糸の先に繋がれた人形のお話   作:ちゃるもん

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えるでんりんぐしたい


第29話 ふらふらと歩いているだけ

 考えを何とかまとめ、教室へと戻る。流石に寝込んでいる四人のそばで話すのもアレだったので廊下へと場所を移した。

 言い淀む時間も惜しいので率直に、馬鹿正直に、寝込んでいる妖精たちの対応について話してみた。

 

「──ってな感じに思うんだけどさ、どうよ?」

「どうよ? って言われても、気が狂ったとしか思えないけど」

 

 とんでもないことを言い始めたぞこの馬鹿は。とでも言いたげなジト目が俺を射抜いた。

 

「まあ、理屈は分からないでもよ? 他の子達と状況が違うのは私も理解してる。どうにか手を打たないといけないって事も。

 だけど、マツリが命を張る必要まではない。私にとってあそこにある四つの命より、マツリが大事。

 一人で離れた時点でなんとなく察しは付いていた。ああ、この人はまた自分の命を軽く見ているんだって」

「軽く見てるわけ」

「あるよね? ないんだったら、私をもっと頼ってもいいんじゃないかな。いい? マツリ。しっかりと私の今から言う言葉を聞いてね」

 

 私は今とても怒っています。

 

 まるで聖母のように子供に向けるかのような笑顔で、体からは隠しきれない怒気を放ちながら、ハッキリとそう口にした。

 控えめに言ってクッソ怖いです。へ、へへ、足が震えてやがるぜ……

 

「あそこの四人よりマツリが大事。寺子屋や人里よりもマツリが大事。私自身よりもマツリが大事。この世界からマツリがいなくなった時が、私が死ぬとき。もし、マツリが誰かに殺されたならその一族全員を死ぬよりも不幸にして絶望の淵にまで叩き落して殺した後に私もマツリの後を追う。マツリが今ここで死ねって言うなら私は何の憂いもなく死ねる。それが貴方に殺されるのであれば、それ以上の幸福はない」

 

 紫苑は笑顔を浮かべたまま、現実を突き付けるかのように言葉を紡ぐ。

 教室の中。擦りガラスを挟んで妖精たちがもぞもぞと動き出しているのが見えた。

 

「マツリが私のためを思って、進んで危険へと足を踏み入れようとしているのは分かってる。分かってるけど。あんな事があった直後に行かせられると思う? ねえ?」

 

 笑顔、笑顔、笑顔……しかし、そこに含まれるのは紛れもない怒気。

 何かしらの理由をつけて話をそらしたい気持ちも大いにあるが、横目で見える動き始めた妖精たちは理由になりえない。たったいま否定されてしまったから。

 大丈夫だと信用させたいがこっちは前科持ちの一度死んでいるような半端者。

 どれだけ弁明しようと俺の声が届くことはないだろう。

 やっとの思いで声に出せたのはたったの一言だった。

 

「……おもい、ま、せん」

「結局この人はいくんだろうなぁとか……。覚悟はしていたつもりでも、目の前で自信満々に言われたらさすがの私も怒るよ? 怒ってるんだよ? 分かる?」

「……はい」

「……本当に分かってるのか怪しいけど、まあいいや。そういう人だってのは知ってるわけだし。私も、別にそういうところが嫌いって訳でもないから。ただ、目の前に頼れる存在がいるならちゃんと頼って。そして、もし、私が頼りないって思うんだったら、今日、いまからその認識を塗り替えてあげる。だから、今回は私に任せて」

 

 そう言って、視線を教室へと移す紫苑。教室の中から、立ち上がりジッとこちらを覗いている眼が八。生気も狂気もない目が、すりガラス越しにありありと見て取れた。

 

「これ、預かってて」

「え、あ、ああ。って、おいこれ!!」

「それじゃあ、行ってくるね」

 

 そう言って手渡されたのは、紫苑の不幸を抑えるためのお守り。

 制止する暇もなく教室へと続く扉を開き、中にいる妖精たちと対峙した。

 

 

 そこからは、もうすごいとしか言いようがなかった。

 

 紫苑は襲い掛かってきた妖精たちを腕力なのか、他の力なのか分からないが外へと片手で放り投げ自身も外へと出て行った。

 慌てて追いかけると既に戦闘が始まっていた。いや、あえて鬼ごっこと言う表現のままで進めていこう。

 

 今の妖精たちは大の大人、それも男性一人と腕力で互角に張り合える。恐らくは火事場の馬鹿力。窮地に立たされている事から生じたリミッター解除なのだろう。

 そして、それはなにも腕力だけに限った話ではなかった。チルノがそうであったように彼女たちもまた自身の出力を制御できていない。人一人は余裕で飲み込むほど大きな弾幕が紫苑を襲っていた。

 幸いなのは一人一人が連携を取り合おうとはしていなかったことぐらいか。

 

 一人は姿が見えず、

 一人は気配が追えず、

 一人は音もなく近寄り、

 一人は上空から永遠と鬱憤を晴らすように白色の弾幕を飛ばし続ける。

 

 控えめに言って何が起こっているのかさっぱりだった。

 姿の見えない暴力が、気が付けば目の前に迫っている暴力が、音もなく忍び寄る暴力が、全面を焼き尽くす暴力が、

 

 ただ、何もせずにふらふらと歩いているだけの紫苑に当たらないのだから。

 

 

 

 マツリが入院している間、考えていたことがある。

 私の力、自他共に問わずただ不幸にするこの力について。

 私は貧乏神だ。

 どんなに足掻いても不幸のどん底から這い上がることができない。けれど、他者を底へと引きずり込むことができる。

 質の悪い神様。

 

