糸の先に繋がれた人形のお話   作:ちゃるもん

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うまぴょいうまぴょい

ウマ娘で育成が終わるたびに押しが増えます助けてください。



第18話 何しに来たんだっけ

 皆さま、私は今妖怪の山に来ております。厳密に言えば、妖怪の山の麓。まだ妖怪の山には足を踏み入れておりません。いや、そんなほいほい入れるようなところじゃないんだって。マジで。

 人里の外ですら人間のテリトリー外なのですよ? 妖怪の山とか、もう、名前のまんまじゃん。やばいじゃん? 殺されるじゃん? 死ぬじゃん? 

 

 ファ──!! 

 

 それに加えてワタクシと天狗様方はほぼほぼ敵対してますしおすし? 死ねと申すか? しねともうすか? 

 

 いや、ね? 俺も結構悩んだ末ここまで来てるのよ。ただ、考えなしに突っ込んでるわけじゃないんすよ。いや、天狗に対しての対抗策とかそう言った話ではなくてね。天狗の山に突撃した場合のメリットデメリット的な話ね。そもそも、俺が天狗にかなうわけがないじゃないですかヤダー。

 

 んで、メリット。人手が増える。うん、これめっちゃ大事ね。俺の生存率が上がるし、食材の調達がしやすくなる。二人でお手伝いに繰り出せば、その分効率がいいからね。仲間獲得イベみたいなもんだな。

 んで、デメリット。結構な確率で俺が死ぬ。

 

 うん……。何回も言うけどさ、うん。俺が生きてるのって生きていたいからなんだわ。うん。何が言いたいかって言うとさ……。

 

「デメリットがッ直球すぎてきついんだわ……ッ!!」

 

 なぜ生きたいだけの俺が、失敗すれば即首チョンパなところに突撃せなあかんのじゃ状態である。

 これでも三日三晩とまではいかずとも、二日ほど寝ずに悩み抜いた結果なのよ? 

 

 で、出した結論がいざ妖怪の山ってだけで。

 

 これがさー、特に関係のない奴とか、手を貸してない奴辺りなら見捨てられたよ。絶対とまではいわないけど、多分見捨ててた。少なくともレミリアとか慧音先生とかのほかに頼れる相手がいて、かつ、自分自身もそれなり以上の実力者なら間違いなく見捨ててるね。小鈴店長なら、慧音先生を頼るって方法がある。

 

 けど、けどさ? アイツ、依神紫苑に限って言えば実力は未知数だろうけど、家の結界の外に出れば即不幸。妖怪の山にたどり着くことが不可能。実力が未知数とか関係なし。で、頼れる相手は死にかけの紫苑を拾った俺だけときたもんだ。そりゃそうだわな、自身の不幸体質で人に頼らず何とか生きてきてんだから、頼る相手なんている筈がねえ。妹がいると豪語してはいるけど、じゃあどこにいるねんって話だし。

 

 いや、わかってるんすよ? 

 博麗の巫女さんに頼って、向こうが善意……かどうかは知らないけど、二つ返事で了承してくれている時点で逃げるなんて選択肢はないってことぐらい。

 

「ほんっと、せめてもう少し準備期間があれば……。今からでも誰かに頼る、いや、下手に借りは作りたくないし……、いくっきゃない、か」

 

 ずっとうじうじぐだぐだしてても意味なんてないのです。愚痴は別ね。俺の精神安定剤だから無意味じゃないのです。

 

「はじめのいーっぽ」

 

 一歩山へと足を踏み入れれば、そこはまさしく異界。おびただしい数の視線が唐突に襲い掛かってくる。はい。既に帰りたいです。下手な動きをしてみろ、即座にその首を撥ねてやる。そう言わんがごとき、視線の攻撃。こりゃ、里の人も出来る限り近づきたくないわけですわ。

 

 背中に流れる汗を感じ、額に滲む汗をごく自然に拭う。本当に自然にできているかなんてわかる訳もないが、そうでもしなければ、冷静さを失うのは嫌というほどに理解できた。

 

 妖怪の山は天狗が管理している。端的に言えば、天狗の縄張り。そこに無断で入っているのだから、敵対もくそもなく、余計なことをすれば殺される。敵対しているからとか関係なしに、来るべきではなかった。

 

「で、帰れればどれだけいいか」

 

 自然に、一つの行き先を目指し歩を進める。ギラギラと体を射差す視線は途絶えることはなく、増えていく一方。なにより、こちらからは視線の主が見えないのだから、余計に気味が悪い。

