそれまでなのだが、この状態は非常に宜しくないのだ。何故ならこの戦争の幕引きをどこで行うか、妥協点を見いだせずに居ることが全くもって宜しくない。落としどころのない戦争などただの殺し合いに過ぎず、国は疲弊し、人心は離れる。しかし、それでも貴族達は戦うしかないのだ。戦って勝って自分の家や領地を増やそういう目的の為に。

 そして、その為には戦争とはそういった人種にとっては都合のいい場であると言えた。

 

 刻限が近づくにつれて、人が集まり出してくる。入口から一番離れた所……上座下座の概念があるかは解らないが、一番奥が騎士団長であり、最も権力のあるゴルターナ公。その左側にはオルランドゥ伯、リシューナ子爵そして父と続き、右側にはいつだったかに見た一人エーリッヒ司教、そしてそこからはあまり見たことのないメンバーが席に着き始めていた。

 私は一番入口に近いところ、そして非常に分かり易い目印がある。というか、私が座る場所であろうところにお菓子と果実水が置かれているのだ。

 所謂皮肉というやつだろうか、後ろに立っているレミアさんの顔が引きつっている。持っているペンがミシリと音を立てて砕けている、怖くて声かける気力が沸かないが、仕方ないと諦めておく。

 

「ここでいいんですよね」

 

「……舐められていますね、ブランシュ子爵も公爵の手前騒ぎにするつもりもないでしょうし……一先ず、すぐに下げさせます」

 

「ああ、いいですよ。要は発言権はないんだぜーって言いたいんでしょうし、別に僕も発言するつもりもないですし」

 

 席に着き、果実水を口に含む。甘い香りが口内に広がり、少し幸せな気分になれる。

 元々私はこの軍議において発言するつもりも無いし、目立つつもりもないのだ。出る杭は打たれるというし、既に十二分に目立っている。それに、先の戦いは全体から見れば、平原の戦いの一方面部隊の活躍に過ぎない。それが特別扱いされているのだ、そりゃあ面白くないと感じる人間も多々いるだろう。

 リシューナ子爵はこっちを見ながらニヤニヤしてるし、面白いしこのままにしようとか公爵に提案してそうだし、私もそれに乗ることにする。

 そして、結果としてこの軍議は私が発言をする意味など殆ど無い状況……というか、それぞれが自分の武勇を囃し立てて先陣を任せてくれと言い合っている状況である。

 実際、軍の規模が大きくなり、お互いの兵数が多ければ多いほど、小細工などは出来なくなってくる。中途半端な策では効果は薄いし、そうなれば兵の練度と伝令の速度、各部隊長の判断力に左右されてくる。

 私としては、むしろこの席の配置のほうが気になる。小声で私のすぐ後ろに立っているレミアさんへと訪ねてみたところ。

 

「そうですね、主に公爵に近い方が発言力があると見て間違いないです。城などで行われる場合はそれぞれの位置がありますが、こういった前線での軍議では固定された位置は決まっていませんから」

 

「この左右にも何かあるんです?」

 

「左側が現公爵派、右側は司教を除けば前当主派……つまりは旧派閥ですね。司教は自分で中立と言っているので、微妙な立ち位置ですが……」

 

 世の中の人は派閥というのが大好きなようだ。ちなみに私は左側。まぁ別にどちらでも構わないのだが……できればこういったお菓子なら普段から置いてもらいたい位だ。

 軍議自体は、徐々に白熱しだしている。私は大きすぎる椅子に足が届かず、ぷらぷらとさせていたら、所謂旧派閥に属している一人に睨まれるように視線を飛ばされ、ついにこの軍議での話題に登ってしまった。

 

「そういえば、ブランシュ魔爵はどういった扱いにするつもりかね? ああ、我々の担当する右翼には必要ありませんぞ、我々は味方を撃つような魔道士は必要ありませんからな」

 

 その一言で旧派閥組は声を上げて笑い、父をはじめとした幾人かがそれに食ってかかる。私はどうしてるかって? ジュースウマー状態だ。こういうのは黙って言わせている方が被害が少ないというのが、私のある種の経験則である。

 そして、次は司教が私を一瞥し、ゆっくりとその口を開いていく。

 

「ブランシュ魔爵……ややこしいですね、トリスタン魔爵については一つ考えがあります。まず、旗を掲げることと名乗りを上げる事を伏せてもらいます」

 

「待て、それでは貴族としての誇りを捨てろということか!」

 

