糸の先に繋がれた人形のお話   作:ちゃるもん

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もうここなにも書かなくてもよくね?


第32話 いってきます!!

 最初に口を開いたのは父だった。どこにいたのかと。

 俺はそれに沈黙で返した。

 次に口を開いたのは母だった。怪我はしてないかと。

 俺はそれに沈黙で返した。

 

 二人は少し考えた後、再び言葉を発した。

 俺は呑気にお茶をすすっていた。多分インスタントのやつなんだろうけど、懐かしさも相まってうめぇわ。

 

 今度は先に母が、危ない目に合わなかったのかと。

 緊張してるときってやけに喉が渇くよね。

 続いて父が、脅されているのかと。

 お茶無くなっちゃた……。

 

 そんな呑気な立ち振る舞いをしていると、両親はお互いに顔を見合わせ深くため息を吐いた。

 いや、俺も分かってるんすよ? でも、話せないんだもしょうがないじゃん。

 

「あのなぁ、茉裏。確かにお前が無事に帰ってきたことはとても嬉しい。だが、何一つとして情報もないままだと心配したままなんだよ」

「少しだけでもいいから、話してくれないかな?」

 

 二人が懇願するように俺の顔を覗き込む。空になった湯飲みを机に置き、二人の顔を見つめた。話せません。

 それを肯定、話してくれると取ったのか二人は再度質問を投げかけてきた。

 

「何処にいたんだ?」

「言えません」

「危ない目にあったりとか」

「言いません」

「どうやって帰ってきたんだ?」

「黙秘権を行使します」

 

 二人は頭を抱えた。

 いや、質問に答えれる部分もあるのよ? けど、どこからボロが出るか分からない、自分の置かれている現状を把握しきれていない以上は話そうにも話せないのだ。

 …………ちょっと両親に会えて浮かれているの事実だけど。親を困らせるのは子の特権なのよ。

 

「おまえなぁ」

「話そうと思えば話せるけど、俺だってどう説明したらいいのか分かんないんだよ。下手に話しても余計に心配させちゃうだろうし」

 

 だとしてもなあ、といった具合で渋る父に、じゃあこしようと俺はおもむろにジャージを脱いだ。

 作務衣は着たままだったので、更にそれの帯を緩める。

 鍛えられた肉体に両親は声を漏らし、直ぐにその口を堅く結んだ。

 そりゃそうだ。前振りからして何かあったのは容易に想像ができる。そして、危険な目に会ってきたのであろうことも。

 しかし、想像と実物を見る事は全くの別物。

 何処の親が身体全体に致命傷であろう傷を携えて帰ってくると覚悟ができるのか。ましてやここは平和ボケなんて言葉が生まれるほどの国。

 事実、先ほどまでとは打って変わり二人の顔は青白くなっていた。

 

「背中は見ないほうがいいよ。まあ、そういう事だから、言えることが無いの。ごめんね父さん、母さん」

 

 いまにも怒鳴り散らしそうに口を開けたと思えば、ぎゅっと紡ぎ泣きそうになっているのを堪えている。

 差し伸べられた手は目的地を見失いやがて力なく帰っていった。

 静寂が俺たちの間に生まれる。

 

 …………思った以上にショックを受けていらっしゃって俺もはんのうしづらいですッ!! 

 

 体の傷のほとんどは藍様に付けられた修行の跡。確かに致命傷も多くあるが、身内、あの頃を身内っと言って良いのかは置いといて、知らない間柄ではなかった。顔見知り以上友人以下って感じ? 

 向こうも面白半分でやってたから多分死んでも死ななかったと思う。永遠亭の事を経験している以上、これは確信に近い。

 背中も本来は表と同じく傷だらけだったが、永遠亭の一件で丸ッと消えているので大きく深いものでもない限りは残っていない。

 こうやって考えると死地に飛び込んだ割には五体満足で帰ってこれてるって割とすごいのではと思ったり。いや、一回間違いなく死んではいるんですが。

 

 と、昔話は置いといて、いまは目の前の二人をどうにかしよう。

 出来るだけ刺激を与えないように、優し気で、柔らく言葉を発していく。

 

「心配しないで大丈夫。って断言出来たら良かったけど、それは出来ない。さっきのを見たら分かると思うけどね。ただ、俺もそう簡単にやられるつもりはないし、そもそも死ぬために今まで必死に足掻いて来たんだ。二人が思っている以上に俺は強くなったよ。心も、体もね。それが、そういった場で致し方なくってのが瑕だけど」

「…………そう、なんだな」

 

 父から絞り出されるようにして聞こえてくる小さな返事。

 簡単に割り切れる訳が無いだろうッ!! 、そう言っているような気がした。

 そんな中、いち早くこの空気を破ったのは母だった。

 

「……分かりました。分かりたくなんてないけど、割り切らないといけな。ところ、なのよね。その言い方だと、ここに帰ってくることは、考えていないんでしょう?」

 

