管制室のサーバーの中から現れたメッセージ。
そこに映っていたのは”彼”からの最後のメッセージだった。
※終局特異点のネタバレがふんだんに入っています。
まだ1部をクリアしていないマスターは読まないでください。
そして1.5部の方を4ではなく5としてカウントしていますがそれは魔神柱の数なので 間違いではないです。
「よし、ここをこうして……できたぞ。」
草木も眠る丑三つ時に、多くのモニターの前で一人操作盤をいじる男がいた。
「ん……んん~、やっぱりちょっと恥ずかしいね。」
赤い丸マークとRECの文字が浮かぶカメラ付きの画面の前で白衣を着たその男は首筋に添えた手を外しながら顔を羞恥で少し朱に染めつつエンターキーを押した。
「先輩、お疲れさまでした。今回も私が同行することができず、大変申し訳ありません。」
謎の疫病騒動にやっと収集を付くことができ、エレシュキガルを召還することに成功した俺はマシュと一緒にマイルームで休んでいた。
「いいって。マシュも倒れちゃってたんだしさ。それに今のマシュは普通の人と変わらないんだから無理をしちゃだめだよ。」
「分かっています。それよりも先輩。そう言えばエレシュキガルさんを召還したとのことですが、英雄王様たちは大丈夫だったのですか?以前イシュタルさんを召還した際には英雄王様たちとエルキドゥさんが大暴れしたせいで召喚ルームが大破するという事態にまでなってしまいましたが…」
「あぁ……えっと。大丈夫だったよ。もともと英雄王はエレちゃんにそれほど嫌悪感は抱いてないみたいだったからね。イシュタルと違って認めているみたいな感じだったし、召喚ルームのすぐそばを通りかかってたけど一瞥してから『せいぜい真面目にマスターの支援にでも励むがいい』って言って離れて行ったしね。」
「そうです…か。」
「あ、そうだ。コーヒーでも飲む?俺の冒険譚を聞くにしても何もないんじゃ口寂しいんじゃないか?」
「そうですね。いただきます。」
マイルームのベッドに並んで座り、今淹れたコーヒーをすする。そんなゆったりとした時間に割り込むように部屋の上についたスピーカーから
『立香君、マシュ、シバの女王。ちょっと管制室まで来てくれないかい?』
そんなダ・ヴィンチちゃんの館内放送が入った。
「…?何だろう。もうレイシフトは行われないって話だし、あと数日で国連の人が来るって聞いてはいるけれど…」
「何か問題でも発生したんでしょうか?とにかく行ってみましょう、先輩。」
「そうだね。」
俺はマシュと目を合わせてそんな会話をし、ベッドから立ちあがった。
管制室に向かう廊下の窓の向こうは今日も吹雪が吹き荒れていて、あの日見た青空は分厚い雲に覆い隠されている。
「あの日の青空。彼とも一緒に見たかったな…」
「そう…ですね。」
窓の外を見ながらつい零してしまったその言葉をマシュは静かに答えてくれた。
この人理保証機関カルデアを『空白の1年間』と世間からは呼ばれている日本時間で言う2015年夏から2016年の年末にかけてしきってくれていた彼は今はいない。
2015年のあの日、ソロモン王の遺体の内側に巣くい、その亡骸を用いて活動し続け、自らが抱いた『憐憫』のもとにすべての人類を焼却したゲーティアが率いた72の柱の一人によって死亡した本来の所長であるオルガマリー・アムニスフィア。肉体的に死んでしまった後にその魂を俺たちの目の前で壮絶な形で殺された彼女の代わりに俺たちを仕切ってくれていた彼は去年のあの日、俺たちに希望をつなげて消滅した。
彼、ロマニ・アーキマンこと
それを防ぐために彼はそこからのすべての時間を犠牲にした。
そのために人になって本当にやりたかったことも、神に縛られないすべて自由な選択も、「自分がその原因に関わっているらしい」そのたった一つのことを理由にそれらすべてを放棄した。
そして、あの日。2016年の年末に彼はその存在すら手放した。
俺たちに、人類に未来をつなぐために。
ゲーティアがばらまいた聖杯をめぐる旅の終着点であるあの結界の中で俺はそれまでの旅で出会い、縁を紡いだすべてのサーヴァントたちの助けを借りてマシュと共にゲーティアの前にたどり着いた。
しかし、対話の末にゲーティアが放った第3宝具、『
その悲しみと怒りから歯向かうことも、何も意味がないことも分かった上で特攻を仕掛けようとしていた俺を留めたのはドクターだった。
そして彼は自らの正体であるソロモン王へと戻り、そして……
あの時の光景は今でも思い出せる。
ソロモン王へと戻ったドクターに攻撃を仕掛けるゲーティア。それを何もせずに受け止めるドクター。