 その言葉に、今まで黙っていた現当主派のメンバーも父たちに加わって非難しはじめた。

 先に上げた戦争の目的……というより、貴族の目的として自分の家の出世等がある。そして、伏兵や奇襲などをする以外で、通常の部隊として戦争に参加するならば、その家の旗や名乗りを上げて戦果や行動をアピールするのが通常である。それをしないというのは一兵卒と変わらず、暗にお前にその資格が無いと言っているようなものと解釈されているようだ。

 

「反論は解ります。ですが、ある意味この戦いの鍵を握っているとさえ私は思っています……ブランシュ家の名誉を傷つけるような事にはなりません」

 

「しかしだ、わざわざ伏せることもなく、我が子ならばやってくれるぞ! それに、司教殿はわざわざこの時期にアカデミーに参加させるよう要請をだしたり、まるで戦果を稼がせぬようにしているように見えるぞ……!」

 

 ちなみに、最近父は派閥内での発言力を増しているらしい。私の戦争での活躍はブランシュ家のものとしてカウントされるし、先の戦いでの殲滅戦もそれなりの戦果を出したための結果らしい。

 というか、私のアカデミー缶詰の首謀者は司教なのか。まぁ、仕官教育は建前でも中身でも重要であるため、公爵も賛成していたはずだが。

 

「それも含めての考えです。彼を最も効率よく運用するならばとの考えです。ご理解願いたい」

 

「運用だと? 道具のように見おって!」

 

 一瞬、本当に一瞬だがお前が言うなと思った人達がいるような気がしたのは気のせいだろうか。

 そして、また別の視線に気づいてその方向を向けば、リシューナ子爵が両手を僅かに上げてやれやれと言った雰囲気を出している。目配せを一つこちらに送り、二人の仲裁へと入っていった。

 

「まぁ、ひとまず二人共落ち着け。そうだな、当の本人はどう考えている? まさか、本当に菓子を食べに来たわけではあるまい」

 

「用意されていたもので、食べないのは失礼かなと……まぁそれは置いておいて、僕はどちらでも構いません。ただ、旗を目印に囲まれたら僕に戦う術はないって事を考えてもらえると嬉しいですが」

 

「おや、オルランドゥ殿に勝負を挑んだ割に弱気な事を」

 

 リシューナ子爵の質問に答えたら、今度は別方向から横槍が入る。というか面倒なのだ、こういった場では数回参加するまで黙って観察して、場の空気というもの理解しないといけないものだ。まぁ、それが許される立場でも無いらしいが。

 

「数名程度なら逃げるくらいならどうとでもなりますが、それ以上なら無理ですね。勿論、敵兵が全て伯爵ほどの実力を持っていたら例え一人でもお手上げです」

 

「オストン殿、無意味な挑発はやめたまえ」

 

「ふぅ……さて、本人もこういっている事だし、ここは一先ず司教殿の考えで動いてもらえば良いのではないか? それで問題があるようなら、また変えればいい」

 

 結局、その言葉をもって軍議での私の話題は終了することになった。そして、軍議終了後に私にきた指示は旗を掲げず、本隊からの指示通りに動き攻撃をするようにとの内容であった。

 

 自分の隊へと戻り、訓練の進捗を確認していく。私がアカデミーへと行っている最中、私の隊は戦場には行かずひたすらに訓練をしていた。数度の実戦を経験し、戦場の空気に慣れたところで再び訓練を行ったことにより、現実を知った彼らはそれなりに成長をしていた。

 とは言え、それでも数ヶ月の調練で大きな成長を遂げることは難しいと判断され、レミアさん、そしてダレンさんの案から内容を特化させるという事で方針が決まっていた。

 特化させる内容は走ること、攻撃を受け止める事。この二点である。

 この隊における最大効率を出すためには、私が完全に攻撃に回る事にある。そして詠唱中に大人数に襲われればひとたまりもないため、防御を彼らに任せる事になる。そして、完全な殲滅はその特性上難しいため、陣形を崩し、主力を崩した後は他の隊に任せ、また別のところへ移動する方がいいのだ。その為に走り込みの訓練はよく行われていた。

 扱いとして考えるならば、支援砲撃を前線近くで行うという感じだろうか。

 そして、今回の司教の考えはこれに則ったものであると考えている。旗を上げないことで他の兵卒たちに紛れ、前線近くで大魔法を放つ。そして崩れたところでその隊が前進する。私たちは別の場所へ移動し、同じように崩していく……。