 そう、思い込んでいた。

 

 貧乏神とは、不幸をまき散らすだけの神様じゃない。幸運を招き寄せる神様でもあるんだ。

 でなきゃ、私がマツリに出会えるはずがないんだから。

 

 だから、練習した。不幸を、幸運を、私の力をキチンと制御出来るように。

 もちろん簡単なことじゃない。

 貧乏神が幸運を招き寄せるのはあくまで結果論。手を取って尽くしてくれた相手に最終敵に幸運を運ぶだけ。その間は不幸が降り注ぎ続ける。

 だから、本質的に一方的な幸運を授けることは出来ない。と、思う。

 でも、不幸の度合いをある程度操作できるようにはなった。

 いましているのはそれ。

 私自身が持つ不幸をサニーミルク、スターサファイア、ルナチャイルド、リリーホワイトの四人へと強制的に割り振っている。

 対比で言うと二対八ぐらい。対象が多いからね。一人相手ならまだ五分五分くらいだとおもう。

 それでも、一方的にやられるなんてことはなくなる。

 

 どうかな……。私なりに頑張ってたんだけど、少しは頼りになれそうかな? 

 

 

 正面からサニーミルクの見えないタックル。

 気配を隠し足を引っかけてくるスターサファイア。

 音もなく背後を取り強打してくるルナチャイルド。

 上空で鬱憤を晴らすリリーホワイト。

 

 脚を掛けられ前のめりにおっとっと。こけないように態勢を立て直そうとふらふらとしていたら狙いを外したサニーミルクがスターサファイアとごっつんこ。後ろから殴りかかってきていたルナチャイルドを巻き込みごちゃごちゃに。身動きが取れないところへリリーホワイトの鬱憤弾幕がドーン。

 

 ただ歩いていただけなのに、目の前には一方的と言わざるをえない結果だけが残っていた。

 さっきのような事が一度だけならまだ理解は出来なくとも納得は出来よう。

 しかし、一度だけでなく鬼ごっこが始まってからただの一度もそれ以外の事が起きていないとなれば、理解は出来ても納得は出来なくなっていた。

 

 いやそらそうでしょ。

 こっちとしては、大丈夫かしらうちの子とっても心配だわぁあぁあ駄目よ脚を引っかけられて見てらんないっ!! 

 から、………………いったい何を見せられているのだろうか。

 になってるんだから。

 天と地、雲と泥、兎と亀。もう、ぽけーッとしながらその様子を口が開いたまま見てただけだったわ。

 なにあのこつんよい。りふじんだわりふじんよ。

 

 まあ、そんなよく分からない現象を見せられてものの数分で制圧完了。リリーホワイトは鬱憤を発散しきったのかツヤツヤとした肌になってるし、三妖精共は散々鬱憤に巻き込まれて頭アフロになってるし。ここはギャグ漫画の世界じゃないんだが? 

 

 もう、わけがわからないよ。

 

 その後、戻ってきた紫苑にお守りを返し軽く説明を受けた。俺の周りにまた一人チートキャラが増えた。そして寝た。

 そして、先ほどまでの暴れっぷりは何処え消えたのか。三妖精は寝込むわけでもなく子供らしく外を遊びまわっている。

 リリーホワイトは上空をふよふよと漂い時々馬鹿でかい声で春ですよー!!!!! 控えめに言ってうるさい。

 

 まあ、何はともあれ無事こっちの問題は解決できたわけだ。

 人だろうと妖精だろうとそれ以外だろうと、溜め込み過ぎはよくないってことだな。

 

 紫苑の能力については頭がポンコツになってる今だと全然理解できていないので、後日改めて聞けばいいだろう。そもそも疲れたのか速攻で寝たから聞くに聞けない。

 

 ……時刻はいまどの程度だろうか? 

 少なくともまだ日が昇ってくる気配はなく、お月様もハッキリと見えている。

 そして、目の前を色とりどりの花びらたちが横切っていく。異変が解決したのだろう。季節を問わず咲き誇っていた植物が急速にその命を終わりへと進めていった。

 

 異変が終わる。紫苑は教室の隅で規則正しい寝息を立てている。

 リリーホワイトは異変が終わったことを悟ったのかふわふわとどこかへ飛んで行ってしまった。

 三妖精は夜、恐らくは深夜を過ぎているこの状況でもはしゃぎにはしゃいでいまなお追いかけっこ。アフロは治っていた。

 

 そして俺。

 今回の異変で大した活躍も出来ずただ見ているだけ。

 いままで無理に首を突っ込んで来ただけに少し新鮮。

 三妖精も春告げ妖精もみんな無事で、紫苑の成長を目の当たりにした。外にはその証拠が月明りに照らされている。涙が流れた。

 

 寺子屋の正面は春告げ妖精の弾幕により地形が荒れに荒れ地殻変動でも起きたのではないのかと錯覚してしまうほどに変貌していたのだから。

 

 そんなこと我関せずと言いたげに聞こえる寝息に、三つの笑い声。

 

「…………これ、慧音先生にどう説明、しよっか、な…………は、はは、あははは」

 

 そして、乾いた俺の笑い声が誰にも届くことはなく満点の星空に飲まれていった…………。

 




お読みいただきありがとうございます。

紫苑ちゃんもチートキャラの一人になりましたやったね!!
ちなみに紫苑ちゃんの能力を私はよく理解していません。
貧乏神について調べてこんな感じかな―ぐらいの軽い気持ちで書いてるのであしからず。

では、また来月にて。
ばいちゃー
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