ぼくですか?
吐く相手なんていませんが?
おおよそ一年。騒がしい異変の連続を乗り越え、幻想郷は落ち着きを取り戻していた。
一年前の異変は花映塚と記録され、人々の間では妖精乱舞とか百花繚乱とか妖精大運動会とかいろんな呼び方で定着している。
もっとも、その話題を上げる者も一年と長い時間が経った今ではほとんどいないのだが。
さて、この一年。正直言って語ることが殆どない。
上げるとするなら……そうだな、白狼天狗達、河童達と仲良くなった。将棋で一度も勝てたことがない。
パチュリー・ノーレッジに魔法について教えて貰うようになった。使える使えないは置いておいて、知っておいて損はないから。紅魔勢相手にチェスで勝てたためしがない。
半年近くかけて寺子屋の修繕を終わらせた。一人で。慧音先生は異変の最中に起きたことだから大丈夫だと言ってくれたけど、流石に隕石落下事故でもあったんですかみたいな状況は見逃せなかった。だから取り敢えず砂場にしてみた。一人で。えらくない!? 先生相手に囲碁で勝てるビジョンが見えない。
霧雨魔理沙ともう少し仲良くなった。パチュリーに魔法を教えて貰う過程で仲良くなり、彼女の作った試作品を使わせてもらっている。だいたいばくはつする。俺はこの子相手にトランプで勝てる日が来るのだろうか。
あと、新しい友人としてアリス・マーガトロイド。パチュリーと魔理沙つながりで出来た魔法仲間だ。魔力の糸を使えるようになれば色々と応用が利くという事で、ご教授してもらっている。霊力でやっている分、なにかと勉強になるそうだ。この三人とボードゲームなりをするとなぜか俺だけ一文無しになる。
なんか負けてばっかな気もするけどそれはあくまでゲームの話。
武術関係は美鈴さんにまだ教えて貰って、手加減されてる一撃ぐらいなら合わせられるようになった。まあ、威力を相殺できているわけでも、受け流せているわけでもないので吹っ飛ぶんですが。手加減とはウゴゴ……。
んで、魔法関係の魔女三人衆。魔法自体は使えないけど仕組みさえ知ってれば似たようなことができるよ。ってことで色々勉強中。
で、出来そうだったのが汎用性の高い魔力糸、を霊力で再現すること。今は一本を大体二メートル程度で出せる。強度は人間程度なら持ち上げられるし、やろうと思えば切断できる。扱いはかなり難しいけど。
その糸を複数の人形に付けて操ったりとかはできない。先端に重しとか付いてないから鞭みたいな扱い方になるけど……、まあ、当たらないよねーってっ感じ。
なので、切れ味をもうちょっとどうにかしたいねって話し合ってる。
魔理ちゃんからは魔法の道具を譲ってもらってるから、攻撃手段だったりはかなり幅広くなった。
そして、紫苑。あっちはあっちでヤバいことになってる。
紫苑も自身の力を制御できるようになった。その不幸を他人に向けてか、自身に向けてかを操れるようになった。
控えめに言って訳が分からない。レミリアが苦戦する、美鈴さんが迂闊に近寄ることができない、萃香が能力に頼る、そういったレベルに位置している。
勝つこと自体は出来ないにしろ、幻想郷の最強格たちがこぞって苦戦するという事は、紫苑もまた幻想郷最強格の一人に数えられるのだろう。
スーパー紫苑ちゃん爆誕である。
本人としては、戦闘能力が欲しいわけではない。というのが玉に瑕だが。
さて、語られない、語る必要のない昔話はここらで切り上げるとしよう。
俺は今とある用事で博麗神社へと訪れている。その用事とは先ほど挙げたスーパー紫苑ちゃんのお守りの厄払いだ。
方向性を操ることができるようになったとはいえ、その影響力を消失させることができる訳じゃない。
つまり、溜まるものは溜まっていくのだ。
だから、定期的にお守りを俺が預かって博麗神社に持っていき妖怪の山でお祓いをしてもらっている。博麗神社で行わないのは妖怪の山にその手の専門家がいるから。鍵山雛。疫病神だ。彼女に厄を乗せ、川に流し厄を払う。
ただ、本来行っている厄払いの儀式と日時がズレている為、博麗霊夢に手伝ってもらって上手いこと調整しているらしい。
さあ、ながいながい階段を登り切り、赤い鳥居をくぐる。額にはうっすらと汗が滲んだ。秋風が紅葉と共に火照った体を冷やす。
神社なのだから礼儀作法云々あるのだろうが、律儀にやっていると大したものを祭っているわけじゃないしさっさと入って来いと巫女さんに言われて以来素通りである。決してそこに私面倒ごとを起こしに来ました!! とでも言いたげな緑髪の巫女と鬱陶しそうに相対している茶髪の紅白巫女が言い争っているからではない。そう、俺は以前に言われているのだ。私を待たせるくらいならそんな事してないでさっさと来なさい、と。水で手を清めている所を言われているのだ。これはいたしかたのない事なのだ!!
さあ、居間にでも座って待ってますか。
「待ちなさいよアンタ……!! ッ」
あれれ~??? おかしいなぁ~??? 足が前に進まないぞぉ~???
