糸の先に繋がれた人形のお話   作:ちゃるもん

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この手の話を書いてる分には楽しいけど、いざ投稿しようと思うと矛盾とか伝わるのかとか色々ふあんになっちゃう( ゚Д゚)


第37話 抉れた月が俺の目の前に現れた

「この世界の霧生茉裏は既に死んでいますから」

 

 あまりにも、あまりにもあっさりと告げられた事実。

 反応らしい反応もとれず、唖然と口を開いたまま時間が流れる。

 

「…………そ、っかぁ…………行方不明とか、でもなく、死んでた、かぁ」

 

 正直に言えば、全く予想していなかったわけではない。

 東風谷早苗が現代の神隠しだーとか言っていたり、実家がやけに殺風景だったりしたのはストレス的な、そういう事なのかもしれないな、程度には。

 こっちの俺は、霧生茉裏は、本当に行方不明なんだなって。どこほっつき歩いてるんだか、どこかでおっちんじまってんじゃないだろうな、程度には。

 

「予想は……してたつもりだったんだけど、やっぱ直に分かると、キツイッすね。殺人ですか?」

「もう少し詳しく言うのであれば不法侵入からの強姦殺人ね」

「ええ……こっちの俺も男ですよね? 男勝りな女とかじゃなくて」

「そうね。鍵をかけ忘れたまま風呂に入ったところを襲われて、そのまま絞殺されながら。最終的には埋められて、犯人も自殺。そのまま発見されずに迷宮入りってところかしら」

「絞殺に強姦って、証拠いくらでも出てきそうなもんじゃねぇか警察仕事しろよ……。え、てか、下手したら俺もそうなってた……?」

「否定はしないわ」

 

 あの日って、俺カギ閉めてたっけ…………? 昔のこと過ぎて思い出せねぇ。

 

「まあ、証拠隠滅には多少なりとも私たちも関わっているのですけれど」

 

 さりげなく落とされた二つ目の爆弾に、今度は完全に脳が硬直していた。

 頭の中の俺は、おぼろげに思い出された新居の中でポカンと空を見つめていた。きっと、紫様と相対している俺もそのような表情になっている事だろう。

 

「あら、こっちは予想できていなかったのかしら?」

 

 状況が理解できず、声も出さないまま静かに頷く。

 だって、そうだろう? 事件が迷宮入りし、俺の死体は発見されず犯人ものうのうと自殺した。それを許したのが今目の前にいる存在のせいだと悪びれるわけでもなく淡々と告げられたのだから。

 憎悪とか怒りとかはそりゃあもう出てくるはずもないさ。死んだ俺は俺じゃないんだから。

 ただ、どのタイミングとかは分からないけど、迷宮入りって言われているほどだから結構な時間が経っているはずなんだよ。それこそ、俺がマヨヒガに迷い込んだ時、同時タイミングで事件が発生していると想定も出来る。すくなくとも、ここ数ヶ月のでき事ではないってことだ。

 つまり、紫様に、当時の紫様にそこまでするメリットがないってことだ。

 

 いつも通り俺の心を読んだのか、紫様がパンクしている俺に説明を始めた。

 

「そうねぇ……。霊夢から名前の話は聞いたでしょう?」

「名前っていうと……個を確立させるとか、あやふやになるとかってやつですか?」

「そう。それと似たようなものね。名前はその存在をこの世界に結びつける役割を持っているわ。けれど、アナタの場合は少し事情が違う。まだ、観測できる範囲であればまだしも、その外から来てしまった完全なイレギュラー。

 なにか手を打つにも下手に手を出せないし、かといって放置も出来ない。ただ、この世界に同じ存在を居続けさせる訳にもいかないから、ちょーっと強姦魔さんをお手伝いしてあげました」

「はあ、でもそれと名前にいったいどんな関係が?」

「茉裏、いえ、霧生茉裏」

 

 なぜわざわざフルネームで呼んでくるのだろうか? 

 てか、上の名前で呼ばれると気持ち悪いのでやめていただきたいのだが。

 

「それが理由よ。貴方が本来の名前を認識してしまうと、この世界との結びつきが強くなる。だけれど、既に貴方はこの世界に存在しているから、魂が座るべき椅子を見失ってしまうの。だから、気分が悪くなる。

 逆に、名前を呼ばれなかったら魂はその場を漂い続けるだけ。新しく用意される椅子を待っているだけ。だから、普通に生活ができる」

「じゃあ、その新しい椅子ってやつを用意すれば……、いや、無理なのか? 椅子を新しく用意しても、そこに座る魂が変わる訳じゃないから、本来存在してはいけない椅子が二つになって、結局世界に影響を及ぼす。

 つまり、もう一人の俺、この世界の俺を抹消し、霧生茉裏の魂が座るべき椅子を空けなければ、世界にも俺にも明日はない」

 

 パチパチパチとゆっくりとした拍手が上げられる。概ねその通り。と、お墨付きを頂き、再び説明が始まった。

 

