覚醒、激痛、即座に危険信号がはなたれ、視界が赤く、やがて意識朦朧としぷつんと途切れる。
例えようにも例えられないその経験。それを幾十も繰り返せば、断片的なものだとしても、自身がどういった状況に置かれているかも分かってくるもの。
覚醒から激痛を脳が理解する一瞬。その一瞬にある違和感。背中の空白。体に所狭しと繋がれた管。暴れられないようにか拘束された四肢。
激痛の最中、思い出される記憶には、空白を理解する為の光の軌跡。
それ等を全部思い出し、理解できるまで、幾百と生と死を実感し続けた。
時間にしておよそ120時間程。日数にすれば五日。俺はこの地獄を彷徨っていた。らしい。らしいというのは、寝ていた、意識がなかった時間の方が長かったため。その時の状況自体は他人から聞いた話だから。
聞いた相手は八意永琳。初めて会った時とは別人かと思うほど大人しい人だった。少なくとも、出会っていきなり弓矢をぶっ放す人には見えなかった。
猫かぶりがよっぽど上手いのか、なんて事も思ったがどうやら違ったみたいで。鈴仙優曇華院因幡の能力のせいだという事が判明。
鈴仙優曇華院因幡こと、ウドンゲ。月から来た兎さん。役職は軍人。その辺りは上手いことぼかされて確証はないが、多分そっち関係の役職。それも、前線を張るタイプ。
ウドンゲは、死ぬことが怖くて地上まで逃げてきた。
それを、同じく月から逃走中の八意永琳らが保護。一時は難を逃れたが、今回の異変でウドンゲとは違う別の月兎が地上に来た。来てしまった。
ウドンゲは捕まえに来たのだと、殺しに来たのだと錯乱し始めた。
その月兎自身にウドンゲをどうこうするつもりはなくても、直接会ってもいないし、会話できるような状況でもなかった。
ただ、空から兎が来たという事実だけを知り、呑み込み、捻じ曲げた。
その際、能力が暴走。ウドンゲの狂気を操る力が永遠亭全体に広がり、抵抗する暇もなく吞み込まれた。
結果、あの異変が起きた。
偽物の月、竹林に張られていた人避けの結界。地上に降りてきた玉兎にこの場所がバレないように。月の住人たちが、罪人である我らを見つけられないように。
その後、ウドンゲをひっつかまえて正気に戻した博麗の巫女さんと、その他複数人の証言、狂気の波動が途切れたことによる混乱も相まって異変は収束を迎える。
俺はこの時、背骨が見える程度に肉が蒸発していたらしいがなんやかんやで生き残っている。
と、時系列も登場キャラもなんだかちぐはぐな気がするが、それはここがゲームの世界ではないという事の証明だろう。
時系列ははっきりと何月何日の何時何時なんてご丁寧な部分まで覚えていないが、少なくともこんな短いスパンではなかったはず。
異変解決の為に動いていたのは、博麗霊夢、霧雨魔理沙、アリス・マーガトロイド、レミリア・スカーレット、そして、八雲紫。の、計五人。
そして、解決ではないにしろ異変の行く末を見守るために行動していたのが、八雲茉裏こと俺と、伊吹萃香の二人。
本来であれば、上記五名に含め、十六夜咲夜と、冥界の主である西行寺幽々子とその護衛の魂魄妖夢の全八名が参加している。
まあ、だからなんだという話なのだが。
ちなみに、俺が背中をアビャーッされているときに俺を支えてくれていたのがレミリアだったらしい。
レミリア自身は、今回の異変に首を突っ込む予定はなかったらしいのだが……。あの時の光の矢、その直線上にあったのが紅魔館だったとのこと。
矢は紅魔館を守る結界をぶち破りそのまま突き進もうとしたのを、レミリアが相殺。優雅なティータイムを邪魔しやがって。と、プッツンした結果そのまま全速力で永遠亭に突撃し死に掛けの俺を受け止めたのだとか。
もっと言えば、あの光の矢、質量とか貫通力とか、威力部分だけで言えばレミリアの一撃を優にこえるとかなんとか……。距離と結界があったが故に相殺できたとかなんとか……。
文字通りの人外魔境幻想郷である。
そして、俺が持っている記憶とは似ている点も多いが、違うところも間違いなく存在する幻想郷。不安要素が一切ないわけではない。こうして、ベットの上でグータラ過ごしてますけども。
まず、明らかな歴史の変化。というよりは、記憶にある歴史と、今いる異世界の歴史との齟齬。これが明らかに大きくなっている。俺の記憶が何時まで通用するのか……。
今までが、全て記憶通りの異変だったかと問われれば間違いなく否だが、まったく通じなかったわけではなかった。だが、今後は、全く記憶にない異変の発生、発生場所が同じだけの全くの別ものの異変が起こる可能性もある。むしろ高いと言っていいのかもしれない。
まあ、これは妖怪大戦争というまったく知らない異変の経験もあるので今更だろう。
問題は、俺の心の問題。覚悟の問題。
今回の異変に首を突っ込むにあたって、あまりにも考えが甘すぎた。心のどこかで話し合いができるだとか、自分に対しての実害はほとんどないだろうという考えが確かにあった。
だって、そうだろう?
