これが守矢神社の納屋でーこっちの廊下を進むとートイレについてーくるっとまわって裏門だー……。
…………いや、もういいっす東風谷早苗さんお腹いっぱいですたすけて。
東風谷早苗に引きずられること早二時間。
早口オタクもびっくりの饒舌さで神社内を案内されていた。てか、なんでわざわざトイレまで案内されてるの俺?
君、曲がりなりにも女子高生だよね? おじさんをトイレに手を引いて連れて行く絵面を考えて貰ってもいいかな?
しかし、そんな珍道中もようやく終わりを告げる。
裏門を抜け更に外壁について説明しようとし始めた緑の悪魔に制止が入った。
「二人とも、話が終わったから戻って来なさい」
「嬉しいのは見たらわかるけど、一度熱が入り始めると止まらなくなるのは早苗の悪い癖なんだから。ごめんね、えーっと、茉裏くんだっけ?」
引きずられたまま顔を上げれば、そこには呆れた様子の八坂神奈子と、苦笑いを浮かべる洩矢諏訪子がいた。
「あー、っと、アンタらには特別かしこまらなくてもいいか。今更だし」
「……曲がりなりにも神を二柱前にした人間の態度ではないね」
「はっはっはっ、神よりトンデモナイものに従えてるんでね。それに、貧乏神はほとんど身内みたいな状態だし。ついでに鬼神も」
崇め奉れば神となり、恐れおののけば妖と化す。
だとすれば、あのロリは間違いなく神だろう。実際どうなのかは知らんけど。
「だとしても、もうちょっとこう、あるんじゃない普通?」
「ちょーっと余裕が出てきたからって頬っぺた膨らませても可愛いだけですぜ、祟り神様? いや、土着神って言った方がいいのか?」
「どっちでも構わないよ。改めて、洩矢諏訪子。一応、この神社の表向きの神様」
「八坂神奈子、わざわざ言う必要もないだろうが、この神社の主だ」
「うん、ご丁寧にありがとう。ただ、ね? 二人ともさ、この状況をどうにかしてから自己紹介なりなんなりをすればいいと思うんだ僕は。首根っこ掴まれて引きずられたままだからね俺?」
………………しばらくの静寂の後、忘れてたとでも言いたげな表情を浮かべられ、俺は東風谷早苗の腕から解放された。
やはり、神と言えど年には勝てぬ。つまりはそういうことなのだ。
じゃないと、制止かけといて引きずられたままの青年に自己紹介なんてとんでも行動に出るはずないもん。殺されそうだから言わんけど。
服に付いた埃やら砂利やらを払い落とし、改めて二人を見据える。
八坂神奈子に洩矢諏訪子、に、抱えられた東風谷早苗。なんとも滑稽な状態だが、日本の神話の中でもかなりの古株たちと言うのだから末恐ろしい。東風谷早苗も、一応は現人神にも分類されるとかしないとか。
「……人の顔をまじまじと見て、そんなに面白いものでもないだろう?」
「俺の目の前に広がっている光景だけを評価するなら、これ以上に面白いものもそうないけど。女子高生が幼女に抱えられてんだから。しかも小脇に。もはや扱いがペットだぞあれ」
「否定はしない」
「否定はしてやれよ神様」
八坂神奈子の発言に不服を申し立てている東風谷早苗だが、状態が状態の為ひどく滑稽である。
「と、こんなところで道草喰ってる場合じゃないのか」
「ああ、私たちの話は終わったから、次は君の番だ。場所はさっきの所と言えば分かるか?」
あいよ、と短く返事をし肯定の意を示す。
その時、八坂神奈子も洩矢諏訪子もなにかを言いたげだったが無視だ無視。
「アンタらも、こっちに来て色々大変なんだ。他の心配より自分の土台固めをしっかりやりな」
返事を聞く必要もない、足早にその場を去る。
可能性としては二つ立てている。覚悟は…………ぶっちゃけ出来てない。けど、色んな意味でやるしかないし行くしかないんだ。
人間、後戻りが出来ればどれほど楽になるんだろうなぁ。
やけに長く感じる廊下を、脳内会議を回転させながら進んでいく。踊りはするけど進んでないのは内緒だ。
紫様に聞きたいことは山のようにある。それこそ、聞いていいのなら実年齢、ようは彼女の妖怪としての出典てきなものとかも聞いてみたい。本人すら知らない場合もありそうだけど。人間ってなんで人間なんですかって聞くようなものだし。
ただまあ、実際聞いてみない事には何も始まらないわけで。
気が付けば、最初に対談していた部屋の前まで来ていた。部屋の中からは紫様と藍様の声が聞こえる。
一度大きく深呼吸をして、部屋に入る前に声を掛ける。が、その前に紫様からうじうじしてないでさっさと入って来いと急かされた。
意を決して戸を開くと、お茶菓子をつまみつつ湯飲みを傾ける紫様と藍様
「紫様、男の子が意を決しているときに茶々入れないでください」
それらをみての一言目が嫌味と言うのも、大概なものだ。慣れって怖いね。
「あら、時間は有限なのだから大切に使わないと」
その気になれば時間なんてもの止められるヒトが何を言っているのか。
「出来ないことはないけれど、あれって結構大変なのよ?」
「心を読まないでください心臓に悪いので」
「あら、ごめんなさいね」
扇で口元を隠し、楽しそうに笑う紫様。ある意味、このやり取りも恒例行事になりつつある。
そして、扇を勢いよく閉じる。パチンッと小気味いい音が部屋に響く。それと同時に俺は膝をつき首を垂れていた。恐らくは藍様も形は違えど首を垂れている事だろう。
「八雲紫様の命により、茉裏、ここに参じました」
「よく来たわね茉裏。頭を上げて楽にしなさい。今日は貴方への褒美の件としてこの場に呼びました」
頭を上げ、紫様の姿を視界にとらえる。相も変わらず恐ろしい程に美しいことで……。
藍様も先ほどまで頭を下げていたのか、ゆったりとした立ち振る舞いでその場に腰を下ろしていた。
艶やかな仕草で座ることを促され、紫様の体面に正座する。
「それで? 何が知りたいのかしら」
分かっていたこととはいえ、無性に緊張する。
次第に大きくなっていく鼓動がやけに耳に刺さる。
質問できる回数なんて決まっていない。一つかもしれないし、時間の限りかもしれない。
口の中が渇き、じっとりと手汗が気持ち悪く感じてくる頃にようやく言葉を発することが出来た。
「ど、どうして、どうして私の生まれ故郷が存在しないと、嘘を吐かれたのですか」
これが、俺の考えられる限り多くの情報を引き出せるとした答えだった。
他にもいろいろ考えてはいたが、やっぱ目の前にするとすごんじゃうっていうかー控えめに言ってクッソ怖いです泣きたい。
紫様は扇で口元を隠し、どう答えようか悩んでいる様子。
そ、そんなに変な質問だったせうかね…………????
