ダンジョンのような自然が誇る建造物の中、ようやく天井がほど高い広場にたどり着いた時には思わず深い息を吐き出してしまった。頭上の空間が少ないという閉塞感は思ったよりも精神に負担をかけていたようで、吐き出した息がその疲れを身体に感じさせてしまっている。休息が必要だった。
僅かに隙間があるのか日の光がそこかしこから漏れ出ていて現在時刻を漠然と教えてくれている。しかしその光は印象には残らない、それを凌駕する幻想的な淡い光が地上から生えていた。
鉱物は様々な顔を見せていて、真実ここが鉱山であることを示唆しているが、それでもその光には及ばない。
ゼムリア苔にホタル茸、どちらも発光することで知られる生物だが、現在空間を包む光は一般的な色彩ではなかった。
「やれやれ、状況が逼迫していなければ暫くいたいところだけどね」
嘆息する。普通でないという異常は正直楽しめるタイプだが、それでも今回はそれに含まれることはなさそうだ。
異常にも種類があり、これは歓迎できない類のものだからである。
遥か前方には巨大な石の壁、つまりは行き止まりである。出口は先ほど通り抜けた道一つ、終点はまるで球体に閉じ込められたかのようだった。
「あれ?」
ふと、彼方を見やる。今立っている場所よりも一段高い場所、そこからは周囲の光とはまた違ったものが漏れていた。
目を凝らすとそれは花のようなもので、背の小さいススキのようなもの。その違和感はすぐにそちらに足を運ばせる気を与えたが、不意に現れた強烈な敵意が瞬時に霧散させた。
「散れ!」
叫ぶと同時にその場を飛び退る。
一瞬遅れて上空から舞い降りる存在感の塊。どうして今まで気づかなかったのか不思議なレベルだが、それもこの場を包む異常に呑まれていたからかもしれない。
巨大な翼を振動させ、乳白色の比翼を周囲の幻想色に変えながらはためく未知の魔獣。光り輝く鋭利な頭部と鋭い眼光はブレードファングを思わせたが、それは間違いなく龍と呼ばれる生物に近かった。
天空という人類が羨望する世界を縦横無尽に駆け巡る存在、果たして出会ったのが密室だという事実こそは僥倖だった。
「こ、これは……っ」
「魔獣!? なんて大きさ……」
「気を引き締めないとね」
ワジ・ヘミスフィアはぼやきつつ、仲間と共に戦闘態勢に入った。
半身となり、左腕を直角に曲げる。右腕はだらりと下げ脱力を極めた。これが彼のフォーム、体の柔らかさを十二分に発揮する格闘スタイルである。
横目で見やると、トンファーを構える青年と銃を掲げた少女、そして――
「さ、モンスター退治だねっ!」
剣を構えた風を冠する遊撃士がいる。
眼前の魔獣の圧力は変わらない、しかしこの光景だけで、彼は不思議と危機感を覚えることを忘れた。
クロスベルを震撼させた教団事件の後、クロスベル自治州は抜本的な改革を余儀なくされた。州の代表であったハルトマン議長は失脚・逮捕され、ヘンリー・マクダエル市長も辞任した。
そのため新たな代表を選出するための投票が行われ、新たな市長として元IBC総裁であるディーター・クロイスが据えられた。また同時に、市長を辞した身であったがその貢献度が計り知れないヘンリーは議長として代表を継続することになり、州の代表は久方ぶりに、いや初めて協力体制を約束できる人選から為ることができた。
新市長となったディーターは、自治州の問題を解決するべく周辺諸国との会議を計画し、そのための政治拠点であるオルキスタワーの建設に尽力し、ヘンリーはそのサポートをしていくとともに、諸国を回って外交関係の強化に奔走した。
既にその会議『西ゼムリア通商会議』は一月後に迫っている。行政区・市庁舎の隣に建設されたオルキスタワーは一般にこそ公開されていないもののほぼ完成し、後は時を待つばかりと言った状況だ。
クロスベルの未来は、この一ヶ月の間に決まるといっても過言ではない。