「アンタッ、私に散々借りがあるわよねぇ?」
「いや、ちょっと緑髪の巫女服擬き着ているような知り合いなんていないんで、そんな知り合いがいるような方を僕はご存じないので離してもらってもいいですかねッ!!」
「ふざけんじゃないわよッ こっちは訳の分からない事ばっかり言ってるコイツと朝っぱらから面を向かい合わせてんのッ!! 見て見ぬふりなんてユルサナイ」
「ひえッ……なにこのひとこわ私は家に帰らせてもらいます!!」
「家ってそれ私の家でしょうがいいからこいつをどうにかしないさいよッ!!」
あまりにも切羽詰まった博麗の巫女さんに押され、恐る恐る後ろを見る。
俺の腰に両手を回し全体重を乗せ行かせまいとする博麗の巫女さんをさらに抑え私何も悪い事してませんとでも言いたげに目をキラキラさせている緑髪のヤバい奴。
どう考えても東風谷早苗なのだが……なんかヤバい奴ってイメージを勝手に持っていたけど本当に関わりたくないと大声を上げて逃げ出したくなるほどヤバい奴臭がプンプンする。
「……………………いやぁ、控えめに言って関わりたくないかなぁって」
そう言って紅白巫女を引き剝がそうとした時、緑巫女こと東風谷早苗であろうその人物と目が合った。
翡翠色の瞳は吸い込まれそうな程に美しく、長く伸びた緑色の髪は不自然な体勢からでもよく手入れされていることが分かる。頭には特徴的なカエルの髪飾りに、白蛇の髪留めのようなもの。見れば見るほどその姿は知識の中にある姿と合致していく。
てか、幻想郷にいる巫女さんは脇を出さないといけない決まりでもあるのだろうか?
「あ、どもっ」
「こんにちは。貴方も守矢神社を信仰しませんか?」
「あ、いやぁ~遠慮しておきますぅ」
下手な鉄砲数うちゃ当たる。信仰勧誘だとしてももうちょいまともな誘い方をしようぜ? されたとしても信仰するつもりもないけど。
「あのぉ~お嬢さんはどうしてこちらの神社に? というか、そろそろ話してもらえませんかね?」
「実は私、つい数時間前にこっちに来たんです。理由としては、笑われるかもしれませんけど、私のいる神社、守矢神社の神様たちが信仰を得られず消えかかっていたのでこっち、幻想郷に来たんです。こっちなら、信仰を得られずとも、限界するだけの力は補えるからと。
ですが、信仰心がなければ結局意味がない。一から集めるのは勿論だとしても、時間が掛かります。
だから、私、考えました!!」
なんかすごい早口で話し始めたし、結局よく分からないけど、切羽詰まって逃げてきたのかなーってのはわかった。
そして、次に出てくるであろう言葉に僕はいまどきがむねむねしています。
「幻想郷にある他の神社を制圧して分社にしてしまえばいいと!!」
んー?????????
あれ、この子ってこんなに阿保の子設定だっけ。もう少しこう、抜けてるけど基本的に常識人枠だったと思うんですけれど。
「あ、申し遅れました。私、東風谷早苗って言います。つい先ほど幻想郷に引っ越してきた守矢神社の風祝、巫女を務めさせていただいてます。今後ともよろしくお願いいたします」
「あ、これはどうもご丁寧に。自分はマツリって言います」
「ねえ、私を置いて会話を続けないで貰っていいかしら。何がご丁寧によ、状況を考えなさいよ状況を」
「まつり……まつりですか? それって草冠に末と裏の?」
「ああ、よくわかりましたね。その通りですよ」
「無視しないで貰える!?」
なんだか俺の腰に手を回している変女が騒がしいが気にしない。こっちはどう変に刺激を与えずにこの変女を対処するかで脳がパンクしそうなのだ。
にしても、この緑巫女、よくマツリの漢字を一発で当てられたな。最近は物忘れも酷くて自分でも忘れそうになるのに。書き物しないって怖いね。
「いやぁ、二年前に話題になりましたから。でも、これならいくら頑張っても見つからない筈です」
瞬間、脳が警鐘を鳴らした。
「男性の大学生であそこまで大々的に取り上げられるのも珍しいですからねぇ」
口の中がやけに乾く。唇が一気に渇き、呼吸が荒くなる。
「部屋には生活感が残っており、台所にはその日に買ったパスタと、誰かが入っていたとしか思えない状態のまま放置された風呂桶」
耳が彼女以外の声を遮断する。
「大学生活も始まったばっかりなのに、無断欠席が一週間。不審に思った教授が家族に連絡。くうぅぅ~!!!! 現代の神隠しとして何度もドキュメンタリーで取り上げられて、流石の私でも覚えちゃいましたもん!!!!
霧生茉裏さん。ですよね!!!!」
あたまのなかに
あまりの情報量の多さに脳はパニックを起こし、処理しきれないものは喉の奥から吐瀉物として吐き出された。
頭を殴られたかのような痛み、いままで忘れていた事実、過去それらのものが俺を俺として再構築していく。
しかし、困惑したのはほんの数分に過ぎない。
そりゃあそうだ。要は幻想郷に来たばかりの頃の記憶が蘇っているだけなのだから。それに、似た経験は一度している。
そう、それだけなら……
「ですが、ご安心ください!! そんな貴方をご家族のもとに戻してあげます!! なんて言ったって私は軌跡を操れるのですから!!」
そして、博麗霊夢の腰を掴んだままなにやら呪文のようなものを唱え始めたと思えば、俺の目の前には紛れもない父と母が住む家。我が家の目の前に俺は一人、立っていた。
お読みいただきありがとうございます。
まあ、帰省の一つくらいさせてあげないとねぇってことで。
では、また次回~