転生オリ主チートハーレムでGO(仮)~アイテムアビリティこれだけあれば大丈夫~   作:バンダースナッチ

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説明会やら導入やら


CHAPTER.3 分岐点
第24話


 

 

 傾きだした陽が赤に染まった光を差している。その光に向かうように、私たちは茂みの中で息を潜めていた。私の周囲には今や慣れ親しんだ部隊の兵達。視線の先には汚れた鎧を着た盗賊……といっても、パーツが完全に揃った鎧を着ている者は誰も居ない。殆どが肩の部分や、申し訳程度に急所を守っている程度だ。

 盗賊たちの数は見える範囲でおよそ40名程。対して私たちの人数は私も含めて15人程である。それなりに武装は整っているとは言え、正面から打ち倒すには少々厳しい数だ。

 

 後ろの茂みが僅かに音をたてた、振り向けば一人の男が近づいてくる。黒いバンダナを目元が僅かに見える程度まで深く被り、必要以上に音をたてないように金属を使用していない服装だ。彼の名前はディック。シーフではあるが、これで一応下級貴族の五男である。

 

「フォアラント達も配置に着きました。奇襲のタイミングはあっちに任せましたが……大丈夫ですかね?」

 

「向こうの人数? それともローランド達の事?」

 

 言い辛そうに視線を反らせている。フォアラント達別働隊は10人程、弓による奇襲を行い、逃げて来た先で私たちが伏兵となる作戦である。

 彼の杞憂として前者であれば、人数が少ないと判り攻撃されれば非常に不味い。そして後者であるローランドとステラの二人。後方での参加はあるが、こうして作戦に完全に参加することは初めてである。

 

「どちらも大丈夫さ。あの騎士崩れの男……報告通りあいつがリーダーみたいだ、ローランドなら十分に狙撃出来る。頭が崩れた状態で一方から矢で攻撃すれば混乱で逃げ出すさ」

 

「上手くいくといいんですがね」

 

「別動隊の方に向かうなら、背後から急襲する……そろそろ始まりそうだ。全員まだ動かないように」

 

 見れば、リーダーの男が怒鳴り声をあげながら剣を振り回している。奴らは近隣の村を襲おうとしたが、その村に警護として派遣された私たちの隊を見て一度引いている。その際に多少の犠牲を出しているため、相手としても穏やかではないだろう。

 

 そして、一際大きな動作……両手を広げながら近くにある切り株へと座ろうとした瞬間、その眉間に矢が吸い込まれるように突き刺さった。

 一瞬の事で、僅かに全員の動きが固まっている。リーダーの男はその顔を空へと向けながら、ゆっくりと倒れていった。

 

「うお! 本当にやりましたね!」

 

 その驚きの声と同時に、私たちと反対側から大声を上げながら弓での攻撃が始まった。咄嗟の出来事に、盗賊たちはさらに混乱を深めている。

 そして、その中の一人がしきりに周囲に怒鳴りつけている。落ち着け、逃げるな……そういった類の言葉だ。ただ、その行動に効果が現れる前に、陽の光りを背に一人が飛び降りてきた。重力に逆らわず、勢いをそのままに槍で一刺し。腰まで届く長い髪を靡かせながら、さらに周囲へと向かっている。

 

 盗賊たちは予定通りこちらへと逃げてきている。道を挟むように展開している私たちに、気づく様子は無い。

 道の幅は5M程、列を整然と作れば十分に余裕のある幅であるが、我先にと走ってきている為、それぞれが邪魔をするようになり速度を出せないでいる。

 

「さあ、次は僕たちの出番だ」

 

「分かりました、期待してますよ」

 

 僅かな笑みを返す。彼も彼で不敵な表情を作りながら私から離れていった。

 腰につけている道具袋から、いくつかのアイテムを取り出す。直径10cmほどの球体であるそれは、中に炎が渦巻いている。かとんのたま、ボムの体の一部から作られるこれは、強い衝撃を与えると爆発を起こし、周囲に火を放つものだ。

 その玉を3個。こちらのほうに走り込んでくる盗賊たちの先頭へと投げつける。

 

 僅かなあとに破裂音、そして盗賊たちの悲鳴が聞こえてくる。そのタイミングに合わせ、周囲への合図と同時に道へと飛び出していく。

 

「今だ、かかれ!」

 

 左側の腰に下げられた剣、ルーンブレイドを引き抜きながら今だ混乱している集団に向かう。騎士剣は背中に装備しているが、この場合は取り回しのいい片手剣のほうが都合がいい。