そんな中、教団事件後一端の解散期間を設けていた特務支援課は再び結集、新メンバーを入れ再活動に至っている。それぞれが解散期間中に行ったことは様々であるが、そのどれもが、教団事件によって得られた経験を元にしていたことは言うまでもないことである。
セルゲイ・ロウ、ロイド・バニングス、エリィ・マクダエル、新メンバーのワジ・ヘミスフィア。それが現在特務支援課として活動している者の名だ。
半年前まで所属していたランディ・オルランドは現在警備隊に所属し、ティオ・プラトーはレマン自治州にあるエプスタイン財団の本部にて研究を続けており、会議に間に合う形で合流する予定である。
旧市街で不良集団を纏めていたワジが何故警察官となったのか、それは教団事件の際、操られた警備隊員を撃退して市内を守ったという功績への対価である。
誰もが不思議に思ったこの報酬は当然のことながらワジ本人が望んだものであり、釈然としないままに受け入れた旧メンバーだがそれでも彼独特の人懐っこさによって大きな軋轢を生むことなく活動に励んでいる。それでもティオやセルゲイはこの加入に何かしら思っているようである。
そんな彼らが今回受けたのは、クロスベル北東にある鉱山町マインツの町長からの依頼である。現在町民が使用している鉱山は以前潜ったことがあるが、今回の依頼ではそれ以前に入っていた旧鉱山の様子を見てもらいたいというものだった。
不気味な光を放っているということだが、それは前述した植物が発光していたからであり、つまりはその植物の異常の解明こそが依頼達成に繋がるものである。
しかし彼らが直面するのは未知の魔獣、鉱山独特の魔獣との戦闘よりも遥かに困難なものであるのは確かだが、何の巡り会わせか、この依頼に関してはただ一人の助っ人が存在していたのである。
その嘶きで以って最初の一撃と為す。鉱石のような竜フェアリードレイクは大口を開けて絶叫した。大気が震え、大きさという根本的な恐怖が襲い掛かる。しかし、ここにいる全員がそれを過去に経験しており、あるのはただ、データ不足から来る警戒だけである。
「エリィはアナライズを! ワジは遊撃っ!」
「私とロイド君が出るよ!」
言うや否や、栗色の髪を持つ剣士が飛び出す。一直線に魔獣に迫る姿は風のよう、そして特筆すべきはその走法である。
攻撃を警戒する場合、対応できるように自然と歩幅が狭まり細かなステップを踏む。そのほうが急制動が容易であるからだ。しかし彼女は違う、舞うように走るそれは一歩の感覚が桁違いに広く、実質連続跳躍を行っているようなものだ。
しかし彼女にとってそれは当たり前で、その走法こそが初見の相手にするものだった。驚異的な力で地面を踏み抜いているのかと思えばそれも違う、彼女の移動には音が伴わない。
重力という壁を越えているかのように静かに、そして急速に間合いを詰めた彼女は四足でそり立つフェアリードレイクをそのまま追い越し、反転。後ろ足に対し高速の剣戟を振るう。
「はああああああ!」
予備動作の少ない小振りだが、それ故連撃の速度は果てしない、残像が見えるほどの速度は魔獣の硬度を凌駕し鮮血を飛ばしていく。
「ギアアアアアアアアッ!」
たまらず魔獣が咆哮し、尾を振りぬいた。しかしそれをタイミングよく跳躍することで回避、しかし空に浮いた彼女を牙が襲う。
「させるか!」
その伸びた首めがけてロイドが飛ぶ。空中でアクセルラッシュを放ち攻撃部位を逸らすとともに、その手応えに頭を走らせる。
先の剣戟で出た高音で予測したとおり、フェアリードレイクの体は鉱物でできているようだ。鉱物の堅さを持った魔獣は過去にも存在したが、この魔獣は真実鉱物で構成されている。
それは旧鉱山という環境で生まれたためか、それ故異光を放つ植物たちと共鳴するように不可思議な光を放っているのだろう。
そこまで考察したロイドは、魔獣にアーツの光が放たれたのを見る。アナライズ、エリィの魔法である。