大戦争の時も、紅魔異変の時も、妖怪の山に入った時も、伊吹萃香と対峙していた時も、言葉が通じていたのだから。
命の危険が訪れる前に、一度クッションを挟んで回避できる可能性があったのだから。
今回だって、会話をして傍観に回れると思っていた。奇襲で伊吹萃香が倒れるなんて想像すらしていなかった。
不安要素なんて言葉で、まるで自分自身には一切の非がないように取り繕う。ベットの上で何もしないで過ごしているのは、ただ、怖いから。
もし、なにかの拍子に八雲の気に障ったら。
初めて向けられた、真正面からの明確な殺意。
今までだって、さっきの一つや二つは向けられてきた。実際殺されかけもした。藍様なんか四六時中だ。だが、アレとコレは本質的に違うモノだと理解した。
藍様のは、所詮ごっこ遊びだと。子供が特に何も考えず、蟻やバッタを殺しちゃってもいいやぐらいの軽いもの。
所詮、俺という個人はその程度の存在に過ぎない。
八意永琳の殺意を突き付けられ、漸く、ようやく自覚した、させられた、目を背けていただけなのかもしれない事実に心臓が締め上げられる。
「大丈夫、大丈夫……いままでだって、なんとかなってきたんだ。今回はちょっと危なかったけど、考えを改めるいい機会だと思えば……」
誰もいない病室で、自分を慰める。大丈夫、大丈夫だからと。言葉をつぶやくたび、心臓の鼓動が大きくなっていった。
迷いの竹林は常に暗い。
あの後、気が付けば寝付いていた。目が覚めたら体の向きを変えられ包帯を変えられていた。まだ、完全に完治していないのだろう。触られている背中に違和感を覚える。あとめっちゃ痛い。
永遠亭の誰かと会話するのは嫌なので寝たふりを決め込む。いや、だってそうでしょうよ。相手が永遠亭の誰であれ、一度は敵対しちゃってるし、八意永琳以外ならともかく、八意永琳その人だったら気まずい雰囲気なんてレベルのものじゃなくなりますよええ。
包帯の上を触られるたび、声が出そうになるのを我慢する。しばらくして、取り換えが終わったのだろう。体の向きを戻された。
ガチャガチャと道具を片付ける音が聞こえる。
やがて、その音も聞こえなくなると、台車を押す音と足音が遠ざかっていくのが聞こえた。そして、襖を開いて、閉じる音が耳に届く。
耳に意識を集中させ、部屋の様子を探る。
…………よしっ。
部屋の出入り口付近で腕を組み、こちらを見つめる八意永琳と目が合った。
え、なんでいんの? マジでなんでいんの?
異変の概要とかその他もろもろはこの間話したじゃん? もう話すことないじゃん? 気まずいだけじゃん?
こっちの心境なんて察してもらえるわけもなく、八意永琳は口を開いた。
「おはよう。やっぱり寝たふりだったのね」
「あ、あはは……。ばれてーら」
「そりゃあ、何時もなら喘いでいるのに今日はだんまりなんですもの。不審に思うのも当然でしょう?」
「間違ってはないけど、声を漏らすとかさ、もうちょい表現のしかたをだね」
「間違っていなければいいじゃない。それで? 我慢していた理由は?」
「いや、曲がりなりにも殺されかけた相手に笑顔で挨拶なんて出来ないんで。それが理由っすかね」
「そ、問題が無いようならそれでいいわ。私たちには、そんなこと、もう理解できないことだしね。もし、傷口が開くような事があれば直ぐに報告しなさい。そもそも、傷口が開くような行動をしないように」
もう少ししたらリハビリに移るからそのつもりで。そう、言い残し部屋を出ていく八意永琳。思っていたよりもフランクというか、接しやすい方みたいで胸をなでおろす。
異変の概要を聞かされた時は、報告書を淡々と読み上げる機械みたいだったから驚きが強い。
「こういうのが甘いって事なのかもしれないが、あんなに悲痛に笑われると罪悪感が勝っちまうなぁ」
もう理解できないことだしね。
さっき、八意永琳が口にした言葉。俺の殺されかけたってところに反応したんだろうが……。
「どーにもこーにも、胸のつっかかりがとれそうにねぇなぁ」
その顔に惹かれただとか、そーいった話ではないのだけれど。
何時かの拾い物のように、ただの気まぐれ。
元々、不法侵入まがいのことをしたのはこっちで、その罪滅ぼし。
主要キャラとの繋がりを作る。
なんてなんて、頭の中でいろんな理由を作っていって、吐いた言葉が。
「やってみる価値はあるのかもしれないのかなぁ」
なーんて、すこしぐらい主人公というものを目指してみたい男心だったり。
お読みいただきありがとうございます。
私は何を書きたかったんだ( ;∀;)
こういうときって全く関係のない話をかきたくなるんですよね。
アグネスタキオンとウェーイwwwwwする話とか書きたい。
不定期で書こうかな…………