「いえね、人間ってどの程度の現実までなら直視できるのか私には理解できなくて。どこまで言って良いものかしらね?」
な、なるほどー
ナチュラルに心を読まれているがもうツッコむ気力なんてものはない。
「私自身、紫様の仰られる現実と言うのが分かりませんが、耐えれるだけ耐えてみますので、どうか、お話しください」
「……そ、そういうのなら遠慮をする必要もありません。まず、一つ。私は貴方に嘘を吐いたつもりはない」
「そう……です、か。ということは、あの二人は」
「本当の意味でのご両親ではない、でしょうね。それを貴方がどう捉えるのかは自由ですが」
目を伏せ、表情を隠す紫様。
俺は、何も言いだすことが出来なかった。
「平行世界、並列世界、パラレルワールド……呼び名こそ多くありますが、その本質は一つ。我々が住むこの世界とは決して交わることが無い世界線。茉裏が飛ばされた場所もあくまでその一つ。実際、茉裏が言っていた『福岡県』という場所は存在していませんでした」
「……紫様はその世界線を越えられるのですか? だとすれば」
「さっきも言った通り、私は貴方に、茉裏に嘘を吐いたことはありません。確かに、私はこの幻想郷と外の世界、ひいては交わることのない世界線を行き来できる力がある。それは、暴走状態だったとはいえこの神社の巫女も可能でしょう」
紫様は扇を閉じ、静かに言葉をつづけた。
「しかし、どのような存在にも限界というものはあるのです。茉裏はこの世界をゲーム、つまりは空想のものとして知っていると、私たちに話してくれました。ですが、私の知る限り、この世界を創作物として扱っていた世界はなかった。この時点で私の力の範疇を超えているのです」
「でも、でもですよ!? その、なんて言えばいいかわかんないっすけど、こう、見る角度を変えるとかして、みたりすれ、ば……」
紫様は首を振る。諦めろと言わんばかりに。
「見る角度、方角、方法、どれを変えようと意味がなかった。私が観測できる範囲に幻想郷を創作物として扱っている場所はなかった。試していないと思いますか? 観測する存在を更に観測する存在もいる、さらにそれを観測する存在も。つまり、終わりがないのです。人一人の世界を辿ったとしても、数字では到底表示できない数の世界がある。それが、最低宇宙規模。
茉裏、貴方が求めているのは宇宙という空間から砂粒一つを探し当てる…………それよりも遥かに困難なことなのです」
「じゃあ!! 他の世界の紫様に助けてもらうとか!!」
「確かに、そうしていけば見つかるかもしれない。私より強い存在などごまんといるでしょうから」
「じゃあ!!」
「ですが、そんなことをしていたらこの世界が崩壊するかもしれません。
私の観測できる範囲に八雲紫という存在はいなかった。観測できていない可能性は否定しきることはできませんが、少なくとも私と私が出会うことで生じるパラドックスはないと判断し、数日前は茉裏を迎えに行くことが出来ました。もし、あの世界に別の八雲紫がいたとしたら、迎えに行くのにはさらに時間が掛かっていた事でしょう。
だからこそ、私は最初に貴方を消そうとしたのですから」
「この世界の正当な外側、つまり、東風谷早苗がいた世界、この幻想郷の正当な外の世界にも俺が、霧生茉裏がいるから…………そして、俺がマヨヒガに来た段階で外の世界の俺は実在していた。つまり、世界の消滅が有り得たから消されそうになった。別の世界の自分自身に出会うのはそれだけのリスクが伴う、だから」
掛かってはいけない場所に力が掛かって壊れてしまわないように、危険因子は取り除いてしまおう。そういうことである。
「でも、いまそれを俺に言っても大丈夫なんですか? もし、また外の世界に迷い込んで、そこで俺に出会ったら」
「その心配はありません」
「な、なんで?」
「この世界の霧生茉裏は既に死んでいますから」
…………へっ?
お読みいただきありがとうございました
うーんこの
正直これで合っているのかがとても不安であるが、そんなことは気にせず突っ走っていくんだぜそれしか出来ないんだぜ
それでは、また来月に
ばいちゃー( ゚Д゚)