「全属性耐性はフラット、気にしないでいいわ!」
「ふふ、じゃあ遠慮なく」
エリィの分析結果を聞きワジが詠唱を開始、即座に終了したそれはフェアリードレイクの周囲を飛び交う無数の黄金球。
「ゴールドハイロゥ!」
言の葉に従いそれらは一気に襲い掛かり衝撃を与えていく。空属性中位魔法ゴールドハイロゥ、広範囲を殲滅できる万能アーツである。
アーツによるダメージを確認したエリィはホルスターからもう一挺銃を抜く。それは最初に構えた白銃とは正反対の黒銃、彼女がこの半年で固めた決意と絆の結晶である。
「翼を狙うわっ、サポートお願い!」
「了解!」
二挺を取ったエリィは遠距離から中距離に移動、目標は左翼だ。
こと制空権を握られている相手への対処法は飛ばさないこと、飛行する瞬間を狙い打つのも有効だが、巨大な魔獣にとってはその両翼は武器でもある。故にその部位を欠損させることは何より重要である。
エリィの殺気に気づいたのか、フェアリードレイクはその尾を彼女に向けて振りぬいた。それを跳躍で避けた彼女、そして代わりに受けたロイド。
ロイドは尾の一撃を受けると同時にスタンブレイクを発動し電撃を流し込む。電気信号により硬直した魔獣に剣閃が走り後ろ足の裂傷が増え、そしてエリィは外しようのない距離へと辿り着く。
狙うは翼の付け根、接続部。
「穿ち抜け――」
エリィの意志に従い構造を作り変える白銃、折りたたまれていた銃口上部が解放され倍の長さを得る。先端は鋭く、まるでライフルのようだ。
その切っ先を一点に集中させ、引き金を引く。矢のように解き放たれた銃弾は実体を持たないエネルギー、それは連続して三発放たれた。
かつて登録していた三点バースト、それにより威力を持たせた進化系クラフト『ペネトレイター』、この戦技は全ての物体を貫通する。
光の矢に風穴を作られた魔獣は首を仰け反らせたたらを踏む。翼がこの存在にとってどこまで重要かは知らないが、痛覚に関しては特別なようだ。そして彼女の目的はまだ達成されていない。
「一気に叩くわ!」
黒銃の焦点を合わせる。実体弾を装填する黒銃は物理ダメージ専門だ、翼を落とすという行為にはこの銃こそが相応しい。続けざまに二発撃ち、間隙を作る。同時にそれまでの距離を放棄し一気に後退した。
「ロイド!」
「ああ!」
スイッチの要領でロイドが飛び込む。視界から魔獣を放さないまま、彼は自己に埋没した。
思い出すのは過去の危機、過ぎ去った事例の消えることない感情を呼び起こす。始めは胸の中に小さく、しかし波紋のように全身に浸透させる。
「碧の疾走 ―ゼロ・ドライブ―」
それは碧の光となってロイドの体を包み込む。平時の倍以上の力を意識したロイドはしかしすぐには動かない。彼の視界には既に行動している者が映っている。
「烈――!」
フェアリードレイクの頭上を侵略したアネラス・エルフィードが剣を構える。それに対し翼で迎撃せんとする魔獣――
「はぁっ!」
しかしワジが高速の踏み込みで懐を掻い潜り回し蹴りを放つ。魔獣の迎撃は叶わない。
しっかりとエリィの銃撃痕を見定めたアネラスは、下降する勢いのままに翼と交差する。
「光破斬!」
光の軌跡が十字を作り、それはそのまま左翼を斬り飛ばして赤い血を舞わせる。バランスを崩したフェリードレイクは、そして迫り来る彼の一撃を見つめることもできなかった。
「ああああああああ!」
ワジと入れ替わる形で飛び込んだロイドは渾身の一撃を腹部に浴びせ、あろうことかその巨体を浮かせた。次いで体を捻り、螺旋を描くように全力で跳躍する。そのまま可能な限りの連撃で浮かしこみ、とどめの一撃は龍の一撃。碧の光で象った龍はそのままフェアリードレイクをその顎にかけた。
キラキラと皮膚が光を反射して散っていく。鉱石の雨を降らせたその魔獣は、そうして地に沈むように巨体を横たえた。
「ふぅ……」