ゲーティアはそんなドクターを嘲笑し、何もできないと嘲笑う。
それを否定しようと動こうとした俺を抑えるかのようにドクターは笑いながら俺に告げた。
「ちょっと待ってて。すぐに終わることだ。それも簡単にね。」
そう言いながらドクターはゲーティアの前に立つ。ゲーティアは再び第3宝具でドクターを消そうとするが、そのドクターは
「ああ、初めからそのつもりだ。ボクは自らの宝具で消滅する。それがソロモン王の結末だからね。」
と言って余裕そうにしていた。いや、違う。その足は震えていた。
怖かったのだろう。恐れていたのだろう。ましてやこの後に彼がしたことを考えれば本当はすぐにでも逃げ出したかったに違いないように思える。
「ゲーティア。おまえに最後の魔術を教えよう。“ソロモン王にはもう一つ宝具がある”と知ってはいたものの、その真名を知り得なかった───いや、知る事のできなかったおまえに。」
「おまえの持つ九つの指輪。そして私の持つ最後の指輪。今、ここに全ての指輪が揃った。なら
「ソロモン王の本当の第一宝具。私の唯一の、“人間の”英雄らしい逸話の再現が。」
彼はそう言ってゲーティアをしっかりと見据えた。
彼のその様子を見てゲーティアは何かを恐れるかのようなそぶりを見せる。そして何かに気付くと同時に喚くかのように
「——まさか。いや、できる筈がない。臆病者にそんな選択ができるものか!」
「止めろ。止めろ、止めろ、止めろ……!この指輪は、全能の座は、おまえだけのものでは————!」
と告げながら襲い掛かろうとするもその瞬間ソロモン王の周囲に彼を中心に広がり始めた光の円によって弾き飛ばされる。
そんなゲーティアの様子を見向きもせずにソロモン王は詠唱を始めた。
「第三宝具、『
そしてそこからのことを俺は一生忘れられないだろう。
「そして——神よ、あなたからの天恵をお返しします。」
「……全能は人には遠すぎる。私の仕事は、人の範囲で十分だ。」
「第一宝具、再演。———『
そして宝具によって彼のすべては光の粒となって消え始める。
それまでの栄光も、功績も、確かにそこに居たという記録も記憶もすべて。
勿論その中には彼が、ソロモンが存在している英霊の座も含まれていた。
その結果、ソロモン王が人へとなったロマニも例外にならず、消失する。
完全に、たった一つの場所を除いて何一つの例外もなく。
カルデアと言うもはや疑似的な特異点と化していた俺を含めたこのちっぽけな世界に存在している人しかロマニ・アーキマンと言う一人の、いつ起きるのかわからない人類の滅亡のために戦い続けた男の痕跡は残っていない。
結論から言うと、俺たちカルデアはドクターの残した
しかし、その勝ち取った未来に彼の姿はない。
それがこの勝ち取った世界の中で俺の中にしこりとして残っていた。
その最中に起きた5つの魔神柱の生き残りたちが起こした亜種特異点が発生、それを俺たちカルデアは解消させ、その5つ目が最後の魔神柱の反応と判明していた。
そして数日後、カルデアで迎える3度目の新年とともに国連から派遣される新たな所長がやってくる。
そうなるときっと俺は……
「先輩?」
「…ごめん、考え事をしていて。」
「お疲れだったら休んだ方が良いのではないでしょうか?」
「いや、いいんだ。これは俺自身の問題だから。」
「先輩……」
心配そうにこちらを見つめるマシュ。だけど、俺が考えていることを彼女に知られるわけにはいかない。
「ほら、早く管制室に行こう?」
だから俺は仮面をかぶる。平静を装う。
「……」
マシュは気づいているのかもしれない。だけど、特に深く聞くことなく俺についてきてくれた。
「やっと来たね。」
管制室の扉をくぐるとそこには準備万端と言った感じのダ・ヴィンチちゃんと
「なんで私が呼ばれたんですかね~」
のんびりした様子でこちらを見るシバの女王の姿があった。
「全員そろったことだし、呼びつけた理由を説明しよう。」
ダ・ヴィンチちゃんはぐるっと周囲を見渡し、告げ始める。
「これを見て欲しい。」
ダ・ヴィンチちゃんはそう言って何かのファイルをスタートさせた。
『
「これが再生されているってことは、恐らく僕は第一宝具を発動したってことだろう。そして君たちはきっと人類の未来を勝ち取ってくれているはずだ。」
そう言いながら画面の向こうの彼は朗らかに笑う。
「僕はね、これまで色んなことが怖かったんだ。」
「選択する自由も、何かを行う自由も、何かしらの感情を抱く自由も、何一つ与えられていなかったからね。」
「だからこそ僕は人になることを望んだ。それを後悔した日はない。」
