糸の先に繋がれた人形のお話   作:ちゃるもん

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悪役令嬢ものの漫画にはまっております。ちゃるもんです。

今回で妖々夢編完となります。
ま、異変に参加してないので短めです。

たまにはこういう話もあってもいいんじゃないかなぁなんて。


第16話 話し相手になってくれねぇか?

 日が昇る。天窓を開けると、人の体温でくぐもった空気が外の空気と入れ替わっていく。さっきまでの温もりはゆっくりと消え、少し肌寒い程度に。

 雲はなく、日はまだ上り切ってはいない。

 

 玄関の戸を開け、一つ大きく伸びと欠伸。視界の端に溜まった涙を乱雑に擦り、今日も一日がんばりますかと気合を入れる。

 

「異変は解決したのかねぇ」

 

 ひょっこりと顔を出したお天道様に聞いてみても、勿論返答なんてあるはずもない。ただ、代わりと言うように、そよ風と共に運ばれてきたのはピンクに白にと色とりどりの花弁たち。

 

「一日でこうなるってのも、日本を代表する花としてどうなのよ?」

 

 森の隙間からちらりと覗く、咲き誇るその花弁の親たちは我先にとその花を遠く、遠くへと進めていく。

 

「次が……確か萃夢想になるんだったか? ま、そのうち嫌でもわかる事か」

 

 玄関近くの桶を取り、水汲みへ。水道なんて便利なものあるはずもない。そのうち作れたらいいなとも思うけどね。ふと、後ろを振り返ると、いつの間にか家の中に入り込んでいた雀に鼻を塞がれている少女が。まあ、寝起きにはちょうどいい刺激になるだろうと無視することに。

 

「今日は、色々話を聞ければいいんだが」

 

 なーんて愚痴りながら、私の朝は過ぎていくのでした。

 

 

 

 時刻は多分午前九時頃。日が完全に昇り、人里が活気を持ち始める頃。私はアルバイトに出かけるのです。

 

「んじゃ、水はそっち。腹減ったらそこの木箱の中に干物類が入ってるから。夕方前には帰ってくるから、大人しくしといてくれな。んじゃ、行ってくる」

 

 本当は彼女のためにも休んだ方がいいのだろうが、連絡手段もないからね。色々信じて行くしかないのだよ。色々買い足しも必要だろうし。主に食料と服。

 

 進みなれた道を辿り森の外へ。妖怪から身を隠すのも慣れたものだ。中国先生に比べたら難易度easyにも程があるというものよ。

 

 さて、妖精たちの悪戯を搔い潜り、門番に挨拶をしていざ人里。

 

「さすが、異変後は賑わってんな」

 

 異変が解決したと同時に賑わいを取り戻す……どころか、より一層の賑わいを見せる人里。桜の花びらと共にあちらこちらから客引き声や笑い声が聞こえてくる。

 その様子を微笑ましげに眺め、バイト先の鈴奈庵へ。まあ、祭り事には無縁の商売だからいつもと変りなく過ごすだけなのだが。

 

「てんちょー、おはようざいまーす」

「やあ、おはよう。どうかな? 異変解決の朝は」

「前回は異変の中心にいましたからねぇ。なにかと新鮮っす」

「普通は異変の中心になんて行こう、なんて考えないからね。自分の命的な意味でも、邪魔にしかならないって意味でも。実力に自信があるなら話は変わるんだろうけど」

「あーあーあーきこえないー」

 

 耳を塞ぎ、何も聞こえていないとアピールする。いや、ばっちり聞こえているんですけどね。

 まあ、言われている通り、俺の行った行動ってのは自殺願望者のそれ。異変の元凶の所に行くのは勿論、異変の真っただ中、外を出歩くのもかなり危険な行動。特に紅魔異変は妖怪が活発になっている状況だったため、割と冗談抜きで死んでいてもおかしくはなかった。紅魔館に着く前にね。

 そういった点で言うと、今回の異変は比較的安全なものだったらしい。比較的、ね。まあ、長い目でみれば冬が例年より長引いたってだけだから。雪も埋もれるほど積もったわけでもないし。それらを、だから、の一言で済ませていいのかは分からんけど。

 

「にしても、解決したはいいですけど、一気に咲きましたねぇ。桜」

「ものの見事に咲き乱れたものだよ。我慢していたものを吐き出しているみたいで、少し薄気味悪く感じてしまうほどにね」

「それは同意」

 

 閑散とした店内をぐるりと見まわし、適当に本の整理を始める。外はお祭り、ここは特に代わり映えのしない貸本屋。平和で日常的なのが一番って事っすな。

 

「あ、そうそう。昨日女の子拾ったんすっよ」

「え?」

「行き倒れてて……って、なんで自分の身体を抱きしめてるんですか」

「ついに犯罪に手を染めてしまったのだね……。いや、何時もこんな美少女と居るんだ、性欲が溜まってしまうのも無理はないか。だが、物事には順序というものが」

「仮に俺が本当に犯罪に手を染め、女の子を誘拐強姦していたとして、気にするのはそこなんだ」

 

 いやんいやんと言いたげに体をくねらせる阿保店長に呆れつつ、行き倒れっすよ行き倒れと訂正を入れておく。

 

「行き倒れねぇ、見た感じ普通の人間ではないんだろう?」

「そーっすねぇ……多分、貧乏神とかその手の不幸を持ってくるタイプかなーとは。いやはや、厄介なもんを拾いましたよほんと」

「で、実際大丈夫なのかい。生活的にも、不幸関係的にも」

「大丈夫じゃないっすかね。多分ですけど」

「自分のことなのに、随分味気ないじゃないか。なんだか、心配して損した気分だよ」

 