 未だ手を出されていないのは、行き先がとある場所に向いているからに過ぎない。

 天狗の縄張りである妖怪の山は、ピラミッド形式で社会が構成されている。一番上に天魔、その下に大天狗や鴉天狗、さらにその下に白狼天狗。そして、さらにその下、というには少し違うが、特殊な役割を担う存在としてピラミッドの外に位置するのが河童の技術者達。今向かっているのは、その河童の工房だ。

 

 河童は好奇心旺盛で、色々なものを作っては売っている。外の世界のものにもかなり興味を持っているようで、外から流れ着いたものを買い取ったりもしているようだ。人里の紙が上質なものだったことに、以前気が付いたが、それも河童が一枚かんでいるとのこと。

 河童は人間のことを盟友と呼び、人間はそんな河童たちに寄り添い、支える。河童たちが人間と仲良くしてくれていれば天狗が面倒ごとに巻き込まれることも少なくなる。

 他にも多くの取引などがあるみたいだが、大まかに説明すればこんな感じ。

 また、一部の人間は天狗たちとから認められ、山に山菜を取りに行くことができるとかなんとか。

 

 ちなみに、秋姉妹や今向かっている鍵山雛たちは完全に別の枠組みに位置する。

 流石の天狗たちであろうと神様たちにはおいそれと手を出すことは出来ない。つまり、そういうことなのだろう。

 

「ここで曲がって、真っすぐっと。水の音もするしビンゴっぽいな」

 

 一回り小さい木を目印に曲がり、そのまま真っすぐ歩く。だんだん大きくなる水の流れる音と共に視線はゆっくりと弱まっていった。取り敢えずは、問題なし。そう判断されたのだろう。

 雑木林を抜け、土道からごろごろとした石の道。目の前には空の色を落とし込んだかのような綺麗な川。そっと近寄ってみれば魚の影が飛び跳ね波紋を広げ、落ち着いたころには、鏡をのぞいているかと錯覚してしまうほどくっきりと自身の顔を写っていた。

 水を手で掬ってみれば、驚くほど冷たい。

 

「山の川が綺麗なのはなんとなく知ってたけど、元の世界でもそう見ることは出来ないレベルなんだろうな」

 

 この水で喉を潤せれば、なんて思ったが流石に怖いのでやめておく。里で売っていた竹の水筒から、自分で煮沸消毒したものを喉に流し込む。

 

「人里の人間ほど体が頑丈って保証はないから、用心するにこしたことはない。けど、やっぱちょっと寂しいよなぁ」

 

 河童にあったら、ここの水が飲めるのか聞いてみることを心に近い、川の上流を目指す。そう遠くないところに小さな小屋があると聞いていたが。

 木々の隙間にちょこんと鎮座する我が家より一回り小さな小屋を見つけた。

 

「あれ、だよな」

 

 不安を抱きつつ、辺りを見渡してみるが他にそれらしき建造物はない。我が家もかなり古めかしく不気味だが、これはまた違った不気味さを感じる。

 日が当たる川の近くから、日が当たらない小屋の前へ。近づいて分かったがとんでもなく油臭い。創作物の中に登場するジャンク店がこんな感じなのだろう。

 

 臭いとは裏腹にそこまで汚くない取っ手を握り、ゆっくりと手前に引いた。

 

「おうっ……。これは、なかなかキツイ」

 

 想像以上とまではいかなくとも、概ね想像通りの臭いのキツサに思わず鼻を塞ぐ。なにか実験でもしていたのだろうか、天井付近を赤黒い煙が…………いや、やばくねこの状況? 

 

「ちょちょちょちょちょい!!! え!? これだいじょうぶなやつじゃないよねこれ!?!?」

 

 全速力で扉から離れ、外に流れ出ていく煙を茫然と眺める。気分はさながら、火事を見守る野次馬だろうか? 少し違う気がする。

 煙は天高く登ってゆき、高くなるにつれ薄くなって見えなくなっていく。が、小屋から漏れ出てくる煙が止まる気配はない。見た感じ、火の手は上がってなく火事などではない。

 

 いや、冷静に分析してるように見えるけど実は僕動けないんですよ。はい。精神的にーとか、こしがぬけたーとかって訳じゃなくて物理的にね? 

