糸の先に繋がれた人形のお話   作:ちゃるもん

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コロナやばば
二年も東方祭行けてなくてツラタン。


第28話 さあ、覚悟はできた

 夜が訪れた。異変は解決に向かっているのかは分からない。少なくとも、慧音先生が寺子屋に戻ってくることはなかった。

 目が覚めたチルノに大きめの氷を作ってもらい、それを砕きながら看病に当たってはいる。が、光の三妖精と、春告げ妖精は未だ布団の中で苦しそうに息を荒げていた。

 

「根本的になにか勘違いをしている気がする」

「マツリ? 勘違いって?」

 

 蹴とばされた寝具たちを拾い集めていた紫苑が聞き返してきた。

 俺は氷を砕きながら返答する。

 

「いや、なんでこの四人だけが異変の影響を別の形で受けているんだろうって思ってな。名無しの低級妖精は暴れまわって、チルノは元気ハツラツから一時的な休眠。もし、この四人が前者に属するなら暴れまわっていないと可笑しいし、後者ならチルノのようにただ寝ているだけって状態が普通」

「それぞれで影響が違うだけじゃないの?」

「そうだとして、このまま大人しく良くなっていくと思うか?」

 

 三妖精のうち一人、サニーミルクがのたうち暴れ始めた。布団類は非力な妖精とは思えない勢いで吹き飛び、地面を転げまわる。

 タイミングを読み、その小さな体に覆いかぶさる。まだなんとか抑え込めることができた。目は据わり、じっと一点を見続けていた。

 大人一人が全力で抑え込めなければ大人しくできない。油断のできない時間が一分ほどしてサニーミルクはまた落ち着きを取り戻した。

 

 このやりとりをもう何度やってきたか。

 暴れるのはなにもサニーミルクだけではない。ルナチャイルド、スターサファイア、リリーホワイト。全員が、突如として暴れ始める。

 

「同時に暴れ始められたらどうしようもない。それに、異変解決まで全員が生きていられる保証もない」

「生きてるって……でも、妖精は死んでも生きかえる」

「あんまりこの話を掘り返したくはないんだが、紫苑は自分が何度も死んで生き返ってるって何となく理解してたんだよな? けど、記憶は持ち合わせていない。あったのは自分自身に関する、貧乏神としての知識だけ」

「……この子達も、そう、なの?」

「貧乏神みたいな神様のソレとは勝手が違うがな。一つ確かなのは、妖精が死んだあと同じ名前を持って生まれてくるとは限らない。ってことだ。リリーホワイトぐらいだろうな、自分自身がリリーホワイトだって言えるのは」

 

 紫苑に妖精の生体について軽く説明する。

 妖精とは自然の権化。例えどの様な手段を取ったとしても完全に消し去ることはほぼ不可能。個々の能力は大きくはないが、自身にまつわる自然等を操る力を持つ。

 特に、チルノやサニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア、リリーホワイトといった固有名詞を持って生まれた存在は身近にある自然ではなく、自分自身でその操作する物質を生成することができる。名前を持たない妖精も出来なくはないが、名前を持つ妖精と比べるとその能力差は天と地の程の差がある。

 そして、妖精の消滅、つまりは死。人間や動物等と同じように致命傷を負えば死ぬ。肉体は損傷に応じての時間経過で塵と化し、消滅。そして、次の日の朝には同じ、あるいは似た容姿の妖精が生まれる。発生すると言った方が正しい。その段階で名無しかどうかが決まっている。

 

「言ってしまえば、似た容姿で何度でもその場に発生するだけの赤の他人なんだ。自分の名前が言えないわけじゃない。そんなものないんだから、言えなくて当然。

 名前もなく、容姿も違う。けれど、同じ光の、氷の、春を告げる妖精。ただそれだけで、それだけのことで同じ存在として、チルノとして、サニーミルクとして、スターサファイアとして、リリーホワイトとして、名前を呼ぶなんて事、俺にはできない」

 

 それが、たとえ紫苑。お前だったしても。

 

 もし、紫苑が死んで生まれ変わって、記憶が無くて、俺と紫苑が出会っても、俺は紫苑を紫苑として見ることができない。

 今までと近い接し方は出来るだろう、これまで通りに近い形で話しかけ、微笑み、飯を食らって眠る。

 ただ、それだけを続けるだけるだけならいくらだってしてやれる。

 

 けれど、いま俺が紫苑という存在に対して抱いている愛情は一切注がれないだけ。ただ、それだけの話。

 

「それだけ……って」

「それだけなんだよ。どうあがいても。周りの奴らは関係ないし、きっとまわりは愛してやれだの、分からないでもないだの、無責任だの好き勝手に言って、俺は新しく発生したお前を別の愛情をもって接するだけ。俺はいっっッさい困らない。

 …………で、済ませられたら良かったんだがなぁ。

 こいつらと俺の接点は少ないから、このまま祈って朝を迎えてもいいんだが。ここにいる三人は俺の最愛の人、神様? の教え子で、そしてもう一人はその友人ときたもんだ。なら、必死こいて解決策を探すしかない。紫苑の悲しむ顔なんて見たくないからな」

 

 だから、安心しろ。必ず助ける。

 

 紫苑の頭を軽く撫で、少し頭を冷やしてくる。それまで頼んだとその場から逃げ去った。

 こんな時に不謹慎だと理解はしているモノの、少し照れくさい。いや、ごめんウソ。むっちゃ恥ずかしい。今まではノリっぽい感じでしか言ってなかったぶん半端なくはずい!! 