 倒れていたり体勢が整っていない者は無視し、後続に任せる。集団の後方、まだ無傷な連中に狙いを定める。

 体勢を崩し膝をついている男を踏み台に、軽く飛び上がる。そして重力に任せながら一人、振り下ろした剣を支点にその後ろに居た一人を横一文字に、最後に剣を引き抜き切りかかろうとした男の胸に剣を突き刺す。二人目のみ死に至らなかったが、それでも無力化している、全滅が目的でない以上問題はないはずだ。

 

 私が後ろを振り向き今一度剣を構える時には、既に隊のメンバーによって包囲することが出来ていた。盗賊たちはある者は剣をすて両手を上げ、ある者は座り込み諦めている。

 

「南天騎士団治安維持部隊だ、大人しく投降しろ」

 

 相手の戦意は見られず、兵たちに目で合図をすれば終了だ。盗賊たちを後ろ手に縛り、武器を取り上げる。もう慣れたものだ。後はこの連中を警備隊に引き渡せば任務完了である。

 別動隊の方を見れば、あちらも片付いている。剣を鞘に戻し、手渡された水を飲み干しながら私は今まで起こった事を振り返った。

 

 あの戦い、第四次ゼラモニア大平原大会戦から4年の歳月。イヴァリース・オルダリーア、南天騎士団、そして私たち……私個人にも様々な変化が起こっていた。

 

 

 まずは両国、特にオルダリーアはある意味イヴァリース以上に大きな変化があったと言っていい。結果だけを書くならば国王が変わったのだ。

 あの戦い、畏国は南天の本拠地であるゼルテニア城が陥落した。南天騎士団は反撃を試みるも敗北したが、本隊は大きな被害を出しつつも撤退する事ができた。

 何故か?

 ゼルテニア城を陥落させたラナード王子は南天騎士団を追撃せず、要塞から来た部隊と合流後、自分たちのみ鴎国本国へと向かった。数にして5万、そうしてラナードが何をしたかと言えば……クーデターである。

 これは後から判ったことだが、ラナードは王位継承権一位であるがその勢力は主に各地方の貴族達であったらしい。対して第二王子は中央に詰めている貴族たちだった。

 どちらが権力をもっているかと言えば中央側のほうである。有力貴族もそちらを支持しており、ともすれば次期国王は第二王子ではないかと噂されていたらしい。

 

 このあたりは色々な思惑があったらしいが、主な原因は二つ。

 一つ、両王子の母である現王妃が弟を溺愛していた。

 二つ、ラナード王子は小さい頃からその才覚を発揮し、戦争状態が長く続く鴎国にはその才能が必要不可欠であった。

 鴎国は畏国との戦争の他に、国力の低下からオーダリア大陸東部……畏国とは逆側方面との小国や部族との衝突が増えていた。戦争するにせよ、回避するにせよ、権限と立場のある王子は重宝されることになった。そして各地方の領主たちはラナード王子に信頼を寄せるようになった。

 ここまでは良かったのだが、これが中央にいる貴族達には不満だったらしい。このままでは、今後発言力を地方貴族が持つと懸念したからだ。そこに一つ目の原因が混ざった……。

 しかし、それもあの大会戦までであった。首都ブラへ急襲をかけたラナード王子は実の弟、そして父母……つまり国王と王妃を殺し、主だった貴族までもその手にかけていった。

 ただし、主だった面子を排除したことにより、国内をまとめあげる為に相応の時間を費やす事なる。今だから分かることだが、あの会戦での策略はその時間を稼ぐためのものだったのだろう。

 何故ならイヴァリースもまた、あの戦いからの立て直しに多くの時間を必要としたからだ。

 

 イヴァリース側はあの大会戦は歴史的大敗と言っていい。万を超える兵を失い、一つの騎士団が壊滅、そして一つの騎士団が半壊したのだ。

 あの戦いの敗因は様々だが、要因として北天騎士団の援軍の遅れが挙げられる。あの時、私たちが大平原で戦っていた後ろでは大規模な反乱が起こりかけていたのだ。

 

 場所はベルベニア、首謀者は教皇候補にも選ばれている一人の司祭である。

 

 畏国に留まらず、周辺国の宗教はグレバドス教が殆どを占めている。部族単位で別な信仰をしているところもあるが、第二勢力であるファラ教ですらグレバドス教の1%にも満たないでいると言えば、その影響力の大きさがわかる。