「だけどただ一つ。たった一つだけ後悔していたことがあってね。それはマシュにクリスマスプレゼントを、そして思い出をわずかにしか与えることができなかったことだ。」
「立香君が来てくれてからはマシュはよく笑い、よく楽しみ、そしてよく怒っていた。」
「それは僕が与えることができなかったことだし、立香君じゃないと与えることができなかったことじゃないかって僕は思っているよ。」
「僕たちはマシュに人並みのことを与えてあげることができなかった。僕自身としてはこれからもその与えてあげることができなかったことを与えてあげたいと思っている。」
「だけど、マシュの身体がもたないということが分かっている。」
「恐らく何かしらの奇跡でも起きない限りきっとマシュの命は明日もてばいい方だろう。」
「そして僕自身も決断の時が迫っている。だけど、それに関して後悔なんてしない。」
「だけど、もし。もし、人類を救うことができて僕がその場に居られないとしたら…そう思って僕はこのメッセージを残すことにした。」
「本当は世話になったカルデアの全職員一人一人にメッセージを残したいけどそれは残された時間の関係上、無理そうだ。」
「だから僕は限られた人にしかメッセージを残せない。そこは了承して欲しい。」
「まずはレオナルド。」
「君には、たくさん迷惑をかけた。」
「うだつの上がらなかった僕の尻を何度もたたいて前に進ませたり、僕の弱音を黙って聞いて導いたりしてくれてありがとう。」
「そしてマシュ。もし奇跡が起きて君が生きているのならば僕は謝らなくてはならない。」
「君を生み出した計画に参加していたことも、そして君を長生きさせることができなかったこともその両方もだ。」
「僕を恨むなら恨んでくれてもいい。それは君が握っている権利の一つだ。」
「だけど忘れないでほしい。君が生きていることに意味はあるのだと。あの日君に研究員の一人が言った『失敗作』と言う言葉は違うってことを。」
「君は一人の人間として生を受け、そして今を生きている。その限りある”今”を大事に生きてほしい。」
「そして立香君。」
「君には色んな意味で感謝と申し訳なさを感じている。」
「僕にはできなかったマシュを外に連れ出してくれたことや、最後の最後を君に責任を放り投げるような形で預けてしまうこと。」
「それら全ての僕が背負うべき責任を君に押し付けた償いをすることはこの映像が見られている時点で僕にはできないということだろう。」
「だから、この言葉を残したいと思うよ。」
「”君は悪くない。悪いのは全部僕だ。”」
「きっとまじめな君のことだから僕がいなくなってしまうことも自分のせいだと自らを罰しているかもしれない。だけど、それは違うからね。」
「これはもともと僕が原因で始まったことだ。だから君が僕に対して責任を感じることなんて全くないさ。」
「だから君はいつも通り前を向いて歩き続けてくれ。」
「あ、そうそう。マシュと引っ付きそうな感じだったけど結局引っ付いたのかな?……ってそれをこの場で言うのは野暮ってものか。」
「このメッセージを僕は来年のクリスマスの日に開示するように設定しておくよ。」
「もし、カルデアが人類を救えたのならその日は必ず訪れる。」
「その時、もし僕がいたのならば僕はきっと気恥ずかしさからこのメッセージを消すだろうからこのメッセージをレオナルド、君が見つけたのならそれはきっと僕がいないということだろう。」
「僕は君たちみんなが未来を掴めていることを望んでいる。だからこのメッセージを見たのなら、笑ってくれ。」
「それが最後の僕の望みだ。」
「たとえ座から消えることになったとしても僕はすぐそばにいるさ。」
「それじゃあ、また……って言うのも変か。アハハ」
「ドクター!準備が整いました!!」
「もうかい!?ありゃりゃ…予想よりも早くなっちゃったね。急がなきゃ…」
映像は慌てた表情でこちらに手を伸ばすドクターで途切れていた。
「「「………」」」
全員が押し黙っていた。
俺はそんな中でぽつりと零した。
「ドクター……こんな一日遅れのクリスマスプレゼントとかずるいよ……」
今日は2017年12月”26”日。
1日遅れとはいえ彼からのクリスマスプレゼントと題した気持ちは、思いは確かに残された人々へ届けられた……
ロマンがいなくなってから一年たっても彼がいなくなったことのショックから逃れれていません。
自分が書いている連載作品の続きを待ってくださっている方には申し訳ないですが、どうしてもこれを書きたかったのでこっち書いてました。許してください。
感想、評価を楽しみにしています。