転生オリ主チートハーレムでGO(仮)~アイテムアビリティこれだけあれば大丈夫~ 作:バンダースナッチ
沈んだ意識が体への刺激によって徐々に引き上げられていく。体は一定のリズムで揺れ、肌は濡れて体温を奪っている。僅かに感じる左胸の違和感と全身を包む倦怠感は、再び意識をなくしてしまいたい衝動に駆られるが、動き出した頭は直前の記憶を呼び起こしてきた。
はっとなり目を開ければ、私を抱えながら手綱を握っているフォアラントが見える。
「目を覚ましたか」
彼の表情は疲労と焦燥の色が見て取れた。ついで周囲を見渡す。時刻は既に夜も深まっているのだろう、先頭とそれに続いていくつかの松明だけが光源となっている。空を見上げても一面の闇から雨が落ちてくるだけだ。
行軍……というよりは敗走と表現するのが正しいのだろうか。闇に目が慣れてくれば、周囲に多くの兵が居るのが分かってきた。そして彼らの表情もフォアラントのそれと同じである。
そして、斜め後ろには副官であるレミアさんを見つける事が出来た。彼女は疲労の色の方が非常に濃い。そして右手で肩口を押さえている事から、多少の怪我を負っているのだろうか。それに気づいて再び見渡せば多くの兵が満身創痍と言える。
「……何が起こったんです?」
私のその質問にフォアラントは悔しさを吐き出すように言ってきた。
「……ゼルテニア城が陥落した」
「そんな………でも」
「事実です。現在南天騎士団はベスラ要塞へと撤退を決定。私たちはベルベニアへと向かっています」
フォアラントの言葉を私たちの隣まで進んできたレミアさんが肯定する。そして、私が意識を失ってからの事を教えてくれた。
―――――
「剣を召喚して太刀筋を逸らしたか……流石に一筋縄ではいかない」
既にカイゼルの視線は目の前の男に注がれている。隣に居るバルログも同様に、いかなる隙も作るまいと構えている。
対峙する相手……雷神シドも後ろへは僅かに視線を飛ばしただけで警戒は正面へと向いていた。
「竜騎士カイゼル……なぜここにいる」
「戦場で相対した騎士が3人……その質問はいささか無粋では?」
シドは僅かに目を細め、手に持つ聖剣を構える。刀身から出る光は体を包み羽のように軽くしていく。そして、細かく息を吐き相対する二人の騎士へと向かっていった。
その不利とも見える戦いを見ていたのはレミア・セイジュ。要塞騎士の突撃により負傷した怪我は既に治療していた。だが、今まの状況で動くことは出来ないでいた。
接近戦が全く出来ない訳ではない。だが、今目の前の戦いを見れば自分の立ち入る隙は存在しないだろう事は分かる。
2対1。一定以上の技術を持った者同士ならば、この戦力差は覆すことが出来ないと言っていい。しかし、南天騎士団……いや、畏国全土を見渡しても彼ほどの騎士は3人と居ないだろう。
突き出される槍を紙一重で躱し、振り下ろされる戦斧を剣で受け流す。そしてその一連の行動をしながらカイゼルの脇腹へと蹴りを放ち、ついで体を捻ってバルログへと斬撃を加えていく。一瞬で攻防が入れ替わり、雷神の猛攻が始まっていく……。
僅かな時間魅入ってしまったレミアは、頭を切り替えて自分のなすべき事へと行動を移していく。あちらの方は任せるしかない以上、今自分が出来るのは隊長であるトリスタンの治療である。そして、傷を見ようとしたところで目を見開いた。
「傷が……塞がっている? リレイズ……いえ、少なくとも今日は使っていないはず……」
「おい副官さんよ! 早いとこそいつを連れてここを離れるぞ!」
考えを打ち消すように響いてきたのは周囲で奮闘しているフォアラントの声だった。彼を含めて二人が自分の護衛をしており、そのおかげで未だに無事なのだ。頭を二度三度振り、気持ちを切り替える。
「直ぐに取り掛かります。あっちは大丈夫ですか?」
「シドの旦那なら問題ない、うちの最高戦力は伊達じゃないさ」
傷が塞がったとは言え、そこまでの状態である少年の体にポーションをふりかけていく。そしてケアルラを使いある程度の回復を済ませる。だが、それでも血を流しすぎている。少なくとも今日明日では戦線には復帰できないだろうことは見て取れた。
体を抱きかかえ、ゆっくりと持ち上げる。思っていた以上に体は軽く、先程までバルログと紛いなりにも渡り合っていた人物とは思えなかった。
――しかし、レミアにはどこかに違和感を感じたのも事実だった。
(先の北部での小競り合いに比べて弱く……いえ、実力を出し切っていなかった?)