 生まれの祝福から言葉や字を学ぶための教材、身近な教えまで様々な事に聖書が使われているし、お伽話の類も同様だ。風習、思考、生活様式にとその影響力は様々だ。

 ただ、その内訳……信仰している人間はいくつか分類される。政治的に利用するもの、日々の教えとするもの、体裁としているもの、本当に信仰しているもの。まぁどこの世界、時代でも同じようなものだ。そして言える事は、大半の人間にとって肯定的に、ともすれば常識的に受け入れられている事である。

 さらにその教皇と言えば、イヴァリースの国王も形式上教皇から神の認可というものを貰う。つまり、時に国王以上の権力をもつ事さえあるのが教会……そして教皇という立場なのである。

 

 そして、今回の反乱はその教会のトップである教皇候補だった事が大きな問題に発展した理由だ。それもお題目は反戦である。長く続いた戦争は戦時税率として日々の生活にのしかかっている。時に無理な徴兵によって働き手を失い、身近な人間を亡くす。司祭の言葉は大きな影響をもたらすことになるのは想像に難くない。

 というか下手をすれば内乱のはじまりにまで発展する事態だ。

 

 ただ、畏国にとっての幸運はその場に居たのが天騎士バルバネスであった事だろう。

 彼は民衆の支持も高く、敬虔な信者であることも知られている。なによりそれらの主張を武力によって鎮圧するという手段を選ばなかった。

 大規模な反乱になる前に、司祭以外の扇動者とその資金源である武器商人の捕縛。そしてそこから資金の流れを辿るとオルダリーアに繋がっている事を突き止めたらしい。

 その後は民衆と司祭の説得である。これを成功出来たのは、やはり彼だからだと言うのは、多くの人の共通見解だった。

 

 しかし、結果として援軍は間に合わず、畏国は甚大な被害を被ることになった……それも北天騎士団を指揮する白獅子の陣営とは政治的に対立している黒獅子陣営に。鴎国の動きは天騎士をもってしても読めず、その責任をもって功績は帳消しとなった。

 

 だが、当然国としてみればこれだけでは話は終わらない。教皇候補の一人がどのような理由であれ、これだけの事を起こしたのだ。政の中心であるベルベニアでは元老院議会が大騒ぎ、教会側としても主張こそ認知していたとは言え、このような事態になるとは思っていなかった事もあり、その管理体勢に大きな疑問を残すことになった。

 元老院側にしてもこの問題は非常にデリケートであることは当然認識している。畏国側と教会側とでの折衝は1年以上も続き、その結果教会側の権限が大きく制限され、そして教会内外での監視役を設置する事で一応の話がまとまることになった。

 

 ちなみにこの時の折衝で存在感を示したのは、マリッジ・フューネラルその人であった。彼もまた教皇候補に上がっていた人物であり、フューネラルの名(功績ある司祭には、過去の教皇の性のいずれかを名乗ることが許される)を与えられているが、曰く信仰よりもむしろ政治家よりの人物であったため、教皇にはなれないだろうと思われていた。しかし、教皇という職位の権限の多さとこの一件を鑑みれば、教会内のとりまとめに一定以上の政治能力が必要であると強く認識されることになった。

 また、この事件をきっかけにそれまで表立った活動をしていなかった、異端審問会が徐々にその発言力高めていくことになる。

 

 

 

 門番から声をかけられ、我に返った。

 頭を2、3度振り、頭を切り替える。目的地についたようだ。

 

 街についたところでチョコボからゆっくりと降りる。首のつけねあたりを撫でながら、手綱を兵へと渡す。既に盗賊達の引渡しは終わり、部隊は解散していた。

 ゼルテニア領が鴎国の手に落ちた事で、そっちに住んでいた貴族達は今は首都ルザリアや、ベスラ要塞付近に移っている。私の家族も今はルザリアだ。

 ただ、あの戦いの一件から私と母の仲は非常に悪い。そして、黒獅子陣営の変化もあって私はガリランドにある公爵の屋敷を継続して借りている。住んでいる人間は私とローランド、ステラ、それに使用人の二人の合計5人だけだ。それ以外にも、イグーロスに頻繁にお邪魔しているが、基本はこちらだ。

 ダレンさんは今はルザリアで兵の訓練、レミアさんは私の隊の再編成時にリシューナ子爵の下に戻っている。まぁ、二人の代わりと言ってはなんだが、今はローランドとステラの二人は私と一緒に隊に参加しているのだが。

 

「今回も楽勝だったな」

 

 私よりも僅かに背が高くなったローランドが、そう口にしてきた。背中には愛用の弓、髪は短いままだが、上にツンツンしている。

 その隣にはステラだ。髪の長さは相変わらず腰まで伸ばしている。そして女性らしさで言えば、あの頃より随分と綺麗になっている。

 

