転生オリ主チートハーレムでGO(仮)~アイテムアビリティこれだけあれば大丈夫~ 作:バンダースナッチ
陰陽士 ―AUGUR―
陰陽士(おんみょうし)
万物生成の原理である陰陽をあやつる戦士
陰陽の変化を操作する『陰陽術』を使う
ベヒーモス、ファイナルファンタジーという作品では度々登場するモンスターである。
物理攻撃が主体であり、高い耐久性と攻撃力を備えている敵だ。
ゲームという枠組みであれば対処のしようはあるのだろう。出現場所や装備の選択、そしてメンバーのレベルや能力。
では今回の遭遇はどうであろうか?
一言で言えば恐慌状態に陥る寸前……いや、既に一部では逃亡を。一部では諦めの感情が出ている。
シュミレーションゲームで言えば1マス分の敵でも、こうして目の前に存在すればその体は人間の何倍もあるのだ。
そして木々を薙倒し、巨大な咆哮をもってこちらへと向かってくる姿を見れば……多くの人間がその心を折られるであろう。
「……トリスタン様、すぐにお逃げ下さい」
その威容を見ながら、私の側に居た警備隊長はそう言ってきた。
その目には職位からか、それとも忠誠からかは分からないが確かに決意の色が見て取れている。
「我々がなんとか時間を稼ぎます、それまでに志願兵……いえ、町の者達を連れて撤退して下さい」
「隊長!? 無理ですよ、あんなの止められっこありませんっ」
「それでもだ! それでも我々が少しでも足止めしなければならんのだ!」
偵察役をしていた兵はその言葉を受けて強く反論をしようとしている。
気持ちは分かる、痛いほどにだ。
私とて同じ立場なら同じことを言っていただろう。周囲を見渡せば恐怖と混乱が広がっている。町の人間も後方に待機していた人たちは既に荷物も置いて逃げ始めている。
それでもまだ残っている人達はこの討伐で一緒に戦っていた人たちだ。
「トリス君! さあ、早くローランドとステラを連れて逃げるんです、急いで!」
「トリス様! 早く!」
エニル先生とステラもそう急かしてきている、こうしている間にも距離を詰められているのだ、逃げるという判断をしたのなら彼らの行動は正しい。
しかし、しかしだ……。
「屋敷に戻ってどれだけの兵を動員できる?」
人は死に直面した時に自殺願望が沸くという話しを聞いたことがある。
今の自分がそうなのかは分からない。
だが、こんな状況になって僅かながらでも落ち着いている自分がいる事に自身も驚いてしまう。
「総動員しても20名程……それでも、近隣から援軍を頼めば!」
「それが出来ないから今回の討伐に出たんだ……今逃げれば、あれを引き連れていく事になる」
冷静になれたからこそ分かる。
今ここで恐怖に染まり逃げ出せば、今この瞬間の命は助かるだろう。
だが、次にアレと出会うのは町や屋敷だ。それも今よりも戦力が揃わない状態で。今よりも戦えない人や逃げられない人が大勢いる中でだ。
「ですから! 我々がなんとしても時間を稼ぎます!」
「一刻や二刻じゃ意味がない、むしろ大きく見れば各個撃破される状況になる……今ここにいる戦力が、現在揃えられる最高の戦力なんだ」
「何言ってるんですかトリス君……あれと戦うつもりですか?」
自分でも何を言ってるのか分からない。だがそれでもここで引けば町や町の人たちに多大な犠牲が出る。
自分たちは逃げられるだろう、だがそれ以外は?
5年であるが、多少なりとも慣れ親しんだ町なのだ……恐怖で本当に正しい判断なの出来ない状況であろうと、戦うという選択肢を選ぶには十分だ。
「戦える人は残ってくれ! 今ここでアレを抑えなきゃ町が危なくなるんだ!
逃げる人は町の人たちに避難するように伝えろ!」
だから、戦うと決めたのだから今はとれる行動をとろう。
「よーっし! トリスがやるってんなら俺もやるぞ!」
「……二人が残るなら……」
「ローランド、ステラ! 君たちまで!」
二人が残る事には反論したい、だが今はそこを気遣う余裕がでてこない。
何より、二人が残ると宣言したおかげで町側の人や一部の兵の士気が確かに上がったのだ。
恐怖や混乱は伝染する。しかし、勇気や蛮勇も伝染するものだ。願わくば、今回伝染した感情が勇気であってもらいたいものだ。
「弓を扱える人は遠距離から援護を! 接近する人はとにかく回避に専念してくれ!
