糸の先に繋がれた人形のお話   作:ちゃるもん

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最近、ウマ娘のSSが増えてきましたね。良いことだ。
ただ、どうしてしっとり系やシリアス系の作品しかオススメに出てこないんでせうか?


第20話 打って変わった静かな宴

 雲が時折俺たち二人に影を落とす。空はまごうことなき晴れ模様で絶好のピクニック日和と呼べるだろう。時刻も恐らく午後を回っていない、そんな中で、俺は両手で抱えるほどの盃を手に並々に注がれた酒をいったいどうやって処理するかを考えていた。

 

 飲もうと思えば飲める量ではある。ただ、見た限りとんでもなく度数が高い。なんだよ、嗅いだだけで目が染みるっておかしいだろ。

 

 少し口をつけてみたが、思っていたほど辛口というわけでもなく、かと言ってくせが強いとかそういうことでもない。美味しいというほどでもない。

 言うなれば、簡単に酔うためだけに作られた、特に面白味もない酒。目が染みるのさえ我慢すれば、全然飲み干せてしまえる。付け加えれば、この酒自体は伊吹萃香の持つ瓢箪から無限に溢れ出る。そして、彼女は俺と同じ盃を何度も飲み干している。

 

 ……これ、私の酒が飲めなってのかい!? みたいな展開になったら俺って殺されんのかなぁ……。多分、昨日の俺もそれが嫌だから記憶が飛ぶまで飲んだんだろうなぁ。容易に想像できる。

 

 取り敢えず、愛想笑いを絶やすことを忘れずちびちびと酒を口に含む。昨日の今日で記憶をなくしたくはない。どうにかしてこの場を切り抜けねば。

 喉が焼けるような感覚に顔をしかめていると、やけに上機嫌な伊吹萃香の手が俺の背中を二度、勢いよく叩いた。

 

「いやー、にしても昨日も驚いたが、やっぱりアンタいいねぇ!!」

「ゲホッゴホッゴフッ!!」

「おっと、わるいわるい。いかんせん人間相手だと加減が難しくてねぇ」

 

 突然のことに酒が気管に入りむせ返る。伊吹萃香は、それに悪いと感じたのか、俺の背中をさすっていた。まだ微妙に苦しいが、もう大丈夫だとジェスチャーで返し、疑問に思ったことを聞いてみた。

 

「えっと、驚いたって、どういう事ですか? その、申し訳ないんですけど、昨日の記憶があまりなくて、ですね?」

「ああ、通りで微妙に会話が嚙み合わないわけだ。単純な話だよ。鬼と酒を飲みたがる人間なんてそういないって話さ。人間に限った話じゃない。天狗や河童も、ね。遠回しに断るか、いざ相席しても、仕草から滲み出る感情ってのはどうあっても、感じ取れるものでね」

 

 寂し気に語る伊吹萃香の横顔に、一つの思いが浮かんできた。

 

 

 ──―すんません、俺もわぁっりッと嫌です。命の危険を感じるような酒の身なんて割とマジで嫌です。

 

 

「だから、いつもは皆が盛り上がっている所を肴に一人で飲んでいるんだ。それも、割と寂しいものだけどさ」

「ないよりはマシ」

「そういうこと。だけど、今年はそれも少なかった。異変の直後なんだ。仕方ないとは思うようにはしていたんだけどね。そんな時、アンタを見つけた。赤い煙の中から、フラフラになりながら河童を担いで小屋の中から出てくるアンタを。

 河童を助けたってよりは、妖怪の山で訳の分からないことをしている人間に興味がわいた。酒の肴になるかも、てね」

「それで、酒を進めたわけですか」

「そう!! アンタは嫌な顔一つせず私の差し出した盃を受け取って、一気に飲み干したんだよ。今思えば、あの煙のせいでよく分かっていなかったのかもしれないねぇ。今も、少しずつ飲んでいるみたいだが、この酒は私の力で圧縮されてる。私自身が酔うためだけにそうしてるんだが」

「できればそんな状態の輩相手に酒を進めないで頂きたいです」

 

 そういうなって、と豪快に笑い飛ばされながら、盃に視線を落とす。透き通った液体は太陽の光を反射し、空の雲を時折映し出す。角度を変えれば緑の山も、満開の桜だって映し出す。

 だが、結局はただの酒。そう、度数の高いただの酒なのだ。少なくとも、幻想郷の中では酒に弱い部類に入る人間が顔をしかめながら少量ずつであれば飲める程度のもの。いくら、鬼の差し出した酒を飲んだというだけで、彼女が驚く要素は思い当たらない。口ぶりからして、飲み仲間がゼロというわけでもなさそうだし。

 だとすれば、べつの驚く要素があるはず。

 

 たとえば、このお酒には私の妖力が練りこまれてて、普通の人間が一気でもしようものなら死んでしまうとか。

 流石にべた過ぎるか!! 