「調子に乗らないの。それに、狙撃の時は凄く緊張してたじゃない」

 

 軽装のローランドに対して、ステラは鎧を着ている。フルプレートではないが、肌の露出はあまり無い。武器は今までと変わらずに槍だ。

 

「最近はまた治安も悪くなってきたからね、油断だけはしないでくれよ」

 

「わかってるって。それに、今はトリスとも一緒に戦えるからな。張り切って頑張るさ」

 

 パシパシと私の肩を叩きながら屋敷へと向かう。二人はまだ15になったばかりだが、十分にやっていける能力がある。流石今までダレンさんに鍛えられてきただけの事はある。ちなみに私ももう数ヶ月ほどで15だ。その時にまた色々とあるのだが、とりあえずそれは気にしないでいる。

 屋敷の扉に近づいたところで、その扉が開いた。中からは使用人の一人が表に出てこちらにお辞儀をしてくる。

 

「おかえりなさいませ。お客様……ザルバッグ様が訪ねて来ましたので、中で待ってもらっています」

 

「何かあったかな?」

 

 隣の二人に視線を投げるが、肩をすくめるだけだ。

 かつて彼とはガッツリと戦った事があったが、今では非常に良好な関係を築けている。もし、二人以外で友人がいるかと聞かれたら、まずザルバッグの名前が上がる。それは向こうも同様だろう。

 あの戦いの最後、フィーナスで私を助けてくれたバルバネス・ベオルブ、彼は私がガリランドに住むことと当時の境遇を知り、度々面倒を見てもらっている。今ではイグーロスの客室の一室が私の私室になりかけている位だ。

 

 私の境遇……まぁ南天騎士団もだが、取り巻く状況は大きく変わった。

 先の戦いで、陥落したゼルテニア城に対して南天騎士団は反撃もせずに撤退することは出来なかった。パフォーマンスと言われようと、形だけでも抵抗しなければならないのはこの時代が体裁を強く求められるからだ。

 そして、その時に名乗りをあげたのが当時の旧派閥の貴族達だった。最低限の兵でありながら、派閥に連なっている殆どの貴族は参加し、そして散っていった……。

 あの戦いは南天にとって多くの兵と人材、そして領地を失った。

 それらに対する対策として、ゴルターナ公は無所属……と言っていいかは判らないが……の貴族たちを陣営に引き入れた。多くは没落しかけていたり、政治闘争に負けた連中であったが、それ以外にも自前で私兵を持つ家や、それなり以上の財産をもつ貴族などが集まった。

 これは、そのほかの陣営……大別すると王家派・大公派・白獅子派などがあるが、それらはすでに側近は固まっている。つまりここぞとばかりに恩を売る相手であり、今後力をつければ高い地位に入り込めるかもしれないという機会となり、互に合致した結果と言える。

 

 まぁ、そのおかげで南天という陣営は大いに混乱することになる。あの戦いまでは公爵の側近達と、前領主派であった旧派閥の争いが、今度はところてん式に入れ替わったのだ。そのとばっちりは私にも来そうであったが、あの一件以来魔法の使えない私はある意味彼らにとっての脅威は低くなったらしく、とりあえず陣営内では置物のように見られている。

 というよりも、私は別の役目を押し付けられたのだ。

 

 あのフィーナスでの一件以来、私がなんと呼ばれているか、想像出来るだろうか?

 街での風聞はこうだ。

 

『敗戦の最中にあって、命をかけて民を守った真の貴族。魔法が使えなくなるまで、文字通り死力を尽くして民の為に戦った英雄』

 である。

 

 空いた口が塞がらなかったが、気がついたときには手遅れだったのだ。確かに私としては彼らを守るために戦った。だが、結局私の力で守れたものなど無かった。しかし、バルバネス・ベオルブは功罪の帳消しという立場である。そして先の反乱の兆し。国として、民の為に戦う貴族がいるという広告が必要だった……というのが主張である。まぁ、南天としても使えるものは全て使わなければならない状況というのは、紛れもない本音であるのだが。

 そして、兵力の減少に伴い国内の治安維持の問題が大きくなりだしていた。そこで現状を打破するために、アカデミー生の動員と義勇隊の募集が行われることになった。

 先の宣伝と合わせて、私はこの広告塔に祭り上げられる羽目になっている。

 

 特にこのアカデミー生と義勇隊の動員を提案したのは、次期白獅子の公爵であるベストラルダ・ラーグであった。いや、もっと言うならその参謀であるダイスダーグ・ベオルブの入れ知恵なのだろう。このダイスダーグとはベオルブ家の長男、つまりザルバッグの兄である。