ステラは怪我人への治療を!」
「よっし! 俺も行ってくるぜ!」
「トリスタン様……考え直すつもりはないのですね?」
警備隊長、そしてエニル先生は二人してこちらへと視線を向けてくる。
だが、その目は否定の目ではなく……決断を言葉に表して欲しいという意味に取れる。
決断とは責任が付き纏うのだろう。貴族の義務、責任、それらの意味を示して欲しいと。
「うん、僕はここで戦うよ……それが僕の意志だ」
「……分かりました
皆よ! トリスタン様が指揮を執る! 絶対にあの化物を倒すぞ!」
その警備隊長の声に兵だけでなく残った町の人たちも応じて雄叫びを上げている。
残っている人数は50名程だ、だがその士気は熱気を帯びるほどになっている。
「全く……帰ったら3人とも説教ですからね。
私はステラよりも前線で補助に徹しましょう」
「はい、お願いします」
恐怖による冷静から熱気に当てられたのか、私自身も心が震えてくる。
今付き従う人たちと共に戦うこと、これが貴族の義務の一つなのだろうか……。
「トリスタン様! 来ますよ!」
「よし、こっちの指揮は任せる。とにかく注意を逸らして!」
「分かりました。弓隊! 一斉射撃準備!」
その言葉を背中にうけ、私は弓隊とは反対側へと走り出す。
弓矢での攻撃が何れ程の効果をもたらすかは分からないが、あの強靭な体を見るにそれほどの効果を得られないだろう。
そして接近する歩兵隊も同様に。
ではどうするか?
今居る戦力の中で最も火力があるのは自惚れでも無くこの私だろう。
ならばするべきことは一つだ。
弓隊からの一斉射撃がベヒモスへと到達していった。
矢は所々刺さっているようだが、やはりというか深手にはなっていない。
しかし、攻撃を受けた事への怒りか、再び巨大な咆哮の後に兵たちの方へと突っ込んでいった。
それを遮るように歩兵隊がかく乱を開始している、戦力は大人と子供以上に差があるのが分かる。
尻尾によりはじかれるものや雄叫びに気圧されるものも居る。
だが今はその光景を耐える事が必要だ。
杖を構える、向ける先は私に背後を見せている巨大なモンスターへ
「……天と地の精霊達の怒りの全てを 今そこに刻め!」
周囲が暗くなって行くのが分かる。雲が集まり、魔力によって起こされた電気がその雲の中心へと意思を持つように集まっていく。
その異様な光景に気づいたのか、ベヒーモスは天へとその視線を向けたのが見えた。
ただひたすらの集中、体中が熱くなってくるのがわかる。
本来この魔法は広範囲魔法だ、だがその威力をただ一点に、ただ一体へと集中するように。
どれほどの効果があるかは分からない、そしてこちらが魔法を使った事に反応し、天へと視線を移したことによる隙をついてベヒーモスから離れていく兵たちが見えた。
―今!