考えながらも視線を自陣側へと向ける。見れば黒獅子の旗が動き、こちらへと向かって来ている。公爵自身が動いたのだろう。まだ日は高いがここでひと当てして軍を下げる……そう考えているはずだ。
すでにこの戦場は畏国側にとってみれば崩れかけた橋の上と同義である。トリスタンを狙ってきたのはいい。その為の前線の突破を要塞主であるバルログが担った事は驚くべき事実であるが、まだ理解は出来る。この場に竜騎士団の副団長が来ていること、これも理解自体は出来るのだ。
北天騎士団の援軍の遅れ、重要防衛拠点であるはずの要塞の将の少なさ、バグロス海沿いでの二面作戦。もし、これらが全てひとつの意思によって成り立っていた場合……。
しかし、この場でレミアの考えは答えを導く事はできず、南天の誰もが理解する事ができないでいた。結局この後に畏国側は多少の損害を出しながらも後退、鴎国側は強引な攻勢での損害をもってこの日の戦いは引き分けとなった。
そしてその日の夜、南天騎士団の主要な貴族たちが集まっていた。それぞれが口々に考えを出していた。交戦を続けるべし、撤退すべし、様子をみるべし……。その終わりの見えない軍議は答えの出ないまま締められるかと思われた矢先、一人の瀕死の伝令兵によって打ち破られた。
蹴破るように扉が開け放たれ、そこに一人の兵が転がり込んで来た。鎧は傷つき、自身の血で汚れている。至るところに傷を負い、顔は泥で汚れており、疲労の色が濃い。ぼろぼろになったマントからは、彼がランベリーの兵である事がかろうじて分かった。
「何事だ!?」
「バ……バグロス海沿いでの戦いで……我が軍は敗北しました」
その言葉にその場に居た全員が驚いた。兵力で優り、膠着状態を目的としてた海沿いの戦線がこうも早く落ちる事等有り得ないと。
伝令兵は痛みをこらえながらも続けていく。
「最初は優勢でした……ですが、奴らは商船に紛れて急襲……領主であるエルムドア侯爵は討死、本陣の混乱を狙われ……ぐっ!」
「商船に紛れる等……そんなものに紛れようと数が揃わんはずだ! 多くて5百、兵は何をしていた!」
一人が声をあげる。それに肯定するように多くの声が上がっていくが、それを収めるようにゴルターナ公はゆっくりと兵の前へと出て行った。そして、傷ついた兵の顔を見つめ、後を促す。
「何が起こったのだ?」
「……ジークフリードです」
「ジークフリード? まさか……傭兵卿か!」
傭兵卿、平民の出であり、傭兵業を生業としながら多くの戦場で手柄をたて、ついに鴎国から爵位を与えられた人物である。コロシアムと呼ばれる非合法の賭場にて無双の強さを誇ったと噂されていたが、これまでに戦争に積極的に参加したとは聞いていなかった。
予想外の人物の名前が上がり、場は沈黙が支配されだしていた。それでも伝令兵はまだ重要なことを伝えていないと力を絞っていく。
「奴は3百の手勢でした……ですが、その強さは異常です。奴一人に数百の命が奪われました……そして鴎国は我らを包囲、私を含めた一団は突破を試みましたが……」
残ったのは彼一人……という事であった。
「馬鹿な……だが、それならば何故奴らは襲ってこない?」
「いえ、むしろより不味い事になりますね」
そう考えを発言したのはエーリッヒであった。顎に手を当て、視線を地図へと下ろしている。そして、やや時間を開けていくつかの駒を動かしだした。
「奴らは我々を挟撃する事選ばなかった……ならばどこへ向かうか?」
駒をフラフラと動かしていく。国境線にあるザーギドスを超え、ランベリー側へ。しかしそのまま直進させたところで畏国内にあるベスラ要塞にぶつかる。
一度駒をザーギドスまで戻し、次に動かしたのはゼルテニア……。
「まさか……ゼルテニア城? だが、それならば北天騎士団に……」
「未だに援軍が到着していない点を考えれば、もしかしたら戦闘になっているかもしれません……ですが、もしもそこまで織り込まれていたら……いや、最早間違いないでしょう。閣下、直ぐに撤退をすべきです」
「何を言っている、ここで奴らに背中を見せればそれこそ思う壺なのではないか! それにここで引けば後で他の連中に何を言われるか……」
「…………」
エーリッヒの進言にゴルターナ公は目を閉じ黙していた。今の話がどこまで現実に当てはまっているか。決断をするには情報が不足している事もあるが、公爵という立場が判断を邪魔していた。