 ここで重要なのは旗や名乗りを上げてしまった場合、私を倒すために敵は殺到してくるだろう事だ。ただでさえ魔道士は狙われやすい。それが有力であれば尚更だ。その為、今回の司教の考えは私にとってありがたいものでもあったのが実際のところである。

 そして、来る大会戦にむけ、私たちは残る時間を過ごしていった。

 

 

―――――

 

 軍議が終了し方針が決定されれば、指示を出す者たちは大忙しになる。その最中、それでも地図から目を離さないでいた人物が居た。

 グレバドス教会に所属し、今はゴルターナ公爵の軍師的な立ち位置についているエーリッヒ司教である。

 ゴルターナ公の知の面での側近は、内政ではグルワンヌ大臣、軍略面ではエーリッヒ司祭が受け持っていると言える。そして、教会の司教という立場から南天騎士団内での派閥の中間に位置している。

 当然、その立ち位置は多くの問題がある。どっちつかずの態度のために、どちらからもいい顔をされず、よく反発を受けることがある。その為に自分の策が成らない事等、度々起こる始末である。今回はリシューナ子爵が間を持ち、当の本人が賛成したために纏まったが、あれで本人が拒否したり誰も間に立たなければいつもと変わらない結果になっていただろう。

 

 エーリッヒの考えるトリスタン・ブランシュ魔爵という『駒』の運用法は、ある程度確立されていると言っていい。

 イヴァリース西部戦線である北天騎士団を中心とした戦力には、大魔道士エリディブスが居る。エイディブスに直接指示を出せる人間は少ないが、彼は砦や城の守りにつくことが多い。

 個人戦力が高い人間には二種類居る。個の武勇において、剣技と魔法である。剣技については部隊単位に強く、魔法であれば軍規模に強い。前者は雷神や風神、後者は大魔道士や少年である。そして後者の運用法とはこうだ。

 

 一つ、篭城戦……砦でも出来るが、極力壁が高く硬い方が理想的だ。相手のほうからこちらの射程距離に近づき、壁によって足止めされる。数によっては一方的な展開になるだろう。

 

 二つ、大規模戦闘……数は多ければ多いほどに活躍出来るだろう。個人を守る軍勢は多く、的も多く広い。今回はこれが当てはまる。

 

 そして、逆に苦手とする戦場も当然存在する。

 

 一つ、攻城戦……大規模な魔法によって砦を落とす事は出来るが、城や要塞などはその壁に対魔法の性能を備えている場合が多い。そして相手は上から攻撃でき、こちらは丸見えになる。城兵を纏めて倒せると考えても、諸刃の剣である。

 

 二つ、中・小規模戦闘……大魔法は必然、的が少なくなればその効果は薄まっていく。そして、もしも敵軍が固まって個を狙って来れば、それを防ぎきるのは難しくなってしまう。

 

 ある種、二人の子爵たちによって行われた戦闘は少年の真価を発揮出来ていなかったと言える。異質とも言えるその力に、ただねじ伏せるだけの使い方をさせていただけという評価だ。

 今回エーリッヒはその能力を十全に発揮させる場を設けようと考えている。その為、既に伝令を担っている指揮官には、重点的に彼の隊へと回すように手配している。その数は南天騎士団の伝令兵のおよそ3割を占めるまでに割いている。

 勿論、今までの報告が過大評価だという場合も考えられる。その時はその伝令を他部隊に回せばいいだけの話しである。だが、報告通りの戦力ならば……と、期待せずにはいられない。もしそうであるなら、南天騎士団の戦力は大きく増すことになる。それは彼個人の火力などではなく、騎士団全体の話だ。

 

「後は、他の地方の動き……か」

 

 地図の端へと目をやる。旧ゼラモニア領南部、東バグロス海に近い位置でも戦闘は続いている。そちらはランベリー領から抽出された兵に、東天騎士団が当たっている。報告によれば戦力はこちらが優っており、最低でも現状維持は可能という見通しである。

 しかし、気になることもある。先月頃に要塞から一部の兵が移動したという報告がある。鴎国の王子が別の戦線に移動したという情報も入っているが、確証には至っていない。しかし、こうも上手くこの地での優位性を確保できたのも疑問が湧いてくる。

 

「斥候を多くだし、気を配る位しかできないか……ともかく、北天の援軍を待つより他無いな」

 

 僅かな不安と疑惑は徐々に大きくなるも、その戦端は開かれることになった。


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