 

 だが、おかげでやる気は十二分。頭を井戸から汲み上げた水で軽く濡らし物理的に頭を冷やす。

 さあ、考えろ。こっからが正念場だぞオレ。

 

 花映塚。春夏秋冬、季節を問わず全ての植物が活性化する。それに応じて自然の権化である妖精たちが活性化。暴走。辛うじてなのか、人間を殺す、同族を殺すといった事にまでは至っていない。

 そんな中、妖精の中ではひときわ強力な個体、チルノは間違いなく異端な存在だろう。能力の制御が上手くいっていないのか一撃撃った瞬間に眠ってしまった。その前にも能力の使用があったのかは不明だが、そうだとしても発動直後に眠くなっているというのは可笑しいとしか言いようがない。

 

 ここまで見れば、チルノだけ違う形で異変の影響を受けているように見える。

 

 そして、光の三妖精のサニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア。

 春告げ妖精のリリーホワイト。

 

 この四人もチルノと同じく妖精の中では強力な存在としてカウントされる。チルノほど殺傷能力が高いわけではないが、光の三妖精は簡単に人間を殺せるだけの力を持っている。彼女たちにその気と知識がないだけで。

 サニーミルクは光の屈折、

 ルナチャイルドは音を消す、

 スターサファイアは気配を消す、

 リリーホワイトは能力といっていいのか疑問が残るが、春が来たことを伝える力を持つ。

 紫苑に説明した通り、この四人は名前持ち。強力な妖精。つまり、条件としてはチルノと同じはず。

 しかし、チルノがただ眠っていたのに対してこの四人はもがき苦しみ、今も布団を荒らしているのだろう。

 

 低級妖精とも、チルノとも違う。どこかに条件がある……って訳でもない。

 結局は理性があるかどうかの違いにすぎない。理性が強いとでも言えばいいのか、やってはいけないラインというのを超えようとしない理性。

 低級妖精は人間一人を殺そうと思えば数で押すしかなくなる。そこまでして人間を殺すメリットはないし、する道理もない。

 それに対し、名前持ちである妖精たちはやろうと思えば簡単に人間を殺すことができる。それを意識して、あるいは無意識に一線を越えないよう制御ができる。

 

 そして、今回の異変こと花映塚は自然の活性化、暴走。蛇口から50の水しか出していないのに、常に100の水を出すように供給され続けているような状態。一言で言えば栄養過多とかそんな感じ。

 そして、その供給された水が溜まり続けるのは自身の肉体。低級妖精が本能のままに暴れまわるのは限界を超えてしまわないようにいつも以上にエネルギーを使う事でガス抜きをしていたわけだ。人間からしたらはた迷惑この上ないがその内容も俺が追われていた通り遊びの域を出ていない。そして現に犠牲者は出ていない。上手くガス抜きできているわけだ。

 じゃあ、チルノはどうだったか。彼女は名前もちで無意識的に一線を越えようとはしなかったタイプだ。能力、ガス抜きは俺を助けた通り人間では手に余る数の妖精等の迎撃で上手いことガス抜きが出来ていたのだろう。門番の人たちもチルノにかなり頼っている節があったのでwinwinの関係というやつだ。

 

 では、肝心の室内四人。異変発生後、肉体の活性化を不調として認識。助けを求めるべく寺子屋を訪れた。しかし、肝心の上白沢慧音は居らず留守を任された紫苑がいた。紫苑は先に来た光の三妖精を保護。この段階では多少苦しそうにはしていたものの、まだ元気に話をしていたそうだ。後に軒先に落下してきたリリーホワイトを保護。この辺りから光の三妖精たちの容態も悪化。熱にうなされるように苦しみ始めた。

 それからしばらくして俺とチルノが寺子屋を訪れる。

 

 まあ、これだけ色々言っておきながら確たる証拠は何処にもない。もしかしたら、何事もなく明日の朝には四人とも元気に飛び跳ねているかもしれないし、異変も丸ッと解決されているかもしれない。

 だが、それは逆に言えば明日の朝には四人の姿はなく異変は依然と続いたまま。なんてこともあり得るという事になる。

 

 無い頭で必死に考えた何一つ証拠の無いそれを突き付けてどうにかしようなんて烏滸がましいにも程がある。しかも出した答えがガス抜き戦法ときたもんだ。

 しかし、やらぬ後悔よりやる後悔。動かなければ自体は進まない。主人公がいる世界だからとはいえ、ここは俺の知る世界じゃない。原作キャラと呼ばれる存在が死んだとしても不思議ではない。

 

 

 そして、惚れた女の手前、おめおめと事が潜むのを待っているなんてカッコ悪いだろ? 

 

 

 いざとなれば紫苑が止めに入ってきてくれるだろう。

 俺の為に悲しんでくれるのであれば、それはそれで悪くないのかもしれない。

 こちとら、死に物狂いでやりなれてるんだ、いくらだってしてやるさ。

 

 さあ、覚悟はできた。

 

「命がけの鬼ごっこと行こうじゃないか……ッ!!」

 




お読みいただきありがとうございます。

まあ、なにかとイチャコラしておりましたが面と向かってかつ真面目に言うのは初めてと言事で、初心なんですねぇ。
次回で花映塚も終わるかな。今年中には完成させたいところ。

では、また来月ねー
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