現在イヴァリース国内は4つの大派閥によって成り立っていると言える。
白獅子、黒獅子、大公、国王派の各勢力である。その中で爵位を継いで間もないゴルターナ公は、簡単に撤退をする事は自分の発言力を失う事になる。それは自領内でも同じことが言える。家中をまとめきっていない現状で、もし全ての予想と逆だったらどうなるか? 今そこにある戦いに集中できず、再び沈黙が場を支配していった。
が、それも直ぐに破られることになった。再び勢いよく扉が開かれ、今度は一人の南天の騎士が飛び込んできた。
「物見より伝令です! 要塞より敵軍が出陣したとの報告が……一刻後にはこちらへ到達する見込みとのことです!」
「間の悪い……! 閣下、ご決断を。迎え撃つにせよ、撤退するにせよ、今は時間が押し迫っております」
「――仕方あるまい、これより撤退を開始する」
その決断をもって南天騎士団は撤退を開始した。
―――――
「以上が、撤退の経緯です……」
「だが、撤退こそが奴らの狙いだった……いや、あそこで戦ってたとしても変わらなかったんだろうな」
自嘲気味にそう言い捨てる。そこからの撤退戦、いや戦とは呼べないものだったらしい。要塞から出撃してきた鴎国軍は、後退を始めてからは攻撃をせず一度引き返した。平原からゼルテニアまでの道のりはそう長くはない。間にザーギドスという町を過ぎればすぐである。そしてそのザーギドスでは鴎国軍を見た人間がおらず、町も荒らされた様子はなかった。
結果だけを見ればそれは間違いであった。バグロス海沿いの戦闘と南天が後退を開始した時点での時間差はおよそ三日程。ザーギドスの町の取りまとめ役を始め、一部の貴族までもが裏切っていたとは誰も予想出来なかったはずである。
買収、脅迫、見せしめによる恐怖……この戦いに至るまでに多くの準備をし、備えていたのは鴎国側であった。そしてこの情報を得たときは既にゼルテニア城は陥落、旗は黒獅子の紋のままであったが開いた城門からは敵兵が雪崩込んで来たという……。
「そこからは騎士団そのものが分断。俺たちは他の隊とは独立していたのが幸い……かどうかは判らないが、ともかく行軍の端にいたおかげで先に撤退することになった。まぁ、見ての通り被害は大きいけどな」
言いながら、隊員を集合させている。雨は体力を奪っていく。そして撤退とは精神を削っていく。雨をしのげそうな木を探し、そこで点呼をとっている。残った人数は百二十名程。残りは脱落や脱走、本隊の方へと残った者も居たそうだ。
ある程度の範囲内に集まったのを確認し、ケアルジャを使っておく。普段とは比べ物にならないほどの倦怠感に包まれながらも、魔法は完成し光が私たちを包んでいった。
「……ありがとうございます。これで、もう少し行軍速度が上がるでしょう」
答えながら自分の状態を確認していく。外傷そのものは塞がっている。倦怠感こそ強いが、ひとまずはそこまでだ。次いで装備だ。肩の部分がボロボロになったローブに、髪飾りは欠けてしまっている。そして腰のあたりに手を回しても、そこにあった杖は無くなっている。思い出してみれば先の戦場で落としていた。
気になったのは背中の部分に背負う形で結ばれている大剣だろうか。咄嗟とは言えアイテムから呼び出した武器だ。カオスブレイド……私の持つ武器の中で最も強い剣であるが、初陣の時といいお守りみたいな存在になっている。
鞘の部分を触りながら周囲を見るが、これといって聞かれる様子がないのが幸いであるが、今は重要なことでは無い。
「いえ……それで、ゴルターナ公はどうなりましたか?」
「南天騎士団が何もせずにゼルテニアから撤退することは出来ないだろうよ。一戦してから撤退……方角から言えばこっちからベスラに回り込むより、ランベリーへ引くだろう」
雨に染みて幾分か見づらくなった地図を広げながらそう説明してくれた。恐らく鴎国はこのタイミングで要塞から出た部隊と挟撃を狙っているのだろう。
戦争とは戦う前に決まっているという。戦争自体は既に混迷を極めているが、しかしその状況であっても戦闘は続いている。この一戦にこれだけの用意をしてきた鴎国……もしくは指揮官はどこまでを考えているのだろうか。
私が知っているこの世界での歴史は、この戦争……五十年戦争はイヴァリースの敗北で終わる。流石に本編の背景とは言え詳しく語られなかったため、その中身は殆ど知らないと言っていい。分っている事といえば、首都を目前としながらも突出した個、つまり雷神や天騎士の存在によって形式上では対等の条約を結んで終結した事位だ。