「――サンダジャ!」
巨大な雷が降り注ぎ、ベヒーモスの体を焼いていく。
声にならない叫びが聞こえてくる、電撃は地面と共に敵の体を抉り取っていっている。
私のほうは極度の緊張と魔力の消費から大量の汗が出てきているが、後はそれが報われる事を祈るばかりだ。
10秒ほど続いた雷撃は収まり、周囲が再び明るさを取り戻していく。
「……やったのか?」
このセリフがダメだったのかどうかの因果関係は分からない。
兵たちが警戒しながら近づいて行こうとした時に、再度の雄叫びと共にベヒーモスは立ち上がったのだ。
その体からは所々で流血をし、焼け焦げている。
だがそれでも、確かに4本の足で立っている……こちらを睨みつけながら。
「――っ!」
そして次の瞬間にはこちらへの突進……逃げようと走り出そうとした所で疲れも相まって足をもつれてしまった。
「トリスー!」
そんなローランドの叫び声が聞こえた時には、私は宙を待っていた。
「――っがぁっ!」
次に来たのは地面と叩きつけられるような衝撃。
勢いは止まらずにさらに転がるように吹き飛ばされていった。
視界に入ってくるのは地面と変な方向に曲がった左腕。そして頭をトンカチで殴られ続けているかのような激痛。
痛い
ただひたすら痛い
さっきまで偉そうな事を言っていたのに今は後悔の念が出てきている。
この世界は現実だと認識していたはずだった、戦闘を経験してそれがさらにリアルだと感じていたはずだ。
ああ違う、今の今まで認めていなかったのだ。
この生活も、この力も、どれもまだ夢のようなものだと何処かで思っていたのだ。それも本心のどこかで。
自分の近くに落ちているロッドを拾い、無理矢理に立ち上がる。
自分の中で現実が一新された感じがした、皮肉なのかこの痛みで。
だからこそ、だからこそ次は……。
「全部夢だ……気がついたら生まれ変わってるなんて、剣と魔法のファンタジーなんて
そんな出来の悪い3流小説!」
夢ならもっと上手く戦える、もっと賢く動ける。
アビリティを切り替え、こちらへと突っ込んでくる化け物へと向き直る。こちらを必死に援護しようとしている矢を物ともせずにただ私へと目指している化け物へ。
「光の全ては地に落ち、全ては幻 意識の闇に沈め ――闇縛符」
数匹の黒い蛇のようなものがこちらへと突進してくるベヒーモスの頭部に絡みついていった、そしてそれは視界を奪うように目を覆い隠していっている。
「―――――!!!!」
急に視界を奪われたことにより、その突進の方向がわずかながらにズレていった。
さらに詠唱を続けていく。
「心無となり、うつろう風の真相 不変なる律を聞け ――不変不動」
次に唱えるのは相手の行動を奪う魔法。
今使っているのは陰陽術と呼ばれる状態変化系の魔法だ。
相手の巨大な体に、白い鎖のようなものが巻きついて行く。ドンアクトと呼ばれる行動封じの状態異常を引き起こす。
鎖が巻き付き、さらに先ほどの魔法によるダメージも蓄積されている事から、大きくその行動に制限をかけることが出来ている。
アイテムボックスからエリクサーを取出し、一気に飲み干す。
まるで高濃度のアルコールを摂取した時のように全身が熱く、頭がクラクラとしてくるが。先程まであらぬ方向へと向いていた腕は元の状態へと戻り、魔法を使った疲れも取り除かれている。
「……初めからこうすれば良かったんじゃないかな」
さらに詠唱を重ねていく。
今度は中途半端なダメージではなく、確実にあの化け物を殺すために。
魔力を高め、集中を高め、次で止めを指すために。
「――――!!」
しかし、今度はこちらの番だと言わんばかりにその巨体が動き出していった。
ドンアクトの効果とは行動の不能だ、移動を封じるものではない。
だがしかしだ、10メートルを越す巨体がただ一心に走り抜けた時に一体どれほどのエネルギー量が出るのだろうか?
戦いとは生きたエネルギー同士のぶつけ合いだ。
高い場所からの攻撃の有利さは位置エネルギー、機動戦術は運動エネルギー、ではあの巨体の移動では?