 いつの間に淹れたか、湯飲みを手に一息つく店長。

 心配してくれていたことになんとも歯がゆくなりながら、昨日のことを思い出す。

 

「心配されててあれなんですが、特にこれといった、不幸と呼べるようなことには出会ってないんっすよね。ただ、本人の身なりで判断しているだけなので」

 

 穴に落ちただとか、急に雪が雨に変わってびしょ濡れだとか、何もないところで躓いたとか、大きなことから些細なことまで思い当たるものはない。

 拾った時、死にかけだったから彼女自身の不幸体質、能力的なものが弱体化していた。それか、そもそも貧乏神等の特殊な存在ではなく、ただの人間か。

 

 もし後者だとすれば、誰かに捨てられた。あるいは、神隠し的なものに巻き込まれ、解放された直後なのか。

 ただ、神隠しで名高い天狗の面も割れていれば、妖怪退治のエキスパートである博麗の巫女もいる。

 

「神隠しってのは、考えにくいか」

「ん? どうかいしたのかい?」

「あー、そうっすね。ここって神隠しとか頻繁にあったりするんですか?」

「神隠し? そりゃあ、妖怪が跋扈しているんだから、ないことはないが。妖怪の山で天狗に捕まっても、目をつけられるだけで、五体満足で帰ってこれる。人里内で人間を攫うようなマヌケもそうはいない。人里の外なら、有り得なくはないが、博麗の巫女に退治されて終わりだろう。攫われた本人は生きてはいないだろうがね」

 

 おおむね想像通りの内容が店長から聞き出せた。彼女が神隠し等の被害者である線は消してよさそうだ。

 では、誰かに捨てられたパターンはどうだろうか。これも有り得なくはないが、ないと見ていいだろう。なぜか、幻想郷において、人里内で生活していれば衣食住に困ることはまずないからだ。

 そもそもとして、衣食住ともに死にかけだった張本人が、人里の外で未だに健在しているのだから疑う余地もない。程度の差異はあるだろうけどね。

 

 と、なれば。体質的なあれこれで服はおろか、食糧にすら手が届かない存在である。ってのが、まあ、真っ先に思いつくよねって話ですわ。

 じゃあ、それに該当する存在と言えば……? 貧乏神じゃね? って結論に至ったわけ。だからなんだよって話にもなるわけだけど。あの八雲印の結界の中にいれば取り敢えず不幸にする能力ならある程度抑えれるハズ。

 

 俺の知らない妖怪とかで、そういったのが居なければの話ですがね!! 

 

「結局は、本人に直接問いただす。が、正解か。店長ー。今日早めに帰っていいっすかー?」

「別に構わんよ。外がアレなせいで、客なんて来ないだろうしね」

 

 

 

 

 あれから数刻、店内の掃除を終わらせたと同時に店から追い出された。私はわたしでお祭りを満喫しようと思っているからね、帰った帰った。とのこと。変に気を使わせてしまったことに申し訳なく感じながら、帰路についている。

 片手に衣類、もう片手には食糧の入った桶。と、わりとみょうちきりんな格好。風呂敷ぐらいは準備しておくんだった。

 

「ただいまーっと」

 

 野道を歩き、家の戸を開ける。いつもなら何も帰ってこないはずの挨拶に少し胸を躍らせたりしたが、今日も帰ってくることはなかった。

 家の隅で膝を抱え半べそかいてる昨日助けた少女。これ、はたから見たら監禁現場だぞおい。

 

「そんな怯えなくても、取って食ったりしねぇよ。取り敢えず着替え、のまえに風呂に入れた方がいいか。湯、沸かしてくるから。少し待ってな」

 

 ゆっくりとだが頷いてくれたことを確認し、風呂の準備をするために外へと出る。風呂とはいっても、お湯を大きめの桶に移しかけ湯として利用するだけなのだが。

 

「にしても、あの感じ。話を聞くのはもう少し先になりそうかなぁ」

 

 焚火を起こし、その上に鍋をセット。扱いが非常に残念だが、まともな調理場がない以上これが家でできる精一杯である。鍋の中を水で満たし、沸騰するのを待つ。鍋の大きさからして、三回もお湯を沸かせば十分だろう。

 お湯が沸くのを待つだけの暇な時間。になるはずだったが、家の中から少女が顔を覗かせていた。

 

「……どうした? もう少し掛かるからゆっくりしてていいぞ?」

 

 少女は恐る恐るといった具合に、小さく、か細い声で言葉を口にした。

 

「あ、……て、てつ、…………だい」

「てつだい? ああ、手伝えることはないかって事か。そうだなぁ、どうせ今暇なんだ。少しばかし話し相手になってくれねぇか?」

 

 断られなかったのがよほどうれしかったのか、少女は目をキラキラと輝かせ、にへらと表情を崩した。

 さっきまであんだけ怯えてたのに、一体どういう心境なのか。それに、人間では考えられない回復スピード。神様ってこんな奴ばっかなのかね。

 

 ま、ゆっくり知っていけばいいか。

 

 お湯が沸くにはまだまだ、時間が掛かりそうだ。

 

 

 

 

 ゆめをみたの

 あのひとがわたしをだきしめてくれるあたたかくてやさしいゆめ

 わたしだけをみてくれる

 とってもとっても

 あまいゆめ

 

 けど

 ずっとはみてはいられない

 ゆめはゆめでさめるもの

 めのまえにないのならいみはない

 

 ああ

 ああ

 どうすればあなたは

 わたしだけをだきしめてくれるのかしら

 

 ああ

 ああ

 どうすればあなたは

 わたしだけをみつめてくれるのかしら

 

 




お読みいただきありがとうございます。

これ、メインヒロインは一体いつになれば自己紹介できるんですかね?
…………自己紹介いらねえか。うん。

じゃ、また次回お会い致しましょう。
またね~
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