 言いにくいことをズバズバと言ってくれるものだ。

 帰る、この家に。両親が待つこの家に。もしかしたら、これが最期の時間になるかもしれない。そして、俺自身がここに留まるという選択肢を考えていない。きっと、見透かされている。

 謎めいた確信とともに力強く頷いた。一瞬、母の瞳が揺らぐ。

 

「そう……。そっちで気になる子はできた?」

「うん。命にかけてでも守るべき人が」

「そう。なら、待たせる訳にも行かないわね。いつごろ帰るの?」

「分からない。もしかしたら明日かもしれないし、一週間先かも知らないし、一年先かもしれない。もしかしたら、あと数分かもしれない。だけど、どれだけ時間が掛かっても、俺は帰るよ。愛する人が待ってるから」

 

 その時、鈴の音がなった。玄関のインターホンや電気家具等の音とも違う、神秘的で澄み切った音。

 二人にも聞こえたのだろう。音のする場所を探してキョロキョロしている。

 

「噂をすればなんとやらってやつ。もういかないと」

 

 鈴の音の中に異質な音、インターホンの呼び出し音が鳴った。慌てて母さんが見に行くもの、画面には何も映し出られておらず、また物音も聞こえてこない。玄関から出て来いという事なのだろう。

 

「母さん。唐揚げ美味しかった。父さん。怪我したところはちゃんと手当てしておきなよ?」

 

 椅子から立ち上がり、リビングのドアを開ける。聞こえている鈴の音がより鮮明に響く。

 

「一応、また帰してもらえないか話してみる。どうなるかは分からないけどね。それじゃあ──」

 

 最後、最期に何と言って締めればいいのか分からない。最後、最期、もう二度と会えないかもしれない。そして、それは自分の意志でもある。

 余裕ぶって、強い顔して、大丈夫だからって蓋をして。その場をなんとかやり過ごして、最後の最後で大決壊。

 喉はひりつき呻き声のようなすすりしか出てこず、正面に立っている二人が歪んで見えた。

 

「まったく、最後くらいシャッキとしなさい!! また会えるように掛け合ってくれるんでしょう? だったら、また会えるわ。きっと、必ず。だって、私たちは家族なんですもの」

「いいか、茉裏。家族ってのは心で繋がっているんだ。今日、俺はそれを確信した。また会える。絶対に。次帰ってくるときは、茉裏の大切な人を紹介してくれ。父さんとの約束だ」

 

 そう言って二人は俺の体を抱きしめた。しばらく、その温もりに包まれてもう大丈夫。と、二人の抱擁から抜け出す。

 見送るよと言われ、玄関先まで一緒に向かう。

 玄関のノブを掴む。

 これを捻り押すだけで、きっと幻想郷へと飛ばされるのだろう。

 

「父さん、母さん」

 

 父は強し、母も強し。両親と言うのは子を前にすると無類の強さを発揮するもののようだ。

 なら、多くの言葉はいらないだろう。

 なら、終わりの言葉もいらないだろう。

 なんせ、後ろにいる二人は、俺の両親なのだから。

 

「──いってきます!!」

「「いってらっしゃい」」

 

 後ろを振り返りながらドアを押し開ける。それと同時に生暖かい風が頬を撫でた。

 手を振る両親の顔は笑っており、釣られて俺も笑ってしまう。

 

 その光景を最後に俺の体は無重力に近い何かを感じ取った。

 アスファルトも電柱も、民家も植物も、光という存在も闇という概念も一概に存在しない。ただ、四方八方上下左右に所狭しと存在している眼球が俺のことをじっと見据えていた。

 

「実家もそうだったけど、この空間も随分と久しぶりだなー」

 

 ふわりと体を浮き上がらせるように力を抜き、何もないはずの場所に地面があるように着地する。

 不思議な感覚に多少気分が悪く……いや、やっぱ気持ち悪いわ。

 

 最後にこの場所を使ったのはいつだったか? 少なくとも幻想郷に初めて訪れた時は通ったはず。その時は落ちるように身を任せていた。

 なら、今回もそうしていればいいのかもしれない。だが、それは御免被る。いや、マジであれ三半規管とかわけわからんことになんだよ……。頭に血が上ってるようにも感じるし、横から押し流されているようにも感じるし、内臓が押し潰されているようにも感じるんだよ……。

 上に押し上げられているのか、下に落ちているのか、横に流されているのか、前に押されているのか、後ろにひかれているのかが油断したら一瞬で分からなくなるから……。

 

 幻想郷に来た後も、何度か通った経験があって導き出した答えが、自分の足で歩くだった。

 この空間、紫様の隙間の中なわけだけど、認識しているって思い込めばそれがあるように感じれる。

 だから、俺の足の下には地面がある。だから、勿論のこと歩くことも可能だ。

 