 

「その酒には、私の力が溶け込んでてね。妖力って言った方が分かりやすいか? 博麗の巫女だとか、人の道を外れた奴とか、神様の加護でも受けてない人間が一気飲みでもしようものなら死んでもおかしくない代物なんだよ」

 

 自分でフラグを立てて、ものの見事に回収するととても悲しい気持ちになるんですね。わぁあい。

 

「すっごい手に持っているものを投げ捨てたい気分なんですけど、どう思います?」

「私の酒が飲めないってのかい?」

「すっげぇ理不尽なんっすけど……」

「あっはっは!! 少なくともその程度の飲み方で死にはしないよ。アンタはね。今日、アンタの寝床に行って確信した。おまえさん、紫の駒だろう?」

 

 あ、わかります? 流石の大妖怪と言うべきか、特に俺の話題を出していないにも関わらず正体がバレてしまった。大げさに隠してるわけでもないけど、バレたらバレたでちょっとドキッとしちゃうね。

 

「紫様とはご友人かなにかで?」

「むかし、コテンパンにやられた事があるだけだよ。今は飲み仲間だ。最近はとんと見てないが、アイツは元気にしてるのかい」

「少なくとも、こんな弱っちい駒を一つ救い上げる程度には元気みたいですよ」

「そいつはよかった」

 

 少しくらいは弱っちいってところを否定してほしかった。いや、この方に比べたらワタクシなんてミジンコ同然なので何も間違っちゃいないのですが。

 てか、この酒案の定劇毒同然の代物だったんですね。飲まなかったら殺されて、飲むんなら死ぬ。それなんて無理ゲー? ま、まあ? 少しずつ飲む分にはゆっかりんの庇護下にあるワタクシめは? 大丈夫らしいので!? 

 ひ、ひひ、震えてやがるぜ……この盃を持つ手がよぉ……!! 

 

 いや、でもまあ、酒を飲むこと自体は体によろしくない事なのでたいして変わんねぇか。うん。そう信じよう。

 

 盃に付けた唇から、口、喉を通り、胃の中へ。熱い刺激と共に、ほんのり気分が高揚する。お酒の力ってスゲー。

 

「もう少ししたら山の連中が集まり始め、ここでどんちゃん騒ぎの宴会。そしたら今度は里の奴らが、騒ぎはじめ、里の明かりはより煌びやかに。獣たちは歌うかのように雄たけびを上げ、虫たちは羽を鳴らす。そして、私たちは、それを肴に酒を飲む。それに、今夜は隣に飲み仲間もいる。さいっこうに楽しみだね!!」

 

 最高に無邪気な顔で、盃を飲み干す伊吹萃香。

 恐らく、彼女はかき集めた宴会の席に座る事はしないのだろう。でなければ、わざわざ飲み仲間なんて言わずに、私も宴会に参加できる。といいきってしまえばいい。それだけの力を彼女は持っているはず。まあ、嫌な顔をされながら一緒の卓を囲むのは誰だって嫌か。

 ふと、盃に写る自分の顔が見えた。露骨とまではいかないまでも、十二分に嫌な顔、しかめっ面をしている。

 

 ……

 …………まあ、たまには、いいか。いいよな? いくぞ? いくぞ!? 