「新しい椅子が準備できないのであればどうすればいいか、奪っちゃえばいいじゃない。ねえ? 同姓同名の本人同士だとしても、顔も合わせた事の無い他人同士なのに変わりはないし、私には全く興味がないもの。

 存在を消して、この世界からいないものと認識されてしまえば後はこっちのもの。後は、ご両親の記憶に貴方を刷り込んで、神隠しだと騒がれている事件がもう少し沈静化すれば、貴方の椅子が手に入る。

 まあ、完全に手探り状態で後手後手に回っているのは否定できませんが。失敗はしていないんじゃないかしら。現に、昔ほど気分が悪くなるなんて事はなくなっているようだし」

 

 確かに、博麗神社で感じたアレに比べれば雲泥の差だと言えよう。

 あの頃はまともに呼吸をするのがやっとで、いまだと気分が悪くなる程度。頭がパンクしそうになるのは相変わらずだが、間違いなく事は進んでいる。

 それが、この世界の俺という存在が消えかかっている為なのは少し思うところはあるが。

 ま、鍵かけ忘れた方が悪いよね!! 

 

「私が言うのもアレだけれど、貴方も随分吹っ切れるようになったわね」

「心を読むのはやめてください。そうっすね、こんな状況に数年も置かれ続けて……正直いうと、分かってるんですよ。紫様が俺のことを助けてくれてる、って言ってしまいたくもないんですけど。記憶処理って言うんですかね? 認識阻害の方が正しいか。視界に入る情報で姿形が違く手も、頭の中なのか、人間って言う魂が感じているのか、何時まで経っても慣れないあの感覚。

 幻想郷に来てもう、三年だか四年だか…………そんだけの期間を人殺しに費やしてたら嫌でも肝が据わるってもんですよ」

「気付いてたのね。結構強く掛けたのだけど」

「それこそ、イレギュラーな存在で済ませられるのでは?」

 

 それを言われると言い返せないと困り顔を浮かべられ、同時に俺が人殺しなのが確定した。

 色々と分かることが多い一日だなぁなんて、心は何処か別の場所を向いている気がする。

 取り敢えず、心が余裕があると勘違いしているうちに聞けることは聞いておこう。雰囲気的に大体のことは教えてくれそうだし。

 

「俺が依神紫苑の不幸に耐性があるのも、イレギュラーであることが原因ですか?」

「それもあるでしょうけど、私の認識阻害も一役買ってるわ。行き場のない不幸は溜まり続けるでしょうけど、そのお守りに溜まっているようだし。無暗に開けない事ね、どうなるかなんて私にも分からないわ」

 

 お守りというと、巫女さんがくれたやつか。

 ……ってことは、このお守りに数年分(貧乏神付き)の不幸が溜まってるってこと??? 

 

「軽い爆弾じゃないですか」

「軽くで済めばいいわね」

 

 楽しそうに笑みを浮かべる紫様。笑い事じゃないんだよなぁ。

 

「この認識阻害の、人だか妖怪になりかけてるのかは分かりませんが、そこだけ解除とかってできますかね? やっぱ、なにも分からないまま殺すってのは、分かってしまった以上気が引けて」

「出来るわよ。あとでやってあげるわ」

「ありがとうございます」

 

 フィードバックとかあったりするのだろうか? もしそうなら、覚悟はしといたほうがよさそうだけど。

 

「外の世界に、両親に会いにいくのはもう無理…………ですかね。場所は違えど、一応親に当たる人ではあるみたいだし」

「もうちょっと事が落ち着いたら考えてあげるわ。それまでに、あの子の体質をどうにかしなさい」

 

 すんなりと許してもらえた。意外である。

 

「他に聞きたいことはあるかしら」

「あー、そうっすね」

 

 障子の外には少しだけ赤みがかった日の姿。思っていたよりも話していたみたいだ。

 質問自体はまだまだあるのだが、そろそろ心の限界も近い気がする。多分緊張が解けた瞬間吐く。

 そんな意味不明な確信を持ちつつ、一つ思いついた事を尋ねてみた。

 

「なんで、俺にここまでしてくれるんですか? 言っちゃあ悪いですけど、初対面の相手、しかも世界を滅ぼす可能性がある危険因子を残しておこうとする意味が分からないです。いや、助けてくれていた事には感謝しているんですけど。あの初対面の時点で、ここまでしてくれるのがなんでかなーって。さっさと殺して知らない顔をしていればいいのになーって思い、思っちゃいまして」

 

 …………紫様はなにも喋らず、湯飲みに残ったお茶を飲み干した。そして、ゆっくりと口を開く。

 

「茉裏に一目惚れしたからよ」

 

 夜には早いというのに、抉れた月が俺の目の前に現れた。

 




およみいただきありがとうございました

あいらびゅー

つまりはそういうことなのだ
あいはせかいをすくうのだ

またらいげつなのだ
ばいばいナのだ
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