今の状況はこうだ、輸送用の大型トラックのハンドル操作を奪った状態。ただアクセルは踏める。
そしてこちらは詠唱と集中による硬直状態。
一度目の突進で生きていた事が奇跡とも言えるのだ、それが2度続くかと問われれば非常に難しいとしか言えないだろう。
それでも、まるでこれが現実だと言わんばかりにその速度を増してその巨体は近づいてきた。
確実に仕留めると考えた事も有り近づきすぎたのも裏目に出ている、今から詠唱をやめてどうにかなるか……。
そう考えている時、私の顔のすぐ横を風切り音が吹き抜けていった。
その正体は一本の矢であり。
「トリス!」
その矢は正確にベヒーモスの右目へと突き刺さっていった。
さらに次の瞬間には、後ろから無理やり抱きかかえられるように引っ張り上げられた。
「トリス様! 大丈夫ですか!」「クエ!」
ステラと行きに私が騎乗していたチョコボだ。ステラとローランドは私の体に手をまし、チョコボへと引き上げようとしていた。さらにチョコボ自身も嘴で私の襟の部分を咥えてそれを手伝おうとしていた。
詠唱と重なり、かなり不自然な状態にはなっているが、その行動と矢による攻撃によってベヒモスの突進をかろうじて躱すことが出来た。
そして同時に、私の魔法も完成する。
「滅びゆく肉体に暗黒神の名を刻め……
始源の炎蘇らん!」
死を突きつける現実と、それを回避させるように夢のような展開。
ただ、なんとも二人の私を支える腕が心地よく感じていた。
「――フレア!」
かつてゲームをプレイしていた時に見たような作り物ではない。
ただただ膨大とも言える魔力とそれによって引き起こされる圧倒的な熱量が集まっていく。
その熱の塊は地上に出来た小型の太陽のように固まり、触れるものを焼き尽くしていった。
ほんの僅かな時間ではあるが、その炎はベヒーモスの半身を文字通り消滅させていった。
半身が消滅し、ついにその巨体が地に伏せた。
その倒れた体からは生気は感じられず、今度こそ……そう、今度こそ仕留めたと確信できるものであった。
「……はは、なんだ……やっぱり夢みたいじゃないか」
私の口から出た言葉は自分の本心とは違うものだ。いや、ただ認めたくないという想いを持っていたいだけなのかもしれないが。
しかし、そんな考えを中断させるのはいつもの如く後ろの二人であった。
「す……すげええええ!! なんだよトリス今の魔法! あの馬鹿デカいのが一撃だったぜ!」
「今の何なんですか?! あんなのいつの間に使えるようになったんですか!
すごいですよ! 流石トリス様です!」
未だ無理やりな格好で私を支えている二人がこちらが驚くくらいの声を上げて来た。呆然としていた私にとっては心臓に悪いとしか言い様が無いが、二人とも無事なようで何よりだ。
次は警備隊の人たちと志願兵の人たちが駆け寄ってきた。
多少の怪我を負っている人もいるが、致命傷に至っている人は居ないようだ。
エニル先生は非常に疲れた表情をしているのは、今まで治療にあたっていたのだろうか。それでも目があった時に優しく微笑んでくれたのが非常に印象的だった。
「トリスタン様! ご無事ですか?!」
「ああ、うん……大丈夫だよ」
「いやはや、素晴らしいお力です! まさか最高位魔法まで扱えるとは……感服いたしました」
無事の確認もそこそこにこちらもまた興奮した口調でまくし立ててくる。
私自身の状態と周囲の興奮具合のギャップが大分広がっているようだ。
しかし、結果を見れば犠牲者を無しにあの強大な敵を倒すことが出来たのだ。ならばこの興奮に水を差す必要もないのだろう。
兵も町の人達も皆が口々に賞賛の言葉を送ってくれている、そしてお互いの無事を祝っているのだ。
初めからこうすればよかった、もっと別な戦い方があったはずだ。
そんな考えがぐるぐると回っているが……今は私もこの輪に入るべきなのだろう。
「さあ、それじゃあ町へ戻ろうか、今回の任務は……」
「大成功ですよね!」「俺のおかげだよな!」
「そうだね、ローランドが居なかったら多分僕は死んでたよ」
非常に無茶をしたものだと言いたいが、それは私も同じである。
それに、終わりよければ全てよしとも言うのだ。今回はそれに倣わせてもらおう。
「そうだトリスタン様」
「うん?」
「折角ベヒーモスを討伐できたのです、解体して素材を集めて行きましょう」
そう警備隊長が提案して来た。確かに今回の討伐では色々なモンスターの素材を集めていたのだ。
しかし、ベヒーモスの素材か……ふとその死体を見てみると、半身というよりは左前足あたりは完全に消滅しているが、それ以外はサンダジャによる火傷と矢傷が少々だ。