 義勇隊には南天からは私、北天からはザルバッグが参加する事で、この案は大いに国内で盛り上がった。商人からは多額の寄付、アカデミー生はこぞって参加しようと名乗りを上げる。当主の地位を得ていないベストラルダ・ラーグだが、これらの取り纏めを率先して行い、独自の力を得始めることとなっていた。

 ここに南天の事情が加わることになった。戦には負けども、黒獅子は今だ力を持っているとアピールしたい。兵の補充も行いたいが、このままでは中々集まらない為の便乗だった。

 

 とは言え、所詮は新兵の集まりに過ぎないこの義勇隊は、部隊規模に分かれて活動を行っている。それぞれ監督する指揮官は北天騎士団から抽出され、隊の実力……大分低めに見積もられている……に見合った運用をされている。

 それで効果的な活動が出来るのかと思うが、それは再編成をされることになった私の隊や、ザルバッグ達の隊が割を食っている。代わりにどちらの隊もアカデミー生や志願兵は入れず、平均の練度を高い状態で維持することで何とかかんとかといった状態だ。

 当初……いや、今でもだが、私の形ばかりの人気から親衛隊を結成するとか言い出したが、全力で拒否させてもらった。魔法が使えなくなった事から、戦力にならないだろうと言ってきた連中は、全員張り倒した事で納得してもらえたようだ。

 私の内心は、戦う理由や意味すら分かっていない私に着いてきた所で、なんのメリットも無い。それならば、この4年で頼もしくなった隊員や、彼ら二人と行動するほうが、なんと気楽か。いや、むしろもう功績など必要ないと言っていい。私にはこの位が丁度いいのかもしれない。

 この考えはある意味今の南天の新派閥側には都合がよかったらしい。これみよがしに援助をして、この地位に押し込もうとしてくるのだ。父などは複雑な様子だが、当時に比べれば戦力的な価値の低下がそれを止めようとは思ないようだった。

 

「また、色々考えているのか?」

 

 扉をくぐったところで、そう声をかけられた。見れば当時の姿をそのまま大きくしたザルバッグ。帯刀はしておらず、格好もラフだ。

 

「整理という名目の説明は重要なんだよ」

 

「はあ?」

 

「いや、なんでもない……それで、今日はどうかした? 明日にはイグーロスに行く予定だったけど」

 

 治安維持部隊の指揮権は名目はベストラルダ・ラーグに、実質はダイスダーグ・ベオルブにある。その為、一定期間に一度は報告の義務はイグーロス城で行うのが通例になっている。

 

「ああ、そのイグーロスでの事だ……いい知らせと悪い知らせがある」

 

 どちらを聞きたい? とは言わず、こちらを眺めてくる。彼の癖みたいなものなのだが、こういう時は大抵悪い方がロクでもない事だ。そして、本人の顔も引きつっている……多方が予想出来てしまったため、いいほうのみにしておきたい。

 

「……良い知らせからで」

 

「明日、城にカトリーヌ嬢が来るそうだ」

 

 その名前を聞いたとき、自分の体温が少し上がった事を自覚出来た。

 彼の言うカトリーヌ嬢とはカトリーヌ・ゴルターナ。ゴルターナ家の四女である。そして、現在の私の許嫁という関係だ。先の戦いの後、魔法が使えなくとも剣の才能もあると見られ、その結果である。私が15になった時に婚姻を結ぶ事になり、そして私が正式にブランシュ家の後継と決定する。そして、自動的に弟のエストはラムサス家へと行くことになる。

 ある意味において、私の立ち位置が明確化する出来事なのだが、私としてはそれ以上にカトリーヌ嬢と一緒になれることのほうが嬉しかったりする。

 最初こそどうなるかと思ったが、よく出来た性格であり、器量も良い。あの公爵からどう遺伝子をもらったか疑問に思うほどだ。

 

 私の顔が熱くなるのを見ながら、ザルバッグはそれを冷めた目で見ている。その視線に気づき、何があるかを訪ねようと口を開く直前、さらに言葉が紡がれた。

 

「……シド殿も一緒にな」

 

「……まさか」

 

「当然、私の父も戻ってくる……」

 

 足の力が抜け、膝を折ってしまう……。彼の言葉はそうするだけの威力があるのだ。

 ザルバッグの目は既にハイライトが消えている。所謂レ○プ目だ。互の心境は一つ……絶望である。

 

 また、あの地獄としか表現出来ない特訓の日々が来るだ……。

 こうして、私にとって大きな変化を迎える時は、二人分の盛大な溜め息から始まることになった。




オレノシカバネヲコエテユケ

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