 さて、歩くことが可能になったとはいえ何かできるわけでもない。

 俺をじっと見つめている眼球に近づいて触れることもできない。こちらが動けばその分向こうも離れる。というより、近づけているのかが怪しい。

 何時もなら、そのうちどこかに放り出されるのだが、今回は事が事だ。放り出されるにしてもそれ相応の覚悟がいる。

 かといってどこに放り出されるんですかー!! と叫んでも隙間を操る我が主様こと紫様にコンタクトが取れるわけでもない。取れていたとしても無視されている可能性だってある。

 

 どうしたものかと頭をひねると、目の前の空間に新たな隙間が開いた。

 入れということなのだろうか? おずおずと近づくと、そこから一人の女性が出てくる。

 

 あまりにも美しい金の髪はこの異空間でも異色を放ち目を離すことを許さない。紫色のドレスにフリルのあしらわれた洋傘。逆の手には扇子が握られ、口元隠していた。表情を読むことは出来ないが、恐らく笑っている。

 

 その姿を認識したと同時に、生物としての危険信号が鳴り響く。気が付けばその場に跪いていた。

 八雲紫。俺の主であり、幻想郷を管理するもの。

 

「顔を上げなさい茉裏」

「はい」

 

 跪いたまま顔だけを上げる。

 目の前にはドレスのスカート部分。もう少し顔を上げ、主の視線に合わせる。ふんわりと香るのは金木犀だろうか? 

 

「流石に驚きました。能力の暴走とは言え本当に貴方を外に連れ出してしまうんですもの。それも、私の力をこじ開けてね」

「紫様、その件についてなのですが」

「待ちなさい。話したいことがあるのは分かっているわ。けれど、先にしてもらわないといけないことがあります」

 

 手にした扇子を閉じ、軽く振る。すると、俺の目の前に一つの隙間が現れた。

 見て見ろという事なのだろうが、一体何が? 

 

「あ、あー…………」

「そういう事よ」

 

 隙間の先には妖怪の山と思しき場所と、えらく暗い印象を受ける神社。いや、これ物理的に黒くなってない? 気のせい? 

 

「私が直接手を下してもいいのですが、立場が立場。更には、不幸という不安定なものを対処するのは面倒なの。やってくれるわよね?」

「あ、いやえーっと……行きたくないかなぁーなんて…………」

 

 主のいう事は絶対。だとしても嫌なものは嫌なのである。なんか近くを飛んでいる、いや、いた妖精や天狗が蚊取り線香のごとく落ちていくのが見える。

 控えめに言って行きたくないですぅ…………。

 

「あの後、霊夢が貴方の所の貧乏神、依神紫苑ちゃんだったかしら? の所まで行って事情を説明したの。そうしたら彼女怒っちゃったみたいで、萃香と一緒に乗り込んでいっちゃたのよねー。

 妖怪の山は幻想郷のバランスを保つ重要な場所。貴方がもう少し気を張ってくれていたらってどうしても思っちゃって。ねぇ?」

「………………いかせて、いただ……きます、はい……」

「素直な子は好きよ」

 

 扇子を広げなおしクスクスと笑う。凄い、すっごい殴りたい。消されるからそんなことしないけど、すっごいしたい!! 

 

「あんまり女性を殴りたいなんて思ってはダメよ?」

「前も言いましたけど、急に心を読まないでください。心臓に悪いです」

「あらごめんなさい。事が終わったら話す場を設けるわ。聞きたいこと、あるんでしょう? ご褒美が欲しかったら頑張りなさい」

 

 そして、目の前の隙間から突風が吹き荒れた。むこうとこちらが繋がった。

 場所は妖怪の山山頂付近。高さはおおよそ10か15メートル。

 

「行ってまいります。話の件、よろしくお願いします」

「ええ、確かに」

 

 霊力を足に纏わせ隙間へと飛び込む。途端に不幸という無差別な嵐が身体に叩きつけられたのが分かったが、これと言った影響が感じられなかった。

 枝の一本でも刺さるかと身構えていたが杞憂に終わった。

 

 無事地面に着地し、神社のある方向へ直ぐさま進んでいく。あからさまに物々しい雰囲気が空を覆っているが極力視界に入れないように。

 

 正直行きたくない。ひっじょ──ぉおうに行きたくないが、行くしかない。紫様からの命令だし、珍しく対価が用意されてるし頑張るしかないなぁって。

 

 

 お話するまえに死ななければいいなぁ…………

 

 




お読みいただきありがとうございます。

なんやかんやで自炊生活になりましたが僕は元気です。
料理楽しいけど片付けが面倒ですねぇ。

取り敢えずパッパとマッマの登場はこれでおしまい。
茉裏くんが頑張ればまた出てくるんじゃぁ無いっすかね。


ではまたまた次回にね(。´・ω・)?
前書きって必要(。´・ω・)?
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