トンファーをしまったロイドが深く息を吐き、続くようにエリィも得物をしまった。
「助かりました、アネラスさん」
「あはは、いいよ別に。それに私がいなくても君たちなら大丈夫だったでしょう?」
ロイドに礼を言われて頭をかくアネラスだが、その嬉しそうな表情は隠せない。
「いえ、アネラスさんがいたからワジ君は遊撃に専念できたし、こうして無事にやり過ごせたと思います」
「三人じゃどうしても手が足りないからねぇ」
エリィやワジも自覚している、現在の支援課の弱点。技量が上がればそれを限りなくなくすことは可能だが、あのような初見の魔獣に対しては時間もリスクもかかってしまう。その点で言えば彼女の加入は嬉しい誤算だった。
「ま、それもたぶん今回だけだよ。私はもう用事がないからリベールに戻るし」
「残念です。戻ったらエステルさんたちによろしく伝えてください」
「任せといて――――ってまず!?」
アネラスが異変を感じて振り向いたときには既に魔獣に変化が起きていた。依然倒れたままだが、その翼が大きくはためき大気を揺らしている。
そしてそれは彼らの鼓膜に辿り着いた時には神経系を支配していた。
「ぐ、あ……」
「これは……く……っ」
「高周波振動っ、まずいね……」
全員が跪き、そんな彼らを見下ろすようにフェアリードレイクは立ち上がった。左翼はもげているためこの攻撃は不十分だ、それでも四人の動きを固める程度にはその効果を発揮している。
形勢逆転を知り、勝鬨を上げるように魔獣は吼えた。その声すら、超振動の中では聞こえなかった。
「くそ、なんとかしないと……っ!」
ロイドは動かない四肢を見て歯軋りする、渾身の力で動けと命ずると体はほんの僅かだが動いてくれた。拘束は完全ではない、しかしその挙動は迎撃には遅すぎる。
いや待て、冷静になるんだ……
危機的状況にこそ冷静な状況判断を。それこそがロイドが学んだ最も大事なことである。そう、彼の体を包む碧の気は未だ衰えていない。
故にこの力を十全に操ることができればこの状況を打破できる。そのためには自己に深く沈み、この力の本質を引き出すことが重要である。
「ロイドっ、私だって……」
エリィは自身の腕に全神経を集中する。銃口を上げ、引き金を引く。それだけで状況は変えられるのだ。
そして今の彼女が、ただそれだけのことをできないはずがない。それを知っているワジはあえて動かず、その一瞬を待って力を溜めた。
「……ッ!」
銃撃音が響き、フェアリードレイクの体がぶれた。瞬間、ロイドは爆発的な気の高まりで以って拘束を一気に破壊する。待ちかねたようにワジが飛び出した。エニグマを起動、全クラフトポイントを消費し七耀の加護を得る。
垂れた頭部を蹴り上げ、跳躍。跳ね上がったそこに見た虚ろな瞳に僅かな憐憫を覚えながら、彼は持ちうる全力で蹴撃を放つ。その連打は局所的な台風のよう、一際大きく振り上げた左足で地に叩きつけ、体を一回転、最後の一撃を叩き込む。
デッドリーヘブン、彼のSクラフトである。
「――光を纏いし風よ、我が剣に集え」
そして、アネラス・エルフィードはその瞬間を待っていた。
「軌跡は刹那、一瞬の煌き」
刃先に風が集い、竜巻を為す。その暴風はやがて刀身を呑みこみ、彼女はそれを優しく撫でた。風が消える。残るのは風が抱いていた光だけだ。
剣を振るう、その輝きはそこに線を描いた。
「其は星の光、我が剣は、彗星を成すものなり――!」
残像すら見えない高速の刺突は大気の壁に文字どおりの風穴を空け一直線にフェアリードレイクの頭部を貫通する。一条の光は攻撃力の全てを一点に集めた故の極細のそれだったが、しかし存在するものを遍く貫く光である。
斜め上に放たれた光は魔獣の命を貫くと共に頑丈な天井にすらその傷跡を残した。アネラス・エルフィードのSクラフト『彗星剣』は、今回の戦闘に終止符を打ち、フェアリードレイクを霞と化した。彼の魔獣は残光を散らすのみ、それ以外は彼が存在したという証明にはならなかった。