無論、私がいることによって多少の差異は出るのだろうが、私も一人で戦争の結果を左右する事が出来るとは思っていないし、私はそこまで強く在る事が出来ないだろう。
じくりと痛む左肩を右手で抑える。そう、一人の力なんて弱いものだと痛感したばかりだ。
僅かに視線を感じ、その元を辿るとレミアさんと目があった。濡れた髪が張り付いてる顔からは、表情が読み取れなかった。ただ、非難されたような気持ちになり、私から視線を逸らしてしまった。
「ともかく、移動を再開しましょう。ベルベニアまで到達出来れば、こちらで何か起こっているかが判るはずです」
およそ30分程経った位だろうか、レミアさんの言葉で周囲も再出発の準備をはじめ出している。動きは緩慢としたものだが、それを責めるのも酷というものだろう。
暗い空を見上げれば、先ほどよりは雨足が弱まってきている。代わりに風が出てきているが、行軍に影響が出るほどではないのは幸いなのだろうか。
次いで周囲を見渡そうとしたところで、僅かに人の足音が聞こえてきた。雨でぬかるんだ地面を駆け抜ける音。一瞬鴎国の兵かとも考えたが、聞こえてくる足音は一つだけ。そちらの方向を見つめていると、私の横にレミアさんが来てくれた。
「どうかしましたか?」
「足音……多分一人だと思うんですけど、あっちから向かってきますね」
目を凝らしても、月も出ていない夜道では見えることはない。しかし、レミアさんのほうは心当たりがあるのか、落ち着いた様子で居る。
「周囲に偵察を出しました。そのうちの一人が戻ってきたのでしょう……ですが、何かあったのでしょう」
現在撤退行動をとっている私たちにとって、雨の中とは言え走っていれば目立ってしまう。姿はそうそう見えなくとも、足音だけで周囲に存在を示してしまう。それは偵察に出た本人も分っているはずだ。
つまりは誰かに追われているか、目立つ行動をとってでも早く知らせなければならない事があるか……といった感じだろう。そして、今回は後者であった。
「た……大変です! 近くの街が襲われています!」
私はその言葉を一瞬理解する事が出来なかった。戦争中に近くの集落が襲われる事はよくある事なのだろう。だが、今この状況で一体誰が何のために? そして、一体どこが?
全ての疑問に答えが出た訳では無い。だがそれでも、私は近く居たチョコボの手綱を掴み、偵察兵の来た方向へと走らせた。
私たちが向かっていた先はベルベニア。ゼルテニアからの道中にある街はフィナス川の近くにあるフィーナスのみである。周囲に村や小規模な集落こそあれど、一番大きな場所はそこ以外にない。
今までとは違う感情、恐怖や怒りではなく、何か黒いモノが腹の中で動く感覚。
頭の中がぐちゃぐちゃになりながら鞭を入れていった。
目的の場所に到着した時、そこは私の知っているフィーナスではなかった。
街の至る所で火の手が上がり、至る所で悲鳴が聞こえ、至る所に死体が転がっている。
「……なんだこれは」
「あん? なんだ、まだ金もってそうなのがいるじゃねぇ――」
目の前に出てきたボロ切れを着た男を、背中に下げていた剣を振り抜き、首を切り裂く。視線の先は倒れてくる男ではなく、男が歩いてきた方向。そこにはまだ年端もいかない少女が血を流して倒れている。
ゆっくりとその少女に近づいていく。足元がふらつくが、構うことではない。
そっとその少女に触れれば、その目からは生気が失われている。
「一体なんだよこれは……!!」
少女の体は無残な状態だ。殴られ、切られ、そして慰みものにされたのだろう。泥で汚れた顔には涙のあとが残っている……。
きっと、戦争というものを知識として知っている人も、実際に体験した人もこういうのだろう。
そして、多くの人がそう答えるであろう言葉を返してきたのは、肩で息をしているレミアさんだった。
「これが…………戦争です」
「……こんなこと」
「無辜の民が被害を被り、恨みが広がり、そしてやり返す。いつの間にかそうすること、される事が当たり前になり、人は奪う側に回ろうとします」
「違う、そんなのは戦争じゃない……特殊な状況を言い訳にしただけのただの……ただの虐殺だっ!」
「ですが、これが現実です。私たち畏国が鴎国に進軍しても同じことが起きるでしょう。いえ、実際に起きています」
「……だったら」
だったら、誰が彼らを守るのだろうか?