 

「はぁ、博麗の巫女や紫様に怒られても知らないからな」

 

 意を決して、盃の中身を一気に喉へと流し込む。先ほどとは比べ物にならない。アルコールというものが直接喉へとへばりつきむせ返る。幾度かせき込んだのち、盃に視線をやる。中身は半分を切り、空を映し出していた水面には、唾液が入り混じり、絶妙に汚くなっていた。

 

「飲みやすくはあるけど、如何せん味が……。酒初心者にはもうちょっと優しいのを準備してくれよ」

 

 急に砕けた、というか馴れ馴れしくなったのに驚いたのか、はたまた、死ぬと言われた酒を一気飲みをし始めたことに対してなのか。あるいは、その両方か。

 伊吹萃香の目は大きく見開かれ、口は半開きになっていた。取り敢えず、酒が零れている盃を奪い、地面に置く。無限に出せるのかもしれないが、食べ物、飲み物を粗末にするんじゃありません。

 

「いや、だって、おまえさん」

「茉裏。昨日、もしかしたら自己紹介してるのかもしれないが、俺の名前は茉裏だ。アンタの新しい飲み仲間だ」

「…………茉裏、茉裏か。うん、気に入った!! 鬼の私相手でもそのふてぶてしい態度!! それにその飲みっぷり!! 気に入った! 気に入ったよ茉裏!! 

 私は伊吹萃香。鬼の萃香だ!!」

 

 見た目相応のはしゃぎっぷりを発揮する萃香。地を駆け回り、木をなぎ倒し始めた所で、流石にストップを掛けた。地殻変動を起こすな。

 

「さて、鬼の萃香さんや。私はあなたの何時も見ている景色とやらを味わってみたい。飲み仲間。いや、なんか一々飲み仲間っていうのもなんか嫌だな。別にそれが悪いって訳じゃないが。うん、俺は君の友として、君の世界を共有したい」

「ああ!! ドンっとまかせな!! さあ、始めるよ」

 

 胸を勢いよく叩き、何やら集中し始める。多分だが、能力の強制力を高めているのだろう。目に見えた変化こそないものの、近くにいるだけで肌が焼かれるような感覚に陥る。

 

 一秒、二秒、三秒…………心臓が十回ほど跳ねたのと同時に、妖怪の山に陰りが落ちた。まだ日が沈むような時間ではない。かと言って、大きな雲が太陽の光を遮った。そういった話でもない。

 では、影の正体は一体何なのか? それは、翼だ。天を覆いつくす天狗の軍勢。何時ぞや見た大戦争のときを彷彿とさせるそれは、一斉に俺と萃香が呑気に座っている場所目掛け一斉に移動し始めた。

 

「さ、私たちも移動しようか。茉裏となら、あの中に混じってもいいと思えるが、今日は私と二人っきりだ」

「萃香の見ている景色を見る。そういったのは俺だ。後悔もクソもありゃしねぇよ。むしろ大歓迎だぜ?」

「まったく、嬉しいこと言ってくれるじゃないかこの人間は」

 

 萃香の小脇に抱えられ、満開の桜の木、そのてっぺんに二人で腰を下ろす。下を見れば、既に天狗たちが集まっており、なんだなんだとざわめき声が聞こえてきた。

 

 萃香が一口酒を含む。それを霧状に噴き出した。ゆっくりと天狗たち、ひいては人里方面、幻想郷を覆いつくそうとするその霧が地面へと落ちると同時に皆が皆騒ぎ始める。酒だつまみだと各々が一度飛び立ち、すぐさま両手いっぱいに酒や食材を抱え戻ってきた。

 

 やいのやいの、酒は持ったかつまみは足りるか無礼講だ飲めや歌えやどんちゃん騒ぎ。

 

「確かに、これはなかなか見ていて飽きない」

「だろ? さ、私たちも」

 

 盃を掲げ、互いにぶつけあう。下の宴会とは打って変わった静かな宴。

 桜に、夕日に、月に、喧騒。どれ一つとっても物足りなさは感じない。たった一人、隣で飲みあえる友が居れば、それ以上の肴は必要ない。

 それはそれとして、いつの間にやらかっぱらってきたきゅうりの漬物を口に運ぶ。

 

「うん。うまい」

 

 

 

 

 

 え? その後はどうしたのかだって? 

 宴会は夜まで続いて、流石に怪しんだ紅白コンビに二人して説教されましたが? 

 え? そもそもなんで急に態度が変わったのかだって? 

 酔っ払い相手にマトモに対応する方が馬鹿らしいっしょ? 

 

 ま、そんなゆるい日があってもいいんじゃないかってね。

 そんなもんなんだよ。そんなもん。

 




お読みいただきありがとうございます。

萃夢想むずかしいんじゃぁあああああ!!!
いやだって、そもそもとして、異変の内容よく分からないし。場所どこだよ調べても出てこねぇえよふざけんな。

ま、次のウサギさんたちが頑張ってくれることでしょう。

ほいならね~
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