巨大な角や爪、牙等は健在と言えるだろう。
「そうだね、それじゃあその作業は任せるよ」
「はい、猟師たちも興奮しておりますよ。ベヒーモスは角や爪もそうですが、皮膚から内蔵に至るまで様々な薬や装飾に出来ますからな」
言葉の最後にここまで大きいと討伐自体が困難であり、おかげで非常に貴重なのですよと付け加えている。
ベヒーモスの解体はその体の大きさから、多少の時間がかかるということで私たちは先に拠点で休むことにした。
というよりも精神的にも肉体的にも疲労がピークに達してしまっている。
いかにアイテムで治療したとは言え、骨折やMPを使い切るような状態になったのだ。回復しても体や心がついて行かないものだ。
結局その後目を覚ましたのは町にもうすぐで町に到着するという所だった。
ローランドとステラの二人と一緒にチョコボの背中に乗せられていた状態だった。私たちを起こさないようにという配慮か、あまり揺れないように歩いていてくれたようだ。
「おや、トリス君。目が冷めたようですね」
「エニル先生……お早うございます
もうフィーナスに着くところですか、随分と寝てたみたいですね」
寝起きにエニル先生の顔を見るというのも中々に胃もたれしそうになるものだ。
後ろの方を見ると大量の素材が詰まっているであろう台車が目に付いた。
どうにも今回の目的が変わっているような気がしてならないが、町の人たちの表情を見るとそれもどうでも良くなってしまった。
「さあトリスタン様、凱旋ですぞ」
「凱旋って、そんな大げさな」
次に近寄ってきたのは警備隊長だった。
彼は先の戦いがいかに凄いものだったかを熱弁しているが、寝起きの私の頭にはあまりその言葉は入ってこなかったりする。
しかし、その言葉の意味は町に入った時に改めて実感をさせられる事になった。
町へと入った瞬間に爆発的とも言える歓声に包まれたのだ。
口々に戦いに赴いた人たちを褒め称え、感謝の言葉を並べている。
それまで寝ていたローランドとステラもその声に飛び起きたが、状況が全くつかめずに固まっている状態だ。
「さあトリスタン様、皆に手を振ってあげて下さい
貴方は今、この町の人たちにとっては英雄なのですから」
「そんな大げさな……だけどまぁ、それも役目なのかな」
元はブランシュ家側の旗印としての意味合いの強い征伐だったのだ。なら、最後までその役割を担うべきなのだろう。
それに、戦争続きで鬱屈とした空気が流れていた町がこうして湧いているのだ。それに水を差すほど野暮でもない。
手を振り返せばさらに歓声が上がる。結局屋敷へ向かう道に出るまでそれが続いてしまった。
町を出たところで一人の男性がこちらへと声をかけてきた。
志願兵側のまとめ役と言った猟師の男性だ。
「トリスタン様、今回討伐したベヒーモスの素材のほうは……」
若干言いにくそうにその言葉を出してきた。
彼の言いたいこととしては、素材は貰っていいと言われたがベヒーモス程のモンスターから採れるものだと金額の桁が変わってくる。流石にその他の素材と一緒にするわけにもいかないと思ったのだろう。
「うん、最初に言った通り好きにしていいよ……ああ、出来ればそこから得られる資金で討伐隊に参加した人たちに何か振舞ってあげてね」
「よろしいのですか? 相当な金額になると思いますが……」
再度の確認をとってくる。この場合は領主として考えるなら折半する位がいいのだろうが、別に何も言われてはいないのだ。
なら、今回は命をかけて一緒に戦ってくれた人たちに報いるべきなのだろう。
「構わないよ。ああ、もちろん警備の人たちにもね」
「有難うございます、皆も喜びます!」
そう言って男性は町の方へと急ぎ足で戻っていった。
これで少しでも町に活気が出てくれるなら今回命をかけて戦った甲斐もあるというものだ。
そのあとは屋敷へと戻り、行きの時とは打って変わったように母に歓迎をされた。
ブランシュ家の誇りだとか、将来のイヴァリースの英雄になれるだとか。
その言葉は嬉しいと思う反面、やはり貴族としての面目が高まったという事を強調されたところが気になってしまった。
とは言え、今回の件で私の命を救う事になったローランドとステラを多少なりとも認めてくれる形になったのは嬉しい誤算だろうか。
ともかく、私の初陣は多少の問題はあったが得難い経験と体験をする事が出来た。
しかし、今回の件で私の人生がまた一つ加速して行くというのも紛れもない事実なのだろう。
それは、遠征から戻ってくる父の言葉によって始まることになる。