「トリスタン! 副長も一緒か、これを見ろ! この刺青は罪人の印だ、ゼルテニアに捕まってる奴だけじゃない、オルダリーアの連中も放されてるみたいだ」
「数は?」
「街全体だ、恐らく五百以上は居る……周囲に散らばってりゃ千は超えるぞ」
彼らに罪はないはずだ。戦争をしている国に所属している事実だけで、実態は巻き込まれただけだ。政治に巻き込まれ、戦争に巻き込まれ、そのために搾取され……。そして誰にも守られずにまた奪われて。
「今ディックが館を見に行ってるが、この状況じゃ流石に俺たちだけで対処するのは無理だ」
「……とにかく、残った人を探しましょう。恐らくどこかに隠れているはず……」
「…………俺たちが全滅するかもしれないぞ」
フィーナスの街の人は皆いい人達だった。長く続く戦争の中であっても、それでも強く生きていた。警備隊の人やそれぞれの技能をもって支えあって生きていたのだ。
彼らが……いや、彼らだけじゃない。誰もがこんな事になるのを許していいはずがない!
「そうだ、こんなこと……許しちゃいけないんだ」
剣を握り直し、周囲を見渡す。目に見えるものだけではなく、聞こえてくる声や形あるものが壊される音も。
ここにあるだけの小さな幸せを破壊した奴らを
「――全員殺してやる」
そして、願わくば……一人でも助けたい
そこからは、私の記憶は曖昧になっている。
かつて見た赤い夢のように。
私の体は、街を飲み込んでいる炎のように熱を持ち。
私の心は、それでもなお振り続ける雨のように冷え切っていった。
剣を振り抜き、血を吐き、魔法を放ち、溢れ出てくる涙が飛び散っている。
どれだけ戦っただろうか、1時間かもしれないし、5分かもしれない。とにかく、街の広場に出た。そこは、古いながらも大きな教会が建っている場所だった。
石造りの建物は火に耐えることができていたが、その入口には数十人の男が群がっていた。何かを叩きつけるように、鈍い音が響いている。
僅かに残った理性が、その可能性に思い至ることができた。
「お前たちはっ!!!」
「なん――!」
最後尾の一人を切りつけ、次いで二人目も。並行して詠唱を重ねていく。
「大地を統べる無限の躍動を以って、圧殺せん!」
この教会はそれなりの広さがある場所だ。そして緊急時に教会は民衆に対しての支援を行う事がある。逃げ延びた人がここに集まっているのならば、こいつらが群がっていることも納得がいく。
「――タイタン!」
男たちの足元が揺れ動き、そしてその中心に土色の肌をした巨人が現れた。筋肉に覆われたその体躯、腕のひと振りで周囲をなぎ払っていった。文字通りの血の雨が降るが、今は構うものか。
男たちの攻撃と、今の衝撃。教会の扉は既に半壊し、その内側すら伺えるようになっていた。
僅かな灯りと共に、多くの人が子を妻を抱きしめて震えている。
「みんな!!」
崩れかけている扉の隙間に体をねじ込み、無理矢理に中に入る。欠けた補強板がや、破片が体やローブを傷つけてくる。だが、今はそれに構っている場合ではない。
ようやくの事、扉をくぐり抜け内部を見渡す。だが、感じられたのは違和感だけである。
室内の空気は張り詰めたままだ。恐怖と敵意、そして怒りが向けられている。そう、私に向かってだ。
「皆……無事……ッ!」
言葉を言い終える前に、小石が私の頭をかすめた。
「……なん……で?」
「今更――今更何の用だ! 俺たちを見捨てたくせに!」
それを口火に、次々と罵声が飛ばされてくる。違う、私は皆を助けにきたのだ。私が彼らを見捨てるような事はしていない!