* * *
暖かな夕日がとても心地よい。それはバスの微細な揺れとともに睡眠欲を刺激してくる。それでも隣に座る遊撃士は楽しそうに外観を眺めていて、そのためにエリィは彼女へと話しかけた。
「アネラスさんは、明日にはリベールに?」
「んーそうだね、今回クロスベルに来た理由の依頼はもう終わっちゃったし、アリオスさんともやることはやっちゃったし」
「やること、ですか?」
「私とアリオスさんは剣の流派が一緒だから、こう久しぶりに会うとやっぱり手合わせが必然なんだよ。で、今回はそれが終わった後にエリィちゃんたちからギルドに連絡があってね」
特務支援課が依頼で市を離れる際には、遊撃士協会に一報を入れるというのは半年前の事件があったからこその通例となっている。あの事件以来そのような緊急事態は発生していないが、今まで遊撃士を邪険に扱っていたクロスベル警察は、その上層部が軒並み懲戒免職処分になったこと、そして教団事件により互いに協力していかなければならないということが身をもって証明されたことにより、警察内部の遊撃である特務支援課は連絡を欠かさないようになった。
一方で遊撃士協会も、市内に手が回らない場合特務支援課に依頼を頼んでいるので持ちつ持たれつの関係を維持している。
「アリオスさんとですか……エステルから聞いていましたし今日拝見しましたが、アネラスさんもものすごい腕なんですね」
「あ、でもやっぱり伸されちゃったよ? ランク的には一つ違いでも実力差は相当あるもの、兄弟子妹弟子って関係もあるし同じ風の系統で似通っているけど明確な違いがあった。まだまだだよ」
B級になって日が浅いアネラスとA級――それもS級に近いアリオスにはランクでは表せない差が存在する。遊撃士にとってBとAの差はそれまでの階級差とは一線を隔すものだ。
程度の差こそあれ、B級に進むのは時間を掛けさえすればそう難しくはない。しかしA級になるには、正遊撃士になってからB級に至るまでの実績以上のものを再び得なければならないのだ。
遊撃士協会がどうしてそこまでの差をつけたのか、それは依頼者の立場で見るとわかりやすい。
遊撃士のランクは依頼者に提示する必要こそないが、やはり頼むのならランクの高い遊撃士に頼みたいと願うのは当たり前の話だ。そこで協会は一般的なイメージで中間に値するCランクよりも上の遊撃士を多く保有したかったのだ。そのためBランクの敷居を低くし、しかし厳密には異なるが最上級であるA級が増えるのも問題があるためにそのような結果になっているのである。
事実、A級遊撃士は大陸中で30に及ばない。彼らの域に到達するには果てしない道のりが待っている。
そう言ってアネラスは窓の外を眺めた。ガラスに映る横顔は今までの穏やかな表情ではない、剣士としての表情だった。そこに彼女のプライドの高さを感じ取りエリィは息を呑む。そしてそんな自分を静かに戒めた。
この誇りがあるからこそ強くなれることもある、だからこそ人が見せるその気高さに対し驚いてはいけないのだ。
それが当たり前にならなければならないのだ。
「エステルとヨシュア君に会った時はよろしく伝えてくださいね。あ、でもティータちゃんに会う方が先かな」
「大丈夫、エリィちゃんがお世話になった人にはちゃんと伝えるよ。エステルちゃんから情報は受け取っているからね」
にしし、と笑うアネラスに苦笑し、エリィは横目でロイドとワジを見た。彼らも言葉は少ないが会話をしており、いつもどおりワジがロイドをいじって楽しんでいるようである。
これから、頑張っていかないと……
自身の旅が終わったことで始まった新しい特務支援課、そこでの活動が目標に繋がると信じて、エリィは誓いを胸に静かに目を閉じた。
ちなみに、市内に着きギルドに戻ったアネラスはそこで心通じ合う親友と出会うことになるのだが、それは別の話である。