家の階段をドスドスと上る音がする。異形型の個性でいつも聴力がいい人たちには負けるが、それ以外の人間の聴力の限界を自負している柚希は半分眠っている状態でも、自分の部屋に誰かが来るのを察知してた。
それにしても、母がこんなにスピーディーに階段を上がってくるとは知らなかった。普段からこのスピードで上がってきてくれると、私の遅刻ギリギリの登校は少しは減るのではないか…なんて思いながら、布団に元々平均より小さな体をもっと縮めるようにくるまると足音の本人がやってきた。
「柚ー、起きてよー!」
「後5分ー。…っていうか、ママじゃない誰?」
「何言ってるの!?柚の幼馴染の芦戸三奈ですー!
それに、今日は学校じゃなくて雄英の入試でしょ、一緒に受かろうって言ったじゃん!!」
やっと脳が正常に働きだした柚希は、そういえば今日入試だったなー。なんて考えながら枕の脇に無造作に置かれている見るからに暖かそうなもこもこの上着を羽織ると口を開いた。
「あ、そうだった。ごめん、三奈。
えーっと持ち物何だっけ? 昨日、適当にリュックに詰めといたけどそれでいいかな?」
「はぁー、確かめとくから朝ご飯食べてきて!」
「ん、ありがと。」
もう仕事に行っていていない母が入試を頑張れるように柚希のために張り切って作った朝食を珍しく完食して結田付中学校の制服に着替えようとすると丁度三奈が柚希の持ち物を確認して階段から降りてきたところだった。
「どうだった、荷物?」
「多分、大丈夫! 思ったよりもきっちりしていた!」
少し足りない分は自分の分を分けてあげたり柚希の部屋から拝借したりしたが、柚希が小学校の遠足の時にリュックサックの中に弁当しか入れてこなかったことを思い出すと彼女の成長に三奈の涙がちょちょ切れる思いだった。
「そっか、じゃあ行こうか。」
いつの間にか制服に着替え終わり、きっちり防寒までしている彼女を見て、相変わらずこの幼馴染は掴めないなぁと思ったのだった。
「そういえば、あのとき三奈の友達に謝りに来ていた1組の…… まあ、そいつが志望校を雄英のヒーロー科に変えたらしいよ。」
家が隣で幼稚園以前からの付き合いである2人は喋りながら最寄り駅まで足を進めていた。
性格や言動が真反対ということで密かに『あべこべコンビ』と呼ばれていたのだが、逆に足りないところをお互い補強する形で中々仲がいい。
「へぇー、相変わらず友達が少ない割に不思議な情報網。また個性使ったの? よくバレないね。」
「うん。まあ私の個性使ってもバレないから だれも気づいてない、心配は無用。
それと、個性で去年に雄英の入試受けた人に実技試験のことも聞いたけど、友達が少ない私はそれを黙秘することにする。」
「ちょっと、本当にゴメン~! これは言葉の綾で~…」
「ヒーローは一度言ったことに責任を持つもんだよ。まあ、聞いた通りなら三奈に不利になるような試験でもないから、教えてあげない。」
「え~!ちょっ、柚~!!」
電車で25分、徒歩5分の30分。比較的近い方であろう移動は、喋っているうちに終了し、学校とは思えない立派なところに着いてしまった。一回この建物を見てしまうと、『受験生はこちらへ』と書いてある看板まで立派に見えてくるから不思議だ。
その看板通りに進むと受験番号ごとに分かれて筆記試験を受けるようで、早期に志望校を雄英にした三奈と、ギリギリまで悩んで志望校を決めた柚希では、受験番号は遠く離れていた。
すると、倍率が驚異的な雄英では案の定、筆記試験は別の部屋になった。
「(さて、どう時間を潰そう。…)」
今から勉強をするには時間が足りないし、個性の調子は移動中に確かめた。こういう時は幼馴染に話し相手になってもらうが今は無理だ。
だからといって倍率300のことを考えると、知らない誰かに話しかけてしまうのには、生産性を感じられない。だったら、後2カ月程度は同じ学校に通うであろう、隣で緊張している同中(だったと思う)人に声をかけてみることにした。
「ねぇ、君。」
「お、おう、俺になんか用か?
自分の名字を知っていることに驚いたが、柚希も
「暇だから話し相手になって欲しい。 えっと、‥‥」
さっきは、下を向いていたので気づかなかったが、今朝三奈に話した人物だったことに驚きつつも、流石に名字ぐらいは思い出さないとなぁ。とない頭をフル回転させようと思ったけど最初の文字が『き』であったことをギリギリで思い出し 諦めた。
今の柚希の心境としては、「今更、同級生1人の見解が変わったところで、私のこういう性格は変わらないだろう」ということだ。
こういう心境こそがヒーローっぽくないと思うのだが、ヒーローは強個性を持っている義務とでも考え思考の中からかなぐり捨てた。
「別にいいけど、うーん、じゃあ度超は何で平然としているんだ?」
おお、話す内容はまだ考えていなかったので話題を振ってくれるとはありがたい。
「うーん。普通に緊張しない性格だからっていうのもあるけど、
最期は疑問形になってしまったが、柚希の意志として一番正しいのはこれだろう。
「うーん、そういうものか?」
向こうは理解できないらしく首をかしげているが、幼馴染以外の他人に自分の考えを一言で完璧に理解させることは不可能なので、少し論点をずらすことにした。
「私からするとだけど、例えばさっきの君みたいに下を向いている人と前の方にいるあの背筋を伸ばして堂々としている眼鏡の人だと、後者の方が入試に受かるように見える。まあ、そう見せたからって入試に受かるとは限らないし、君の座り方を否定したいわけではないから気に障ったのなら謝るよ。」
「別に気にしねぇし、逆に教えてくれてサンキューな!」
そう言って例の彼はピシッっていう効果音が付きそうな位、背筋を伸ばし始めた。
その姿を見て柚希の頬が少しだけ緩んでいたのは背筋を伸ばすことに集中している例の彼も彼女自身も気づかなかった。