「皆死んじまった! お前たちは……お前たち貴族は誰も奴らが来たことを知らせなかった、それは俺たちを盾にするためだろっ!」
「そんな……じゃあ、母さん達は…………」
すがるように、助けを求めるように視線が泳ぐ。そして、目があったのは一人の少女。顔には恐怖が張り付いており、私と目があった瞬間に小さな悲鳴を上げている。
「バ……バケモノ……」
ゆっくりと視線を自分の体へと落とす。手もローブも、小さな傷などでボロボロだ。だが、それだけじゃない。血が、肉が、人であったものがいたるところにこべりついている。
「違う、僕は……僕は皆を助けたかっただけなんだ……」
一歩。いや、半歩ほど前に進む。それだけで彼らの敵意は大きく膨らんでいった。これ以上私を近づけさせないように、数名の男たちが少女との間に立ちふさがる。
「――近寄るな!」
「じゃあ、僕は一体なんのために戦ったんだ」
私は一体なんの為に戦ったのだろうか。その答えを考える前に、背後から大きな音と共に、数名の兵士が走り込んできた。
「隊長! なんだ、この状況は……お前ら何してやがる!」
「それよりも、今は敵の増援のほうが!」
後ろの兵に促され、先頭にいるモンクの男性が周囲を威嚇しながら報告を上げてきた。それは館のほうに偵察に出ていた兵から、そちらに向かっていた囚人たちがこちらに向かってくるというものだ。
数は最低でも百以上。先頭の集団だけでそれなのだ、実際は倍以上いるだろう。さらに先ほどの召喚で近くにいた連中にも気づかれており、こちらに集まりだしている。
対して私たちは満身創痍、市民との意識はかけ離れている。
さらに、もう一人。体格の小さい男も駆け込んできた。
「こっちに敵が来るぞ! 三十ほどだ!」
「隊長、逃げるせよ、戦うにせよ。どうにかしないと! おい、あんたたちも死にたくなかったら手を貸せ!」
こんな状況であっても、私に出来ることはあるのだろうか? もう一度、もう一度だけ周囲を見渡す。兵達は慌ただしく指示を飛ばしている。街の人達は睨みつけてくるか、怯えるだけで何も喋ろうとしてこない。
そうか、今ここにはレミアさんもダレンさんも、フォアラントやリシューナ子爵もいないのだ。そして、幸か不幸かローランドとステラの二人も居ない。
助言をしてくる人、助けてくれる人、支えになる人が居ないのだ。
だったら、せめて。せめて誰かを助けたいと願った自分を信じよう。
扉の外に移動し、両手を構える。がんがんと痛みを発している頭をふり、詠唱を始める。
しかし、ついにそれすらも叶わなくなった。
「……なんで」
エーテルを一つ飲み干し、もう一度。
自分の頭を自分で殴りつけ、もう一度。
膝から崩れ落ちながら、地面に拳を叩きつけながら、何度も何度も詠唱を繰り返す。
「――――――!!」
しかし、ついに魔法が発動することは無かった。
そして、僅か先には私に向かってくる敵。その手には剣が握られている。このままいけば、すぐ先の未来は予想出来る。
だけど、それでもいいのかもしれない。相手を殺すことに躊躇は無くなった。だが、殺す事と戦う事、守る事。それらは同義ではなかった。いや、取り繕う必要も無い。私は、ただ私が弱かったのだ。力も、意思も、心も、芯も。
なるほど、意味も分からずに戦っていただけだ。本当に、笑えてくる。本当に……。
ゆっくりと目を閉じる。直に剣の一太刀が私を襲う。それで終わるのだ。
でももし生き残ったら。今度はもっと強くなろう。そんな叶わない願いを考えながら。一瞬、一瞬とその時を待つ。風切り音がすぐ傍まで近づいている。
そして、次の瞬間に男の声が聞こえた。
「大丈夫かい? トリスタン・ブランシュ」
目を開け、その声の主……目の前に白いチョコボに跨り、半透明でありながら力強く光る剣を持ち、白銀の鎧を纏っている。
いつの間にか止んだ雨、雲の切れ目から白みだした光が差し込んでいる。そしてその光はその騎士のマントを照らし出していた。
白獅子の紋章
「シドや息子が口を揃えて君のことを語っていてね。こうして始めて会うはずなのに初対面の気がしないよ」
形容するならば……いや、これ以外に表現する事が出来ない。彼こそが、『騎士』そのものなのだと。
「随分と遅れてしまった。後は…………我々に任せろ」
天騎士 バルバネス・ベオルブ!