 いや、だって、目の前に抜き身の剣。なんていうんですかね? 半月刀ってやつですかね? を構えられたら誰も動けんでしょ。

 

「なにをしたのですか。返答次第によっては……分かっていますね?」

 

 剣の持ち主は、犬走椛。千里先を見通す眼をもつ白狼天狗。原作にも出てきたキャラクターの一人。上司であるクソ烏こと射命丸文に振り回されている不遇なキャラだ。二次創作では、あやしゃましゅきしゅきか、死ねクソ上司の二極なイメージがある。

 剣を握る反対の手には、紅葉マークの盾。木製ならとも思ったが、金属盾のようなので、一発逆転を狙うのは厳しそうである。しかも、完全に優位で、相手は非力な人間だというのにしっかり体を隠すように盾も構えている。

 

 念のため、意識は銃のホルスターへと向け、弁明を始める。

 

「おーけー。いったん落ち着いて話し合おう。と、言っても俺から提言出来るのは、あの煙と俺は無関係だって事だけなんだがな」

 

 どうする……? ここで、相手の情報を知っていることを提示して、八雲と博麗の関係者って事も明かした方がいいか? 

 いや、そもそもコイツとは完全な初対面ではないはず。射命丸文との交渉(笑)のときに居たはず。だとすれば、こっちの情報を脅しのように使うのは悪手、か? 

 向こうが覚えていてくれれば楽なんだがはてさて。

 

「……里の外で暮らしている人間?」

 

 ビンゴッ。少なくともこれで下手に手出しは出来ないって認識されるハズ。向こうが、俺の素性を知っていればの話だけど。

 

「お、知ってました? てか、一度お会いしてますよね? 直接顔を向き合わせたわけじゃないけども。クソ烏……んっんっ、射命丸文さんと俺が話しているとき、後ろで見てましたよね?」

「…………ああ、あの時の」

 

 反応的にはこっちに大した興味はない。すこし懸念は残るが、思っていたほど敵対心は持たれてない様子。上の連中がそうとも限らないけど。

 

「わりと、内容的には馬鹿にできない話してたんだけど、あんまり興味なかった感じです?」

「なかったな。あの時も文様に、後ろで殺気立ってるだけでいいからと無理やり連れていかれたに過ぎなかったので。おかげで私の貴重な休日は……思い出しただけで腹が立っていけませんね」

「思い出させたのは素直に謝るから、取り敢えず力むのはやめよう? ちょっとあったってるまじでこわいから」

「おや、これは失敬」

 

 剣の先が胸板に少し刺さった。いたいです。

 ただ、こっちの素性が分かったから剣は降ろしてくれた。あと、多分これ、この犬走椛さんは射命丸のこと嫌いだわ。

 

「いけませんね。いつも理不尽に振り回されているので、感情の制御が。ふぅ。それで、あれは貴方の仕業ではない。そういうことですね?」

「ああ。まったくもって無関係だ」

「分かりました。貴方の言葉を信じましょう」

「やけにすんなり信じるですね」

「まあ、知ってましたから」

 

 うんまあ、だろうね。彼女の能力ならそりゃあ知っているだろうよ。

 

「ただ、一つ手伝ってほしいことが」

「天狗様が人間に手伝ってほしいなんて、一体なにようです?」

「貴方とは同じ臭いを感じます」

「それは俺も感じてた。無理やり連れていかれたって下りで確信した。茉裏だ。よろしく」

「では、マツリ。あれ、どうにかしてください。臭いがきつ過ぎて、私含め他の白狼天狗達もこれ以上近づけません」

 

 あー、なるほど。白狼って言うぐらいだからそりゃあ鼻もいいわな。

 どうりで、他の天狗も来ないわけだ。

 

「クソ烏迷惑仲間の頼みとあらば。正直行きたくないけど、頑張ってくる」

「ぜひ、頑張ってください」

 

 そういって、一目散に飛び出し後ろの川に顔を突っ込む犬走椛。人前でなりふり構わずってことは、相当つらかったんだな。

 骨拾ってくれよと言ってみたら、水に顔を沈めたまま親指を立てられた。こっちにもそのハンドサインあるのね。

 

「行くか。妖怪の山に入る時に感じていた物より怖いけど、行くか」

 

 そして、再び小屋の中へ足を踏み入れるべく俺は進む。背には川に顔を突っ込んでいる天狗。前には未だ赤黒い煙を吐き出し続けている小屋。いま、その煙の核心に迫る!! 

 

 

 

 

 …………俺って何しに来たんだっけ…………

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

椛の臭がり方が過剰過ぎないかって?
世界には、臭すぎて失神したりとかって事例もあるんやで。

あと、この世界の椛は射命丸文ふぁきんなタイプです。

では、また来月お会いしましょう。
じゃあねええ!!

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